タイトルに深い意味があるなんてお思いですか?
……いや、意味なんて無いんですけどね? その時に思い付いた事を入れてるだけですし。
ああ……夏だ……。
妖怪の山に一番近い人里の、喫茶店というか茶菓子屋というか、兎に角そういったお茶や和菓子を手軽に食べれる、そんな店先にある長椅子に腰掛けながら、無駄にそんな事をぼんやりと考えた。
お店の軒先が日を隠してくれて、とても涼しい風が吹いてはいるのだが、如何せん気温の高さだけは本当にどうしようもない。ああ、ムカつく。
ここまで暑いと汗ばむ服が気持ち悪くて『何故ヒトや人間は服を着ないといけないのだろう』とかいう考えが頭を過り始める。どうしたものやら。
……まぁ、そんな事をしたら天魔やら天狗やら、その他変態どもが襲い掛かって来るから絶対にしないけど。
天狗。で思い出したが、そもそも私がこんな場所でグータラしているのも、ちゃんとした理由がある。
春先に起こった、妖怪の山争奪戦。鬼と天狗の頂点争い。
あの騒ぎを何とかしようと、私はこの三ヶ月間程ずっと山を走り回っていた。
山のルールや規律を理解していないのか守らない鬼に説明や、悪さをする鬼を矯正する為に東に走り、
いがみ合って喧嘩ばかりしている犬と猿のような天狗と鬼の仲を、取り持つ為に西に走り、
酒を呑んでばかりの酒呑童子というか単なる幼女を、仕事に駆り出す為に南に走り、
唯一鬼の中で(それなりに)真面目に取り組む姉御に、酒で慰められつつ調停をする為に北へ走ったりした。
……なんで私がこんな事をしないといけないのだろうか……等と何度考えた事か。
……ま、それもつい昨日までの話だ。
これ以上私が仲を取り持っていては、一向に彼等の仲は進展しない。
『私』という存在が居なくとも、互いに理解し合える様に、ね。
だから私は身を引いて、漸く一息を入れることが出来た。
ああ……団子が美味い……。
背後の壁に寄り掛かり、顔を上にあげて爪楊枝をかじる。
道を通る人々が奇異の視線を投げ掛けて来るが、とことん無視する。
漸く手に入れた休息の場である。邪魔する奴はぶっ飛ばす。
それにしたって暑い……。
もしかすると気温は35℃位はあるのではないだろうか……?
昔ながらの外気温と風潮、って奴かしらねぇ……。
等と考えていると、すぐ傍に誰かが立つ気配。
でもどうでもいいので顔を向けたりはしない。
「……相席、良いか?」
「どーぞ、御自由に」
自分の団子が置いてある皿をずらして、相手のスペースを作ってやる。
明らかに、誰も近付くんじゃねぇ。みたいな雰囲気出してるのに、わざわざ相席するなんて何処の酔狂な野郎だろうか。
でもまぁ、声は女の声だったから天魔公認詩菜ファンクラブの阿呆な天狗とかではないだろう。
噛んでいた爪楊枝を出して、残していた最後の団子を口に入れる。
うむ、美味くて甘い。
目蓋を閉じて、良く味わって食べる事としよう。
紫から聴く所によると、予定ではどうやら『幻想郷』にある普通の人が住む場所は、この『人里』だけらしい。
妖怪の山を中心にして幻想郷を創るのか、人里を中心にして幻想郷を創るのか。
まぁ。どちらにせよ人々が行き交うこの村は、その時『幻想郷が形を成す』まで妖怪の襲撃禁止令が、紫から下っている。
妖怪の山の妖怪達は、山に入ろうとする人間を抑えつつ、人里を襲おうとする流れ妖怪を秘密裏に熨すとかいう役割を負っているのだ。
この村に住む村長やそれぐらいの権力を持つそういった人々には、ちゃんとそれが紫自身から話されており、彼等はこの村がそういった『仕組み』に組み込まれる事に対して、理解し受け止めているのだとか。
何気に紫の考えや思想にはちゃんと理解してくれる奴等はいるのだなぁ。と考えてみたり。
いやはや、彼女の根気強い活動によって、ここまで『輪』が出来ているんだなぁ……。
「……その団子、美味いのか?」
「そうだね。店の人じゃないけどオススメするよ」
「そうか……おい! 私にも同じ物を三つくれ」
……確かこの店のオススメは『お萩』だったような気もするけど、無視無視。
それにしてもこの人、中々にしつこいな。
……質問されても声だけ返して、顔を向けない私も私だけどね。
……ああ、暑い……。
夏真っ盛りなこの人里。あちこちから蝉が五月蝿く感じるほどに鳴いている。
太陽が若干傾いて、私の伸ばした脚を焼き始めていく。
このままだと、恐らく私の爪先には鼻緒の跡がくっきりと浮き出るだろう。
……まぁ、然程美容に興味も感じないので放っておく。
生前というか前世の私も、日焼けクリームなんぞ塗らなかったからだ。その時は男だったんだけどね。
しかし直射日光が当たると暑い。ジリジリと焼ける。
自宅に帰ってさっさと寝るかね……?
……とか考えているときに、『厄介事』というのは舞い込んでくるものだ。
「きゃああぁぁ!?」
「妖怪だッ!!」
「誰か!! 退治屋を呼べ!!」
相席の奴がガタリと立ち上がるのを聴きながら、私ものっそりと動き出す。
ゆらりと立ち上がり、騒ぎの元へと向かう。
……まったく、休暇になりゃしない。
「山の奴等め、哨戒を怠ったな……」
「は?」
天狗と鬼の奴等め。私が居なくなった途端に手を抜きやがった。
人々の叫び声を聴くに、流れ妖怪がこの人里に流れ着いてしまったようだ。
山の方で警戒を怠ったから、この村に妖怪が来てしまい、人々が襲われてしまった。
……ハァ、全く。
カラン、コロン、と高下駄を鳴らしながら人の流れに逆らい、騒ぎの中心に向かう。
人混みを抜けてみると、蠍のような姿をした毒々しい色合いの妖怪が、大きなハサミで次々と人間に襲い掛かっている。
今のところ、死んでいる人は居ない……ように見える。
「へへへへははフフハハはははははははッッ!!」
……まだしも言語を喋る魍魎の方がまだマシだね。こりゃ。
完全に狂ってる感じだよコイツ。ヨダレ垂らしてるし、ああ汚い。
そんな事を考えつつ、奴に近付いていく間にもその妖怪は腕を振り回し里を破壊していく。
その行為でこれまた派手に人が吹っ飛んでいく。
馬鹿だなぁ。生き血を啜りたいなら、さっきから振り回してるハサミでチョン切ればいいのに。
……人里でこれだけの騒ぎが起きても、何か異変が起こる様子はない……か。
ま、山の方から誰か来る気配もないし、さっさと私が終わらせますかね。
「おい、そこのパピルサグ」
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒヒヒヒヒひひッ!!」
「……ダメだこりゃ」
会話が成立しやしない。何処の外道種族だよテメーは。
実は今日は満月で会話が成立したりとかは……ないか。計算しても今日は十日夜の月だし。
……ま、こういうのはさっさと始末するに限る。
地面を蹴って高速で近付いて、腹を思いっきりぶん殴る。
『衝撃』の内部に伝わらせ、殻の伝って骨や肉に伝わり、内臓や筋肉にダメージを与える。
内部から破壊したから激痛が走っている筈なんだけど、それでも意識を喪失せずにまだハサミを振るえるのは、やっぱ狂ってるからなのかね? この悪魔というか外道というか魍魎さんは。
ハサミもハサミらしく使わずに、単なる打撃に使ってきた。
そんな打撃なんてガードする必要も無しと判断し、もう一度ストレートを撃ち込もうとして、
その2つのハサミは、飛んできた大剣によって両断された。
「ギャアァアアァァァァァァァぁぁぁッッ!!」
「うっさい、黙りなさい」
今度こそ完璧に拳を当てて、人里から山に向けて妖怪を吹っ飛ばす。与えたのは弾き飛ばす衝撃だけだったから死にはしないだろう。死なないからこそ辛い死に際となる、ってね。
まぁ、後は山の方で処分してくれるだろう。恐らく鬼の腹辺りにでも……私にゃあとても美味そうには見えないけどねぇ。
「それにしても……まさか相席してきたのが彩目だとはね」
「……やっぱり気付いていなかったのか」
「ハハ、ゴメンゴメン」
後ろを振り向いて、先程の相席してきた奴を見る。
……我が娘は、苦笑いしながら人混みを抜けてきた。
それと同時に人々が物陰から出てきて私達の方へと近寄ってくる。
「おぉ、おめぇさん! あの妖怪をやっつけてくれたのか!?」
「あんなものチョロいチョロい」
「ありがとうな!!」
「そんな事より怪我人を心配しな。私達は団子屋に居るから」
「っと! すまねぇ!!」
「ありがとうよ!!」
「ッ担架!! 担架は何処だ!?」
「おらよっ!! 持って来たぜ!!」
元気な人々である。
あの様子じゃあ、もう二度と鍬なんか握れない程の重傷人が居るのに。
……命があるだけでもお天道様に感謝、って奴かね。
「……さて、団子屋に行きますか」
「相変わらずだな、母親殿は」
「私だもの」
「……だな」
で、帰ってきたお団子さん屋。今度は店の中の席を取った。
向かいに彩目が座る形で、再度団子を注文する。
どうやら店の人も、私が妖怪を吹っ飛ばしたのを見ていたらしく御代はタダだとか。やったね。
「あそこでぼーっとして、何を考えていたんだ?」
「それを言うなら、彩目もいつの間に帰ってきてたのさ?」
「ん? 私はついさっきこの村に着いたばかりだ。久々に自宅に戻ってみようと思ってな」
久々の自宅、ねぇ……。
「因みにどれくらい帰ってきてなかったの?」
「そうだな……お前が旅に出てから……一年くらいは住んでいたな」
とすると、そんなに久々って訳でもなくない?
たかだか数年じゃん。
「お前と一緒にするな」
「むぅ」
等と言い合っている内に、団子が運ばれてきた。
……うむ、やはり美味い。
幻想郷が出来る時までこの店は続いて欲しいものである。
まぁ、その頃までに今のこの技術がちゃんと受け継がれるかだけどね。
「……で、結局何を考えていたんだ?」
「ん? んー……山の事を」
私はここ最近の山の動きを彩目に話した。
鬼と天狗の喧嘩の話。
彼等の仲を取り持った話。
今現在、私の状態の話。
話している間にお団子が尽きてしまったが、何も注文せずとも新たな団子が運ばれてきた。
……この店は好い人過ぎやしないか? いやまぁ、良いけどさ……。
「……ま、まぁ色々大変だったみたいだな……」
「あんな大人数に勝てる訳がないのよ……」
あの時の恐怖を思い出し、つい机にばったりと伏せる私。
考えてもみて欲しい。数十の鬼が一斉に一人の幼女に襲い掛かっている光景を……!
「幼女って……威張る事じゃないだろ」
「まぁね……」
「……自滅してるし」
自分で言って悲しくなってきたよ。はぁ……。
そんな風に話し合ったり、御礼を言いに来た村長やらと話し合ったりしている内に日も暮れてきた。
村長は私達が『妖怪』だという事に気付いており、誤解して彩目が逃げ出そうとしててんやわんやの大騒ぎになった。という事件もあったが……。
まぁ、閑話休題。
「ただいまっと」
「ただいま」
自宅に二人一緒に戻ってきた。
久々の家族集合である。
……まぁ、そんな家族間の和やかな雰囲気をぶち壊す存在がいきなり現れる。
「「申し訳ない!!」」
と、同時に謝ってきた今日の哨戒担当の天狗と鬼。
……まぁ、昼前から人里でずっと過ごしてたし、その間家に鍵も何も付けず開けっ放しにしていたから、居間に土下座しているのも、まぁ、良いだろう。
だけどねぇ……仕事をしなかった罰は与えないとねぇ……?
「スキマに直行」
「「ギャアァァァ!?」」
躊躇なく、滝に直結させたスキマに放り込んだ。
ドボーンドボーンと、音が遠くから聴こえてくる。
更に遠隔操作でスキマを作り、滝を何度も下るスキマツアーを組み立ててあげる。
存分に後悔しやがれ。バカタレが。
しかしこれでもまだ優しい方である。
さっきの奴等はまだ真摯に謝ってきたから良かったものの、酷い奴等(特に鬼)は謝るどころか喧嘩を売って来る始末である。どうやらあの喧嘩で、鬼に私は随分と下に見られたらしい。
たまたまそれを見ていた文によると、喧嘩を売られた私は瞬く間に無表情になったらしい。
確かにあの時の私はかなりぶちギレていた。
鬼の大将の勇儀と萃香にスキマを使って鬼に教育を施して良いか? という許可を頂き、
(私の顔をみた二人は瞬時に許可を出した)
天狗の大将の天魔に山でちょいと暴れるけど良いか? という許可を頂いた。
(天魔は真っ青になってガクガク震えていた)
許可を貰った私は能力を使って酷いくらいに暴れ、その二匹の鬼は今では『とっても』大人しくしてくれている。
いやはや、嬉しい事である。
「……怖いぞ、顔が」
「あららら」
久々の家族団欒。
……という時に文が来た。
「お邪魔しますね~」
「よう、久し振りだな」
「彩目さんじゃないですか! お久し振りですねぇ」
「あ~、文? 飯、食べてくの?」
「ご馳走になります♪」
「……あいよ」
急遽材料追加だね。
こうやって文が私の食卓にお邪魔することは、この三ヶ月間の中多々あった。
……ま、食材持ってきてくれるんなら別に良いんだけどね。
「そうそう、天魔様と勇儀さんが謝ってましたよ? 『すまない』って」
「それ、今日の人里の話だろ?」
「おや? もしかしてその場に居合わせていたんですか?」
「アイツの腕を叩き斬ったのは私だぞ」
「あやややや、成る程。だからあんなに切断面が綺麗だったんですね」
ちゃちゃっと雑炊を作り上げて食卓に持っていく。
「随分とアイツの状態に詳しいね?」
「ええ、なにせ私の隣を通り過ぎて地面に叩き付けられましたからね。山であの妖怪の第一発見者は私ですよ?」
卓袱台に3つの椀が揃い、それぞれに雑炊を注いでいく。
具材が結構入っている為、流動食としては使えないであろうボリュームになっている。
「ありゃ、それはゴメンね。適当に吹っ飛ばしたからまさか文に的中する所だったとは」
「本当ですよ! 謝って下さい!!」
「イヤァ、ゴメンネー!!」
「うわぁ、すっごい腹立つ」
「でしょ?」
「なんでそんな得意気な顔なんですか……」
「ま、そんなどうでもいい事は放っておいて、いただきます!」
「いただきます」
「……何か釈然としないわ……いただきます」
うむ、中々に美味く出来た♪