風雲の如く   作:楠乃

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神様の祝杯?

 

 

 

 結局、私は幽香の家に一週間の間、メイドか家政婦紛いの事をやらされた。

 くそぅ……でもなんやかんやで楽しんでた自分がいた……ちくせぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッつっは~!ようやく我が家に帰ってこれたよ……」

「……ハハ」

 

 彩目が苦笑いしている。

 ……良いよね、彩目は幽香の家に泊まりに行っただけ何だしさ……。

 

 

 

 彩目も幽香との戦闘が終わった時、色々と大変だった。

 あの時、私の中のイライラや破壊衝動みたいなのは既になくなっていた。

 戦闘で満足したし、身体中の応急措置を先にするべきな程に、私と幽香はぼろぼろだったしね。

 

 それでも自分が私を苛つかせて、こんな大掛かりな事になった。ていうのは彩目でも解ってたみたいで、

 

「……すまんッ……!」

 

 私達が戦いを終えて帰ってきた時、つまり彩目の目の前に着いた時に、いきなり謝ってきた。

 

 ……謝られても、ねぇ……? 困るっての。

 

 

 

「……彩目が今回の事で謝ろうとしているのはどんな事なの?」

「えっ……? それは……『ヒトの友人を侮辱した事』……?」

「残念ハズレ。私が怒ったのは『そいつの事を理解しようともせずに一方的に決め付けたから』だ」

 

 まぁ……他人から見たヒト、なんてモノはヒトそれぞれなんだし。それが合っているか間違っているかなんて事も、当の本人すら決めるべき事じゃない。と私が考えているだけなんだけどね。

 

 後は私と彩目の持論での口論みたいなのになったんだけど、言い負かして私の論が正論として通ったから割愛させて貰う。つーか覚えてないでゴワス。

 言い負かしたのだが、そこに負の感情という物はない。彩目には理解して貰ったのだから。

 双方が気持ち良く、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の休暇は残り半月。

 さてさて……暇になってしまったかな?

 

 ん。おぉ、そうだ。

 

「神奈子と諏訪子の所に行ってみよう」

「また唐突だな……訊いても無駄だと思うが、理由はなんだ?」

「なんとなく。強いて言うならば、ない」

「……それを強いてとは言わないと思うが?」

「んなこたぁどうでもいいんだよ。えーっと……あれだよ。『人を助けるのに、理由がいるのかい?』みたいな事なんだからさ」

「おお、かっこいい格言だな」

「因みに私の中の定義では『人間は人。人の形をした人間以外の生命体はヒト』だから、この言葉に妖怪は当てはまらないと思うんだ」

「格言を自分でぶっ壊した!?」

 

 ジタン格好良いよねぇ。

 ……Ⅸ自体、ファンは少ない方らしいけど。

 

 

 

「ま、行きましょうか」

「やっぱり行くのか……」

「イヤ?」

「……そういう訳でもないんだが……その、私らが出逢った場所だろう?」

「……まぁ、あまり思い出したくはないねぇ」

 

 私にとっては黒歴史だし、彩目にとっては(自分で言いたくもないだろうけど)貞操の危機が起きた場所なんだし。

 一人ならまだしも、二人で行きたくは……ないわな。どう考えても。

 

 

 

「ま、迂回して行こうか?」

「……そうだな。わざわざあそこに近付く必要もない」

「そんな事を言ったら、守矢の神社に行く必要性もなくなるよ」

「揚げ足を取るなよ……」

「れっつらごー」

「……はぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は妖怪になったんだって、つくづく思い知らされたよ」

「……ごめん」

「いや、それはもう良いんだ。良いんだが……」

 

 顔のすぐ横を御札がすり抜けていく。

 星の形をした弾幕が何重にも重なり、私と彩目に向かって飛んでくる。

 

 

 

 つまり、

 守矢の巫女やら風祝やらに、襲われた。

 

「襲われたって言うよりは、防衛されてる。って感じかな?」

「私らは一切手を出していないしな」

「余裕で避けてどんどん突っ込む。いつも通りね」

「了解」

 

 まぁ、スピード狂の私と、そんな私に追い付く為の技術を持った彩目に、そうそう簡単に当たってたまるかっての。

 てゆーか、迂闊に衝撃波を出して相手の受け身が不充分だったら、肋骨ぐらい簡単に逝くから私は弾幕を撃たないだけで、別に彩目は転倒するぐらいの威力の弾幕なら、撃っても平気だと思うんだけどねぇ。

 

 まぁ、半人半妖元人間。

 同じ人間を殺したくない。って感じなのかね。

 私はなんかそういうのは何処かで焼ききれちゃったからなぁ。別に殺害で罪悪を感じないし。人間を喰わないのはとりあえず喰わないって決めただけだし。

 彩目にはこのまま純粋無垢なままで……ってのは無理だろうけど。

 

 まっ、なるようになるでしょ! 多分。

 

 

 

「囲まれたけど、神社近くまで来れたね」

「……なぁ? 今疑問に思ったんだが、わざわざ押し入る必要はあったのか?」

「ない」

「……だよなぁ……どう考えてもそうだよな……クソッ、なんでさっさと気付かなかった…」

「地味に私の事、責めてるよね?」

 

 それでもそんな事を言い合いつつ、弾幕を彩目と踊るように避けていく。背中を合わせて全方向に注意を向けつつ、弾幕を避けまくる。

 呼吸を合わせ、動きを合わせる。背中から伝わる動きで同じ方向同じ速度同じタイミングで弾幕を回避する。

 

「以心伝心、一心同体」

「念話があるからな。ッと、いつまで続くんだ? これは」

「神奈子か諏訪子に話が通ればなんとかなる……かな? 既にかなり近くまで来てるけど」

「もう鳥居の前だが?」

「……私に訊かないでよ」

「お前しか訊く相手がいないからな」

 

 はぁ……。

 

 あぁ、テンションが勇儀と戦った時みたいに狂ったように高かったらなぁ……。

 ……いや、そしたら皆殺しになるか。そりゃ駄目だ。

 

 

 

『……で、どうするんだ? この状況?』

『……参ったなぁ。神奈子も諏訪子も見えないし……』

 

 これほど暴れてるのに来ないって事は、他に何か大事な事が起きたか、お神酒でも呑みながら私達を観戦しているか、どっちかかなぁ……?

 

 後者だったら……とりあえずブッ飛ばす。無理だとは思うけど。

 

『……しょうがない。中へ強行突破するよ』

『はぁ……了解』

『最高速で行くから』

『……またこの格好か……』

『しょうがないでしょ……』

 

「よッ!!」

 

 

 

 彩目を抱える形で、鳥居を通り抜け本殿へ向かう。

 いわゆる『お姫様抱っこ』みたいな形で、はみ出た頭や足が危険だが……まぁ、彩目の身長が異常なのがおかしいんだよね。そこはしょうがないよね。ぶつかったりしても、うん。しょうがないよね。

 神社の構造は何年か住んでいたから覚えているし、迷わず一番近い神奈子の部屋に突入。

 

 

 

「……誰も居ないな」

「なんでさ!?」

「知るか」

 

 くそぅ、気配を掴もうにも神力が満遍なく拡がってるから、位置が特定出来ない!

 

「……追い付いて来たぞ!」

「えぇい! 次、諏訪子の部屋!!」

 

 襖を蹴り飛ばし、後ろから飛んでくる弾幕を彩目の指示で避けて進む。

 

 ……考えるのもめんどくさくなってきた。

 これなんて作業ゲー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どりゃあッ!!」

 

 襖をぶっ壊し、

 

「うぇいっ!? 妖怪!?」

 

 叫ぶ風祝の隣をギリギリ突き進み、

 

「……あ~あ」

 

彩目は隣、というか腕の中で呆れ果て、

 

「おや? 詩菜じゃないか? ……って奇襲してきた妖怪って……詩菜の事?」

 

 ……か~な~こ~?

 

「これだけ大暴れしたのに、その反応はないんじゃないかなぁ?」

「あ~……怒るのはそっちなのか?」

「理不尽過ぎやしないかい!?」

「八坂様!! 下がって下さい! 危険です!!」

「あ゛ん? さっきから民も巫女も風祝も攻撃してないんだけど? そっちが勝手に調子の良い解釈して妖怪を殺そうとしてるだけでしょ?」

「……まぁ、妖力を出しながら突っ込んだからな。というか降ろせ。抱えながら怒っても無意味だぞ」

「ダメじゃん!? というかなんでそんな冷静!?」

「言い訳かコノヤロー!!」

「「言い訳してるのはそっちだ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 NowLoading……。

 詩菜が落ち着き、神奈子が事情を風祝に説明するまで、少々お待ちください……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

 落ち着こう。

 落ち着け。

 落ち着いた?

 落ち着けた。

 ……多分。

 

「おい」

「まぁまぁ」

「……ハァ……それで結局、詩菜と彩目は何のようで来たんだい?」

 

 場所は変わって神奈子の部屋。

 諏訪子もいるし、敵意バリバリの巫女さんもいる。

 良いねぇ、最悪の環境だよ。

 

「ちょいと観光に」

「「……はぁ?」」

「……誰も理解出来ないだろ、それは」

「訂正、彩目と仲直りしました。っていう報告」

「……まぁ、間違っては……ないか?」

「あ~……私達はどう反応すれば良いんだい?」

「……祝福?」

「いや、私たちに訊かれても」

 

 じゃあどうすれば良いと言うのだ!!

 と、勢い勇んで立ち上がる。別になにもしないけど。だからそこの風祝さん、御札仕舞ってね? ね?

 

「逆ギレかよ……落ち着いたんじゃないのか」

「でした」

「……いつにもましておかしいなお前?」

「うん、自分でもそう思う」

「思ってるのかい……」

 

 何故私はこんなにはしゃいじゃっているのか。

 恐らく、自身の実力か何かが上がって、諏訪子神奈子の実力が実感出来るようになったから。だと思っている。

 実感した結果、神奈子と初めて逢って戦った時に良く消し炭にならなかったと思う位だ。

 兎に角もう、すごい迫力だ。どうして気付けなかったのかとすら思える。

 

「ん~、神力を手に入れたとしても、やっぱ本職の神様には敵わない……か」

「? いきなり何の話だい?」

「いやぁ、神奈子と戦った時によく死ななかったなぁ。って」

「ああ。そりゃ神奈子が手を抜いたからに決まってるじゃん」

「……だよねぇ……」

 

 ……どちらにせよ、舐められている事に変わりはないようだ。

 まぁ、良いけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて! そろそろ帰ろうか?」

「そうだな」

 

 完全に太陽は隠れ、半月が沈もうとしている。

 つまり、今現在の時刻は真夜中ではないにせよ、既に真っ暗な状態。という事で。

 

 ちなみに、神奈子と一戦して貰った。

 当時とは比べ物にならない程のオンバシラが降ってきた事は言わずもがなである。無論負けた。

 神力を使えたから軽減出来たものの、妖力でガードしていたら粉微塵になっていたよ? 責めるアレはないけどさ。

 他には再会と仲直りを祝福してもらい、酔わない程に祝杯もしてもらった。冗談だったんだけどなー……。

 

 

 

 閑話休題。

 

「そっか。まぁ、また立ち寄ってってね」

「りょーかーい♪」

 

 ……相も変わらず、変な所でフランクな神様である。

 

 おっと。聞き忘れてた事があったよ。

 

「最近は私、人間として人を助けているからさ? 神力が集まる訳ないと思うんだ」

「……へぇ。それで?」

「妖怪を助ける時は当然妖怪として助けるから、これも神力が集まる筈がないと思うんだよね」

「……だから、なんだ?」

「だけど最近、やけに神力が溜まってくる」

 

 これについて、どう思うかな?

 

 これはちょっとした質問だ。

 実際、京に住み始めて数年が経ってから気付いた事だ。

 妖怪『詩菜』も陰陽師『志鳴徒』の二つの姿を使って活動していたけど、どちらも神様ではない。

 なのに神力は少量だけども集まって来ている。

 私は京に来てからは、神様の地位を使った事は何もしていない。それ以前ならば、初対面、なおかつ再度逢う予定なんて無い相手、等には神様と名乗る事は逢った。

 

 今はその名乗りを止めても、神力の供給が継続されている。

 

「どういう事なんですかね?」

「……何処かで信仰がまだ生きてるんじゃないか?」

「人の伝承っていうのは案外バカにならないよ?」

「ふーん……」

 

 ……この二柱が裏からやってるかと思ったけど、違うか。

 どうやら今回の私の勘は外れてしまったようである。まる。

 

「まぁ、それならいっか」

「……ん? 何、私たちがやったと思ってるの?」

「ええ、多少は疑惑に思っていました」

「『思って』か。今の問答で違うって確信したのかい?」

「確信、ではありませんが。嘘をついているようには見えませんでしたので」

 

 ま、そんな嘘を簡単に見抜く心眼なんて私にあるとは思えないけどね。

 ようは『勘』だって。

 

 さーて、もうここに用は無くなったし。

 

「んじゃ、帰ろっか彩目」

「……毎度の事ながら、急に豹変するな。お前」

「ふぇ?」

「……そ、それも演技、なの……かい……?」

 

 ふっふっふっ♪

 な〜んの事かな〜あけちく〜ん?

 

「ん、じゃあ、まったねぇ~♪ 神奈子に諏訪子やーい!!」

「……あ、ああ! また寄りな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……逢う度に」

「……私たちを振り回すねぇ……詩菜は」

「はは……はっはっは」

「ハハハハハハ」

 

「「……笑えない」」

 

 

 

 


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