風雲の如く   作:楠乃

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家族?

 

 

 

「イィィィヤアッッフフゥゥウゥウ!!」

「また奴が現れたぞ!」

「今度こそ退治してやる!!」

「かかってこいやぁ! てやんでぃ!!」

 

 久々にはっちゃけてみた。

 妖怪『詩菜』のお通りだい。

 

 そんな事をしているわたくし。ただいま午前零時。

 もう正月なので雪がちらほら降っている。

 まぁ、その内どんどん積もっていくだろう。明日は雪かきが必要かな? どうでもいいけど。

 

 冬と言えば、寒い。寒いと言えばチルノ。寧ろ冷凍。冷凍チルノ。チルノ冷凍。チルド冷凍?

 そういえばチルノは何をしてるかな? 冬だし、力が出てきて楽しんでるのかね?

 ……ま、楽しんでるに違いない。

 

「そぉい! 『雪玉』!!」

 

 実際は積もった雪を蹴ってるだけだが、妖力能力により有り得ない威力になってる。

 全身に命中すれば、雪崩と同等の感覚が味わえますよ~? 多分。

 

「ギャアアアァ!?」

「田吾作ぅぅ!?」

 

 誰だよ田吾作。

 まぁ、殺傷能力は凍死以外に無いと思うし、大丈夫でしょ?

 

「たっ、田吾作ッ!! しっかりしろッ! まだ熱燗は暖かいぞ!!」

 

 陰陽師じゃなかった!? 一般人かよ!?

 ていうか、なんでいるんだよ!? なんで熱燗!?

 ツッコミ所が多過ぎない!?

 

「おっ……おっ母……ガクッ」

「たっ、田吾作ぅぅぅ~!!」

 

 ……茶番かい!?

 ま、まぁ…ガクッ。って自分で言っている辺り、大丈夫そうだね。

 なんともまぁ……面白そうな人種である。

 …というか、何やってるんだか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前三時。

 あ~、楽しかった。人を脅かすのは快感だね。

 

「さて、満足したし! 帰るか!!」

「まてぇ…今日こそ、絶対に……」

 

 そんな夜通し、私をずっと追い掛けてボロボロな検非違使に捕まりたくはないなぁ。

 別に私がやっている事は、都中をただ単に駆け巡るだけである。まぁ、人の家の中に入ったり、角から飛び出して驚かせたり、屋根からいきなり庭に飛び降りて荒らしたりするだけである。

 迷惑を掛けるのが妖怪。それが私!! ドヤッ!!

 

「もっと私に追い付けるよう努力するのだな!! ふわははははは」

 

 と、まさに悪役のような台詞を吐いて、自宅に戻る。

 無論、追い掛けられたり追い付かれたりして自宅がバレるのを防ぐ為に、いきなりトップスピードで。

 

 

 

 そんな感じで妖怪を存分にやり終え、自宅の玄関をガラガラと開ける。

 目の前に、誰かが居た。

 

「んじゃ、私が追い詰めてやろうか?」

「は? ……って彩目!?」

 

 なんでここに居るのさ!?

 警戒態勢は解除されたかも知れないけど、まだ都に戻るべきじゃないでしょ!?

 

「ま、立ち話もあれだし。とりあえず座るか」

「イヤ、だから警戒が……しかもここ私の家……」

「……」

「だから、警戒が……」

「……」

 

 ……いや、そんな睨まれても…。

 に、睨まれても……。

 

「……ハァ、分かったよ」

「ふふ…よし。まぁ、座れ」

「だからここ私の家……」

 

 

 

 ま、まぁ……良しとしよう……。

 なんで私の家を知っているのかとか、どうして危険を冒してまで私に逢いに来たような感じなのかは、とりあえず、置いといて。

 

「なんか、彩目…変わった?」

「ん、分かるか?」

「……そうだね。色々と吹っ切れたように見えるよ?」

「…まぁ、確かにそうだな」

 

 何かあったのかしらん?

 まぁ、本人にとって良い方向に変わったのなら、それは良い事でしょ? 多分。

 

「ほら、お茶の代わりの水」

「うん、ありがとう」

「……で、なんでまた都に来たのさ?」

 

 私みたいに姿を変えられるならいざ知らず、彩目はそういう術や技も知らない筈だ。

 それなのに危険を冒してまで京にやってきたのは、やはり『吹っ切れた』事と関係してるのかな?

 

「数日前に、守矢の神社に行ってきた」

「あそこに?」

「…お前と出逢った場所にもな」

 

 話によると、木々はほとんど切り刻まれ、切り株も朽ち果てかけていたそうだ。

 ……我ながらとんでもない事を仕出かした訳だ。あな恐ろしや。

 

「たまたまその場所で出逢った八坂様洩矢様の話も、聴いてきた」

「…あぁ、神奈子と諏訪子? 何か変な事されなかった?」

「……迂闊に否定出来ないな…」

「いや…ねぇ? あんな神様は……ねぇ?」

「…言いたい事も分かる。が、それとこれは別だ」

 

 あんなフレンドリーな神様居ないよ? ほんと。

 敵対した奴場合は情け無用でやられちゃうだろうけど。

 

「で、だ」

「うん」

「今一度、私と戦え」

「なんで?」

「理由なんかいらない。私と戦え」

「せめてそうなった経緯を言いなさい」

「あの二柱の話を聞いてしまったら、そうするしかないではないか!?」

「なんでこっちがキレられてるの!?」

 

 分からん!! 理解不能だ!!

 

「良いから戦え。これで私もすっきり出来る」

「……明日も弟子の修行で大変なんだけど…」

「私も入れて貰うか?」

「分かった! 分かったから!? 自分を人質に脅迫するな!!」

 

 ……なんてこったい。お手上げ侍だぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前四時。

 ……そろそろ日もあがる。徹夜かぁ……。

 

 裏庭、というか庭、というか何もない広場?

 とりあえず広くて人目がない場所で、私と彩目は向かい合っている。

 

 妖怪にとって、夜などあって無いような物。視界が狭いなどという事はない。

 真っ暗でも私は彩目を簡単に捕捉出来るし、向こうも半妖とは言え、見通す事が出来るだろう。

 

 …わざわざ彩目が私に会いに来てまでやろうとしている決闘だ。

 絶対諏訪子辺りに唆されたに違いない。うん。

 後でとっちめてみよう。覚えていればの話だけど。

 

 

 

「行くぞッ! 『展開』!!」

 

 言葉と同時に彩目の周りに何本もの刀が出現し始める。

 イメージするには言葉に出すのが手っ取り早い。私が言った通りである。

 

 対する私は自然体のまま。お手並み拝見だ。

 

 

 

 ……こうしたなめた真似をしてるから、いっつもヤバい事になるんだよねぇ…。

 

「行けッ!!」

 

 その言葉と共に、空中に浮かんでいる刃物が私の方へ刃を向け、まっすぐに飛んでくる。

 私狙いで迫ってくるそのホーミング性能は、それほど精度は高くはないみたいだけど、兎に角もう速い!!

 私が避けて通り過ぎた刀は消滅し、再び彩目の近くに発生して射出される。

 

「よっ! はっ! とおっ、っと!!」

「そらそらそらそらそら!!」

「ふぅむっ! それならッ、近付けば良いんじゃないかな!?」

 

 一応爪で刀は弾けるんだけど、痛いんだよねぇ…微妙に切れ込みが入って、爪が割れる感じ。

 まぁとりあえず、風圧で刀の軌道を逸らす。それだけの威力を風に込めるにはそれだけ集中しないといけないけど、それはまぁ、避けながらでも可能な範囲だ。

 

「『マハガル』!」

「チッ! …来いッ!!」

 

 彩目の手にばかでかい斬魔刀っぽいのが来た、ってどういう事!?

 なんだあれ!? ○護か貴様は!?

 

 近付いて来た私に対し、接近戦に持ち込まれる前に大きな鉈のような刃物を創りだして、思い切り振り被る彩目。

 流石にそれはッ、弾くしかないなぁ!!

 

(つば)()り合いなら、勝てるんだよッ!!」

「知ってるさ!!」

 

 キン! キン! と弾いていく音が響く。

 鍔迫り合いになった瞬間に彩目の刀は手を離れすっ飛んでいく。もしくは折れていく。粉々になって破片が地面へと散らばっていく。

 だが手を離れた刀には目もくれず、即座に両手に刀を創造する。完璧にエ○ヤである。

 

「爪が痛いんだっつうの!!」

「知るかッ!」

 

 剣術、誰かに習うかねぇ!?

 この勝負に勝って、彩目から教えてもらうとしますか!!

 

 

 

 こっちから打撃。

 彼女の大剣の腹を打って砕く。

 創造させてる間に回し蹴り。

 距離を取られて避けられ、その間に刀を創造されてしまう。

 大きな竜巻を起こして私と彩目を囲む。

 雪と風で視界が悪いする。まぁ、足音ぐらいの衝撃が聴き取れれば位置は分かる

 

 ふぅ……。

 ……いかん。高揚してきちゃったなぁ。ふふん。

 

「逃げ場はない。テンションアゲアゲで行くでッ!!」

「貴様の言葉は全く分からん!!」

 

 暴風雪雨に、落ちた刀の破片が浮き上がって飛び回り、更に接近戦を仕掛けた私に対して、彩目が出した刀がまた折られ、その砕いた破片が私と彩目、両者を傷付けていく。

 それでも私達は勝負を止めず、その破片の嵐を抜けきって私は彩目をぶん殴る。

 

「おぉぉおらあぁぁ!!」

「ぐぅあ!?」

 

 決めた。決めてやった。

 鉄の破片の弾幕を避けて、彩目の振り回す大剣と刀を避けて、

 腹に一発。ボディブロー。

 踏み込み良し。距離感良し。能力良し。邪魔無し!!

 

 吹っ飛んだ彩目は竜巻の内壁にぶつかり、私の方へと更に吹き飛ばされる。

 目標確認!! 迎撃準備オッケー!!

 

 走って飛び出しッ、相手を超えてッ、地上に叩き付ける踵落とし!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の勝ち、だね」

「私の負け、だな」

「……さて、気が済んだ?」

「…ああ。満足だ」

 

 私も彩目も、双方共に満身創痍だ。

 私は全身に切り傷が、彩目は全身に打撲傷が。

 まぁ、何度も殴って蹴ったのは私だけども、ちょっと心配。手加減はしたつもりだけど。

 

 能力を解除して竜巻が消えると、雪を降らせていた雲も消えた。

 東の空には、既に太陽が昇ってる。朝焼けかな?

 

 

 

「…ハァ~、徹夜じゃん…」

「妖怪だから大丈夫だろう?」

「元人間がその習性を直すのに、どれだけかかったと思ってるの?」

「…なんだ、やっぱり大丈夫なんじゃないか」

「いや、そりゃ百年ありゃ…ねぇ?」

「…既に百年生きてるんだが?」

「……なんつうロリババァ」

「意味が分かるように話せ」

「幼い可愛いおばあちゃん」

「……最悪だな」

「…同感」

 

 でも、ま。

 気分は良いかな? テンション高いし、風景は綺麗だし!

 

「朝ですよッ!」

「うるさいぞ…朝ご飯は?」

「正月名物お節料理」

「嘘だろ。お前にそんな腕があるとは思えん」

「どうせ、ないですよ…」

「家に戻るか?」

「あいさーッ!!」

「うるさい」

「このツンデレめ」

「だから……意味が分かるように話せ」

「好きだけど冷たくしちゃう、そんな属性の人」

「……」

 

 無言カヨ。

 そこは反応しとこうぜ。とりあえず顔を染めれば完璧さ!

 

「黙れ」

「態度酷くない!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、てけとーにちゃちゃっと料理を並べて、ハイ、いただきます。

 ご馳走様でしたのお粗末様でした、みたいにいただきますの代わりの形ってあるのかな? どうでもいい事だけど。

 

 閑話休題。

 

「で? 結局、何で戦おうとしたの?」

「…料理の腕、上げたな……」

「聞いてないし……」

 

 でも誉められた! やったね!!

 妹紅ちゃん、良い手本だわー。

 

「……以前は色々とお前を認めるのが癪だったんだ」

「…うん」

「それも今回の私の負けで吹っ切れた……いつぞやに言っていたな?」

「ん? 何を?」

「私を、む…。……」

「む?」

「…む、娘…だとか……」

 

 

 

 ……うおっ!? 顔赤ッ!! 可愛ッ!!

 

「認める? 認めちゃう? さぁさぁ! どうぞこの母の胸元に飛び込んで来なさい!」

「…うにゃーッ!!」

 

 ? …?? ……??? ッ!?

 

「ギャー!?」

「ムギュ!! 何をする!?」

「こっちの台詞だァ!! なにマジで飛び込んで来てるの!?」

「え……ダメ…?」

 

 うぐっ…! なにこの可愛い生物……!

 身長高い彩目が女の子っぽい倒れ方で涙目なんて、いつもとアンバランス過ぎて破壊力がヤヴァい……!

 クッ…! 母性本能…!? これが母性本能なの……!?

 

 ……ぬぐわああぁぁあ!!

 

 

 

「…なんてな?」

「……へ?」

「ま、これからもよろしくな? 母親殿よ」

「……からかわれた……?」

 

 母親……? 母親殿? ああ、そう……。

 アレ? 何をがっかりしてるんだろう私……。

 

 じゃあ……?

 

 

 

 変化、志鳴徒。

 

 

 

「これだと、どうなるんだ?」

「父親殿だろ」

「……」

 

 

 

 変化、詩菜。

 

 

 

「あ、戻るのか?」

「……今度さ」

 

 私が教えてる弟子の親が『お主の娘が見てみたい』って、言ってたんだよね……。

 

「……もしかして…貴様」

「傷が治ったら逢わす。って約束……しちゃった…」

「……」

「……」

 

「どうしよっか?」

「知るかッ!?」

 

 

 

 とまぁ、こんな感じに、

 いつの間にか私達の関係は修繕され、親子という形になってしまいましたとさ。

 

 

 


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