風雲の如く   作:楠乃

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旅の一幕、の続き

 

 

 

 牡丹を背負いながら、旅を続ける私。

 

「……」

「……まぁだ起きないし、どうしたものかね」

 

 牡丹が気絶したまま日が変わり、そのまた次の日も過ぎていった。

 彼女の母親を殺した時も、まぁ、丸一日ぶり寝ていたみたいだし……。

 

「……つー、かッ! 重いッ……!」

 

 スキマに押し込む訳にもいかず、丁寧に背負いながら(?)道をのっしのっしと歩く。

 

 

 

 そんな中、通り過ぎていく行商人が変な眼で見てくる。

 大方『幼い姉妹の旅をしていて、片方が妖怪に何か襲われて、命辛々逃げ出してきた』とでも見られてるのかしらね。

 ま、妖力で攻撃されたから微妙に妖気が残ってる。みたいな言い訳も出来るし、なんか色々と物をくれるし、良い事ずくめ……なのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うげ」

 

 そうこうしている間に、雨が降ってきた。

 通り雨でもないみたいだし……こりゃあ何処かで雨宿りかな……。

 別に私単体であれば、雨に濡れても良いのだけれど……牡丹が居るとねぇ。唯でさえ能力の過剰使用で疲弊しているのに、身体を冷やしてしまうとなると本当に危なくなる。

 

 うわわわ、雷まで降ってきた。夕立か?

 こりゃ本格的に何処かに避難しないと不味い。

 

 と、丁度良く道の脇に雨宿りが出来そうな小屋が。

 ここは町からも遠いし、旅人の休憩所として作られたのかな?

 ま、ありがたく使わせて頂くとしますか。妖怪だけどな!!

 

 

 

 ……ん?

 近付くまで分からない程に隠されてるけど、妖怪祓いの術式が張られてるな。

 ……まぁ、人間の休憩所にするのなら必要不可欠……か。

 やれやれ、仕方無い。

 

 スキマから布を取り出して地面に敷いて、そこに牡丹をゆっくりと寝かす。更に濡れないように布を被せる。

 ……そろそろ洗濯すべきかな。この布。見るからに汚いし。けど今はこれしか無いんだよなぁ……。

 

 ま、そんなどうでもいい事は良いとして。

 

 

 

 妖力オフ、神力オン。

 寧ろ全身を神力でカバーする感じで。

 結界内に侵入。

 

「……痛っ! やっぱ、キツイ……」

 

 幾ら神力を使えるとしても、私のベースは妖怪だ。

 神力で幾らコーティングしていても、私の身体はジリジリと祓われて消滅し始めていく。

 

 全身が焼かれつつも何とか中に入り、小屋の奥の壁に貼られていた御札。

 牡丹と私がここで休む為にも、ちょいと御札と辺りの結界を構成する中身・回路を弄らせて貰うとしますか。

 

 

 

 こういう時に、天狗の里で妖術を、守矢の神社で神力の扱いを習ってて本当に良かったと思うよ。

 いやぁ、いつの時代も学ぶ事は重要だねぇ。

 使えるかどうかは別として。だけどね。

 

 ま、とりあえず私が遠隔操作出来るようなシステムでも組み込みますか。

 それにしても……実に良く出来た御札だ。

 起動している結界の強度、耐久力、妖怪と人間の選別、どれも綺麗に収まっている。

 何処かの高名な陰陽師の御札かね? いやはや出会いたくないねぇ……。

 

 

 

 よし。

 

 外から出て、再度牡丹を担いで小屋に入る。

 結界は現在機能してはいるが、私だけを拒絶しないという条件が付いた結界を張っている。

 私が認める奴以外は入れないという結界だが、まぁ……紫やら幽香とか、強い奴ならぶち壊せるだろうけどね。あとはここの結界を作った人とかなら。

 

 フゥ……ようやく座れる場所、及び寝床にありつけたなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーッ、と雨音が響く。

 雷雲は過ぎて行ったのか、土砂降りでもなく普通に降っている。

 

 ……こういう静かな光景・天気は嫌いじゃない。寧ろ大好きだ。

 小屋の入り口の柱に寄り掛かって、じっと雨が降っているのを見る。

 いつもの私なら、雨を浴びながら暢気に道を進んでるだろうけど、牡丹がいるので我慢してみる。

 人間なんだし、風邪にでもなったら困る。手間だし色々と心配になる。

 いやまぁ、この先もしかしたら共に旅をするかもしれないじゃん?

 

 ……何処の親だよ、私は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨の中、道を通り過ぎていく旅人達。

 降り始めてから既に相当の時間が経っているし、雨宿りでこの小屋に入ろうとする人は居ない。

 雨笠やら雨着やらを着た通行人が目の前を通り、目礼をしながら過ぎていく。

 牡丹は中に入らなければ見えないような位置に寝かせているし、私は妖力神力共にオフにしているから別に見た目でバレる事もない。

 

 まぁ、入ろうとする輩が居たら、追い返すかスキマで何処かに飛ばすけどね。

 

 

 

 静かだなぁ……実に静かである。

 

 眠くもないし、特段集中してるつもりもないけど、気分が物凄く落ち着いているのが解る。

 鬱な気分って訳じゃないし普通のテンションなんだけど、何処か達観した気持ちで風景を眺める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨はなかなか止んでくれない。

 

 代わりに、こっちの方で変化が起きそうだ。

 

 

 

「……ッ……」

「お? 起きたかい?」

 

 神代(こうしろ)牡丹(ぼたん)、ようやく起床。

 睡眠時間は恐ろしい事に40時間。

 まったく、どこの徹夜した受験試験後の学生だよ。

 

 

 

「……あなた……ずっと看てくれてたの……?」

「どうせ暇だしね。やる事もないし」

 

 面白くもないし関係もない奴だったら、あの場で捨てていただろうけどね。

 能力も惜しいし、面白いから助けただけだよ。

 

 ……あれ? なんでこんなツンデレ風な受け答えをしてるんだろう。私?

 

「……ま、今日はここで寝泊まりかな。寝床があるだけ充分」

「……どういう、事……?」

「ん? そのまんまの意味だけど?」

 

 スキマっていう便利な物があるけど、アレばっかりに頼ってちゃ駄目だしね。

 こういう所は無駄にしっかりしている私。

 よし、今日も『無駄』って言葉を使えたぞ。うん!

 

「……そうじゃなくて……何故助けたの?」

「? さっき言ったでしょ?」

「……え……?」

「『暇だから』」

「………………」

 

 

 

 多分、

 助けられた方からしたら、ある意味最悪な理由だと思った。

 

 まぁ、それ以外に説明出来ないしなぁ……ハハ。

 

 

 

「もう真っ暗だし、雨も止む気配がないし、さっさと寝るかねぇ」

「……」

「……むぅ、喋らない相手はやりにくい」

「また……私があなたを襲うとか……考えてないの……?」

「あー、まぁね。考えてないとは言わないけどさ」

 

 実質、牡丹に私を殺せるような記録があるとは思えない。

 牡丹の実年齢を知らないけど、そんな幼い人間がそんな思い出を持っている筈がない。

 

 幻覚なら弾けるし、前みたいな金槌とか打撃なら跳ね返して粉微塵にしてやるし。

 物を壊した記憶を私に再現、っていうのなら危険だけどさ。スキマと衝撃を使えばなんとかなると思うんだよね。嫌味な考えだけど。

 それに使ったとしても、また寝込んで私が世話して襲ってきて負けて寝込んでの繰り返しになると思うんだな。

 

 

 

 ……ま、その内なんとかなるでしょ。と希望を抱いてみる。

 

「……なんで……」

「まぁだ言うかこの娘は」

 

 あぁあ、いやだいやだ。

 信用するって事が分からずに育てられたっていう娘っ子ってのは。

 

 ま、そんな深い溝も強引に飛び越える。

 

「よいしょっと」

「……!? ……ちょっと、なんで……入ってくるの……!?」

「この毛布は私の。おk?」

「答えに、なってない……!」

「仕方無いじゃん。これしか無いんだし」

 

 という訳で、いつぞやの彩目みたいに布団に潜り込む。

 あぁ~……温かいなぁ~……。

 

 

 

「……私に触れてたら……記録、どんどん視られるよ……?」

「ふーん、それは困るなぁ……」

「……言ってる事と、やってる事が……違うよ……!?」

「私だもの」

「……意味不明……!」

 

 現在の格好。

 牡丹と私が同じ方向を向きながら並んで寝ていて、私は牡丹を背中からギュッと抱き締めてる状態。

 色々な意味で、この格好はヤバい絵に見えるかも。

 けどまぁ、私よりも牡丹はちっちゃいし? 姉妹に見えるって事にしとこう。うん。

 

 しかしまぁ、確かに牡丹に触れていると色々な事を思い出してしまう。

 幽々子、アルシエル、文……聖、勇儀と萃香、彩目、紫……幽香、諏訪子と神奈子、天魔……。

 

 

 

 ……あ、ちょっ、タンマタンマ!

 流石に前世の記憶は駄目だよ。

 

 という訳で『式神の私』の能力『境界を操る程度の能力』を発動。

 ……前からこういう姿の見えないような境界を弄くる練習をしておくべきだったなぁ……。

 いきなり自分の記憶のロックとか。難易度高すぎるわぁ。

 

 

 

 ロック完了。意外にもあっさり終わった。

 ……うし、前世の事は思い出さないし、万事オッケーかな?

 ま、後で解除するけどね。覚えておきたいし。

 そういう意味では『前世の記憶がある』という部分を見られなければ、大丈夫かな。

 

 

 

「……本当に……神様じゃなかったんだね……」

「神様でもありますよ? 因みに御利益は『旅の安全』と『風の神』」

「……微妙な……」

「失敬な」

 

 

 

 ……うげ、月の話もアウトだな。

 ロックしまーす。

 

 ほい、成功。

 間違って記憶全消去とか、有り得そうで恐ろしすぎる。

 

「……所々、やけに見えない部分が……?」

「ふむ……まず能力を鍛えるとしたらそこだね。自分が知りたい情報だけを視る。とかね」

「なるほど……」

「……つーか……寝ないの?」

「……眠くない」

「……」

 

 私に、これから朝が来るまでこの恥ずかしい記憶を思い出す羞恥プレイに耐えろと?

 ……と、口には出さずにそう考えたところで、牡丹から言葉が帰ってきた。

 

「……それなら……私から離れれば良いのに……」

「それは負けたみたいで腹立つからやだ」

「……やだ、って……」

「本当に……なんか、『サトリ』みたいだね。牡丹って」

 

 頭で思った事を普通に視て読み取ったし。

 それを再生出来るんだから、もしかしたらサトリよりも強いのでは?

 顔に焚き火で弾けた火の粉が当たって逃げ出したサトリよりかは、断然牡丹の方が勇気があると思うけどね。

 巨大な妖怪猿に真っ正面から向き合ったとか。普通人間は出来ないよ。多分。

 

 ……とは言え、私も『サトリ』なんて人間の時の記憶でしか聴いた事がないけどね。

 

「……なんで……」

「ん?」

「……なんで私を……牡丹って、呼ぶの……?」

「え? 君の名前でしょ?」

「そ……そうだけど……」

「なら良いじゃん」

「……別に……あなたと私は……そんなに親しくないでしょ……」

「………………おりゃ」

「……どこ触ってんの……!?」

「胸!!」

「断言しないで……!」

 

 既に男性歴は130年、女性歴は200年だし?

 彩目にもオッサンと言われても仕方無いと思う。

 てか寧ろ言われた方がg(自主規制)

 

「……この……変態……!」

「妖怪なんてそんなもんさー」

「嘘でしょ……」

「まぁねぇ~♪」

「……駄目だ。この神様」

 

 ……うん。まぁ、否定はしない。

 

「……してよ……」

「へへへへ♪」

「……」

 

 

 

 まぁ……一昨日よりは、仲良くなれただろうから、

 これはこれでオッケーっしょ? ふふん♪

 

 

 




 徹夜の受験生で思い出しましたが、そういえば今日はセンター試験でしたね。
 こんな時間帯に投稿しておいてアレですが、応援の言葉を。
 頑張って下さい。

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