風雲の如く   作:楠乃

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才能とセンス

 

 

 

 ただいま、モウレツ将棋中。

 

「ホイ……そうだ、陰陽師昇格おめでとう師匠」

「やや、妹紅よありがとう……だが、ここはちょっと待ってくれないかな?」

「何回目だよ……ほらよ」

「や、(かたじけ)ない…まぁ、昇進って言われても、そんな変わらないって。ホイ」

「そうなのか? ん」

「…。…本当に民間じゃなくなっただけさ。公式になっただけだって。んー」

「でも一応陰陽師になったからには、色々と特典みたいなのがあるんじゃないのか? とう」

「……。ま、まぁ資料とかは見れるぞ? 俺は技術を持ってないがな…ホイ」

「師匠はやる気を出せば、多分何でも出来ると思うんだがなぁ…てい」

「なんだよ? 俺が全てに置いてやる気がないと?」

「端から見てるとな。王手だぞ」

「ん? ああ……いや…詰みじゃね? これ」

「そうとも言うな。これで…何勝したっけ?」

「…訊いてくる辺りが酷いよな……妹紅14勝」

「師匠0勝14敗…か」

「……将棋はどうも苦手だ」

 

 先を読むトレーディングカードも苦手だったな、確か。

 生前の記憶、転生前の話だが。

 

 何? 仕事しろよって? 妹紅の修行?

 してるさ!! 『遊ぶ』という最も学習に適した方法を以下省略。

 

 

 

「苦手…っていうか、とことんそういうのが出来ないよな、師匠は」

「何をぅ…オセロならまだ……」

「…? なんだ『おせろ』って言うのは?」

 

 やべ、口滑っちまった。

 いかんいかん…未来の道具とかの話は決してしないつもりだったのに……。

 

 …まぁ、いっか。俺が喋るなって言ったら、そうしてくれるだろうし。

 

「……あ~…誰にも言うなよ? 異国の遊びだ。白と黒を引っくり返して遊ぶんだが」

「ふーん? なんだ、意外と簡単そうだな。今すぐ出来るのか?」

「色のついた石さえあればな」

「やろうぜ!」

「……了解」

 

 

 

 未来の情報を教えると『リトル○ャンパー』とかならば法律違反を犯している所になるのだが、まぁ、別に良いだろ?

 ……妹紅が誰にも言わなければ、こいつも50かそこらで死ぬだろうし。

 

 身近なヒトが死ぬのを見送るのは、確かに辛い。

 だが、薄情な俺だ。思い出す事は出来るだろうが思い出そうともしなくなるだろう。

 なんて酷い奴……。

 

「ハハハ…」

「…? どうしたんだ、師匠? いきなり笑い出して? 師匠の番だぞ」

「いやいや、なんでもない…角取りな」

「げっ!」

「いち、にぃ、さん、しぃ……ホイ、お次どうぞ?」

「くっ……ここは?」

「置けるぞ。後先考えろよ?」

「……ん! どうだ!」

「裏返して……俺な。ホイ、ホイ、ホイ」

「……なぁ。師匠?」

「なんだー?」

「私の白が、盤の上に見当たらないんだが?」

 

 何も置かれていないスペースがかなりあるがな。

 少なくとも、周り2マスぐらいは開いてるな。

 

「つまり妹紅は永久に出せない。よって、俺の勝ちとなる」

「はぁ、成る程な……ていうか、角に置いた時点で気付いていただろ?」

「そうなるようにしたからな」

 

 四方八方が黒、中央に白が一つしかない状況は、白の『詰み』になるんだなー。

 いやぁ、よくこういう風に兄弟にボッコボコにされたなぁ。

 

「…何が『後先考えろよ』だよ」

「ま、これから本番…って感じだが、藤原氏が帰ってきたな」

 

 庭からは歩いてこちらに向かっている藤原氏が見える。

 見えるというか、単に衝撃で誰かがこっちに来るのが分かって、その足音が区別の付く藤原氏だったってだけなんだが。

 

「……父上にこれを教えるのも、ダメか?」

「ん…出来ればやめて欲しいな」

「了解…じゃ片付けますか」

「そだな」

「で、将棋しようぜ」

「もううんざりなんだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったぞー……何をしとるんじゃ?」

「ん、遊戯」

「将棋か……負けとるのぉ、志鳴徒」

「ハハハ……」

 

 苦手なんだよ。後の事を考えるのはさ。

 というか、一目見られただけで弱いって分かっちゃう俺って一体……。

 

「父上は何処に行っておられたのですか?」

「ん、輝夜姫の所にな」

「……」

「なんだ? 本気だったのか?」

 

 マジ惚れですか。

 それはそれは……熱心な事で。

 

 藤原氏が五人の内の1人、っていう予想は間違ってなかったかな?

 

「ふん、そういうお主はどうなんじゃ? わしと初めて逢ったも似たような場面じゃったろ?」

「ありゃ依頼だ。それに興味はない! 筈!」

「筈?」

「俺は毛頭そんな気持ちはないがな」

 

 俺が輝夜の前で詩菜にならなかったら、そんな感じになりそうな雰囲気だったな。多分。

 妹紅に鼻血出させた時……い、いや、やめよう。あの時の事を思い出すのは……。

 

「……いや、それはないわ」

「…ないですね」

「親子揃って否定された!?」

「お主の掴めぬ性分が有る限り、お主はモテんわ!!」

「断言しやがった!?」

「ふわははははは」

「…のぅ、妹紅よぉ…おらぁそんなモテぬか……?」

「まぁ」

「だよね~、藤原氏が…って、あれ!? 慰めてくれないの!?」

 

 畜生! 騙された!!

 コイツ策士か!?

 

 

 とかまぁ、そんなどうでもいい妄言は置いといて。

 

 ……ま、詩菜の姿で諦めてくれりゃ良いんだけどね。

 今のところ、結婚も入籍も興味なし。気に入ったヒトもいないし。

 …諦めてくれりゃ、って酷い言い分だな……。

 

「……ほぉう?」

「? なんだ藤原氏?」

「ん、いや。ちょいとな?」

「…?」

「…志鳴徒はこのまま朽ちていくのかのぅ。とな」

「なに考えてるのこの人!? 妹紅! どうにかして!!」

「えっ!? 私に振るんですか!? 無理ですよ!!」

「父親の事なのに断言した!!」

「……」

「父親殿黙っちゃった!! 涙目だ!?」

「ええっ!? ちょっ、父上!?」

 

 …仕返しにしては、やりすぎたかな…はは。

 

 

 

 ……ていうか、凄ぇ慌てているのに、口調がぶれない妹紅。凄いな…。

 何か因縁でもあるのかね?

 『空の○界』の式の織の口調みたいな物とか……無いか。考えておいて、アレは無いわな。

 

「ま、どうでもいいか。ほいな」

「……志鳴徒、盤を良く見る事が勝利の秘訣じゃよ」

「ん? そうなのか? 成る程、心得ておこう。というか復活早いな」

「……もっとも、見てないお主の失態じゃな。これは。ざまーみろ」

「…ははは……」

 

 なんだよ、二人して? 苦笑いなんて浮かべちゃってよ?

 ていうか藤原氏ふっ飛ばすぞ。何がざまー、み……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あっ。

 

「……あの、師匠? …それは…」

「ああ……藤原氏の言う通りだな……『二歩』だ」

「漸く分かりおったか! フワッハッハッハッハ!!」

 

 恥ずかしい!! 幾らなんでもこんなミスをするなんて!?

 ムカつく!! あの超笑顔がスッゴく腹立つ!!

 

「……」

「…師匠」

「……ああ、俺の負けだな…」

「弱いのぅ。どれ妹紅、わしと一手指さぬか?」

「はぁ、よろしいですが……途中で逃げたりしないで下さいよ?」

「失敬な。わしがいつそんな真似をしたかの?」

「私が勝ちそうになった時に何度もしたじゃないですか……」

「気の所為じゃよ」

「いや、でも…」

「気の所為じゃよ」

「……」

「気の所為じゃよ」

 

 …どうやら藤原氏も弱いらしい。

 ま、のんびり観戦して無様な姿を眺めますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て! 待っておくれぇ!! これは何かの事故じゃ! 陰謀じゃぁ!!」

「見苦しいですよ父上」

「そうだぞ藤原氏。明らかに詰んでる。ざまーみろ」

「『待った』も何十回してあげたと思ってるんですか?」

「ぐ……」

 

 金銀飛車角桂馬も取られて、どう見ても完敗だろ。これ。

 というか、さっきの俺よりも酷くないか? コレ。

 

「…ちょうど時間もよろしいですし、ご飯にしますか?」

「お、誘って戴けるので?」

 

 最近は何かと食事を共にいただいて帰る事が多い。

 

 まぁ、俺も150年を生きた妖怪。

 簡単な自炊は出来るが、生粋の女(幽香や妹紅)が作る料理には到底及ばないね。

 

「おう、いただいてゆけぃ」

「…そんな事を言って、忘れようとしても無駄ですよ」

「……」

 

 ざまぁ(笑)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 そんなこんなで妹紅の料理をいただく。果たして誰に習ったのだろうか、彼女の料理は物凄く美味しい。

 ちくせぅ……美味しい…。

 

「…毎回思うんですが、どうしてそんなに悔しそうな顔を……?」

「いや……美味いなぁ。って」

「あれ、師匠も自炊をしてるんですか?」

「何じ……何年もしてるけど、なかなか上手くいかなくてね」

 

 …あぶねぇ、うっかり何十年って言う所だった。

 言っちまったら、折角の人間LIFEが台無しだぜ。

 

 にしたって、何十年も頑張っているのに、人間の妹紅に味で負けるとは之如何に。

 センスか。センスが足りないのか。チクショウ。

 

「……今度、教えて差し上げましょうか?」

「…いんや、これは俺の味だ。一人で極めにゃ」

「くっくっくっ……お主が料理を極めるのか?」

「なんだ藤原氏。女っぽくて、似合わないってか?」

 

 …じゃあ、詩菜の時に料理すれば似合うってか?

 詩菜の時でもおんなじだよコンチキショー。

 

「いやいや、な? 想像すると面白いからの…フフッ」

「……フン! まぁ、いいさ。そのうち妹紅も追い抜かしてやるさ」

「……(追い抜かされるのは、困りますね…)」

 

 …ん?

 

「何か言ったか?」

「いえ? …美味しいですか?」

「…美味しいです」

 

 追い討ちか畜生!

 ああ美味いさ。美味すぎるぞチクショウ!!

 

「それは良かったです!」

 

 笑顔が……!

 笑顔が腹立つ…!!

 なんなんだこの親子!?

 

 

 

 


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