風雲の如く   作:楠乃

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 答え = (かしま)しい
 姦しい……大いに耳障りである。やかましい。かしがましい。「女三人寄れば—•い」


三人寄れば?

 

 

 

「……で、なにか用なの?」

「里帰りしたのでしょ? じゃあ逢わなきゃ駄目じゃない♪」

「はぁ……?」

 

 なんのこっちゃ……?

 

 

 

 兎にも角にも、紫と私、彩目と三人揃っている。

 三人揃えば姦しい。とは言うけども、いくら私でも大妖怪を相手にはおふざけを自重するさ。

 

 ……場合によるけど。

 

 

 

「ま、今日はもう遅いし。ご飯を頂いていけ~」

「あら? 貴女が用意するの?」

「ん~まぁね。彩目~、手伝い頼みまーす」

「ああ、分かった」

 

 

 

 とは言え、この家は大木の内側を切り抜いただけの構造。台所もなければシンクもない。水道なんて夢のまた夢である。

 まぁ、近くに小川もあるし、元々が森林なんだし、果実や動物・妖怪なんてフツーに採れる。

 

 ……妖怪を採れるって言ったらおかしいけど、それなりに実力がある筈の私達だ。飯の為の猟なら鬼にでもなるさ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩目は野菜・果実などを採りに。

 私は肉を採りに。それぞれ出掛けた。

 

 が、

 

「……別についてこなくても良かったんじゃない?」

「だって暇じゃない?」

 

 ……この寂しがり屋め……。

 という訳(?)で、私の後ろから紫がついてきている。

 スキマに肘をつき、優雅にのんびりと、こちらを楽し気に、眺めている。

 

 何故私は歩いているのに、紫のスキマは何もせずとも私を追跡しているのかが分からない。

 え? それって固定じゃないの? 動かせれるの? 境界を弄ったんだよね? あ、能力で全て説明出来る? ああ、そう……いや、知らないけどさ……。

 

 

「おしとやか、って感じじゃないんだけどさ……何か、底知れない優雅さがあるよね。紫は」

「あら。そう見えるかしら?」

「見える見える。寧ろ見せてるように見える」

「……それは……」

「誉め言葉だよ? 多分」

「……貴女も、底知れないわよね」

「んー? 底知れないって言われても。何が?」

「例えば人間臭い所。例えば妖力としては中堅なのに最強とも言われる鬼を圧倒出来る所。例えば家族を大切にする所。例えば行動に理由を伴わない所」

「……それらは」

「誉め言葉よ? ちゃんとした、ね♪」

 

 何か納得出来ないような気がする……。

 

 ま、どうでもいいかな。

 

「私が帰ってくる前に彩目と話していたようだけど、眷属についてどう話していたの?」

 

 帰ってきた時に聞こえてきた話は、ちょいと私の怒りに火を着けるような内容に聞こえたんだけど?

 いやまぁ、怒らないけどさ。

 

「他愛もない事よ……まぁ、私も自分の手足となる式神は前々から欲しかったのよね……」

「私は断るからね。いつも言ってるけど」

「残念だわ」

「どうだか……」

 

 

 

 さて、こんな無駄話(じゃないかも知れないけど)していても仕方がないし!

 猟の時間と洒落込みますか!!

 

 紫を無視して地面に伏せ耳を地につける。

 能力発動。『地面に響くスタッピング(足音)』を拾う。

 紫は足をつけてないから捜査の邪魔にはならないとして、

 

 

 

 付近に一体で居てくれる妖怪は……1、2……3、4、5……6、7……8、9……10……。

 十番目に近い奴だね。そいつが独りでいてくれる。絶好のチャンスだ。

 こっちにゃ物理押しの私と、大賢者の紫が居るもんね。

 なら、さっさと片付けましょ~うね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……とか、自惚れていた時期が私にもありました。

 

 大型肉食妖怪。

 絶滅したと思われていた恐竜がいま目の前に!!

 

 ……んな馬鹿な。

 ありえないありえない。

 気のせい気のせい。幻想だって。

 

「ギィヤヤヤャャァァァ!!!」

 

 叫び声。

 ……いやいや。あり(ry

 

「そろそろ現実逃避から戻ってきなさい」

「……ハイ」

 

 認めよう。この世界では私の習った日本史が通用しないという事を……。

 

「何でこうなったかなぁ……」

「油断してる場合なのかしら?」

 

 なんやかんやで手伝ってくれる紫も、私の事は言えないと思う。

 

 爪を掻い潜り、巨大な腕や脚を振り回す暴風をかわし、強力な牙・頭突きを回避する。

 私がいくら鎌鼬の爪で切り刻もうとしても、直ぐ様回復して肉が盛り上がってくる。紫も弾幕を叩き込んでいるが、致命的なダメージは与えられていないようだ。

 

「……参ったねェ、ッと!!」

「何よコイツ! 面倒くさいわねっ!」

「……何て言うか、紫でも苦戦するんだね」

「大妖怪でも、相手によればよッ!」

「うわ、意地っ張りだねぇハハ」

 

 一番細そうな手首を切断してもすぐに生えてきやがる。

 同じく『ガルダイン』で肉を細切れにしても、集まってきて再生してるし……厄介な。

 

「……こんな不死の妖怪なんていたっけ?」

「さぁ!?」

 

 おっと、何気に紫さんが奮闘してるし。

 お客様に申し訳がないなぁ……。

 

 

 

 ……よし。

 外傷が駄目なら、内側から爆散させてみよう。

 

 大きさは片手握り拳よりちょい少なめ。能力発動、圧縮、封印。タイマー設定十秒後。

 

「紫ッ! 離れて!!」

「ッッ!!」

 

 顔に近付いた私を喰おうとして口を開く。その時を待っていたッ!!

 ほ~ら、恐竜ちゃ~ん? ご飯でちゅよ~?

 ……我ながら、キモい。

 

「ほれ、飲め!!」

 

 右手の親指を使って某超電磁砲のように弾き撃つ。

 口に突撃した空間の塊は、喉元の分厚い肉の壁に弾かれて刺さったりはしなかったものの、どうやら飲み込んでくれたようだ。

 

 そして素早く距離をとる。爆発に巻き込まれない程度に。近付くには丁度良い程度に。

 紫はスキマに潜ったのか、何処にも見当たらない。

 まぁ、あの紫のスキマなら圧縮空間の戻る反動位なら無効化出来る……かな? 無理かな?

 でも紫の実力なら耐えれるだろうし、気にしない気にしない!!

 

 

 

「ギギィィヤ         」

 

 鳴き音や頭部が、文字通り消えた。

 爆発で恐竜らしき妖怪は、自分の胸元から上がない。

 巨大な腕も、肩から先だけが吹き飛ばされて、大木にぶつかってミンチになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……終わったの?」

 

 おや。スキマに潜り込んでいるのかと思ってたら、上空に退避してたのね。

 

「喰える部分がちょいと弾け飛んだけどね」

 

 あ~あ。いくら身を守る為とは言え……勿体無いなぁ……。

 

「まぁ、仕方無いか……運べる? スキマで」

「……貴女もしかして、それを狙っていた訳?」

「何の事かな~?」

 

 私が持って運ぶよりは断然効率が良いじゃん?

 スキマに入れるだけで品質保持も世界中に運搬も出来るんでしょ? 最高じゃない!!

 

「……まぁ、断る理由もないわね」

「でしょ?」

 

 さぁ、切り分けて詰め込み作業だ!

 

 っていう時に、雨が降り始めた。

 チルノと別れた時は昼過ぎだったから、冬の夕立かな? んな訳ないか。

 

 どちらにしろ、さっさと帰ろう。

 妖怪が風邪を引くか分からないけど、体調を崩すのも嫌だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~。彩目は大丈夫だった? 雨」

「私はなんとかな。詩菜は?」

「ん。スキマで移動したからへーき。肉は紫が保管してるよ。紫、食べる分だけ出してくれる?」

「どれくらいなの?」

「……これだから自炊した事のない人は…」

「なによ。悪いっていうの?」

「別に~? んじゃスキマ、開けてくれる? 私が中から出すから」

「はいはい」

 

 うにょーん、と。

 ……まぁ、そんなにでかくなくてもいいよね。

 少食(ゆかり)一人に、食べるのが嫌(あやめ)一人に、出されたら出された分だけ食べる(わたし)が一人だものね~。

 

 

 

「よいしょぉ、っと!」

「……貴女って、意外に腕力がないのね」

「能力頼りだからね。勇儀と戦った時だってそうだったよ? 接した状態での押し合いだったら、あっさり負けるからね。私」

 

 そう言うと予想通り、いい顔はしない八雲さん。

 友人同士の本気の争い事が、余程気に食わないようで。

 まぁ、もう過ぎた事。今更何か言われてももう遅い。そこら辺は紫も分かっているらしく、何も言っては来ないけど。

 

「彩目とかと刃物の斬り合いで、鍔迫り合いが起きた瞬間なら弾けるけどね」

「……ああ。その時ならぶつかる瞬間の『衝撃』があるからか」

「そうそう。しょーゆ事」

「古い」「酷いわ」

「いや……なんで二人してツッコミいやなんでもないです。すみません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して、

 

「ほい出来たよ」

「……これを、貴女が?」

「なによ。出来ちゃ悪いっての?」

 

 というか、肉を火で焼いて野菜を多少彩り良く切って盛り付けて後はご飯っていう料理の、何処が驚くところ?

 

「……(真面目にやってみようかしら……?)」

「……紫が私の事をどう見てたかはよーく分かったよ」

 

 なめてんじゃねぇぞコノヤロー。

 百年やれば、幾ら不器用でも出来るっての。

 

「ま、まぁそれよりも食べよう! な?」

「……ま、そうだね」

「「「いただきます」」」

 

 ……うーん。まだまだ……かな?

 料理の腕前はそんなに上手くなる訳がないし、熱中し始めたのはつい最近だし。

 

 気長に練習するとしましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ詩菜? 私に料理……教えてく」

「だが断る!!」

「……理由を訊いても?」

 

 私は紫の肩に手をかけて、真理を教えてあげた。

 そう。それは逃れ得ぬ事の出来ない真理……。

 

「紫はね……いや、紫がそうなると、紫の需要がなくなるからだよ……」

「じゅ、需要って何よ!?」

「具体的には、とあるお方が吐血する……かな?」

「血を吐くの!? 何があったのよ!?」

 

 

 

 んー……?

 あのお方は……頑張って紫が料理をしているのを見たら……鼻血を出して幸せに昇天するかな?

 うん、有り得るかも?

 

 

 

 


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