風雲の如く   作:楠乃

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東方星蓮船 −2

 

 

 

 さてさて、まぁ、アリスが納得して私からの御礼の品を受け取ったというのなら、私は別にどうこう言うつもりはない。

 

 ……まぁ、正直な所、そんな程度で良いの? と思わないでもないけどさ。

 

 何はともあれ、私の義手、地底での騒動での助力に対して、これで返礼した、ということで助力者の彼女がに問題ないという事なら、私も無理やり掘り返すつもりもない。

 

 

 

「それで、今日は泊まっていくの?」

「いんや、この後魔理沙宅にでもよって、また彼女にも話をしようかなー、と思ってたんだけど……」

「……思ってた、けど?」

 

 

 

 魔法の森に入ってからずっと彼女特有の気質、もとい、(衝撃)を探っていたのだけれど、アリスの家について、彼女との話も終わった、この瞬間まで、一度も彼女を探知出来ていない。

 

 

 

 アリスは、まぁ、正直彼女と逢って話したのも数回だし、地底で人形遣いとしての力量の一端を預かった身とはいえ、流石に遠距離から探知できるほど、彼女の実力を理解している訳ではない。

 

 その点で言えば、例えば霊夢の能力は非常に特徴的だ。

 なにせ幻想郷が出来た時から、──私が幻想郷、八雲紫から逃げ出した時から、──巫女の力の波動というのはほとんど変わっていないのだから。

 そういう意味で、霊夢も多少距離が離れていても探知はできる。

 

 ……もっと言うなら、別に勇儀と戦ってた時に、霊夢が近付いて観戦していたのも気付いていた。

 尤も、気付いたとは言え弾幕を張っていた時だから、当時に気付いたというより、思い返してみればあの感覚は霊夢か、という感じだけど。

 

 で、更に言えば、パチュリーなんかは完全に魔力の質を記憶しているから、彼女が作った術式や、発動している魔法なんかはまず間違いなく見分けがつく。

 流石に魔法の森から彼女の場所を探知しようとすると、周囲の妖怪達に全力で喧嘩を売るレベルの衝撃を放って、それの反射音を探知しないと分かんないけど……逆に言えば彼女が発する波動なら、よほど隠形や隠蔽されてなければ、多分分かってしまう。

 

 まぁ、魔法もその彼女に教えてもらっている訳だし、今日だってほぼ全力で魔法を撃たれてそれを観察していた訳だし、そりゃ覚えない方がおかしいというものだろう。多分。

 

 

 

 そういう訳で、魔法の森に入った時点で、魔法使いや魔女の痕跡、魔力の(衝撃)をずっと探知しながら行動していた訳で────まぁ、途中で右腕の実験にも集中しちゃったけど。

 それにも関わらず、魔理沙から感じる衝撃を一切、この森の中から感じない。

 

 つまりは、この森に今、彼女は居ないということだ。

 

「どうやら魔理沙、この森に居ないみたいだし、どうしたもんかなー、と」

「……この家に来る前に寄って来たの?」

「いんや、気配っていうか、彼女特有の(衝撃)を感じないから」

「ふぅん……?」

 

 そう呟いて、そろそろ冷めきっているであろう紅茶を飲む人形遣い。

 

 ……んー、本当に視えたのって私の本質の部分だけみたいね?

 私の持つ能力の使い方とか、そういう部分は全く知らなそうな雰囲気。

 

 ……まー……隠しているのは間違いないけど、知られたからと言ってどうこうするつもりも、今の所はなし。

 

 現在は、まぁ、どうでもよし、と。

 

 

 

「……一昨日ぐらいに『宝船が来てる』とかって話に来たけど、それを探しに行ってるんじゃない?」

「………………なんだって?」

「だから……宝船」

 

 

 

 何故に宝船? ホワイ?

 ……まぁ、そんな奇想天外なものを見たら、近付きたくなる気持ちは分からんでもないけどさ。

 

 宝船、宝船ねぇ……。

 マ○オの、なんだっけな。2だか3だか、忘れたけど、あの空飛ぶ船的な奴?

 

「はぁ、それで? その宝船を追ってると?」

「多分?」

「……ちなみにアリスはその宝船とやらは見たこと」

「ないわよ」

「まぁ、それもそうか」

「……何かその言い方は引っ掛かるけど、そんな暇じゃないの」

 

 いや、別にアリスがそういうのに興味なさそうだから、それもそうか、と返しただけなんだけどさ……。

 

 

 

 まぁ、何はともあれ、別に謎の船を追っている魔理沙を追いかけてまで、地底の話をするってのも何やら違うきもするし、とりあえずは彼女だけまた後日にお話かな。

 

 さーてと……。

 

 

 

「………………どうしよっか?」

「知らないわよ」

「ですよね」

 

 閑話休題。やることがなくなった。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日の予定は終了しました、と言い切った所で、まだ時間は夕方にすらなっていない。

 

 流石にパチュリーから盗んだ魔術を、別の魔女の目の前で改良する訳にもいかない。

 いや別に見えないようするぐらいは幾らでもやりようはあるんだけどさ。

 別の言語に置き換えるとか、不可視状態にして実際には起動をしない、とかさ。

 

 でも、相互幇助的な立ち位置の人形遣いに対して、そういう無意味な隠し事は何か違うな、と。

 そう私は考えてしまうのだから、まぁ、どうしようもないよねぇ、という言い訳。

 

 

 

「────で、何してるの?」

「………………彫刻」

「いや、それは見たら分かるけど」

「……その、結構、というか、真面目に、めっちゃ集中してるから、ちょいと」

「……それ、私の家ですること?」

 

 

 

 完全に冷めた視線、というか呆れ返った声色で言われているけれど、私からしてみれば、誰かが居るという事で集中の条件は満たせるし、更に意識しない所で茶々を入れてくれる他人が居るというのは、かなりの負荷となって特訓の成果にも繋がるのではないか、と思う。

 

 そういう訳で、私は今、人形遣いの居間でテーブルの一部を独占し、例の天人に木っ端微塵にされたフィギュアの続きをしている。

 

 まぁ、パチュリーの所で盗んだ硬質化の術式を応用すれば、私の術に対する集中力も他に割けるんだろうけれど、まだ完全に術式を見極められた訳でないし、先述の通り、アリスの前でその他の魔女から学んだ物を披露するのは、何か違うだろう、と。

 

 そういう訳で、集中力の特訓、及び妖力の具現化、粒子の固定化の特訓を行っている。

 アリスの人形や、それを操っている彼女自身が起こすたった一つの動作が視界に入ったり、人形達が起こす物と物とぶつかる音に、私の集中力が削られていく。

 

 いや、別に私が集中力を切らす事そのものは正直滅多にない。

 天子のアレとか、くしゃみとかが勝手に暴発して、その一瞬で術式の継続・維持が出来なければ術式が崩壊してしまうというだけなのだから。

 

 単純に、その苦手部分を克服しようという努力なのは間違いないし、術式に改良部分がないか、という改善部分を見付けるためにテストというの方面というのも間違いない。

 

 ……まぁ、誰に言い訳してるんだろうね。いや、アリスに対してなんだろうけど……正直言う余裕はない。言わない言い訳ってそれはただの自慰なのでは? なんてね。どうでもいいけど。

 

 何はともあれ、ぬこに見せていた作業と何も変わらない。

 あの天人には作業を見せなかったし、むしろあの不良天人に邪魔されたぐらいなんだけれど、客観視すればあの時からの続きだ。

 

 髪の部分はまぁ、とりあえず再現できた。

 彼女のあの長髪の柔らかさを再現するのは非常に難しく、むしろ見慣れていることもあって逆に思い出せないぐらいだったけれども、よくよく周りを見渡してみればそれの究極系とも言える人形達が動き回っているのだから、まぁ、躍動感は目の前に見本があるっていうね。

 

 さてさて、小道具系は後で適当に削り出すとして、次は上半身かな?

 顔の形とかの細かい部分も後回しにするとして、大雑把に作ってあった首から下、腕まわり、腰回りを身長に削っていく。

 

 大体いつも似たような服なのだから、どうしても印象が偏ってしまう……いや、それを言うなら私もだけど、ということを考えながらほぼ無意識で服の質感を作っていく。

 

 まぁ、皺とかも後回しにして、腰回り、足を作っていく。

 この部分もまぁ、正直袴のせいで後回しになる部分がほとんどなんだけどさ。

 

 とは言え、フィギュアを作るというのなら、更にこの内部も作らねばなるまい。むしろこの部分は志鳴徒で……いや、なんか後で殺されそうだからやめとこう。

 詩菜の状態で作り込むのもそれはそれでどうなんだと思わなくもないけどさ。

 

 まぁ、その部分は後で保存したログから、ロードして再定義、部分再現して何とかするとしよう。

 やろうと思えば多分爪を極端に伸ばして分解せずに作ることも出来るだろうけど。

 

 そんなことを考えながらスカート部分が終わった。うーん……皺がなくて色も緑の蛍光の所為だからか、袴には見えないというのが正直な所。

 ここの細部の作り込みも、どうせ多分一番最後に着手する部分だろうし、今は後回し後回し。

 

 足は……まぁ、素足でいっか。

 どうにも思い描いているポーズのせいなのか、それともパーツとして作ってある刀のせいか、例のフィギュアに近付いていっている気がする……。

 

 

 

 ふぅ……とりあえず、粗方は作り上げた。ほんっとうに粗方だけど。

 

 魔術式のログを保存して、粒子の状態を保存し終えて、魔術式を終了する。

 

 大きく息を吐いて、集中を解けば、人形が砂のようにサラサラと分解されていく。

 崩れていくその緑の粒子は、数秒もせずに空気に溶けていくように、完全消滅していく。 

 

 ……まぁ、魔力として着色しているのは私だし、相も変わらず誰に見られても魔力ではないという判定を頂いている、妖力とは異なる私の力な訳だけど……こういう幻想的な光景を見れるという点では、この呪術も良いなぁ、とは思う。

 

 

 

 まぶたを強く閉じて、眼球を圧迫する。

 鈍い痛みと共に、眼球に血が集中していく感覚。それから、後頭部で逆立っていた髪の毛が降りていくような感覚。

 鎖骨の上から肩甲骨までの線を指でなぞられるように血が巡る。首の後ろから腰の背骨まで、一直線に水が流れていくような脱力感が広がっていく。

 

「あ゛あ゛ー……」

「……お疲れ様?」

「うい……」

 

 首を動かさずに肩だけをまっすぐ、頭の上にまであげるつもりで伸ばす。

 それだけでパンッ、ペキッ、と音が鳴る。

 

 右手の甲を左の肩甲骨と合わせ、左手で頭のてっぺんと右耳の上辺りを持って首をゆっくりと左に倒していく。

 ストレッチなのにまた関節が、コキッ、コッ、と鳴るけども、まぁ、いつものことなので気にしない。15秒ほどキープしてから、ゆっくりと首を戻して、今度は同じストレッチを反対方向にも行う。

 

 ……アリス、というか、人形達の視線のような物を感じるけど、まぁ、まだ無視だ。

 

 

 

 お椀が出来るように手を腹の前で組み、背筋を伸ばして組んだ手で腹を押す。肘を背中側に引っ張るようなつもりで、背中と肩甲骨を伸ばせば、これまたボキボキと連続して関節が鳴る。

 あんまりやると本当に背骨が折れそうな気もしてくる伸び方なので、音がなったらやめておく。

 

 今度は後ろ手に指を絡めて手を組み、肘の内側を正面に向けて固定化し、そのまま腕全体を上に持ち上げるように筋肉を伸ばす。

 肩を伸ばしてるのか、腕を伸ばしてるのか、それとも肩甲骨を伸ばしてるのか────まぁ、兎に角分からないけど何処かが伸びてるのは分かる。

 これまた首の付け根辺りからゴリッと音が鳴る。

 

 はい、ストレッチしゅうりょー。

 

「……ふぅ……!」

「……それ絶対にやり方間違えてると思う」

「私もそう思う」

「……」

 

 まぁ、気持ちよければそれで良かろう。妖怪なんだし、自然回復の方が結果的には早いし良いんだから。

 

 

 




 





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