風雲の如く   作:楠乃

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carpe diem (今を楽しめ)

 

 

 妖力を幾重にも纏わせた扇子で長刀を受け止め、もう片方の短刀を爪で受け止め、衝撃で全て弾き返す。

 雪女やアルシエルみたいな遠距離中距離は苦手だけども、

 

 近距離なら、私は勝てる。

 

「っ!?」

「あ、よいしょ!」

 

 速攻で近付き、回し蹴りで顔を蹴り抜き、視界を少しの間だけ暗転させる。

 更にもう一度顎に、逆方向から掌を打ち抜いてやる。

 

1MorePress(ワンモアプレス)!」

 

 防御があいてガラ空きの腹に、拳を捩じ込んで空に打ち上げる。完全に身体が浮いて、妖忌が何mか上に吹き飛ぶ。

 それに追い付き追い抜き、綺麗にお踵落としをお見舞いする。

 

「がはっ……!?」

「ほらよ!」

 

 両手両足で受け身を取った妖忌の頭を後ろから扇子でちょいと突いて、地べたに押し付ける。

 こうなれば、刀は振るえまい。

 詰み、かな?

 

「……ッ! なんのッまだまだ!!」

「ッと!? 弾幕撃てるのかいッ!?」

 

 と思ったら、いつの間にか居た『半透明の物体』から至近距離から弾幕を撃たれ、拘束を解かざるを得なくなった。

 弾幕を避けながら後ろに下がり、撃ってきたモノを見る。

 

 ……半透明?

 

「……ああ、なるほどね。それが『半霊』か」

 

 あの半透明でふよふよと浮いている物体が、妖忌の半人半霊である証明の半霊部分なのだろう。

 これからは片方二刀流に片方弾幕と、注意しなければいけないって事か。やれやれ。

 

「その通りだ……しかし早いな」

「それが取り柄だもんねぇ。けど、単純に二対一かぁ」

「我も見くびりすぎた。本気を出すと言っておいて申し訳無い……全力を、出させて貰う」

「はいはいどーぞどーぞ♪」

 

 出すのならさっさと出せよ、が私の本音である。そんなのに驕ったりするから敵に足元を掬われてドボンとかするのだ。

 

「……おぬしも八雲殿と似たような感じだな」

「失礼な。私はあんな厚顔無恥じゃグホッ!?」

 

 後ろから殴られたー!?

 振り向けばスキマが閉じていく!!

 

「自業自得、だな」

「……自業自得って事は妖忌もそう思っている証拠だよね」

「おいキサマパッ!?」

 

 能面のような怖い顔をした紫が妖忌に拳骨を落とし、何も言わずにスキマに引っ込んでいく。

 おうおう、怖いわぁ。

 

「おぬし……わざとやっただろう!?」

「まぁまぁ、双方が漸く全力を出すって事で、再開しましょうや」

「……ふん」

 

 扇子を開き、優雅に風を起こす。

 

 ……そう言えば、着物、風、子供ってなんかH×Hのカルトに見えるなぁ。

 ま、あんな相手を嬲る悪い癖はないけどさ。

 

 

 

 今度は何も合図無しに戦闘が始まった。

 妖忌は接近して刀を振るい、中距離から半霊が弾幕を出す。

 刀は先程と同じ様に受け流す事が出来るしそれほど脅威って訳じゃあない。

 問題は弾幕の方だ。

 私は今、この門番を倒そうとはしているが、殺そうとはしていない。

 私が弾幕を放てば、衝撃刃は容赦なく肉体を削る。

 それは、駄目だ。

 

「せいやッ!! さっきまでの調子は何処へ行った!!」

「弾幕は苦手なんだなッ!」

 

 刀を弾き飛ばして距離をとる。

 そうすると半霊も引っ張られるようにして、本体・妖忌の方へ飛んでいく。

 

 ふむ、まるでスタ○ドだなぁ。

 しかしながら彼等は飛ばされながらも弾幕を撃ってくる。後退と反撃が両立してるって奴かね。流石である。

 

 

 

 扇子を回し、私を中心にして反時計回りに回転する風を起こす。

 桜吹雪が綺麗に舞う。キレイダナー。

 

 ……ゴホン。

 思い切り扇子を振る事で、桜吹雪を猛烈な勢いで妖忌に飛ばす。まぁ、花弁だし腕が吹っ飛ぶほどの威力はない。皮膚はザクザクに切り裂かれるだろうけど。

 見た感じはブリー○とかのアレ。刀じゃないけどね。

 

「喰らえッ!!」

「ふんっ!!」

 

 妖忌が刀を振るとその先から薄緑色の弾幕が現れ、放射状に散らばっていく。速度は中々だけども、私が避けられない程じゃあない。

 桜吹雪に当たると弾けて、周りの桜吹雪と共に消滅した。巻き添えですかそうですか。

 

 こちらは……そうだなぁ……。

 片足を上げて、思いっきり振り下ろして地面に打ち付けるッ!

 

「『アバッツ』!!」

「なッ!?」

 

 自分を中心に振動波を出した。踏み付けられた地面から見えない壁が湧き上がり、周りを圧して行くのが感じられる。

 空気も地面も振動して、軽い弾幕は跳ね返され、妖忌は突然の地震に動けなくなる。

 

 けど逆に風も止まっちゃった。しかしまぁ、浮いている半霊も多少は振動が来ている筈だし。

 これで妖忌への道が開けたッ!!

 

 

 

「これで、終わりだッ!!」

「……やれやれ……詩菜殿は、かなりの無計画、無鉄砲。だな」

 

 妖忌は、そう言った。

 私が彼に到着するまでの、ごく僅かな時間の間にそう呟いたのが聞こえた。

 後から考えてみると、あの時間に呟くなんて絶対に無理だとは思うけど、向こうも武道の達人な訳だし、もしかすると走馬灯の一種でも起きていたのかもしれない。

 

 声に反応し、私が無計画と言われる理由を考えてみる。

 無鉄砲……?

 ん……半霊は、何処に行った?

 

 

 

「良く周りを確認してから動け。速度も台無しだ」

「なんッ!?」

 

 刀を裏返し、今までとは段違いの速度で私の後ろに回り込み、

 容赦なくその峰部分を、首に振り落とした。

 

 

 

「ガッ……!?」

「我もだが、おぬしもまだまだだな……まぁ、互いに精進するべきのようだ」

「……く」

「齡百五十。そこらの雑魚妖怪にこの門は通らせぬよ」

「……百五十……?」

「うむ……」

 

 百五十……ねぇ……。

 

「今はこの場は去れ。八雲殿の友人かも知れぬが、この門は通せぬ。我としても、詩菜殿をむざむざ死なせる訳にはいかん」

「……なるほどね……私を斬る事はしないと?」

「ああ」

 

 ほぉ……?

 それはそれは、中々甘い判断をしてくれる。

 私としても有難い事だ。

 

「あー、危なかった」

「……ッ!?」

 

 普通に立ち上がり、当てられた首の根元をさする。

 ……うん、特に異常なし。無意識にでも衝撃を無効化する癖が着いて来た。良きかな良きかな。

 妖忌さんは私が立ち上がった瞬間に、私の元を急いで離れる辺り、流石だと思った。まる。

 

「馬鹿な……急所にちゃんと当てた筈だッ!?」

「ああ、当たったよ? 本当にギリギリだった」

 

 打撃は効かない。

 説明してなかったかなぁ?

 私は私の能力によって、『衝撃』は全て無効化する。

 

「……まぁ、確かに物事を良く見ずに焦ったのは不味かったね。反省するよ」

「ふん……何故効かなかったのかは分からぬが、もう一度落とせば良い」

 

 再び二振りの刀を構える妖忌。

 その身体は、微妙にボヤけて見える。

 

 いや……寧ろ、白くて半透明のモノが二重に重なって見える。

 

「……半霊を取り込んで、身体強化したのか……なーるへそ」

「そうだ。これならおぬしに追い付ける」

 

 原理は良く分からないけど、まぁ、二人の力が合わさって強くなった的な感じなのだろう。

 

 妖忌もね。ふふふ。なーに言ってんだか。

 

「状況確認出来てないのは、そっちだよ? フフフ」

「……なんだと?」

「何故、今のが防御されたのか。それの原因をまだ妖忌は見付けてない」

「……」

「大体さぁ……?」

 

 齡、百五十?

 

「『私は四百五十歳だ』フン、そこら辺をわきまえな」

「!? なんだとッ!?」

 

 言霊紛いの『衝撃を受ける言葉』を受けな。

 驚愕して反応が遅れてろバーロー。

 

「因みにもう一つの二つ名は『鬼殺し』さ。肉弾戦で負けて堪るかっーの」

「な……ッ……」

「ってなァッ!!」

「グハッ!?」

 

 音速を超えて真正面から殴り飛ばす!!

 

 上手い具合に位置も重なって、妖忌の吹き飛ばされた身体で門が開いた。

 ……やり過ぎてないよね? 骨が折れたりするのはあるかも知れないけど、死んだりはしてないよね……?

 

 

 

 ……うん、見た感じだと骨が数本折れてるけど、大丈夫! うん! 死んでない! 死なない!!

 

「……キ、サマ……」

「お、更に意識まであるとは。もしもーし?」

「……ふんッ……ふ、ぅ……」

 

 あらら、更に立ち上がれる程の体力まであるとは。

 半人半霊だからかな? 肉体の損傷はそれほどヤバイ訳でもないとか。

 ……ありえたり、するかも?

 

 そんな事を考えていると、妖忌さんは姿勢を正して謝ってきた。

 ……骨が折れてるのに正座とは、よくやるよ。

 

「……詩菜殿にお嬢様の能力が防げるのなら通そう……そして非を詫びる」

「能力はへーき。年齢の事なら別に良いよ? 私は紫と違って歳とか気にしなベフッ!?」

「貴女は勝ったのならさっさと来なさい!」

 

 あれ、紫しゃん、いつの間にそんな近くに。つーか真後ろに。

 

「早く行くわよ。大体始めから全力を出せば良かったのよ」

「へいへい……」

 

 私と拮抗するぐらいの実力者って、結構居ないんだよ……?

 

 

 

 あ、そうだ。

 

「妖忌さんやい」

「……なんですか?」

「敬語もいらないからね? ……で、また試合でもしない? ってお誘いのお話」

「ふん……良いだろう。いつでも付き合おう。お嬢様に迷惑がかからない範囲でな」

「ん、了解! さて、行こうか紫」

「……そうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、お嬢様。ってのは?」

「言ってなかったのに。妖忌にはあんな返し方をしたのね……」

「テヘッ☆」

「……」

 

 ちょっと、黙らないでよ……。

 何か私が痛い子みたいじゃないの。

 

「痛い子じゃないの……」

「なんか言った?」

「いいえ……」

「何が痛い子だってェ!?」

「聴こえてるじゃないの!?」

 

 とかまぁ、言い合いながらも屋敷の奥へと進む私達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷はかなり広かった。庭も含めたらちょっとした学校ぐらいあるんじゃないかな? とは言えもう学校に通っていた記憶も大分薄れているけどね。

 中庭は見事な枯山水だし、本当の純和風って感じ。

 

 ……いや、そんな事を言ったら現代から千年も昔なんだから純和風の何物でも無いんだけどね。

 

 

 

「……詩菜。貴女、何も感じない?」

「? いんや?」

「そう……それなら安心なのかしら……」

 

 ん? ……何も感じない?

 ……っーて事は、能力がここまで及んでいるって訳?

 

 ……無差別に能力を放っているっていうの?

 そんな危ない事をしている奴に、どうして私を逢わそうとするの?

 

 あ〜……そこら辺の事を紫から聞いてないや。

 でもまぁ、今更訊くのもなぁ……まぁ、どうにかなるでしょ? という感じで進める私。

 

 

 

 ちょうど私達が庭に面した廊下を歩いている時。

 その庭に、見た事もない程の巨大な桜の樹が、庭に植えられていた。

 

 見事な桜だ。

 ちょうど満開になった桜の花弁が、はらはらと落ちていく。

 

 

 

 見ている内に、転生する前の事を思い出す。

 

 誰にも話したくない、中学生の頃。痛かった私は死んだらどうなるんだろうと無駄に考えて、それが格好良いと信じていた。死んで消えて、その後に何があるんだろうって。

 ……今は妖怪だけど、生きる事で精一杯だ。

 死ぬとしても、殺されるのだけはいやだなぁ。

 せめて事故か自殺か。とりあえず恨み辛みが残らなければ、それで良いかな?

 

 

 

「……詩菜、本当に大丈夫なの……?」

「ん? 何が?」

「……あの樹が、気になるのかしら?」

 

 まぁ、何でこんな事を思い出した原因は分からないけど、あの樹を見て思い出したのは確かだ。

 でも思い出した内容は兎も角として、死に惹かれるような感情や衝撃は出てないけどなぁ。

 

「そうだね……なんかこう、惹かれる感じがあるね」

「ッ……!」

 

 惹かれるっていうか、記憶を呼び起こされるって感じかな。

 まぁ、今の所悪影響は何もないかな。

 

「ま、そんなどうでもいい事は置いといて、逢わせたい人物って?」

「……え?」

「……? なに?」

 

 なんか顔に付いてる? さっきの妖忌とのアレで桜の花弁とか? ないか。

 今ので何かデジャブを感じたけど、気にしない気にしない。

 

「……いいえ、惹かれていても大丈夫のようね」

「?」

 

 なんのこっちゃ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここよ」

「お邪魔しまーす♪」

 

 とある部屋に通され、そこで私は一人の少女と出逢った。

 

 今にも崩れ倒れそうな程に色白くて、病気の時のような青白い肌の色。

 腕や顔は痩せ細り、特に腕はちょっとした事で折れそうだ。

 

「ねぇ……大丈夫? 君?」

「……ええ。今日は調子が良いの。初めまして『詩菜』さん」

 

 ここまで近付いて、ようやく気付いた。

 この娘だ。『死を誘う程度の能力』の持ち主は。

 

 目の下に隈が出来て、悪い言い方だけど『今にも死にそうな不健康さ』を持ったこの人間。

 さっき見た桜の樹も同じだ。あれは私が見たから誘おうとして、転生する前の事を思い出したんだ。

 自殺や死についての事を。強制的に。

 

 能力で無意識に抗った私は、今になってどれだけヤバイ状況か、ようやく理解した訳だ。

 

 

 

「……貴女の名前は?」

「私は……『西行寺(さいぎょうじ) 幽々子(ゆゆこ)』よ……よろしくね?」

「ッ……よろしく」

 

 この娘は、危険だ。

 今のよろしくの部分で出された握手で触れ合った瞬間、一気に引っ張られそうになった。

 自傷で自殺どころか、魂ごと引っこ抜かれそうになる感覚。

 

 やばいなぁコレ。

 ……前世で能力無かったら、性格がバッチリなのになぁ……あ、男だったらの話ね?

 

 

「どう?」

「……どう、って?」

「精神的に貴女は平気なの?」

「……んーまぁ、大丈夫かな」

 

 油断しなければどうって事はないね。

 ……これで後はもうちょっと小さいロリなら……。

 

 

 

「そう、良かった……!」

「んで、私は何をすればいいの?」

 

 逢わしてハイお仕舞い、なんて筈がないだろうし。

 

「ああ……そうね、彼女の友人になって欲しいの」

「ふぅん? 友人?」

 

 なにかがおかしいなぁ。と思った時に紫からの念話が届く。

 まぁ、彼女の意識がハッキリとせず、今も半分寝ているかのような状態じゃなかったら、さっきの会話も普通に交わしたりせずに念話で話すんだろうけど。

 

『幽々子は……自分の能力を疎んでいるの。自分で能力を操れず、近くのヒトを無差別に巻き込む自身の能力を……』

『……なるほどねぇ』

『自殺を彼女は望んでいる。けれど……強すぎる能力は転生した後も残り続けるわ』

 

 しかも『死』についての能力。

 輪廻転生に関係深い能力は魂に刻まれているってか……何処かで聴いたような話だねぇ。

 

『そうならないように……彼女に生きる希望を与えて欲しいのよ……』

『……それが依頼?』

『ええ……』

 

 

 

 ……オッケーオッケー。よーく分かった。

 けれど、

 

『依頼されたばかりで言うのもアレだけど、私の見た感じ、幽々子の自殺は止められないと思うよ』

 

「ッ……!」

 

 そう念話で告げた瞬間に、紫の顔が一気に強張った。

 

 私は閻魔でも死神でもないけど、何となく解る気がする。死相が見える。

 黒い線や点が見えたりはしないけど、既に彼女は現世を見てない様に見える。

 自分の死期を悟った、覚悟の目付き。

 寧ろ、自分の死期は自分で決める。って感じかな?

 

 ……なんか、それはそれでムカつくな。そういうの。

 

 

 

「……友人なら、幽々子って呼んで良いかな?」

「ええ、そう呼んでくれると嬉しいわ……」

「じゃあ幽々子、ちょいと失礼して」

 

 ドアカバーみたいな帽子をずらし、ふわりと頭を撫でる。

 

 ……あぁ……ふわふわで気持ち良いなぁ……。

 くしゃくしゃして~、しゃかしゃかと撫でて~、もふもふして~。

 あ~、癒されるわ~……♪

 

 

 

 ふぅ……と堪能してから、

 そんな事は置いといて、ようやくの本題。

 

 妹紅の記憶操作の応用。

 生きる気力、活力、そういった精神力にちょいと衝撃を与えて活性化させてみる。

 

 ……が。

 

「『ショック』!! ッッ痛!?」

「いやぁッ!!」

「……っ、あぁー……イテー……」

 

 私の能力が発動した途端に、幽々子の能力が逆流して、私の手を焼き焦がした。

 幽々子の髪の毛には何ら異常はないのに、私の右手の小指は既に『炭化』している。

 ……おっと、畳が灰で汚れちゃったよ。あららら、骨が零れてく。

 いかんいかん。人様の家を汚してしまうとは。でもまぁ、いつもの事以下略。

 

「……凄い能力だよ、ホント」

「ッ大丈夫!?」

「私は平気。けど幽々子は……気絶したか」

 

 能力の急激な作用効果で気絶したのかな?

 

 ……うわ、炭化した部分から漸く出血が……グロッ!?

 

 

 

 幽々子を寝室に寝かして、私と紫は話し合いを始める。

 因みにさっきの炭化した右手の小指は、既に神力で修復した。

 ……微妙に痺れが……うん、あるようなないような……。

 

 まぁ、兎にも角にも、幽々子の能力は、

 

「……人間には重すぎる能力だね」

「そうね……」

 

 いつもの紫みたいな元気が、今の紫にはない。

 よっぽど『友人』が死のうとしているのが堪えているのか……それとも……?

 

「紫も能力で遮断しているの?」

「ええ……貴女は、相性が良いのかしらね?」

「……相性が、って……そんなに?」

「少なくとも……今の私は妖忌とは全力で戦えないわ」

「……あー……そういう事ね」

 

 私が予想していた以上に、『死に誘える範囲』はかなりの広範囲だったみたいだ。

 妖忌は半人半霊だから影響が薄く、私は能力で常時遮断している。

 

 確かに……相性は抜群かもしれないね。

 

 

 

 でも、それだけ。

 

「……依頼は達成出来ないだろうね」

「くっ……!」

 

 

 

 紫の悔し泣きをじっと見るしか、私には出来ない。

 知り合って一日も経ってない人に親身になれない私に、紫を慰める言葉など持っていない。

 

 ただ、傍に居てあげるだけ。

 

 

 


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