風雲の如く   作:楠乃

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 前話と今回で一区切り。今回から新たな章です、多分。
 大体……三章目、かな? これで。


妖怪寺 その1

 

 漸くやって来れた……妖怪寺。

 場所を人伝に訊きまくり、一ヶ月もかかって漸く着いたぜ……。

 

 ……あー、疲れた……。

 逆に、紫とか知り合いに逢わなかったからそれはそれで良かったのかもしれない……逢ったら絶対に恥をかくだろうし……。

 

 

 

 さて俺、という言葉遣いの通り、志鳴徒の格好になっている。

 アレ以来、使う気が起きなかったんだが……まぁ、これも境界を弄ったからかね? 普通に使ってるのは。

 ……そんな簡単に復帰出来る方が、おかしいのにな。

 

 

 

 まぁ、そういう重い事は置いといて。

 

 昼間からこの寺に訪れて、尚且つこの格好で来たのは、当然『人間』として潜入する、という事である。

 

 昼間の様子を見て観察し、そして夜になってからもう一度訪れるという。

 なんて頭良いの俺!!

 

 ……まぁ、こんな恥ずかしいバカな考えは放っておいて。

 

 

 

 既に俺がいる場所は、妖怪寺である。フム、流石というかなんというか……かなりの参拝客がいる。

 

 ……『寺』で『参拝』は合っているのだろうか? 違うだろうなぁ……。

 まぁ、意味は通じるだろうから良しとして……いや、通じるか? というか何故にこんな人が……?

 

 しかし……んー、中々に立派な建物である。

 寺だから……金閣寺銀閣寺? 並みのご立派さ。

 ……あれみたいなキラッキラはしてないけど、ってこれも俺が人間だった時の記憶の話で、今の時代にはそんなものは建てられてすらないんだけどな。

 

 敷地をうろちょろしながら、人ごみをすり抜け情報収集。

 ……人の会話を盗み聞きし、その情報を纏めているとこの寺は妖怪退治を受けているとの事。

 ああ、だから人が多いのね。なるへそ。

 それにしても、この人数全てが妖怪退治依頼って言うのは……いささか信じらないがな。

 

 

 

 ふむ。

 妖怪退治の受付は……アレかな。

 

「ちょいとそこのお姉さんやぃ」

「はい。何のご用でしょうか?」

 

 ……なんか、ナンパみたいだな、俺。

 

「妖怪退治を請け負っているんですよね? ここは」

「はい。あ、妖怪の特徴や名前は分かりますでしょうか?」

「いえ、その妖怪を退治して欲しい人達がどれだけ居るかをみたいのです」

「は、はい?」

 

 まぁ、客観的に見れば意味不明な客であろうが、それは気にしない。

 聴きたいのは、詩菜がどれだけ恨まれているか。どれだけ妖怪として認知されているか、だ。

 

「その妖怪は『詩菜』と言うのですが」

「えと、その……一応、他の人にも見られたくない部分がある、かと思うのですが……」

「あぁ、でしたら何人依頼されているかだけでも結構ですので」

「はぁ……? しょ、少々お待ちください……」

 

 勝った! 第三部完ッ!! とか、まぁそんな冗談は置いといて、

 こんなあからさまな行動をすれば、先程のお姉さんよりも上の人物が出てくると思う。

 もし、紫や妖怪達から聴いた『妖怪寺』という話自体が嘘だとしたら、素直に教えられて終わりか、本格的な退治屋に見付かって俺自身がジ・エンドとかだろう。

 とは言え不特定多数の妖怪達に訊いてこの寺を特定したのだ。嘘とか偽物だとかはまずありえないだろう。

 有り得るとするならば、妖怪寺とも言われる所以の妖怪達が俺を襲うか、それとも今も感じているこのとても幽かな妖気の気配が一気に消え去るか。

 

 さてさて、お姉さんという餌にかかるヒトは本命か否か。

 どうなるかねぇ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんか、普通に名簿を持って来られたんですけど……。

 

「お待たせしました。『詩菜』と同じと思われる妖怪、として他にも『逃げの大将』『ロリ姉御』の名前で登録されていま──」

「ちょっと待てェェ!!」

「──はい?」

 

「……えぇと、登録されてる名前は…なんだって?」

「はぁ……? 『詩菜』『逃げの大将』『ロリ姉御』ですが?」

 

 なんだ何なんだ何故だ!? 何故なんだ!?

 『ロリ姉御』って、何だよ!?

 そんなの言われた事も聞いた事も無いわ!!

 てゆーか誰だよそんな二つ名つけた奴は!? ぶっ殺してやる!! 絶対に殺す!!

 姉御とロリが打ち消し合って相乗効果で最悪な名前になってんじゃねぇか!? 自分でも何を言ってるかワケわからんわ!! ふざけんな!?

 時代錯誤のロリがそもそも誰が作ったんだ!? 命名した奴出てこい!!

 

「お、お客様……?」

「ハッ……失礼、ちょっと錯乱してました」

「は、はぁ……?」

 

 とりあえず、この案件が終わったら、

 昔から今日に至るまで、俺を一度でも『姉御』と呼んだ妖怪を半殺ししてやる。よし。

 

「それでですね。その妖怪を退治してくれと望まれている方は50名程居られます」

 

 ……ボウズ(?)か? あっさり人数だけ教えてくれたな。

 感じてた妖気は……それもあんまり変化がないな。ふむ、変化が起きるまでは一応ここに留まるか。

 

 

 

 それにしても、俺を恨んでいる奴が多いなぁ……ハハハ。

 

 

 

「……あの、もしかすると貴方は退魔師でしょうか?」

「まぁ、似たような者ですね。陰陽師です」

 

 京の時の位を振りかざすつもりはないけど……まぁ、多少は使うかね。

 同一人物にすると年齢とか見掛けとかがとんでもない事になるけどねぇ。記録は絶対に残ってるだろうし、藤原もかなり有名だったからアイツと親しい間柄の俺は絶対に、な……。

 

 ……まぁ、そんな事は今は置いておく。

 

「そうですか……では、結局こちらには何のご用なのでしょうか?」

「……」

 

 一気に警戒レベルが最大に引き上げられた。

 オイオイ、俺の後ろにいる一般人が気付くような警戒心を出すなよ。幾ら商売敵とは言えさ。

 

 ……まぁ、別に用も無いけどな。

 

「いんや、単なる確認。詩菜がどれだけ恨まれてるかのね」

「……」

「はぁ……警戒は緩まないのね」

 

 気が付けばそこら中にから視線が、俺に殺気が飛んできている。

 一般人……というか人間からは出ていない。来ているのは林の奥やら寺の奥、人気があまりない所からだ。

 ……とすると、視線の気配は妖怪からか? 住処を追い出されるとかって考えているのかね?

 む、案外表立った行動はしないんだな。襲うか逃げるか何かと思ったが、睨むだけで何もしないとは。

 

 

 

「……あー、もうちょっと気配を隠すような努力をしろ。って伝えといて下さい」

「ッ……!?」

「んじゃ、妖怪退治ご苦労様です。ではー」

「……はい?」

 

 

 

 振り向かずにさっさと立ち去る。長居はしない。面倒臭いし。

 

 門から出る時にチラッと振り向くと、受付嬢は放心状態で固まっていた。

 ……目の前にいる人の相手をしろよ。こっちを見るなって。余計何か怪しまれるじゃないですか。全く!

 まぁ、あの人も妖怪に組している人物なのかね? その割には妖力とかは感じなかったけど……何かの術で隠してるのかね。そういうのは俺、結構感じ取りやすい方だと思ってたが。

 あ、俺みたいに隠してるのか。

 

 ……まぁ、どうでもいいけどな。そういうのは。

 

 

 

 さてさて、受付嬢はよろしいとして。

 追ってくる『こいつら』はどうしたものか……。

 

 明らかに妖怪。それも中々に強そうな気配。

 此方が向こうに気付いている事もバレてるのかね? まぁ、何にせよ日中でも追ってきてそれでいて人間にはバレていない、それが追ってきている奴の実力だ。

 今は歩いているけども、少なからず俺に接触してくるだろう。

 

 あー……めんどくせぇ。

 一人で追ってきてるみたいだし、戦う気もさらさらない。

 

 なので……曲がり角を曲がった瞬間に、相手から此方が見えなくなった瞬間に、周りに妖怪も含め居ないのを確認して、『スキマ』で脱出。超便利。

 

 あーばよー! とっつぁーん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、夜になった。

 

 詩菜に変化して、隠していた妖力もいつも通りに晒してみる。

 まぁ、妖力が中級妖怪と変わらないかそれよりも下の私は、見掛けやらからも格好の獲物であって、

 

「ウザいッ!!」

「ニゲンナヨォォォ!?」

「さっさと成仏しろ!! むしろ地獄に堕ちろ!!」

 

 亡霊(?)に追われてます。

 いや、むしろウィルオウィスプ? 実体化したらレギオンだね。

 

 

 

 てゆーか、こんな冷静に考察を述べてる場合じゃないっての!!

 

「えぇい!! 何で私に追い付けてるのさ!?」

「ナンノコトダアァァー!?」

「音速で追い付いてくるなっての!!」

「オンソクッテナンダァー!?」

「でぇい!! 話が通じないなぁもう!!」

 

 くそぅ! ゆったり寺に向かおうとしたら、これだよ!!

 この有り様だよ!? なんかこういう輩に好かれるのか私は!?

 

 

 

 ……仕方無い。

 成仏どころか昇天、むしろ消滅させてやんよ!!

 みっk……ゴホン。

 

「オオォォォ!! アキラメタカ!? コワッパァァァ!?」

「……うーん、小童(こわっぱ)……いやまぁ、良いけどさ」

 

 知識が無いのか、はたまた言葉だけは達者なのか……。

 

「さて、そこの悪霊ども。私を追い掛けて何の用ですか?」

「ア!? アアアァァオオ!!」

「……デビルサマナーとかは、これでよく交渉出来たなぁ…」

「オマエ!! オマエノニクタイガ、ホッホシイィィ!!」

 

 ……う、うわぁ。

 

「あ……あんまり聞きたくないけど、それって肉?それとも身体?」

「リョウホウダァァァ!!」

 

 ………………。

 

「ど、どうしたものかなぁ……」

「ヨコセェェェェ!!」

「おっと」

 

 あー……予想してたけど、こういう輩は何処に行っても、どんな存在になっても居るわけね。

 了解了解……つまり、アレだ。アンタは。

 『ロリ姉御が目的』って訳ね?

 

「誰が寄越すかボケェェ!!くたばれェェェ!!」

「グッバァアァァァ!?」

 

 竜巻を起こして上空に吹き飛ばす。

 乱気流に呑まれている間に、そこ等の木々を手頃な木刀に加工して造り、神力を充満させる。

 私の神力と私の妖力なのだから、反発する心配もせずにギュッと握り締め、

 上空に思い切りジャンプする。

 

「ア゛ア゛ア゛アアァァァ!!」

「そろそろ……神の身元にッ、逝きやがれェ!!」

 

 カッキーン ホームラン。

 上空から神力の力で、バットを思い切り振り抜くべし。いや、振り上げる? 打ち上げる?

 兎も角、これで奴も成仏しただろう。ナムナム。

 

 あー……スッキリした♪

 

 

 

「フゥ……」

「……流石ですね」

「ん? おやおや」

 

 いつの間にやら本命が登場していたようで。

 ……私が何かの衝撃で、誰かが見ているという事を察知出来なかったとは。

 

 噂の超人、此処に来たれり。

 

「いつからそこに居たのかな?」

「貴女が交渉を始めた時からですね」

「ほぉー、それはそれは……それで、貴女は有名な寺の僧侶。で良いのかな?」

「ええ『詩菜』さん。私は『(ひじり) 白蓮(びゃくれん)』です」

「あらまぁ……自己紹介は必要なかったようで」

 

 ……なんか、私の知っている妖怪はどいつもこいつも、かなりの強さばっかりだなぁ。

 この人も強そうだし……ん、人か?

 

 ヒト……じゃないよね?

 あれ? でもこの感覚は妖力、じゃない? ……なんだろ?

 少なくとも霊力や神力じゃない……と思うんだけど……?

 

 

 

「……まぁ、いいや。それでわざわざ迎えに来たのは何でかな?」

 

 明らかに狙って来ないと無理なタイミングでしょ。

 さっきの登場の仕方は。

 

「立ち話も何ですし私の所へ来て話しませんか?」

「……そうだね。案内してくれる?」

「ええ。勿論」

 

 

 

 ……アレだな。

 私の知り合いの女は全員が美人だな……まぁ、どうでも良いけどさ。

 自惚れるつもりは更々無いけど、客観的に見たら私だってそうだろうし。

 ……いや、この言い方そのものがそうかもしれないけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んで、何のご用でしょうか?」

 

 昼間に来た寺に招待されているでごじゃりまする。

 前来た時には入れず見れなかった所に、妖怪としての私が入っているというのは何だか不思議な気分。しかも寺なのにね。

 

「……そうですね。貴女が山に入ったのは今日の日が暮れた辺りでしたよね?」

「そう……だね。それが何かな?」

「お昼頃におかしな客が来たという話を聞いたのです。貴女がどれだけ恨まれているかを気にする方がここに来たそうです」

 

 ……うん、どうやら巧く行ってる様子だね。

 詩菜と志鳴徒はあくまでも別人である。まる。

 過去に何があろうとも、ね。

 

「……それで?」

「その直後に貴女が来ました……恐らく、貴女を追っているのでしょう。近くにまだ居ると思われます」

 

 そうだね。目の前に居るもんね。

 近くっていうか、もうそのものだよね。

 

「だから?」

「早くここから立ち去った方がよろしいかと思います。中々の手練れとの話でしたし」

 

 まぁ、追跡を見事に撒いてみたからね。

 スキマ、最高!! 最強!!

 

 

 

 ……しっかし、まぁ、

 

「……噂通りだねぇ。何でまた妖怪の心配なんかするの?」

 

 妖怪寺の僧侶様は、なるほど『妖怪の駆け込み寺』の責任者という訳だ。

 昼に出逢ったあの人間は、まだまだ下の人だったって訳だ。いや、人じゃなくてヒトかもしれないんだけど。

 

「ッ今はそれどころじゃない筈です!」

「良いんだよ。アイツは私に付きまとうだけなんだから」

「……はい?」

 

 付きまとう、っていうか……寄り添う?

 うーん、そんな夫婦関係でもないけど、それが一番しっくり来るな。

 

「……知り合い、だったのですか?」

「身長が結構高くて私と同じ服装だったでしょ?」

「あ、はい。話によれば確かに紺色の着物を着ていると……」

「そういう事」

 

 

 

 一息入れてお茶を一服。

 

 ……うーん、お茶だ。

 まだ甘い紅茶の方が良いなぁ。幽香の紅茶とか。

 彼女の紅茶に砂糖をドバーッと入れたらブチ切れられるだろうけどね。

 

 ふむ、いつか中国から取り寄せるかねぇ?

 砂糖が欲しい。角砂糖が欲しい。糖分ヨコセ養分。

 

 

 

「……追っ掛け、ですか?」

「ブフゥ!? がはげほッ!!」

 

 追っ掛けって何!?

 え!? その言葉もうこの時代から存在していたの!?

 

「あ、違うんですか?」

「ごほごほっ……なんでそんな結論に辿り着いたかなぁ!?」

「男性妖怪の間で有名ですよ? 特に山の妖怪から」

 

 なん……だ、と……!?

 山、山……発祥元は天狗か!?

 

「……じゃあ、あの二つ名も……?」

「お、恐らく……」

 

 

 

 ……よし。

 畳からゆっくりと立ち上がり、腰帯に指していた扇子を取り出して妖力を纏わせる。

 オッケー、私は既に準備は出来た。だがお前らに準備などさせない!!

 

「ちょっと待ってて。ぬっ殺してくる」

「だっ、ダメです!! ダメですって!?」

「離せぇ聖ィ!! 私は妄想変態野郎どもをこの世から亡くしてやるんだ!!」

「ひゃああぁっ!?」

「ぬがあああぁぁぁ!!!」

 

 

 


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