探したらあったりするんだろうなぁ……夜桜の反対語。
オセロを楽しんで眠たくなってきた所で、私は詩菜に変化して文と共に就寝した。
スキマ内で二日続けて寝る事になるとは……。
……まぁ、彼女が私達を探していないという確証が得られるまでの辛抱だ。うむ。
翌日。
スキマでは大体の時間すら計る事が出来ないのがなぁ。と思いつつ起床。
「お早うございます」
「……おはよー」
先に起きていた文に寝惚けた挨拶を返して床から起き上がる。
起きてから顔を洗う洗面道具も何も無いのだと思い出し、少々ガックリと来つつ立ち上がる。
はてさて、現世は朝か昼か夜か。
スキマでは大体の時間すら確認出来ないのがなぁ。さっきも考えた事だけど。
如何せん起床時間が正確かどうかが分からないのが困る。
「……どうか神様、いきなりご対面とかありませんように……」
「神様は貴女でしょうに……」
「私は地方の弱小神だよ? そんなご利益はないのさー」
「じゃあ何の神様なんですか?」
「……衝撃を司る神様?」
「いや、私に聞かれましても……」
「まぁ、とにかくそこら辺だよ」
「……相変わらず大雑把ですねぇ」
「誉めないでよ」
「誉めてません」
ま、そんなどうでもいい漫才は置いといて、
ゆっくりとスキマを開いて、慎重に外を観察してみる。最も明るい方向を探してその位置から大体の時間も計る。
本日、正午前の天気は快晴なり。
闇は見た所、何処にも見当たらない。彼女の姿も見えない。
お~……?
「巧くいったかな?」
「……恐らく」
身体をスキマから完全に出して周りを見渡す。
ちょっとした小山の上。木々が生えていないので360度、すべて見渡す事が出来る。
因みに前回アルシエルと遭った場所からは、県を四つぐらい跨いだ位置に転移している。まぁ、それでもあの闇なら来そうな気がするんだけどねぇ。
それにしても久し振りの青空だ。気分が良いなぁ。
「……吹雪の次は闇だったし、久々に気持ちいい天気だね」
「そうですねぇ。風も清々しく吹いています」
私はどうか分からないが、文は天候や気流にダイレクトに繋がっているらしい。
だからかこういった晴れ晴れとした天気の時は、能力も快調な気がする。
まぁ、能力の調子がどうとかはイマイチ分からないが、天気が良いと気分が良くなるのは確かだ。鬱以外の時でね?
風の動きを感じていると、不自然に動く気流を感じた。
自然に出来るような風ではなく『何かが動いて出来た風』しかも……私達の真後ろからの風。
しかも、私が開いたスキマから出てくる謎の人物。
隣で文の身体が一気に強張るのが分かる。
……でも、まぁ。
「……こんな現れ方をしているのは、一人しかいないかな。ねぇ紫?」
「ふふ、久し振りね? 詩菜」
振り返って、約30年振りの八雲紫さんとの対面。
……最後に逢ったのは、妖怪寺の前かな? ……ほんと、あの直後に逢わなくてよかったよ。
「……えーと、こちらの方は……?」
と、文が訊いてきた。
あれ? 二人って逢った事ないんだ? 天狗の新入りだし、当たり前かね。
そもそも紫が天狗の里に来た、って話の方が聴かないか。天魔相手なら兎も角として。
ま、簡単に双方紹介してやるかね。
「あらあら、彩目ちゃんに引き続いてまた一人つくったのかしら?」
「またって何さ、またって……単なる今の相方よ」
「『射命丸 文』で御座います。詩菜さんに付き添いって旅をしております」
どうせその内、天魔の所に戻るんだろうけどね。
今この瞬間にそんな野暮ったい事は言わないけどさ。
「あら、どうも御丁寧に。私は『八雲 紫』って言うわ。詩菜ちゃんの仕事の依頼者で彼女の上司でもあるわ。そして彼女は私の式神でもあるわ」
「はぁ、上司と式神……はい!?」
「あれ? それも説明してなかったっけ?」
「して貰ってないですよ!? 上司ぐらいしか聴いてません!」
……あれ~?
「──と、言う訳で。スキマを使えるのも妖怪寺の件も、このヒトからって事で」
「はぁ……なるほど」
数分間の説得。
……まぁ、説得というか単なる説明なんだけど。
原っぱに座り、文に説明する事、数十分。
その間、紫はずっとスキマの上に腰掛けていた。実に優雅である。
でもそれなら貴方様の方からもご説明をして頂けませんかねぇ!?
「で? ……んな事よりも、紫は何の用なの?」
「あら? 私は詩菜ちゃんに用がないと来ちゃ駄目なのかしら?」
いやぁ……そんな事は言わないけどさ……。
つーか、詩菜ちゃん言うのヤメレ。そんな事言うと……意趣返しするよ?
「何やら胡散臭い臭いがプンプンしますぜ? これは私の直感だけど、紫は何か隠してる。そしてそれについて私に『何か』を頼もうとしている。その為に今日、私の元へ来た」
「………………」
「……その顔は、大当たりと見て取っても、良いのかな?」
胡散臭いと言われているのは、何も紫だけじゃないっスよ? フフン♪
「……そうね。確かにそうよ。参った、降参よ」
「にゃははははは!」
ん~! ズバッと他人の言いたい事を言い当てるのは気持ちが良い!!
て事で、気前良く力を貸しましょうかね。
……まぁ、私が紫の式神なんだから、断るアレも無いんだけどね。
「で、その用件ってのは? いつぞやも言った通り、出来うる事であれば協力致しますよ?」
「……その前に、一つ確認したい事があるのよ」
「ん?」
唐突に思ったけれど、文が蚊帳の外だ。
……まぁ、良いや。これは私の仕事の話なんだし。
手伝って貰う事は、あるかも知れないけどね。
「貴女の能力『衝撃を操る程度の能力』について、それは貴女の衝動までは操れるの?」
自身の『衝動』?
ん~……どれくらい強いのかとかも関わってくるけど、私の内からの衝撃とかなら……多分操れるかな?
感情ぐらいなら操れるでしょ。現に操った事は何度もあるし、他人の感情も何回かある筈。
「それって能力の話?」
「……前は『死霊を操る程度の能力』だったのが変化した能力よ。それも『死に誘う程度の能力』よ」
「誘う……ねぇ……」
むぅ……聴いた感じの印象だと、エゲツねぇなぁ、っていうのが感想だけど……。
……誘う、ねぇ。
「私の意志に関係なく『誘う』なら、私の能力じゃ抗えない……と思う。死の方向へと意識を無意識に持って行かせる、って言うなら……恐らく抵抗出来る」
勝手に身体が動いて自殺するっていうのなら、私の能力じゃあ太刀打ち出来ない。それは操作系能力者にでも頼んでくれと頼む。
でも『死にたい』って感情を無意識に想起させるのなら、それなら抗えると思う。問題はその感情を意識出来た所で抗えるかどうか、だけど。
「……とりあえず、ついて来てくれるかしら? ある程度の距離を置いたのなら、貴女でもどちらの種類なのか判断出来るでしょう?」
「まぁね。了解……あ、彼女はどうする?」
蚊帳の外どころか、存在すら希薄だった文に声をかけてみる。
とは言え……『死に誘う程度の能力』だと、文は抵抗だろうなぁ……。
彼女の能力は『風を操る程度の能力』なんだし、妖力は豊富にあるとしても妖怪の年齢レベル的に考えるとなるとかなり危険だ。
「……そうですね。私では抗えないでしょうから、ここで待ってますよ」
「なんなら、この機会に天狗の里に戻る?」
「……ん~、それはそれで嫌ですね」
「そっか……んじゃ、待っててくれる? いつ帰れるか分かんないけど、大丈夫?」
「ええ、私も一人で生きれるようにしておきませんとね」
「んな事言って、私よりも妖力がある癖に……」
「それはそれ、これはこれです」
「何がなんだか……」
……まぁ、文自身も了解しているみたいだし、大丈夫かな?
ん~、それに紫の近くに居れば彼女も……あ。
「文、アルシエルが来たらどうするの?」
「あやややや……そうでした、それもありましたね……」
そういえば、彼女が襲ってくるのかも知れないんだった。
スキマから出たのはそれの確認もあるんでした……。
紫が出てきたから、なんとなく安心しちゃっていたのかね。油断大敵。
そんな事を考えていると、疑問顔の紫が質問してきた。
……八雲紫でも知らない事があるんですね、と言いたい所だけども、それを言ったら洒落にならないので自重。
「……アルシエル、って?」
「ん? ああ、ちょいと旅の途中で遭った大妖怪。ちょっとばかし狙われてるかも」
「……それって、まさか昨日の話じゃないわよね?」
「昨日の話ですよ?正確には、一昨日の夜ですが」
「………………暴風の天変地異を起こしたのって……もしかして、貴女達?」
……なにか、嫌な予感がする。
ていうか、アレだよね。『万物流転』の事だよね。絶対。
「……まぁ、うん」
「あれは酷かったですからねぇ」
「ちょ、文!? 責任を押し付けないでよ!?」
「神力まで使って発生させたのは貴女でしょう?」
「そ、そうだけどさぁ……」
「……ふ、ふふふ」
あ……何やら、怒っちゃってる……感じ?
もしかして……アレのせいで何かやらかしちゃった感じ……?
「……やっちゃった……?」
「ふふふ……全国の八百万の神様が犯人を捜しているわよ? 『必要も無いのに神風を起こしたのは何処の馬鹿だ』って、ね」
……え?
「MAJIDE ?」
「日本語を喋りなさい」
「マジで?」
「『特に』誰かさんの事を知っている二人組の神様は、大きな溜め息をついているでしょうね」
「……ハ、ハハハ……ハ」
……やっちまった。
「いや、仕方無かったんだって!? あんなのまで起こさないと逃げれなかったんだよ!? ホントだって!!」
「ふぅん?」
ダメだ、笑いながら聞いてる辺り、絶対信じてない!!
くそぅ……くそう!!
「ま、そんな事より向かいましょうか♪」
「……はぁ……」
「ご、ご苦労様です……」
「それなんか違うから……」
落ちていく気分の中、私の扱うスキマより数段気持ち悪いスキマを通り、紫からの仕事に向かった。
……神風、って何よ……? なんだよそれ……。
なんとかスキマを通り抜ける間に気分をなんとか戻し、出口を通り抜けて辺りを見渡す。
「……ここは?」
「貴女に……逢って貰いたい人物は、この屋敷にいるの」
「ふーん?」
着いた場所は有名な桜の名所と言われている屋敷……だと思う。
私も一人旅の時に一度だけ来た事がある。あんまり覚えてないけど。
確かその時は、そこら中に見物客がいて、春は特に毎日が祭りと言った状況だった筈。
……それが、
「……これだけ桜が咲いていて、人が居ないのはおかしいですよね?」
そう、誰も居ない。
人も虫も動物も妖怪も。
とにかく、何も生命の息吹というのを感じない。
何処からも生き物が起こす衝撃を感じない。感じるのは自分達の足音や鼓動、そして植物や風が起こす衝撃だけ。
なんだか……気味が悪い。
「……それも後で説明するわ」
「待った。ここで既にこんな状況なら、文はこれ以上入ったらヤバイんじゃない?」
『死に誘う程度の能力』もう大体は予想が着いて来た。
この惨状はその能力の所為だろう。能力の効果範囲を死んでいった者達が意図せずに教えてくれる。
……コレ以上近付いたら死にますよ。ってか。
「なるほど。なら私はここで待ちましょう」
「ん、何かあったら風でも起こして教えて」
「分かりました」
そう言って文と別れて、何の衝撃も感じない桜並木を紫と共に進んでいく。
……ん?
と横を見てみれば、扇子で口を隠してはいるが紫の胡散臭い笑みが視界に入る。
「何そんなにやにやしてるのよ」
「フフ、随分とぴったりなチームワークね」
「そりゃ三十年も共に生活すりゃあねぇ」
寧ろこれでも離婚したりする夫婦がいるんだから。これは人間の話だけどね。
まぁ、完全なチームワークではないだろう。
「あら、そうなの……ふぅん」
そういう事。何がかは知らないけど。
……あと、その『そういう事にしておくわ』的な笑みは要らなかった。
再び無言になって歩く私達。
門が見えてきた。
その手前に刀を構えた青年が一人。
「……因みに訊くけど、彼は?」
「彼は門番よ。頑張ってね♪」
「はい?」
振り返って紫を見ようとした時にはもう遅い。
既にスキマは閉じた後。
「んなっ……!?」
えっ? 頑張れ、って……戦え、と?
……あり得る。ってかそれしか思い付かない……。
というか、紫ならそう言うとしか思えない……!
……まだ神力は回復すらし初めてないんですけど?
「憂鬱だなぁ……ハハ」
……こんな事をしていても仕方が無い。
諦めて屋敷に向かいましょ……はぁ。それでも溜息は出る、と。
前に来た時に屋敷内まで入れば良かったなぁ……そしたらスキマで私も移動できるのに……いやまぁ、あんなに人間が密集した所を通り抜けれるとは到底思えないけど。
「待て。ここから先は妖怪であろうと通さぬ」
「……はぁ」
……デスヨネー。
「何を溜め息をついているのか知らんが、入ろうとするなら……斬る」
「私は紫に連れてこられた可哀想な妖怪です。って事で通してくれない?」
「……八雲殿については同情するが、駄目だ。通さぬ」
「あ、一応は同情はしてくれるんだ……」
あぁ……ここでも胡散臭い紫ちゃんは御健在って訳ね……。
「分かった分かった……よーく分かった」
妖力はほぼ回復してる。能力の調子は不明だけど、天候通りならバッチシな筈。
妖力展開! 爪も展開! 風よ吹き荒れろォ!!
もう良いよ!! やってやろうじゃないのさぁ!!
「む、来るか」
「ふん!」
こんな風に戦う事になったら一気にテンションが上る、自分のバトルジャンキーっぽい性格が嫌になる。でも止められない。チクショウ。
さてさて……えーっと、そうだなぁ……。
うむ。
ちょいアシタ○風に、
「押し通るッ!!」
そう言うと門番もにやりと笑い、
「来いッ!!」
おお、ロマンを解ってくれるヒト?
嬉しいねぇ。
先手は門番。
両手に握った長刀を振り抜き、居合いのような速度で斬ってくる。
彩目の相手で刀は慣れてる。
余裕を持って爪で受け止め流す。
が、向こうも相当の使い手。即座に体勢を建て直した。
「……おぬし、慣れているな」
「娘が刀使いだからね」
「ほう、その妖怪とも一つ手合わせを願いたいものだ」
「……あぁ~、剣術なんて立派なもんは使わないよ? あの子は」
「我流か。一代で造り上げるとは……流石だなッ!」
「いや、そういうアレでもないけどッ!!」
鍔迫り合いになり、接近しながら何故か会話をする私達。
どうしてこうなった、とは言わない。戦闘中の会話も駆け引きの一つってね!
「おぬしも微妙に刀を扱っているだろう? その爪もな」
「あーうん、そうだねぇ。ある人を参考にしてるかな?」
「……爪の使い手か?」
「いんやぁ、刀だよ? 六爪流」
「ろっ、六爪流!? なんだそれは!?」
「こう……指の間に挟んで?」
「……人間なのかそいつは?」
「……どうだろうね」
BASARAの世界は色々とあり得ないからなぁ……。
電撃やら火焔やら闇やら神聖やら、果てにはロボやら筋肉やら猪やら……。
「まぁ、どちらかと言ったら」
「ッッ!」
喋りかけると同時に足で地面を叩き、その衝撃を身体を通らせて無理矢理に彼の刀を弾く。
その隙に一気に離れてスキマを開く。開いたスキマには気味の悪い目や手が生えているので、恐らく紫がスキマから見ているのだろう。助けろよチクセウ。
まぁ、そんな事は無視しつつスキマに左手を突っ込んで、アルシエルとの戦いを生き残った、例の桜が描かれた扇子を取り出す。
「こっちが、私のやり方かな?」
「……扇子が、か?」
「いやいやぁ、なめてかかると痛い目に遭うよ?」
つーか、さ。
「そちらも本気出したら? 二刀流でしょ?」
「……ふ、失礼したな。では我も本気で参ろう」
そう言うとニヤリと笑い、両手で構えていた刀から片腕を離して二刀流になった。
左手に長刀、右手に短刀を構え、ビシバシと殺気を送ってくる門番さん。
あー、そういえば名乗りあってなかったや。
久々の一対一、正々堂々の試合だ。ちゃんとやらないとね!
扇子をバッと開き、桜をバックに桜の扇子を構えて格好良く決める!!
「中立妖怪、詩菜。いざ押し通らん!!」
「半人半霊、魂魄妖忌。いざ参る!!」