風雲の如く   作:楠乃

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 交差────2つ以上の物が、とある一点で交わる事。また、それらが互い違いになる事。


交差する母娘

 

 

 

 私にとって、詩菜とは憎むべき相手であった者であり、そして今は家族である。

 それ以前にあった友人家族知り合い等の関係は、全て詩菜の手によって破壊された。妖怪化とは、以前の自分をまっさらにする事なのだとその時思い知った。

 

 そして今、私の隣には隠すべき事がない程の友人がいる。

 妖怪になった事で出来た、掛け替えの無い友人だ。

 

 

 

「……なんて、言えないけどな」

「? 何か言ったか?」

「いや。それよりも仕事だ」

「……ああ、気は進まないが……仕方ない」

 

 今は旅の金の為に、仕事をしなければならない。

 妖力を隠す事に一度は生涯を賭けた私と、能力でその歴史を隠した慧音なら人里に近付く事は容易い。

 

 そして今回、村長に頼まれた仕事が『妖怪退治』であった。

 私はもともと陰陽師だったし、慧音も人を守ろうと努力をしている。

 旅をしている最中に寄ったこの村は、旅をしている退治屋を雇い、それで山から攻めてくる妖怪を向かい撃つという、随分と珍しい構図の村だった。

 

 それなら退治屋に此処に住んではくれないかと誘えば良いのだろうが……そうは問屋が卸さないのか?

 

 まぁ、何にせよ頼まれた依頼は成し遂げねばならない。

 ……まぁ、勝てる妖怪かどうかは分からないが。

 

「『最近現れた新手の妖怪。かなりの早さで襲う』……か」

「……どうなんだ? 私たちで倒せるのか?」

「実力を見てから、だな……」

 

 山の奥地にズンズン入っていく。途中に何度も猿のような妖怪が襲ってきたが、目当ての妖怪は子供の姿だとの話なので、違うような妖怪は一刀両断しながら進む。

 というかこんなに弱いならば依頼にならないだろう。それぐらいの弱さ。

 長年向かい撃っていると聞いたが……これなら村人でも倒せないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の中を進んでいき、中腹ぐらいまで辿り着く。

 山自体はそれなりに大きいため全てを一日で捜索する事は出来ないが、今日だけでもかなりの妖怪を斬ってきた。もうそろそろ山全体に退治屋が来たという知らせが周っていてもおかしくない。

 というか、周っていなければこの山の妖怪達はとっくの昔に全滅している筈だ。

 

「……居ないな」

「そうだな……気配を察知して逃げたか?」

 

 それでも、その妖怪の大将は姿を表さない。私達の実力を見て逃げたか?

 しかし……もうそろそろ暗くなってくる……これ以上、山にいるのは危険だ。

 

「仕方ない……か。村長に話して明日まで待って貰おう」

「あの村長、変に妖怪に怯える癖に人間に対しては強いからな……」

「彩目、それは思っていても口にするんじゃない」

「高圧的な所が腹立つんだ」

「ははは……まぁ、仕方ないんじゃないか?」

「そう言うって事は、少なからず多少は慧音も思っているのか?」

「と、とにかく戻ろう! な!?」

 

 そんな風に慧音をからかいつつ、下山する。

 山に入ってきた時とは比べ物にならない程、今度は襲われなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 朝から山登りというのは流石にキツイ。

 キリキリ出発せんか!! とか言ってくるあのクソ爺を何度斬ろうと思ったか……。

 

「いや、駄目だからな?」

「……ハァ」

「それより……昨日と比べてやけに妖怪が少なくないか?」

 

 確かに少ない。昨日ならば既に十体以上は戦っている筈だ。

 なのに出てくるのはかなり小さい奴等。それも遭った瞬間に逃げ出す腑抜けばかりだ。

 これならば昨日の下山の時に出た妖怪どもの方がまだ逞しい。

 

「何かおかしい……」

「何かの罠か?」

「それもありえるな。警戒をしながら進むぞ」

「ああ……ッと!?」

「ッッ!! 決めた瞬間に一斉に襲い掛かるか普通!?」

 

 そう決めて一歩山の方へと踏み出した瞬間に、頭上の樹から一斉に降りてくる妖怪ども。

 罠だ何とか勘繰っている間に、包囲されていたって訳か!?

 

 一気に乱戦状態になりつつも、妖怪を斬っていく。

 私は刃物を創り出して敵を斬り裂いていき、慧音は弾幕を使って離れた敵や私が対応出来ない敵を撃ち抜いていく。

 

 それでも脅威になりえる程の妖怪は出てこない。討伐目標の妖怪は一向に姿を見せない。

 

 

 

「……何か、統率されていないか?」

 

 猿のような妖怪を斬り裂き、その妖怪を超えて飛んできた妖怪の攻撃を後ろに飛ぶ事で避ける。後ろへと飛んだ事で慧音と背中がぶつかり背中合わせになる。

 その背中から聞こえてきた言葉は、私も先程からずっと思っていた事であった。

 

「ああ……恐らく頭が居るんだな」

「……もしかして、それが依頼の?」

「恐らくそうだろうな。それなら出てこないのも頷ける」

 

 まぁ、いくら統率されていたとしても私達の敵ではない。

 そもそも一体一体の実力が足らないのである。こいつらは戦法として質より数だ。しかしその数も量が足りてないし、まず各々の力量が足りていない。

 

 

 

 結果、逃げていった妖怪もいるが殆どが斬られて撃ち抜かれていった。

 

「コイツが最後だ」

「ひ、ひぃぃ!?」

「待て、彼に頭まで案内して貰おう」

「……まぁ、そういう事だ。死にたくなければ案内しろ」

「わ……わかりゃした……ここ、こっちです……」

 

 特に傷も疲労もなく、あっさり壊滅したな。

 ……この調子で頭を倒して、それで討伐目標も倒せれば良いんだがな……。

 どうも、嫌な予感がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案内されて着いた場所は、此処等で一番でかい大木だった。

 百メートルはありそうな大木だ。中に誰か住んでるんじゃないか? 詩菜の家みたいに。

 

 そんな事を考えて大樹を見上げていると、案内をさせた妖怪が逃げ出してその樹へと走りだした。

 瞬時に反応して私と慧音が刀と弾幕を撃ちだすも、奴はそれを避けて大樹を登っていく。

 

「あっ姉御ぉー!! コイツらとっちめてやってくだせぇー!!」

「テメッこのやろ」

「まぁ、落ち着け」

 

 一番下にあった枝へと飛び移り、そこから更に上へ向けて大声をあげる。

 ……大将を呼んでいるのか。

 

 その割にはこの妖力の少なさ……それにこの妖力……何処かで感じた事のあるような?

 ……もしかして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~、姉御って呼ばれるような事してないでしょ……」

「でっでも、前に俺ら助けてくれたじゃねぇかぁ!?」

「そりゃ依頼だったしねぇ……で、今度も依頼? 依頼なら受けるよ?」

 

 呼び掛けに答え、大木の更に上から小さな影が降りてくる。

 それはそのまま枝に乗っていた妖怪を無視し、地上へと降り立った。

 あれだけの高さから降りたにも関わらず、着地の音が全く鳴り響かず、その影も何かの傷を負ったようにも見えない……。

 

 ……ハハハ、ハハ……なるほど。

 地上へと降り立った彼女は、自分がどうやら頼んできた妖怪を追い越して地面に降り立った事に、降りてから気付いたらしく顔を上げて上へと声を掛ける。

 私達など見向きもしないで。それだけの実力差という事だな。

 

「アイツらを倒してくだせぇよ!!」

「あ~? ……あ~、どういう事なの?」

「……さぁな」

「彩目……?」

 

 ……なるほどな。『早い』『子供』『新参者』

 全国を回って旅をしているのなら、何処に行っても新参者には違いない。

 それに京以外なら、奴はそれほど有名という訳でもないしな。

 

 

 

 討伐対象が『詩菜』とは!!

 ……全くもって、討伐出来る気がしない。

 

「……まぁ、依頼なら仕方ないか。料金先払いね」

「ええぇ!? 聞いてないッスよ!?」

「趣旨をちょいと変えた。依頼は『アイツらをどうにかしろ』でしょ? ちゃんと請け負うから」

 

 その頃になり、漸く声を掛けた妖怪も降りてきて詩菜の横に降り立った。

 隣の慧音は臨戦態勢だが……私は気が抜けて刀を降ろしかけていた。あの逃げ出した妖怪と慧音が居なければ刀すらも消していただろう。

 

 チラッとこちらを見た詩菜。その直後に私と彼女だけの念話が繋がる。

 

『彩目、久し振りでアレだけど移動するよ。出来れば天狗の家に』

『……拠点作成の途中だったんだが?』

『あ、その依頼で私を討伐か。ごめんね?』

『大丈夫だ……依頼を完遂出来る気がしないしな』

『今度また殺り合おうか。さて……友達……だよね?』

『ああ……まぁ、説明は後だ』

『ん。友達とは良い事だ』

『……?』

 

 詩菜からそんな言葉が聴こえ、疑問に思い質問しようとしたが、既に念話は切られて彼女は妖怪と話していた。

 ……相変わらず、何かを同時進行でやる奴だ。

 

「くぅ! これでなんとかしてくれぇ!!」

「安い」

「ふへぇ!?」

「けどそれでいーや」

「へ、へぇ……」

 

 ハッハッハ……見事な茶番だな。オイ。

 

 妖怪から金銭になるような物を受け取り、それを袖に仕舞って私達へと振り向く。

 ……声の感じからして、あまり元気では無さそうだったが、私達へと向けるその視線は好戦的な眼だった。

 

 ……戦わないんだよな?

 

「さて、お二人とも準備はよろしいかしら?」

「くっ!!」

 

 口を出来るだけ動かさず、それで慧音だけ聴こえる声量で隣に話し掛ける。

 とは言え、詩菜にはどう足掻いても聴こえるだろうがな。声に出している時点で聴こえてしまっている。

 

「……慧音、落ち着け。アイツは敵じゃない」

「……どういう事だ? 知り合いなのか?」

「その話は後だ。アイツに私達を攻撃する気はない。まずここから移動する」

「……本当だな? 信じるぞ?」

 

 まぁ、今のアイツの眼はどう見ても今から殺し合いましょう? みたいな視線だしな……。

 

「かかってきな。姉御やら何やら言われてるみたいだが、それも今日でお仕舞いだ」

「へぇ? ……面白い事を言ってくれるね? その戯言、地に伏してから撤回しても遅いよ?」

「お前こそ、姉御が倒れる姿をこの山の妖怪どもに魅せつけてやる」

 

「……本当だよな?」

 

 ニヤリと笑い合う私達。

 ……まぁ、慧音はおたおたしていたが。

 

「そこのお前は下がりな。巻き込まれて死ぬんじゃないよ」

「……姉御!! 頼んますぜ!!」

「…………………よし、うざい奴は居なくなった」

「……はい?」

 

 慧音がポカーンとしているが以下略。

 

「とりあえず移動だね。方角わかる?」

「東の方だ。近くまで来たら分かるだろ」

「大雑把な……まぁ、いっか。そこのお嬢さん、逃げる準備は整っている?」

「……え!?」

 

 慧音が狼狽えて以下略。

 

「二人も担げるのか?」

「……彩目とそのヒトって、飛べる?」

「まぁ……一応は」

「……おお、子は親を超えてしまった」

「……飛べなかったのか」

「飛べた姿、見せた事あった?」

 

 いや、確かに見た事なかったが……浮くだけならそれほど難しくない筈なんだが。

 

「才能ないんだよぅ……」

「あぁ、わかったわかった!! で、どうするんだ!?」

「……あ~……あ?」

 

 慧音が以下略

 

「とりあえず二人で上空に飛んでくれる? 山よりも雲よりも高く」

「わかった。出来るよな慧音?」

「へ? いやまぁ、当然だが……」

「……くそぅ」

「まぁ、急ごう。お前は鎌鼬で来るのか?」

「そうでもしないと飛べないからね」

 

 そう詩菜が答えた瞬間に、彼女の身体が霞んで空に溶けていく。

 未だに戸惑っている慧音の手を引っ張り、空へと浮く。

 

「慧音、行くぞ」

「な、なぁ、どういう事なんだ?」

「それよりもまずはここから離れる、だ」

 

 そう言って真上へと飛翔する。慧音も遅れて飛び始めて私へと追い付く。

 

「いやぁ、羨ましいねぇ」

「うわっ!? ど、何処からだ!?」

「あ、攻撃しないで。死んじゃうから」

「……も、もう、訳が分からん……」

 

 頑張れ、慧音。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処らでいいでしょ」

「……空気が薄い」

「あら、半人半妖にはキツイか」

「お前は風の妖怪だからじゃないか? 平気なのは」

「それを言うなら彩目だってその妖怪の半分を受け継いでいる筈なんだけどなぁ……」

 

 とかまぁ、そんな話を詩菜と交わす。当然慧音は置いてけぼりだが……。

 

 雲の上まで飛び上がり、そのまま東へと向かう。

 傍から見れば私と慧音しか飛んでいないのだが、声は三人分。

 何故なら鎌鼬状態となって不可視の詩菜が居るからだ。まぁ、今の奴は詩菜か志鳴徒か分からないがな。口調で判断するしか無い。

 

 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 双方、改めて自己紹介だ。

 

「……で、彩目、この妖怪は?」

「何やら彩目が御世話になっているようで、一応母親の『詩菜』で御座います。娘共々よろしく御願い致します」

「はっ母親!? あっいや! ごほん! 失礼な言葉遣い、申し訳ない……とても若く見えたので……」

「いえいえ、姿など単なる視覚情報でしかありませんから」

 

 ……コイツが言うと説得力がやけにあるような気がするのは、姿形どころか性別も変わるからか……いや、それしかないな。

 

「は、はぁ……」

「まだまだ弱い妖怪ですよ。さて貴女は?」

「あ、私は『上白沢 慧音』と申します。そちらの娘さんとは……まぁ、もともと退治する方とされる側でして……」

「……それはそれは。ほぉ……とすると……」

 

 絡みつくような気配、それと同時に具現化した詩菜が私へとおんぶをするようにのしかかる。

 ……思わずビクッとなってしまった。

 

「彩目~? 私にはさんざん甘いとか言っておきながらさぁ~? 退治するべき相手を助けるってのは、どういう事かなぁ~?」

「いきなり変化するな!? 落ちたらどうするんだ!?」

「ふぅん? 逃げるのかな……?」

「逃げるってなんだ!! 落ちるのはお前だろうが!?」

「それはどうでもいい」

「良くないだろ!?」

「むぅ……私としての予想としては……『半人半妖に親近感が湧いた』『礼儀正しく親切な所に惹かれた』って所かな?」

「……ハハハ」

 

 あ、当たっているだと……!?

 慧音の苦笑するの声に反応して振り向こうとする。

 が、それを封じるかのように後ろから頭をガッチリと掴まれる。

 って、痛い!? 鎌鼬の爪が肌に刺さっている!!

 

「駄目だよー? 彩目ちゃんは私の物ー♪」

「ギャーッ!! 痛い痛い食い込んでいるぞオイ!! ッ、ってだからって何処に手を突っ込んでる!? 助けてくれ!? おい慧音!? なんでそんな顔を真っ赤にして目を逸らすんだ!?」

「いやー慧音さんとやらは話が分かるようで♪」

「止めろオッサン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少々、お待ちください……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな状態で何とか自宅に到着し、地面についた瞬間に詩菜へと斬り掛かる。

 が、それも全て避けられる。鎌鼬状態でもなく完全に姿を表し、それでいて決してこちらの視界から逃げたりせず、おちょくるような動きで。

 奴め完全に馬鹿にしてやがる!!

 

「さて! 仕切り直しをして」

「はぁ、はぁ、クソッ! なんで息が一つもきれてないんだ……」

 

 なんで回避に徹されただけで、弾幕や刃物が一つもかすらないんだ……。

 おかしいだろその回避!? いつの間にそんな速くなってたんだ!?

 

 そんな私の心の叫びを無視するかのように、詩菜は傍観していた慧音へと話し掛けている。

 

「はてさて、慧音さんとやら」

「は、はいっ!」

「……いや、敬語とかいいからね? そこまで緊張する必要もないし? そんな人物でもないし」

「わ、分かった……」

「……何だろう、最近の女の子の口調は統一されているのかな……?」

「口調?」

 

 ……まぁ、確かに私と慧音は喋り方が似ているような気がするが……。

 私達以外にも似たような喋り方の奴がいるのか?

 

「まぁ、いいか。彩目? 何か食べ物ある? お腹すいてない」

「多少は空いているが……」

 

 そう言って、慧音へと目を向ける。多少詩菜に驚いていた彼女も、私の視線に気付き反応を返す。

 彼女もお腹を擦って空腹を示すが、首は横方向に降っている。

 

「食料品がない。荷物はほとんど拠点に置いてきたからな」

 

 まさかいきなり我が家に戻ってくるとは思わなかったし、妖怪退治に必要な物しか手元にない。

 

「あ~……取りに行きますか」

「お前が取りに行くのか? それはまずくないか?」

「いいよ。どうせ私もこっちに移動するし、姿は誰にも見られないようにするから大丈夫」

「……本当に大丈夫か?」

「ちょっとは信用してよ……行ってくる」

「ああ、行ってらっしゃい」

「……い、行ってらっしゃい」

 

 そう言って、詩菜がいきなり姿を消し、遠くの方でガサリという音が聴こえた。恐らくは詩菜が若葉の隙間を通り過ぎた音だな。

 

 ……さて、こうして自宅の外にいつまでも居る訳にもいかない。自宅に入ろう。

 久し振りの我が家だ。多少は汚れたりしているだろうが、外で待つよりかはマシだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予想通りにホコリまみれの我が家を掃除している途中、慧音が恐る恐ると言った感じで私に質問を投げ掛ける。

 

「彩目? ほんっとうに彼女は母親なのか?」

 

 ……一番の疑問がそこか。

 まぁ、分からないでもないが……。

 

「正確には、人間だった私を妖怪に、『半妖』にした母親だ」

「……半妖に? ちょっと待て! それは……」

「アイツがいきなり私を襲って血を飲ませた。強制的に半妖にされたんだ、私はな」

「……」

「まぁ、何を思っているか予想は着いているが……既にこの問題は解決した話だ」

「解決?」

「ああ、和解したとも言う」

 

 ちゃんとした契約をして半妖になった慧音と、私は違うのだ。

 当時は詩菜を憎み恨み呪った。だが今は違う。

 もうあの問題は水に流されている。私達は家族だ。

 

「まぁ、私が言うべき事ではないが、アイツがやった事は外道だ」

 

 大体掃除の終わった我が家を見ながら、そう言う。

 その声に応じるかのように、後ろから声が掛かる。まぁ、声の主は当然アイツである。

 

「外道で畜生道で、人道上から見れば死罪か流罪か。まぁ、真っ当に生きれなくなるよね。そもそも妖怪だし」

 

 恥ずかしいのを、聞かれたか?

 

 ……それにしても、詩菜の様子が何処かおかしい。

 いつもの自嘲だが……それにしてもやけに酷い。

 結局それを指摘せずに私は話し掛ける。

 

「……帰ったのか」

「ん、途中で適当な妖怪に無理やり手伝わせたけど、大丈夫」

「大丈夫なのか? それは……そいつは?」

「今頃天狗たちにボコボコにされてるんじゃない?」

「酷いなお前……」

「まぁね。食料は手にいれた……まぁ、彩目の件に関しては後悔してるよ」

「……だそうだ」

 

 ……やはり、なにか詩菜の態度はおかしい。

 今度はそれを指摘しようとして、慧音が話しだしたので止めた。

 

「……私はどうやら詩菜殿を勘違いしていたようだ」

「いや、勘違いしてないかもよ?」

「……」

「そ、そうなのか?」

「まっ、食べよ? 鍋だ今日は!!」

 

 ……鍋か、それは良い。

 

 

 

 ……ん? 私達の、食料……?

 

「おい!? 食材を全て無くす気か!?」

「私また全国を回ってるからさ? また逢ったら声をかけてね?」

「無視か!?」

「えっ? あっ!?」

「ほいドボーン!!」

「「ああああああ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、その日は詩菜のおかしな言動を指摘する事が出来ずに、そのまま眠ってしまった。

 宴会のような騒ぎに、私も指摘する余裕がなくなったという事もあるだろうが、それにしても酒を呑んでいてもやはりアイツは何処かおかしいような気がする……。

 

 翌日。見事にアイツは書き置きを残して逃げてしまった。

 能力使って足音から物音を全て消して行動をするとは……どれだけ悲しい能力の使い方だよ…。

 

 

 

「……なんて奴」

「ふふ、彩目。にやけながら言っても逆効果だぞ?」

「うるさいな」

 

 とは言え、久々に逢う事が出来た。

 何処か不安定さを感じさせる言動だったが、逢えた事自体は嬉しい。

 

 

 


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