予想以上の聖さんの抵抗のせいで、満身創痍になった私。
オーバーキルで気絶したのである。キルなのに気絶とはコレ如何に。
……なんであんな身体能力を持ってるのよ。人間じゃないでしょ、あの怪力は。
いやまぁ、人間じゃないんだろうけどさ。
「詩菜さん、大丈夫かい?」
「ん……ぅ……?」
掛けられた声で、目蓋が開く。
……どうやら座敷で布団を敷かれて寝させて貰ったようだ。
そして掛けられた声の方向へと向く。
……ん〜……ネズミ。
ネズミ? 鼠?
「……ゆ、夢の国……」
「お、おい? 本当に大丈夫かい?」
「あー……うん、多分」
「た、多分って……キミの事だろうに」
……○ォ○○さんって、いつ産まれたんだろう? 少なくとも、今の時代には居ないよね?
まぁ……そんなどうでもいい事は置いといて、どうせ私の勘違いだし。
「……もしかして介抱してくれたのって、君?」
「ああ。自己紹介がまだだったな、私は『ナズーリン』だ」
……横文字? っていうか、カタカナ?
いや、片仮名はもう既に生まれているから、使われていても問題は無いとしても……完全『ナズーリン』って、外国名だよね? そんな名前とか氏に関して詳しくないけどさ。
どゆことなの?
「……私はまぁ、聖さんから聴いておられるかも知れませんが『詩菜』と申します。介抱、ありがとうございました」
「……なにか聖から聴いた話と、随分態度が違うような気がするが……」
「気の所為です」
「いや、でも……」
「気の所為です」
「……」
何か……雰囲気でね? 判断しちゃったのさ。うむ。
何はともあれ彼女との自己紹介も終わり、私が完全に身体を起こした状態で傷の手当をナズーリンから受ける。
「……」
「……」
「……ん? どうしたんだい?」
「いや、ちょっと……恥ずかしい、の……で……」
「なんだい、同性に見られた位で。何をオドオドしてるんだい? それにこっちは傷を見てるだけなんだよ? そんな不埒な事なんて思いもしないってのに」
いや、そうじゃなかったら余計に見せないし、今頃逃げてるよ……。
……こりゃあ、迂闊に『志鳴徒』の名前を出せない。
恥ずかしいんだもん!! 幾ら相手が女性だとしても、胸や下腹部なんて見られたくないッ……!!
「……顔真っ赤だけど、そんなに恥ずかしいかい?」
「……」
恥ずかしいさ……くそぅ。
「……治り、早いね」
「そうですか? いつもの事なんですけど」
ナズーリンに背を向けて着替えている時に、そんな事を言われた。
あ〜……恥ずかしかった。なんでこんな恥ずかしく感じるのかねぇ?
男だった前世の時は、普通に修学旅行とかでもなんとも思わなかったものだけど……。
まぁ、そんな事は置いておこう。
彼女が言いたいのは、特に一番酷かった二の腕の大きな引っ掻き傷だろう。
私も聖ともみ合った時に一番痛みを感じていた、ような気がする。いかん。記憶すらも曖昧になりつつあるぞ。
起きた時は包帯を巻いていて、それがものの見事に真っ赤に染まっていたのだが、ナズーリンに包帯を替えてもらう為にほどいてみると、その二の腕には何も傷痕がない。
我ながら、良く回復したものである。まぁ、いつもの事だけど。
……それにしても、聖は随分な攻撃力をお持ちのようだ。
皮膚が裂ける程の力って……もう妖怪だろう、それでは。
そんな事を考えながら身体中の傷や調子を確認していると、それを座ってみていたナズーリンから謝りの言葉が告げられる。
「……すまないね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
気絶するくらいの大怪我と言うとあまり無いけども、怪我自体は幾らでもした事がある。こういうのを慣れたとは言いたくないけど……まぁ、慣れてしまった。
それに……この痛みは、全て天魔に八つ当たりしますので♪
「……何か、急に君の笑顔が黒く見えたよ」
「あらら。大丈夫ですよ? 全然関係ないヒトに当たりますので」
「それは八つ当たりって言うんじゃないのかい!?」
「失礼な。純然たる『八つ当たり』です」
「変わってないじゃないか!?」
うむ、ナイスツッコミ。
良いね。振り回し甲斐がありそうだよ。
「……はぁ……出逢って間もないが、君の相手は大変だと言う事はよぉく分かったよ」
「あらら、大変ですね」
「……もう何も言うまい」
うふふふ。いや〜、楽しいな〜。
ま、こんな事してないで……さてさて、身体の調子は、と。
……うん、ちょいと筋肉痛みたいな痛みはあるけど、問題なし……かな?
回復に妖力を殆ど注ぎ込んだからか妖力は微妙に少なくなってるけど、神力は使ってなかったからかなり貯まってる。大丈夫かな?
能力は……うん、変わらないね。スキマを開くのにも問題なし、と。
まぁ、開いてスキマに入るほどの体力があるかどうかと言われたら……それは状況にもよるか。
兎に角、日常生活を送る上で今の身体は支障なし、と。
「……それが、君の能力かい?」
「いえ、この異空間を開く能力は違いますよ? 私の能力は『衝撃を操る程度の能力』ですから」
色々と身体の調子を確かめる為に、能力を使っているとナズーリンからの質問が。
まぁ、目の前で能力使われたそりゃ訊くか。
こうしてみると、二つの能力を持っている風に見えるのかな?
能力を持っている奴自体が少ないから、二つも持っている奴は早々居ないと思うけどねぇ。
でも……居る事は居るのかな? 能力二つ持ち。
「……あー、訊いた私の方から言うのもあれだが……そんな簡単に喋って良いのかい?」
「能力にそれなりの自信があるので」
「ふぅん……」
ま、そういう割には、聖にあっさり負けたけどね……。
確認し終わった所で廊下か慌てたような足音が響き、こちらへと向かってくる。
まぁ、十中八九、聖だろう。
そして予想的中。やったね。
「詩菜さん! 大丈夫ですかッ!?」
「いやー、聖さんの攻撃は痛かった痛かった」
「う……す、すみません……」
「……君も意地悪だねぇ」
「へへへ。いんや大丈夫だよ。介抱もあったし」
微妙に倦怠感が残っているが、それも気のせいと言い切れる位だし。
まぁまぁ、一日で良くもまぁここまで回復出来たもんだ。
「よかった……」
「さて、と」
立ち上がって、柔軟体操にラジオ体操モドキを開始する。何日間眠ってたのかは知らないけど、身体は動かさないと一気に鈍っちゃうからねぇ。
おー……バキバキ骨が鳴る。体に悪いとは知っていても、これは止められないわ〜。
ついでに中段蹴りや回し蹴りを何発か放ってみる。うむ、異常なし、と。
後ろの帯に突っ込んである扇子をすぐさま取り出すのにも問題なし……まぁ、格闘術の動作をする時に地味に痛くなる箇所は何個かあるけど。
「……回復力が凄いね。普通は一週間もかかると思ったんだが」
「あれくらいなら昔から浴びてましたよ」
幽香とか、紫とか、集団の妖怪達とか、ある地域に土着した神とか、勇儀とか、幽香とか。
マスタースパークは鬼畜過ぎる。何あの破壊力。土地がごっそり無くなるんだもの。跡には何も残らない、だもの。
「うし……五体満足かな」
「……君は言動以外も常軌を逸してそうだ」
「失礼な。私は436歳の弱小妖怪です」
「「436!?」」
「うぇいっ!? 何ですかいきなり!?」
436歳の弱小妖怪。
種族・鎌鼬、兼、旅と風の神
『妖怪の大賢者』の式神ですが、何か?
「いや、妖力の量から生まれて百年も経ってないかと思ったんだが……」
「わ、私もそう思っていたので……」
「……」
……確かに私の妖力は少ないけどさぁ、百年経ってないとかって……酷くない?
二百年レベルの妖力はあるわ!! 多分だけど!
今はちょっと使って減ってるだけなんだって……そう、思いたいだけかもしれないけど。
「……」
「……いや、申し訳無い」
「す、すみません……」
「……はぁ、いや謝らなくても良いですよ。聖さんも何で謝ってるんですか……」
むぅ、本題に入れないなぁ。
やれやれ……。
そんな話をしている内に、先日志鳴徒の時に出逢った受付の人が、聖を呼びに来た。
どうやらこんな時でも参拝客は訪れるもので、彼女はそういったお客様の為に聖を呼びに来たようだ。まぁ、彼女達はそれの相手をしに出ていった。
しっかしまぁ、聖と逢って戦いになったのが真夜中だ。そして今は太陽の位置を見る限り、朝である。
こんな朝っぱらから良く来るねぇ。こんな山の奥にある寺にさ?
よくよく気配を探ってみれば、流石は妖怪寺と言うべきなのか、辺りには妖怪の気配がわんさかとある。
まぁ、寺の外には妖力やら妖かしの気配が漏れないようにしてあったのだろう。道理であんなに幽かにしか探れなかった妖気がここに来て大きくなったように感じる訳だ。
……よくもまぁ、こんな駆け込み寺をやろうとしたよ。ほんと。
さてさて、何やかんやで泊めていただいた事に関して、彼女等に感謝の念を表す。
「いやいや、聖は元から泊める気みたいだったし、私らも話は聞いていたしね?」
「私等? と言いますと、他にも仲間が居られるので?」
「ああ、そうだね。紹介しようか?」
「それは是非とも」
「んじゃあ行こうか」
ナズーリンに連れられ、部屋を後にする。
そうして歩いている内に気付いたのだが、この寺はやけに構造が複雑で、内部の様子が外からは全く見えない部分があり、その死角を使う事で人に見られずに移動する事が出来るようだ。
ん〜、内部構造を覚えなければ、あっさり迷ってしまいそうだなぁ。なんて感想しか出てこないけど。
強いて言うなら、ここまでよくやるよ。
「失礼します。御主人様、お客様です」
一番始めに連れてこられたのは、大きな広間。
恐らく仏等を奉っている部屋かな? それにしては、肝心の大仏がないし……居るのはナズーリンの言う『御主人様』だけ。
髪の毛が黄色と黒の斑模様。というか虎柄。頭のてっぺんに花が咲いている。いや、あれや蓮の造花かな? 蓮を模した物か。
で、その本人はずっとこちらに背を向けながら、微動だにしない。していない。
……つーか、寝てないか? アレ?
「……御主人様?」
「ナズーリン……私は外に出てるから。ご存分にどうぞ」
「はい? ……あっ…」
「ではでは……」
真っ赤になったナズーリンを尻目に扉を締め、畳に腰を下ろす。
な〜んにも聴こえないよ。な〜んにも。
「……~~~~~~!!」
「~~!? ~~~~~~!? ~~~~~~!?」
「~~~~~~~~~~~!!」
「~~~~~~!?」
……。
あ、スキマにそういえば幽香特製の紅茶があったっけ。
この前、式神の報告時に貰った奴……あったあった。
いやはや、境界を操る術を極めるとこんな風に物体の保存まで出来るとはねぇ……ズズーッ……。
……まぁ、そんな保存の術式を扱えるほど私は紫の能力を熟知してないから、彼女に頼んで掛けてもらったに過ぎないのだけど……。
「
出来れば砂糖が欲しいけど、我儘は言えぬ。
甘党だからといって、素材の味を楽しむを言うのもまた一興なり。
「~~~~~~!!」
「……~~~、~~~~~~」
「……~~~~~?」
「~~~!」 (キリッ!)
「~~~~~~~!!」
「~~~!?」
何か今、面白い話が聴けそうだったけど……まぁ、どうでもいいや。
キリッ、とか聴こえたような気がするけど、気のせい気のせい。うむ。
「はぁ……お待たせしました」
「……でわでわ、お邪魔します」
再度、扉を開き内部へ入る。
今度はちゃんと此方を向いて出迎えてくれた。
……多少、涙目なのは、私の気の所為としてあげよう。うん。
「ええと……貴女が詩菜さんですね。初めまして、私は『
「いやいや、こちらこそよろしく頼みます。寅丸さん」
うむ、好印象なりけり。
寅、ねぇ。虎の妖怪かな? にしてはやけに神々しい気もするけど。
うーん、このヒトも強い気配がするなぁ。この寺に住む妖怪は皆強者なのかね?
円形なのか星形なのか。
ま、それこそどうでもいい事か。
「今、なにか物凄い不謹慎な事を考えなかったかい?」
「嫌ですねナズーリン。そんな不謹慎な事を考えるヒトに見えます?」
「ああ、見える」
「……すいません」
うーん……どうもこの鼠には頭が上がらないみたいだ。
鎌『鼬』なんだから、鼠は捕食する方なんだけどなぁ……?
……『窮鼠、猫を噛む』?
いやいや、私は鎌鼬だっての。
でも鼬も『
「え、えーと……」
「ああ、いや申し訳無い。御察しの通り、私が『詩菜』と申します」
「はい、よろしくお願いします」
うーむ、美しい大人の女性って感じだね。
私なんかとは大違いである。
ん? おや?
神力? あ、これが神々しい様に見えた原因かな?
でもなんでまた神力を感じるんだろ?
「失礼ながら、貴女は妖怪ですよね?」
「「ッ!?」」
……アレ? もしかして地雷踏んだ?
「……確かに私は虎の妖怪でもありますが…歴とした毘沙門天の代理でもあります!」
「あぁ、毘沙門天の代理ですか。なるほど」
道理で虎柄だったりやけに長い
それなら神力があっても当然か。
あれ? でもビシャモンテンって
「……もしかして、君は初めから妖怪だと見抜いていたのかい?」
「へ? ええ、神力が見えたので何故かと思っただけですが?」
「「……」」
あ、ら……?
どうやら……かなり巨大な地雷を踏み抜いちゃっ、た……?
そんな居たたまれない空間から、ナズーリンに再度案内されるという事で部屋から出た。
彼女に案内され、更に寺の奥へと歩いて行く。その道中に彼女から先程の地雷について説明された。
「……御主人様は私達とは違い、妖力を隠して信仰を集めているのさ。毘沙門天として人間から信仰をね」
「つまり、あっさりとそれを私は見破った。と…」
「そうだ」
……そりゃあ、あんな空気になるか。
隠していた筈なのに、それを私があっさりと見破っちゃったものだから。
「まぁ、私が連れてきた事もあるし、御主人様も油断していたのかね」
「……それと寝起き、という事もありそうですけどね」
「……まぁね」
毘沙門天かぁ……。
ビシャモンテンと言えば、龍の眼光にマカカジャ×4、そしてメギドラオン。
うーん、やっぱりアレは鬼畜だったなぁ。
そんな事を考えている内に、またナズーリンから声が掛かる。
中々にお喋りが好きなのかね? そんな彼女に詳しくないけどさ。
「……ちょうど時期としては良かったよ。村紗が居てね」
「ムラサ?」
「そう、村紗船長さ……皆、居るかい?」
彼女に連れられて廊下の奥の扉を抜けると、寺の裏に出た。ここなら確かに人目には付かなさそうだ。
そしてその寺の裏手には尼の格好をした女性と、でかい入道雲と、何故かセーラー服を着た女性がいた。
……いや、ツッコミ所が多すぎるだろ。
「ナズーリン。彼女は誰なの?」
「例の妖怪。詩菜だよ」
「へぇ、彼女が?」
セーラー服って……いや、水兵服? それにしたって、時代背景は何処に行っちゃったのよ? いやまぁ、今更何を言うかって感じなのは思うわなくもないけどさ。
それに彼女達の上にいる入道雲。良く良く見たらこの雲、顔があるし。
妖力を纏っている所を見ると妖怪なのかな? ……とすると『見越入道』かな?
……って、そのまま見上げてたら死ぬというか、殺されるんじゃなかったっけ? 見越入道って?
「詩菜!!」
「はいっ!? 何でしょうか!?」
「……ボーッとしてる君を紹介している所だよ」
「あ、ああ! すみません」
「なんか不安ね。怪我は平気?」
「ええ、大丈夫です」
「……あんな重症だったのにねぇ」
……そんなに重傷だったの? 私は?
「御心配ありがとうございます。えーと……」
「ああ、私は『
「えーと、一輪さんに村紗さんに雲山さんですね。よろしくお願いします」
「よろしくねー」
「なんで私が下の名前なのか解らないけど、よろしく」
「勘です。ハイ」
「……なんとなく貴女の性格が、今ので解りかけたわ…」
「それはそれは」
「……うん。もう確信したわ」
しっかし……。
……何故、私はこう、寺の重要人物に挨拶しているのだろうか?
それも、結構な期待を寄せられている気がする……。
謎だ……。
まぁ、そんな多忙な一日も過ぎていった。
昼食や夕食も、この寺でご馳走になった。いやはや、美味しゅうございました。
是非とも今後の料理の参考にさせていただこう。
……しかし、何故私もあの輪に入っていたんだろう?
聖に寅丸、ナズーリンに村紗、一輪に雲山。
どうみてもこの寺の仲間達の食卓の輪に、私は混じったらおかしいと思うんだけどなぁ……?
……と、言う訳で。
向かい側で寝ているナズーリンに声を掛けてみる。起きている事は既に呼吸の感じからして分かっている。そしてまたまた予想命中の巻。
「ナズーリン」
「ん? どうした?」
「どうして私は普通にこの家族に混じってるのかな?」
「訪れたのは君だろう? この寺の基本方針は『来る者拒まず』だ」
「……何だか納得いかないなぁ」
妖怪と人間の共生。
紫の夢に近い形でこの寺は実現している。
だけど、それはすぐにも破綻しかねないギリギリの状態で続いている。
妖怪の方だけが知っていても、人間も知って尚且つ協力しなければ、それは共生とは言えないだろう。
……紫が直接来ないのは、その所為かな……?
「……そしてさぁ」
「うん? まだ何かあるのかい?」
「……なんで私は、抱き枕になってるの?」
ナズーリンが私の世話係になったのは分かるさ。昨日の怪我もあるしね?
だからナズーリンの部屋に私が寝る事になったのも分かる。うん。
でもなんで寅丸は後ろから抱きついてきているんだ!?
と言うか、二人が同じ部屋なんて聴いてないよ!! いや別に同じ部屋が嫌って言うことじゃないけどさぁ!?
「……御主人様が可愛いと思っているからに決まってるじゃないか」
「可愛いって……」
そんなの言われても、正直それほど嬉しくないんだけど……。
「……スー……クー……」
「……ナズーリン」
「あまり五月蝿くするなよ。御主人様が起きてしまう」
「寅丸から抜け出すの、手伝って……」
女性にこんな言葉は禁句だけど……重い……。
腕の締め付けが苦しい……締め付けは衝撃じゃないからどうしようもないんだって……。
「……頑張れ」
「ううぅぅぅぅわああぁぁ……」
長い長〜い溜め息が出た。恐らく幸せが一年分は詰まっているに違いない。チクショウ。
翌朝。
……結局、ナズーリンも寝て大分経ってから、漸く私も寝る事が出来た。
寝不足という事は無いけども、何となくだるい……。
「ふぁ……? おはよぅござぃます……」
「……お、おはよう」
「んむ、厠……」
「御主人様、厠はそっちじゃないよ」
「……んー……?」
そう言って寅丸が私を開放し、寝惚けたままで何処かへと歩いて行く。
いつもならば、彼女はあの様子で大丈夫なのかなんて考えているのだろうけれども……。
「……かっ……身体が……!?」
べきゴキバキゴキィッ
「……すまない。今度からは助けるよ」
「うん……お願い……」
こ、腰と首が……。