風雲の如く   作:楠乃

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花畑にて

 

 

 結局、飯を食っておやすみーで別れた八雲さんだけど……何がしたかったのかねぇ?

 寂しがり屋みたいな感じだけど、無駄な事はしない(たち)だと思うんだけど……?

 

 

 

 まぁ、凡人みたいな頭の私が天才八雲の企みなんぞ見抜ける訳が無いだろうし、ゆったり流されてみますかね。

 ……でも私や彩目、もしくは大事な奴に本気で危害を与える。っていうんなら、殺り合うけどね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、出掛けようか? 彩目」

「またいきなりだな……何処へだ?」

 

 私の一ヶ月の休暇も、およそ三分の一が過ぎ去ってしまった。今日この頃。

 ……まぁ、既に知り合いには大方挨拶は終えたんだけどね。

 今日は彩目を誘って、挨拶に行こうかなぁ、と。

 

「幽香の所」

「勘弁してくださいお願いします」

 

 ……そんなに嫌?

 しょーじきに言って、友人が恐れられているって家族に言われた気分だよ。いや、そのまんまなんだけど……。

 

 それって、かなりムカッって来るんだけどね?

 

「分かったから。私から戦わせようなんてしないから。ね?」

「……本当だな?」

 

 ……。

 

 うん。ちょっと深呼吸させてね? 怒りを抑える為に。

 ……ハアァー……。

 

「……怖いのは分かったから、少なくとも言動に表すの、止めてくれない?」

 

 あれ? 怒りを抑えた筈なのにな。

 思いっ切り脅しちゃった。

 

「うっ!? 分かった! 悪かったからその殺気を向けないでくれ!!」

 

 あらら。殺気まで出てるの?

 いかんいかん。

 

 

 

 はい、しんこきゅー。

 

「……スゥー……ハァー……」

 

 落ち着いたかな私?

 

「大丈夫に見える? 私」

「……いや、笑顔が顔に張り付いて見えて……正直、怖い」

 

 ……。

 ふぅ……娘にまで恐れられるのは勘弁。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ちょっと待ってて」

「?」

 

 部屋に彩目を残し、外に出る。雪が朝から降り始めており、山は白く薄化粧を……まぁ、そんな事はどうでもいい。

 

 んん~……自分を疑うっていうのは、素晴らしい事だよね。

 もしかしたら、自分でも無意識にやっていた事とか、意味なくやっていた筈の事が急に凄い意味のある事だったりとか。

 それでなくとも、新たな発見は確実にあるだろうね~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 今の私。おかしくなってない?

 なんでこんな怒りっぽくなってるの?

 あれか? 月の日か? 151歳まで生きて初めてだよんな訳あるかボケェ。

 

 他は? 狂ったか?

 そうだったらもうちょっと笑えても良いんだけどねぇ?

 ………でも、あながち間違ってないような気もしてきたなぁ。

 

 でもキャハってテンションじゃないしなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、分かった。ウズウズして堪らないんだ。

 そんなに幽香に逢うのが久し振りな訳じゃないんだけど、こう、何て言うか……興奮が止まらない、かな?

 殺り合いたい。今すぐにでも、紫でも幽香でも天魔でも。とりあえず全身全霊を尽くして、バトってみたい。

 

 ああぁぁぁ~……自覚したら余計戦いたくなってきたなぁ~……。

 

 

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 そんな事を考えている内に、彩目が家から出てきた。

 

「ははは、大丈夫じゃないかもね」

 

 今にも暴れたくて仕方無いもん。

 死力を尽くして戦いたいもの。

 彩目に対して怒ったのは、そんな強い対戦相手をバカにされたような気がしたからかな?

 

「……ふぅ、とりあえず行こうか。幽香の家に」

「お、おい! 本当に大丈夫なのか!?」

「まぁ、落ち着ければ大丈夫だよ」

「『落ち着ければ大丈夫』……?」

 

 あ~、殴りたい。とりあえず何かを殴りたい。彩目は駄目だとして、興味ないぐらいに弱い奴か、殴り合える程の実力者が欲しい。

 ま、だから幽香の家に行こうとしてるんだろうけどね。

 

「行こう、彩目」

「……だ、だが」

「行こう」

「……分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『太陽の畑』に到着。

 冬だからか向日葵は咲いていないし、地表にはうっすら雪が積もってる。

 

 ついでにさっきからびくびくしてる彩目がちょいとウザい。

 

 

 

「幽香~?」

「……あら、詩菜じゃない」

 

 幽香の家の玄関を押し、ノックもせずに開いて挨拶する。

 それを幽香は特に慌てもせずに、普通に挨拶をする。クール過ぎる。

 

「お久し振り、って訳でもないかな?」

「そうね。最後に逢ってから一年経ってないものね……そちらが例の?」

「あぁ、うん。彩目だよ」

「はっ、初めまして……」

「あら、そんなに緊張しなくても平気よ? 弱いのを虐める気はないわ」

「……Sだねぇ」

「フフ」

 

 そして『弱いの』と言われたにも関わらず、反抗や文句を言わない辺り、自分でも弱いと思ってるのか。戦えば負けると確信してるからか。単に性格か。

 まぁ、最後のは無いと思うけどねぇ? 多分。

 

 

 

「さて、幽香。いきなりだけど勝負してくれないかな?」

「あら。その子と?」

 

 喋りだして意味のある文章になった瞬間に、彩目の顔から血の気がサアッと引いていくのが見えた。

 

 勝負させないって言ったでしょうが……。

 

「いやいや、私と」

「「え?」」

「どーもさー? ここの所、溜まっててさ?」

 

 いっちょ、爆発させてみたくてさ?

 周りなんて気にしないで。純粋な殺し合いでさ。

 

「……ふふふ。見事な殺気ね」

「ありゃ、また出てる? 殺りたくて殺りたくて仕方無いんだよね~♪」

「良いわよ。外に出ましょう」

「……はっ! しっ、詩菜!?」

「彩目、邪魔しないでよ? 死にたくなければ」

「ッッ!?」

 

 ん~、もう止まらない♪

 ふふふふふ、テンションフルMAX~♪

 

 

 

「それにしても、どうしていきなり私と戦いたいのかしら?」

「……私はさ? 今まで何回も幽香と戦ってきたよね」

「? そうね。それが何?」

「でもね、幽香はまだ知らないんだよ? 私が本気で殺し合う姿ってのを」

「……何が言いたいのよ?」

「狂気に染まった妖怪。彩目という存在の発端。鬼と紫との喧嘩の原因」

 

「殺さないでね? そして、死なないでね? 無いと思うけど。ハハハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 笑った。彼女はそう言って、とても愉し気に笑った。

 今は冬で、もし花がこの辺りに咲いていたとしたら、初めの詩菜の衝撃で全てが千切れ飛んでいたわね。

 それほど、戦いは激しかった。

 

 

 

「殺さないでね? そして、死なないでね? 無いと思うけど。ハハハ」

「ッ!?」

 

 喋り終えた途端に私に向けられた物凄い殺気。

 今までかなりの相手とも戦った事のある私だったけど、これほどの濃い殺気を笑顔で相手に向けてくる相手は初めてだった。

 相手を殺して自分も死ぬ、そう言うかのような殺気。

 

「ハハハハハハ!!」

「なるほど、ねっ!」

 

 目の前には、縦横無尽に飛び跳ねる彼女。視線は追い付けれる。身体も反応出来る。でも追撃なんて事は出来ない。

 それは今のこの状況でも、彼女に私が追い付けない。という事を示していた。

 

 彼女がありえない初動の速さで接近し、即座に反応した肉体を、後退をして威力を受け流しながらもガードをする。

 それでもその『衝撃』を殺せず、とんでもない程の重さの拳が両腕に当たる。

 

「クッ…!」

 

 動きは見える。反応も出来る。

 けれど、いくらなんでも素早過ぎるのよ!!

 

 傘を振るい牽制する。更に弾幕を放つ。

 打撃も威力が高ければ貫通する。傘は妖力を重ね、素早く降り下ろせば切れ味が増す。

 打撃・衝撃において私は詩菜には勝てない。全てを操ってしまうから。

 能力も使う。暢気に応対すれば、私はこのおかしな中級妖怪に負けてしまう。

 

 けれど、それは私のプライドが許さないッ!!

 

「喰らいなさいッ!!」

 

 地面から蔓を伸ばし、弾幕を放つ砲台にする。威力は低くなるけど、潰されてもすぐに復活させる事が出来るし、視界を防ぐ程の弾幕をはる事も出来る。直接ムチに使う事も出来る。

 接近戦は彼女の得意分野で私の得意分野でもある。弾幕は完全に私が上だ。

 

 それでも詩菜は弾幕を潜り抜けてくる!!

 

「グゥッ!?」

「ハハハハハハ!!」

 

 また弾幕の壁をすり抜けてきた。

 詩菜が取っている戦法は完全な『ヒット・アンド・アウェイ』

 かなりの速度と体術で私を撹乱してくる。不可避な量の壁・弾幕を叩き込んでも、一瞬で範囲の外に逃げていく。

 

 それなら……!

 

「喰らいなさいッ!」

 

 私の弾幕で『道』を作ればいい!

 

「……ありゃま、刺されちまった」

 

 彼女が私の弾幕を全てを見切って突っ込んで来るのならば、その先まで誘導して攻撃すればいい。

 示した通りに突撃してきた彼女を待ち構え、左足の脛に思い切り傘を突き刺した。

 

「まだ、やる気?」

「当然♪」

「ッッ!?」

 

 詩菜の足から飛び散る血が、地面に染みをつくっていく。

 そんな事も気にしないかのように、彼女は左手を思い切り振るった。

 爪は私に襲いかかるのではなく、下方向に……ッ!?

 

 この子…ッ! 自分の爪で左足を引き千切った!?

 

「こうすりゃ自由になれる。痛いけどね」

「貴女……!?」

「まだ終わっちゃいねェぜ? まだ戦闘は続いている!!」

 

 片足立ちで、打撃、衝撃を叩き込んできた。

 詩菜の回避や速度で私を眩ます事は出来なくても、彼女の物理はそれだけで脅威……!!

 弾幕用の花を咲かせようとしても、すぐさま刃を飛ばされ斬られてしまう。

 

 彼女は以前のように動こうとはせずに、私を追い掛け攻撃を繰り返す。

 ……あら、『ヒット・アンド・アウェイ』はやめたのかしら?

 すぐに下がらず、片足で攻撃を続けるの? 回避を捨てて、猛攻に移ると?

 

 ……良いわよ。面白いじゃないッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に私の服はぼろぼろ、満身創痍だ。そういう私も怪我は多いのだけれどね。

 脚を使わず、立ったまま双方が肉体での戦いを続けている。

 草の蔓で編んだ服を私は着ている。それでクッションを作れば彼女の『衝撃』の威力は低くなった。初めからこうすれば良かったのよ。

 

 血だらけで、それでもまだ笑いながら私に向かってくる女の子。詩菜。

 そうね……初めて逢った時よりも、格段に実力は上がっている。それも私に追い付けるかも知れない程に。いや、もう攻撃の面だと追い抜かしているかもしれないわね。

 

 けれど、まだまだ。

 

 ダスッ!

 

「『Check(チェック) Mate(メイト)』よ」

「……みたいだね」

 

 傘は彼女の右肩を貫き、私の右手は首に手刀を突き付け、彼女の左腕は蔦で固定した。

 彼女の右手は、傘で鎖骨を貫いた所為でブラリと力なく垂れ下がっている。間違いなく骨砕けているでしょうから、当たり前ね。

 

 私も五体満足という訳でもない。

 肉体は幾度となく斬られ、私も肋骨が何本か折られている。骨が肺に刺さっているのか、口からは血が止まらない。

 

 

 

「……満足かしら?」

「そうだねぇ……紫よりは長く戦えたし、満足だよ」

「そう……結局、貴女は何がしたかったの?」

「……さぁ? イライラを誰かにぶつけたかったんじゃないかな?」

「迷惑な八つ当たりね……」

「ハハハ♪」

 

 

 

 肩から傘を引き抜き、辺りを見渡す。

 私達を中心に、雪どころか土すら吹き飛ばされている。

 

 詩菜のツレとかは……案外助けに入るかとも思ったのだけれど……きっちり言われた通りに私の家の前で此方を見ていた。

 優しい子なのかしらね。詩菜とは大違いだわ。

 

「……因みに、今の瞬間に私が襲うとは思わなかったの?」

「殺気どころか妖力や神力すら感じない、何も残っていない貴女に、何が出来るのかしら?」

「バレてたか」

「私をなめすぎよ」

 

 ……とは言え、

 私も彼女をなめてたわね。これほど負傷したのも、紫と殺り合って以来だわ。

 

「……ふぅ。やっぱお姉ちゃん達には勝てないかぁ」

「生きてきた年数が違うわよ」

「ハハハ……なるほど。彩目~!」

 

 

 

 はぁ……疲れたわね。

 ゆっくり休みましょう。

 

「……さて、勝ったのは私よね?」

 

 しばらく、負傷した私のお世話でもやってもらおうかしら?

 

「え!? どゆこと!?」

 

 敗者は勝者の言う事を聞く。当たり前じゃない?

 

「ッ……この……どSめッ!!」

「ありがとう、最高の誉め言葉だわ」

「オニ!!」

 

 

 

 


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