京には藤原一家の他にも、一応は知り合いとも言える間柄の輩はいる。まぁ、その数は少ないけどね。
例えばそろそろ月に帰る予定の輝夜だってそうだし、近くの山にいる妖怪共には姉貴とか呼ばれているし、山の奥にいて滅多に逢わないけど勇儀とかもそうだし。
まぁ『友人』なんて間柄になると、グッと少なくなるんだけどねぇ。
『知り合い』って間柄なら、かなりの数には登るんだけど。
閑話休題。
「へぇ、アンタが『逃げの大将』かい?」
「へっ! 大将だっていうから凄いのかと思ってたが、逃げってつくのも納得だなァ!?」
久々に京に帰ってきた。とは言っても一ヶ月くらいなんだけど。
だからまぁ、山奥をうろちょろしてたら絡まれた。あれ? 理由になってないな。
要するに、私が居ない間に良く分からない輩が山に入ってきて荒らしているようである。
「随分と可愛らしい身なりじゃねェかよ?」
「こんなのが本当に大将だったのか?」
こんなのとはなんだ、こんなのとは。
……まぁ、ちみっこいのは否定できないけど。
とまぁ、立ちはだかってきた妖怪を観察していると、そいつらの後ろから見覚えのある妖怪が私にすがり付いてきた。
「あ、姉貴ィ!! コイツらをやっちまってくだせぇ!!」
「ギャハッハッハ!! こいつ自分よりも小さい奴に助けてって言ってるぜェ!?」
「妖怪の風上にもおけねェ奴だな! あれほど俺らになついてたのは演技かァ!?」
「うるせぇ!! テメェらなんぞ姉貴にかかればひとたまりもないわ!!」
……ふむ。
私以外にも鬼がいるし、それなりに実力を持った妖怪が山には住んでいたんだけど、これだけの横暴をしているって事は、それなりの力を持っているって事なのかな?
「私がいない間に君達は縄張り争いに負けた。って事?」
「へっ、へい! そうです!!」
ふーん……。
……まぁ、そいつらよりも、私が気に入らないのはコイツである。
「するってーとアイツ等に負けて服従していた君は、私が帰ってきたから反旗を翻している訳?」
「へ、えっ? い、いやちげぇよ!?」
「ふーん?」
コイツの事はよーく覚えている。
いつも強者の後ろにくっついて、虎の威を借りている奴だ。狐型の妖怪じゃないのに狐とはコレ如何に。
自分よりも強い奴の周りにいて、自身は努力もせずに美味しい部分を上手く頂く、調子の良い奴である。やはり狐である。狐じゃないけど。
「ま、そういう生き方に別にいちゃもんをのしつけるつもりなんて微塵もないんだけどさ?」
ウザいから、止めてくれない?
その生き方を止めろとは言わないよ? 生きていくには必要だろうからさ。別に自由気ままに生きてていいよ。そんなの私が決める事じゃないし。
でも、私に対してそんな事は止めて欲しいかな。
「ヒ、ヒイィッ!?」
妖力全開で盛大に脅してやる。
まぁ、その開放している妖力自体は少ないけれども、怒っているアピールにはなる。
たまたま弟子とか出来ちゃってるけど、私は自力でマイペースに生きてみたいのだ。
私の回りをうろちょろ嗅ぎ回るネズミや犬は邪魔である。攻撃とかはされない限りしないけど、止めて欲しいっていうのは明確に示してやる。
「つー訳で、縄張り争いとかに興味はないんでご自由にどうぞ? そいつ、虫に関しては処罰するなり追放するなり喰うなり煮るなり、好きにしちゃって下さい」
「……」
大将なんて言われてるけどわざわざ自分から助けるのは気に入った奴ぐらいだし、依頼とかがない限りは私も助けたりはしない。
言い換えれば、依頼されりゃあ誰でも助けるよ? って事にもなるんだけどね。
さて……。
「そういう事で……退いていただけませんかねぇ?」
「……俺らがこんな奴の為にお前に逢いに来たとでも思ってんのか?」
「つーか、わざわざ美味そうな肉を逃すと思うのかよ?」
……結局、戦闘か。
やれやれ、どいつもこいつも血気盛ん……私もか。
「はぁ……私が貴殿方を倒せば通してくれる。って訳ですか?」
「物分かりが早ぇじゃねぇか嬢ちゃん」
「逆にお前が負けたら、俺らの慰め物になってもらうぜェ?」
はぁ、男って悲しい生き物だ事。
私も生前はそうだったんだけどね。あれ? でも今も『志鳴徒』だしな。あれ?
……まぁ、いいや。
「んじゃ、さっさと殺りましょうか。『逃げの大将』をなめないで貰いたいですねぇ?」
「ナメテンのはテメェだぜ嬢ちゃん!!」
「痛くしねェから安心して、負けやがれッ!!」
敵は三人。さっきの虫も含めて観戦しているのが五人くらい。
三人全員が私に目掛けて突っ込んでくる。見抜き安っ!
せめて三人それぞれが別方向から攻めりゃあいいのに……なんでこいつらこんなに権力を持ってんの?
こんなの、ここの妖怪でも同じ数で対抗すれば勝てるだろうに……。
まぁ、いい。
私は火の粉が掛かれば、衝撃で振り払うだけである。
「『逃げの大将』にもちゃんと名前があるんですよ? 詩菜、って名前が」
「ぐピャぁ!?」
一人目、顔面複雑骨折にて気絶。リタイア。
「また詩菜には様々な二つ名があったりします。『中立妖怪』に『鬼殺し』などなど。まぁ、あんまり名乗ったりはしないけどね」
「あああぁぁぁあッッ!? お、俺の、腕がぁぁぁ!?」
二人目、両腕が切り取られて失神。リタイア。
「ッ!? じゃあ……テメェがッ、あの鬼を引っ込めたッ……!?」
「まぁ、そんな事よりもですね? ヒトを見掛けで判断するなと」
「が、ボッ!? テ、テ────」
三人目、体内から空間圧縮による爆発。死亡。
あ、勢い余って殺っちゃった。
……南無。
さて……ふぅ……。
「スッキリした♪」
いくらどうでもいい奴から罵倒されたとしてもさぁ? イラつくし殺したくもなるよねぇ?
さーてと、まだ生きてる二人組をてきとーに縛って……。
「やい、そこの捕虜だったらしき妖怪!」
「はっ、はいッ!!」
うん、虫とは大違いだ。礼儀正しいし、近付きたくないって思ってるのがバレバレだし。
「コイツらをどっか適当な所に置いてきなさい」
「……適当な所って……とは? 例えば、その、どのような場所に置いてこれば?」
「貴方が死んで欲しいと願うならば人里近くに。どうでもいいなら別の山に。貴方がコイツらについていきたかったら、私が居ないような所で解放してあげちゃって」
「はぁ……わかりました」
「要するに、焼くなり炙るなり好きにしなさいな♪」
「……は、はぁ……」
処刑しないのかって?
やぁよ。めんどくさい。