家族に式神になる、という事を説明中。
「はぁ……別に私は構わないが……」
「そりゃ良かった……そういえば、慧音さんは?」
「辺りの警戒中……まぁ、お前が決めた事だし、私は何も言わないさ」
「ん……ありがと」
……もしかしたら反対されるかな、とも思ってたけど。
案外そういう事はなさそうだ。良かった。
「なんだ、随分と私への信頼度が低いんだな?」
「……いやぁ、自分の母親が誰かに従っているのって、何か嫌じゃない?」
「そうか?」
……生前の私は両親の職場を密かに訪れて、軒並みならない程のショックを受けた物なんだけどなぁ。
現代の人間とは違う部分って奴かしらね? まぁ、彩目は半人半妖なんだけど。
「まぁ、良かったよ」
「……大変なら手伝おうか?」
「いやいや、彩目が巻き込まれない様に条件を付けたんだから」
「いや、仮にも私は娘だぞ? 親の手伝いをしなければいけないだろう?」
「自信満々に『自分は娘である』って言って来るヒトを始めて見たよ……」
親孝行をそんなにしたい?
……う~ん、私は今となっちゃあ逢えないし、逢いたいとも思わないし。
正直、記憶も薄れ掛けてるし? 覚えてるのは一部のネタとかだし。
……まぁ、私の事だし。彩目には関係ないだろう。転生なんて信じてすら貰えないだろうし。
………………言い訳ばっかだな。私。
我ながらうんざりしたよ。自分に。
「……ま、本当にその時になったら真摯に頼み込むよ」
「是非そうしてくれ!!」
なんで、そんなに必死なの……?
「……おや、詩菜殿ではないか。鬼の件は大丈夫だったのか?」
そんな時に慧音さん、帰宅。家じゃないけど。
彼女達は野宿をしていて、そこに私が飛び込んだ形なんだけれども。
「ん、おかえり~。大丈夫だったよ~? いろいろ遭ったけど」
「? そうか、遭ったのか……」
「ていうか、さ? 別に全国回らなくても、私の家を別に使っていいよ? これから私は忙しくなるしさ?」
「あ~……まぁ、今度寄った時にな」
忙しくなるかどうかは、紫の采配によるけど。
しかし……ふむ、何か寄りたくない理由でもあるのかな?
まぁ、そこら辺の追求は止しておこう。めんどくさいし。
「ま、そういう事だから。良いね?」
「ああ、何がどうなのかさっぱり解らないが、解った」
「……君等親子について、私は何も言うまい……好きにしてくれ……」
どうしてそんなに溜息を吐かれるのですか慧音殿。
天魔に説明。
やっぱりこの仕事は私がやる事になってました。まぁ、いいけどさ。
「──────という訳で、もしかしたら鬼がここに移住するかも」
「お主等はいつも厄介事を持ち来むのぅ……」
う……。
今回は、その……仕方ないんですぅ!!
そもそも紫の提案を聞いた時には既に実行し掛けてるんだよ!?
「いや、ワシに怒りを向けられても……」
「……そうだね。まぁ、鬼と何かいざこざとかが在ったら、私は天魔に協力するから」
「む? ……普通は鬼に肩入れするのではないのか? お主の立場からすると」
……そうだよね。普通はそうすべきなんだよね。
鬼を無理矢理移住させるのが紫と私で、何かそれでいざこざがあれば抑えるのはそれは勿論私達……あれ?
うぅん? 紫が甘すぎるのか、それとも私がおかしいのか……。
「まぁ、何があろうと私はこちらに着くよ。よっぽどの事が無い限りね」
「……矛盾しておらんか?」
「気にしない気にしない」
要は、私は天魔達の味方でいるつもりなんだから。
さぁてっと、後伝えるべき人物は……。
『太陽の畑』にて、
「……何故、貴女が紫のスキマを使えるのかしら?」
「かくかくしかじかで」
「分かる訳ないでしょう?」
「紫と式神の契約を結んだから」
「理解する訳ないでしょう?」
「うえぃっ!? いきなり攻撃!? ちょ、落ち着け幽香!! 理解しろ!!」
少々お待ち下さい。
「『マスタースパーク』!!」
「ヒトのはなぎゃあああああっ!?」
もう少々お待ち下さい。
「ちょ、お願い!! もう止めて!? 死んじゃうから!?」
「問答無用!!」
「何で!? 何でそんなに怒ってるにゃぁああああぁ!?」
……。
「はぁ、はぁ……満足、し……しましたか?」
「ええ。納得はしてないけど」
「……はぁ……」
来なけりゃ良かった。うん。
来るとしても、迂闊に便利だからってスキマで来なけりゃ良かったよ……。
しっかし、いつもなら能力を使っても一時間はかかるのになぁ……。
あっさり来れた私も、遂にチートになったのかしらん。
「そう。貴女が紫の式に……」
「契約内容は式神に程遠いような内容なんだけどねぇ」
「ふぅん?」
友人関係に乗っ取った契約、っていうのかね?
まぁ、陰陽師やらから見れば、自分の命を完全に自律した自分勝手な式神に魂ごと預けてるようなものじゃない?
いや……まぁ、私は自分がそんな大層な存在でもないと思うけど……。
「……で、他に用は?」
「特にないけど?」
「……」
それについて方向する為に来たし、それも伝えなくても良かったんじゃないかって思う。どうせ紫がここに来るだろうしね。
伝えるべき彩目や天魔にはもう伝え終わったもの。
「まぁ、お茶でも飲もうよ」
「……ここは私の家なのだけれど?」
「気にしない気にしない♪ ゆったりしよう。ね?」
「……はぁ……」
……うん、紅茶が美味い。
やっぱ幽香の淹れる紅茶は美味いね。
妖力回復ハーブティー。凄いよ、ホント。
……と、絶賛する事によってまたバトルが起こらないようにするという私なりの策である。
結局意味なかったがな!! 本日二回目のバトルでマスタースパークが命中して吹っ飛んだからな!! チクショウ!!
とかまぁ、私がそんなボロボロになったとかは置いといて。
幽香も手加減してくれたから、こんな一日で回復出来るんだしね。双方ともに冗談って事である。
さて、これで大方伝え終わった。
他に私の友人で話してないのはチルノ達と輝夜ぐらいかな?
妖精は兎も角として、月から逃げ隠れてる輝夜達を、私が見付けれるとは到底思わないけどね。
「ご苦労様」
「……うぅん、スキマを繋げると紫の方のスキマになるのか」
繋がる感覚と共に、空中に目が現れるから物凄く怖い。
眼とか手とか、なにかもう、うにょんうにょんと出てくる。
……オイ、なんでお前ら私を睨む?
「……まぁ、いいや。それで、他には?」
「そうねぇ……貴女は旅を続けたいかしら?」
……?
それは私は自由に旅しても良い、って事?
「……いや、式なら紫の世話とかしないといけないんじゃない?」
かの安倍晴明はご飯をつくらせるとか、扉を開ける事すら式神にやらせたとかいう話を聞いた事があるから、てっきり紫の家にでも住んでお世話するのかと思っていたんだけど?
……ああ、無論前世で聞いた話だけどね?
「……そうね。なら料理を教えて欲しいわ」
「それは断る!!」
「なんでよ!?」
そいつは断じて駄目だ。断るね。
私は立ち上がり、向こうの席から乗り出して卓袱台をミシミシと言わせている紫の両肩に、そっと手を置く。
「紫……その大切なステータスは、失っちゃ……ダメだよ……」
「ス、ステータス!?」
「まっ、私が作って盛って来るまで、紫は子供のように両手に持った片方だけのお箸で茶碗を叩いてはしゃぎながら待っててください♪」
「わわっ、私はそんな下品な真似はしないわよッ!?」
「……ふぅ~ん?」
そうかそうか……。
でも、どもってる辺りが怪しいなぁ……?
「とっ! 兎に角!!」
赤い顔でそんなに必死に話題を変えようとしても……。
そんなの、私が許さねぇぜ!!
「でも……」
「ッ!?」
いやねぇ? そんなビクッってされたら……。
……どんどん弄りたくなるじゃない?
「……前に幽香から聞いた」
「ッ……そ、それは……」
お?
適当に言ったんだけど……もしかして、ビンゴ?
これは畳み掛けるべきチャンス!!
「……美味しい料理、それも幽香が作った御馳走を目の前に……紫が」
「たっ、楽しみにしてたのよ!? 悪い!?」
あ~あ、案外早く認めちゃったなぁ……つまんないの。
でも……。
「いやいや、可愛いなぁって」
「ッッ!?」
その真っ赤になった顔もね? Good!!
「ふぅ……紫を満喫したし、本題に入ろっか」
「……満喫しないでよ……」
いやいや、可愛子ちゃんを弄らないでどうするのよさ?
「知らないわよ……んっ、ゴホン。本題に入りましょうか」
という事で、閑話休題。
天丼とかの振りではない。惜しいけど。
「約束を交わしたじゃない? 強制権はないって」
「……まぁ、そうだけど」
「だから私が貴女にする言葉は、全てお願いよ」
「……」
……この御人好し。
身内に甘く、外様に冷たいとはこの事を言うのかねぇ?
「で、私が貴女にするお願いは『強い者を探して、関係をつくって欲しい』のよ」
「……協力を募る。って訳?」
「ええ。別に『幻想郷』の基となる考えは話さなくても良いわ。断られる可能性が高くなるだけよ」
……まぁ、人と妖怪が共に過ごす考えは、殆んどが反対だろうね。
人から妖怪が生まれ、妖怪から人への一方的な攻撃。それに対しての人からの報復。それをあしらう強大な妖怪。味方を集め数で上回る人。それの繰り返し。
その繰り返しにより、怨み辛みが重なっているこの世の中。
二十一世紀みたいな現代ならいざ知らず、退治屋とか退魔師がいるこの時代では無理でしょうに。
「ていう事は、何? 完全なる自由行動で良いの?」
「ええ。何かあったらすぐに連絡を取って欲しいけれど」
「へー、ほー」
……何か、物凄い意外だ。
てっきりこきつかわれたりするのかと思ってたよ。
そういう思いが声として出ていたのだろう。紫が唇を尖らせ拗ねたような顔になる。
まぁ、声として出したし?
「失礼ね。私は友人には寛容なのよ」
つまり、出逢った当初に式神になってたりしたらこきつかわれていたと。
ふむ……逃げて本当に良かったかもね。
こういう時はやけに勘が働くなぁ。
「オッケー、なら私は全国で力がある奴とか考えが似ている奴とかちょいとイッチャッテる奴とか奇人変人変態を紫に誘えば良いのね?」
「そうした瞬間に貴女を殺すわ」
「嘘だって」
そんな妖力を充満した傘を喉元に突き付けられて睨まれましても。
ジョークですよ、ジョーク。単なる冗談ですよ。
「……はぁ、貴女と居ると疲れるわ……」
「大賢者ともあろう方が、情けない」
「式にこれだけ振り回される術者も居ないでしょうね……」
あらら、返事にも元気がなくなってきた。
……う~ん、ちょいとやり過ぎたかな?
どうも元気が有り余ってるなぁ。
……あ、これが私の境界をいじった作用とか?
ふぅん……?
「……ま、何かあったり訊きたい事があれば、私に連絡を頂戴」
「ん? あ、うん……どうやって?」
「……貴女に貸した能力とか念話とかは何に使うのかしら?」
あ、なるへそ。
でも彩目との念話は、距離が離れたら全く使えなくなったんだけど?
式神と血の契約はレベルが違うというのか!?
……まぁ、どうでもいいか。
「じゃあ、早速。何か私が面白いと思うような情報とか噂話ってない?」
「……」
……なんだよ。なんでそんな半目になって溜め息を吐くのさ。
「……そうねぇ。『妖怪寺』の噂を聞いた事があるかしら?」
「妖怪寺? 寺なのに、妖怪?」
それは何ともまぁ……矛盾してるね。
怪談とかなら兎も角。
「朝昼は立派なお寺だそうよ? そこに居られる方は物凄い力の持ち主で、訪れる人は日毎に増えているそうよ」
「それは凄い……って事は、夜が?」
「ええ」
夜になると、人間とは正反対に妖怪が集まるって訳ね。
ほぅほぅ、それはそれは……。
「何ともまぁ、面白そうな話じゃない……!」
「そ、そうかしら……?」
ふふふふふふふふふ……。
「貴女、凄い顔になってるわよ。いえ、酷い顔だわ」
「……それこそ、酷くない?」
「さっきのお返しよ?……フフ」
お返しかぁ……それは仕方無いね!!
「よしよしよしよし、俄然興味が湧いてきた!」
「そ……それは良かったわ」
う~ん、紫が微妙に引いてるけど気にしない!!
というかドン引きしてるけど、気にしないったら気にしない!!
「さぁて! んじゃ、行ってまいります!!」
「あ、あらあら……フフ、行ってらっしゃい♪」
……元気にスキマを飛び出したは良いけど、その『妖怪寺』って……何処にあるの?
うわぁ……今更、大見得きって飛び出したんだし、戻れない……。
……恥ずかし過ぎるッッ!?