風雲の如く   作:楠乃

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決着?

 

 

「今日で俺が教える授業も終わりだ。一年間も早いもんだなぁ、オイ」

「……もう一年、か」

 

 一年間の契約もこれにて終了だ。

 ……酷い考えだが、これで妹紅との因縁も切れて終わりを迎える。

 

「……さて、最後なんだし。いっちょ本気で戦闘してみるか?」

「本気で?」

「ガチで」

 

 妹紅が本気を出せば、俺もそれ相応に本気にならなければならない。

 能力使わないと勝てる見込みもなくなる程な筈だ。多分。

 

「ま、こんな市街地でやったら大騒ぎになるし。移動するか」

「……いいよ。分かった……殺す気で来い、って訳か」

「殺す気じゃねぇと殺しちまうぜ?」

「……」

 

 多分。うん、多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の麓、妖怪の領地と人間の領地が接する場。

 ここなら滅多に人は来ない。妖怪なら近付くかも知れないが、まぁ、吹っ飛ばすし。

 

「手を抜くのはなし、本気を出す。手段は問わない。罠もあり。騙しも禁じ手もあり」

「……終了の合図はどうするんだ? その規則じゃ参ったって言った後に、攻撃するのもありになっちゃうだろ?」

「んじゃ気絶または失神で終了。相手が確認して終了。気絶した振りもありだから、疑ってばっかりになるが、まぁ……より実戦風味になるだろ」

 

 

 

 ……全然関係無い話になるが、もし蝉が人間をも殺せるような知能や攻撃手段を持っていたら最強だよな。

 死んだ振りをして近付いた瞬間ズバッ! とか、三日間しか生きられないなら神風でも特攻隊でもなんでもしてやるぜ! とか。

 

 

 

 閑話休題。まさしくどうでもいい話だ。

 

「……戦闘前にそんな話をするのも、作戦か?」

「駆け引きは大事だぜ? 強大な妖怪に遭った時に、どうすれば会話で隙を作って逃げれるか。どうすれば弱点を見抜けるか。特徴云々、どうすれば怒らせれるかとかな」

「なるほど。そして今もその駆け引き中ってか?」

「まぁな。弟子に手抜きなんかしないからな?」

「それはして欲しいなぁ……おらっ!!」

 

 先攻妹紅。

 右ストレート。左手で受け止めそのまま背負い投げ。

 と、思ったら背中を蹴られて抜けられた。

 背中をもろに見せたまんまというのは非常にまずいし、相手の姿を確認出来ないのも辛い。気配は分かるが。

 しゃがみつつの脚払い。前蹴りで背中を思い切り蹴ろうとしたのかね? 避けれて良かったよ。姿勢も崩せたし。

 それでも即座に受身をとって即座に敬遠のキックをしてくる所がスゲェよ。

 適度に距離をとって仕切り直し。互いにダメージも特になし。

 

「……お互い何度も戦ってるからなぁ」

「熟知に近いしね」

「まぁな。よっ!!」

 

 今度は俺の先攻。

 足で地面を叩き、衝撃により高速で妹紅に近付く。

 ブレーキは妹紅に打ち込む肘打ち。ずらされて鳩尾には入らなかった。が、ダメージは通っただろ。骨に当てた形になったからな。

 吹き飛ばされながら、それでも小刀で斬ってきた。いつの間に懐から出したし。

 二の腕バッサリ。浅いけど……まぁ、俺にダメージを与えるならば、こういう刃物しかないよな。

 

「……なかなか死合の覚悟も出来てたみたいで」

「師匠も鳩尾に入れようとしただろ……というか牽制のつもりの刀だったんだけど……」

「はっはっはっ! 良いぜぇ。殺しに来な!!」

「笑い事じゃ、ない!!」

 

 妹紅からの地面を蹴って石礫。もうちょい筋力とか身体が頑丈ならば地面を殴って『破岩弾』とか出来そうだ。

……まぁ、見掛けだけなら俺も『超破壊拳(ビックバンインパクト)』とかを撃てる気もするが。

 

 

 

 おっと、妄想に耽っている場合じゃないか。

 

 細かくステップしながら速度を落とさずに弾幕を避ける。近付いて掌で押す、むしろ突っ張り。

 外されて相手の左肩に命中。顎を狙ったんだけど、再度姿勢を崩せたし、いっか。

 右手の小刀から斬撃が飛んでくるのも予想の範囲。左足で蹴り飛ばすが、それも予想されていたのか今度は脚払いだよ。

 見事に引っ掛けられて倒された所で、再三距離を取られ小刀を拾われる。

 

「ふむ……なかなか決着が着かないねぇ」

「……なぁ」

「ん~?」

「もう嫌なんだけど、師匠を攻撃するのは……」

 

 ……。

 はぁ、なに? 運命だとか言うアレですか? チクショウ。

 

「……ん~。うまく行かないなぁ……」

「? 何がだ?」

「いんや。気にするな《ガルーラ》!!」

「竜巻!? ッッ!!」

「俺の能力を全てを見せてやろう」

 

 竜巻は妹紅と俺のちょうど中間に出来ている。

 持続力がないから一時的な目隠しにしか出来ないが、まぁ、幾らでも応用とかは出来る。

 

 竜巻に踏み込み上空に飛び上がる。高度20メートルって所か。まぁ、そりゃ見失うよな。

 大気を吸い込み、肺に大量の空気を溜め込む。

 

 目標妹紅。一気に吸い込んだ大気を吐き出す。大気圧縮砲を喰らいな!!

 

 ダンッ!!

 

「っぐうぁっ!? ッ上か!!」

 

 ありゃ弾き飛ばして気絶出来るかなと思ってたのに、ピンピンしてら。

 まずいな、落下してて身体の自由がきかない。

 まぁ、幸運なのは妹紅が遠距離攻撃を持たない事だっ……うん?

 

 

 

 うん??

 

「……おいおい」

「記憶が飛んでから、だ。この力が見えたり使えるようになったのは……あの日に何があったのか。父上や師匠は嘘を言うだけで何も教えてくれなかったけど、この感覚は……そうだな。『頭に妖力を縫い付けられた』感じなんだ」

 

 

 

 ……はあっ!?

 なんで、妹紅が、妖力で作られた、弾幕を、撃って来てるんだ!?

 

「グフッがっ!!」

 

 次々と弾幕が身体にめり込んでいく。

 衝撃は和らげれるが、直接触れたダメージは喰らってしまう。

 

 受身もままならず地面に直撃する。衝撃はないけどな。

 くそっ、弾の一発が鳩尾に食い込んだ……!!

 

「……師匠、この勝負。賭けないか?」

「げほっ……何をだ?」

「あの日、何があったかを喋る」

「……そんな事を言ってくる辺り、思い出しかけているんじゃないか?」

 

 そうなると、再度衝撃をぶつける事になるがな。

 

 ……あぁ、成る程。

 『頭に妖力を縫い付けられた感覚』ね。

 妹紅に妖力を操るとびきりの才能があって、そしてそれを発掘するきっかけが、俺の妖力を伴った衝撃による記憶破壊って訳か……。

 

「いや、全然思い出せてない……でも、何か大事な事を忘れたような気がするんだ……」

「へっ……大事な事ねぇ」

「……そう言うって事はやっぱり知ってるんだな。師匠は何があったか」

「そりゃ当事者だしな……分かった。その賭け、受けて立つ」

 

 全く、こんな才能ある奴を発掘するとは……。

 ……なんてこったい。

 

 

 

 妖力を扱い始めて日が浅いからか、それとも弾幕をどういう風に撃てば効果的か知らないからか。

 どちらにせよ妹紅の撃つ弾幕は穴ぼこだらけだし、威力も幽香や紫に比べりゃ弱すぎる。

 接近するのは簡単に行かなくなったが、それでも近付いて近接攻撃を叩き込むしか攻撃手段はない。

 俺が弾幕を撃ったとしても、妹紅とどっこいどっこいだし。大妖怪同士の弾幕合戦みたいに綺麗にはならないしな。

 

 それに俺も妖力を使うと妖怪だとバレちまうし。

 

「ほい、がら空き!!」

「ぐっ!? ッそらぁっ!!」

 

 殴り殴られ。結局ガキの喧嘩に。

 いや、でも両方とも正気だし搦め手フェイントとかも使うから、何かの試合には見えるかな?

 

 でも、まぁ。

 

「がは……ッ……!」

「……殴り合いが始まった時点で、勝負は決まったようなもんだろ」

 

 衝撃ならなんでも無効化してやるからな。

 弾幕は無理だけど。

 

 

 

「ホイ、決着ってか?」

「……ゲホ、まだ……終わってない……!」

「んじゃ気絶させるか」

 

 迂闊に近付くのは危ないが、確実に気絶させる為にも近付く。

 

「……喰らえッ!!」

「不意討ち抜き手も読んでるっての!」

 

 鍛えられない人体の急所を不意討ちで突くのは良いさ。

 けど、急所の中でも眼を突くのは悪手じゃないか? 眼って事は攻撃が相手にはよく見えるって事だぜ?

 

「それでも前に一度引っ掛かっただろ……」

「うるせぇやい」

 

 とにかく! とにかくだ!!

 

「俺の勝ちだ」

 

 顎をデコピンで撃ち抜く。反動で脳ミソがぐらんぐらんに揺れるように、衝撃を追加して。

 勝負は終わり、妹紅が崩れてきたのでそのまま受け止める。

 うむ、気絶してる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

「お、ようやく起きたか?」

 

 妹紅よ、ぐっともーにんぐ。

 夜だがな。

 約半日気絶していたがな。

 内心すげぇ焦っていたがな!

 どうしようかとオロオロしてたけどな!!

 

 

 

 しかし……よくもまぁ、簡単に娘を師匠の家に泊める事を了承したな……藤原氏よ……。

 

「……えーっと、ここは何処だ?」

「俺の家。具体的にはボロイ納屋の中」

「……師匠の家? ……って布団!?」

「ん、臭かったか? ついさっき洗って乾かしたんだがな……まぁ、すまん」

 

 ま、オッサン臭はしないだろ?

 体格的には志鳴徒は青年・少年と呼べるが、年齢的になると……加齢臭どころか腐敗臭が……。

 

 ……い、いや。この考えは止めよう。ドツボにはまる気がする。

 

 

 

「あ、あわわわ……」

「……ん? おい、顔が真っ赤だが大丈夫か?」

「いぇ!? だ、大丈夫れす!!」

「大丈夫じゃなさそうだが……」

 

 ……キャラちがくね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、落ち着いたかね?」

「……あ、ああ」

 

 縁側の障子を開いて月見酒。

 

 呑んでるのは人間が造る庶民の酒。妖怪の酒は強すぎなんだよ。天狗とか鬼の酒なんてもっての他だ。

 ん~、美味い。

 

「……あれ?」

「どうしたー?」

「……師匠の家に来たのって初めてだよな?」

 

 ……デジャブか。

 

「まぁ、そうだな。それが師弟の契約の最終日ってのは笑えるが」

「……笑えるか?」

「気にしない気にしない」

 

 妹紅も隣に座り、並んで月見酒。なんか良い雰囲気になるのは嫌な予感しかしない。

 

 

 

「……しっかし、酒強いな妹紅」

「そうか?」

「……初めて呑むんだよな?」

「父上が呑ますと思うか?」

「まぁ、確かにそうだが………あ、反抗期か?」

「いやいや、ちょっとした挑戦だって」

 

 ふーん?

 

「ま、のんびり呑むとしましょうか」

「……師匠」

「んー?」

「話がある」

「内容によるな」

「……あの日、何が私に起きた?」

「賭けに勝ったのは俺だから答える義務はない」

「次、私は前にこの家に来た事があるのか?」

「あるぞ」

「……え? さっきは無いって……」

「ありゃ嘘だ」

「嘘ついてたのかよ……あの日にか?」

「妖怪退治に行く前に、な」

「……ふぅん」

「というか、賭けに勝ったのに答えちゃってるよ、俺」

 

 ま、記憶関係には触れないような話に持っていくがな。

 ……ん? 普通に触れてないか?

 

 あれ?

 ……まぁ……良くは無いけど……いや、どうでもいい。うん、そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……師匠」

「ん~?」

「……いや、その……だな」

 

 ……ん~……?

 

「……もう弟子じゃないなら……その、名前で呼んでも……いいか?」

 

 ……あ~……。

 

「まぁ、気にしないが? そもそも敬語を気にしないって言っただろ」

「あ、まぁ、その時点では、その……な?」

 

 ……どうしたもんかなぁ……。

 フラグたっちまったよ。

 

「……妹紅やい」

「な、なんだ?……し、志鳴徒……?」

 

 

 

 だからさぁ……こういう事柄は苦手なんだって……。

 

「俺はとりあえず、とある仕事が終わったらこの平安京から出ていく」

「えっ……」

「まぁ、後は全国でも旅するかな? 暇だし。つー事で」

 

 

 

「俺はお前を受け止めれない」

 

「……」

「でぇーい!! だからこういうのは嫌なんだよ……イヤな雰囲気になるからさぁ……」

「……つまり」

「お前が失った記憶は、お前が俺に告白してなおかつ俺について知りすぎたから」

「……記憶を吹っ飛ばしたのは……志鳴徒だったのか!?」

 

 ところどころぼかしたが、まぁ、概ね正解である。

 

 はぁ……可愛い子を騙すのは忍びないったらありゃしない……。

 ため息が止まらねぇぜ。

 

「それは俺じゃないがな。ま、そういう事だ……はぁ。二回もふるとか、ないわぁ……」

「……あ~あ、ふられた……」

「その台詞も二回目だな」

「なんなら全部思い出させてくれ」

「無理。そんな能力を応用出来ないからな?」

 

 多分だけどな。

 まぁ、前回よりは良い雰囲気か?

 

「……じ、じゃあ誰が私の記憶を飛ばしたんだ?」

 

 ……ん~? ああ、妖力か。

 俺『志鳴徒』は人間側。私『詩菜』は妖怪側。

 

「いや、妖怪に頼んだ」

「よっ、妖怪!?」

「妖怪退治に出掛けたって言っただろ? その時に頼んだんだ」

 

 我ながら矛盾した理論だ。

 だが押し通る!!

 

「……妖怪に知り合いがいるのか?」

「いるぞ? ていうか、人も妖怪も神様も変わらないっての」

「……」

 

 暫しの無言。

 もうそろそろ、体内時計では真夜中になる。

 

「……私が志鳴徒についていっちゃ、ダメか?」

「駄目だ。これ以上『非凡』な奴等に関わるな。『普通』は普通に生きて死ぬ。それが定めだ」

「ッ……じゃ、じゃあ非凡になれば良いのか!?」

「そんな事をしたらさっきの戦闘なんて目じゃない程の力でブッ殺す。というか殺す」

「ッッ!?」

 

 ……常々、ヒトがどういった道を選ぶかはその本人に任せとけ。って考えていたが。

 どうも責任が絡みそうになると、俺は逃げちまうようだ。

 

 

 

「……はぁ」

「まぁ、その……なんだ? 俺みたいな浮浪者よりも、良い奴見付けて幸せになるこった」

「……卑怯者。惚れさせといて自分からふるなんて」

「いやいやいや、それはそっちが勝手に……」

 

 

 

 ……寄り掛かられても、困るんですけど……。

 泣かれても、困るんですけど……。

 膝枕とかもう、困っちゃうんですけど!?

 

「……最後なんだし、別に良いだろ……」

「……」

 

 やれやれ、だから俺は大甘なんだっての……。

 ……なんでこんな気狂いに惚れるかねぇ……。

 

 


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