風雲の如く   作:楠乃

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神々の日常

 

 

 

 その日の夕食。

 私がこの神社にお邪魔するという事を関係者、というか家族(?)に伝え『御二方が仰るのならば…』と警戒感バリバリだなぁ。とか呑気に思いつつ、巫女的な役職の人から疑惑の眼差しと共に出てくる夕御飯を神奈子・諏訪子と共にパクつく。

 

 うむ、やはり美味い。

 料理もちゃんとやってみようかね?

 生前でやった事なんてないけど、それはまぁ、妖怪という永い時間を掛けてコツコツと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで何だ?詩菜も神でした、って訳かい?」

 

 食事が終わり、私と話した事をその場に居なかった神奈子に話している諏訪子…様。

 ……あ~…慣れないなぁ…。

 どうしても諏訪子と呼び捨てるのが慣れない。

 

「物凄くちっちゃいけど神力があるから…まぁ、そうみたいだね」

「ふうん…妖怪なのにねえ……」

「それは私の台詞だよ……いつの間に信仰が…」

「……いつの間にこんな気さくになったんだい?」

「これが彼女の素の口調だから。同じ位置にいるんだし別にいいでしょ?」

 

 …位置、って……ああ『神様』っていう位か。

 ……随分と私はランクアップしたもんだ。

 

「…まあ、楽に話せる相手は嬉しいねえ」

「でしょ?」

 

 ……いや、神様がそんなので良いの?

 というか戻した方がいっその事、楽なような気も……?

 

「……あの…慣れてないから戻しても良いですか?」

「「駄目だ」」

「声を揃えられて否定された!?」

「ハイハイ、就寝時間だよ。寝よ寝よ!」

「詩菜はあの部屋だからね?今日、君が起きた時に居た部屋だから」

「は、はぁ…了解……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これより神力による術を教えるよ~」

「ワ~、パチパチ~」

 

 数日後、とある神社の部屋内にて。

 暇そうな諏訪子…を捕まえて神力の授業をお願いした所、あっさりOKしてくれた。

 良い人、というか、良い神様だ。

 

「まずは~そうだねぇ……神力はどういう物だと思う?」

「神力はどういう物か、ですか?……え~と、信仰が集まって結晶化したような感じ?」

「まぁ、そんな感じかな?信仰が私たちの存在を保ってくれるし、力になってくれるのさ」

「ふむふむ」

「私たちは人々に信仰されて神力がついただけ。元々はそんな妖怪と変わらないのさ。人外ってだけで」

「ふむふ……え?」

「ただ元となったその人外の存在が、人々から忘れられてしまって、神力しか私たちを構成する物が無いだけ」

「……驚愕の事実なんですけど」

「ま~ね~、っと神力から離れちゃったか。話戻すよ」

 

 ……続きが聴いてみたい…。

 元々の存在の『ナニカ』がどういうのか是非とも聴いてみたい……!

 けど、まぁ……私が頼んだ事が元々の話だし…探ろうとするのも野暮って奴かな?

 

「神力の起源みたいな事が分かった所でじゃあ実際に使ってみよう!って感じなんだけど……量が少な過ぎなんだよねぇ…」

「言われて漸く気付くような量ですから……」

「…また口調戻ってるよ?……まぁ、私が教えてる間は良いか…」

 

 実験出来るような量でもないし、妖力とかと違ってまた信仰されないと神力は集まらないと来たもんだ。

 そのデメリットの代わりに、使用すれば妖力霊力等とは比べられない程の威力・効果を発揮する…というメリットがある。らしい。

 

「諏訪子せんせー!なら術式を教えてくださぁーい!!」

「あ~、術式ね。ハイハイ、簡単に言うとね?…無い!!」

 

 

 

 ……ハイ?

 

「…そ、それはどういう事なんで御座いませうか?」

「どういう文法の使い方?……まぁ、つまりさ。信仰が神力の元って言う事を話したよね」

 

「じゃあその信仰とは何か?」

 

「ここでは人々が私達『神様』という存在に望んでいる事、願い事、御祈り、祈祷、願掛け、崇め敬い奉っている」

 

「そういう願いが信仰となり、信仰対象である私たちに信仰、神力が供給される。『願う』って事は『信用』『信頼』してるって事だしね」

 

「信仰を供給された私たちはその神力を使い、人々の願いを叶える」

 

「叶えられた人々は信仰対象を更に敬い信ずる。そして更に新たな願い事をする」

 

「民が願い事を、願い事が信仰に、信仰が神力へ、神力が神様に、そして神様が民に力を与える」

 

「この世は上手い事回転してるって訳さ」

 

「ちなみに妖怪からも信仰を集める事は出来る。そりゃあ連中も生きているからね」

 

「人間の恐怖心から生まれた妖怪。その妖怪が何かに畏怖を覚えれば、その何かに従順してしまう」

 

「従順された何かは妖怪から力をもらい、さらに強大になる。その対象が妖怪ならば更に困った事になる。はぁ……」

 

 

 

「……諏訪子せんせー、話がかなり離れてまーす」

「おっと…ええっと?術式が無い理由だっけ」

 

「神力及び信仰の元は、人々が自分じゃない何者かに対して『願った事』」

 

「願い事を叶えるには、その人の思う事をそのまま現実に転写してやればいい」

 

「想像が力になったのなら、その力も想像力次第であらゆる物事に影響を与える事が出来る」

 

 

 

「……要はイメージって事?」

「?……『いめーじ』?って何?」

「あ、いや!!そのっ、え~と……頭の中の景色?をそのまま現実に顕せばいい。って事なんですか?」

「んん~、まぁ、そんな感じかな?…願いなんて、みんな曖昧なものじゃん?」

「……いや、一概にそうは言えない、かと…?」

 

 なんでそんないきなり暗い話(?)になるのさ……。

 

「…まっ、今は試す事が出来ないだろうけどさ。溜まったら使ってみよ?感覚、というか使い方は多分それが一番早く分かると思うし」

「はあ……まぁ、頑張ってみます」

「諏訪子先生の授業、終わりっ!!」

「…なんやかんやでその呼び名、気に入ってたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ……まずは神力を溜めないとね。

 神力を溜めるには諏訪子先生の解説通り、信仰を集めなければならない。

 信仰は対象の願いを叶えるか畏怖を集めなければならない。

 

 ……いつも通り妖怪と人間の中間で、頑張っていれば良いかな…?

 あ、でも妖怪の立場に立とうとすると必然的に神奈子達と戦う事になるのか。

 …それは、イヤだな。勝てないし。勝てないし!

 

 んじゃまっ、妖怪が人間を護っていきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満月の夜。

 妖怪になってから、という訳でも無いけども、私は月を見るのが好きだ。

 月の光で本を読もうとした事もある。まぁ、当然光量が足りなくて出来なかったけど。

 …だから何という訳でも無いんだけどね。

 

 まぁ、要は神社の屋根に登って『月見酒』…をしようとしているだけである。

 誰が始めに言い始めたとかは分からないけど、いつの間にか三人で神社の屋根に登って、神奈子と諏訪子と私が共に呑み始める。

 現代じゃあ全く見れないであろう。満天の星空。大きな満月。

 

「晴れてるから綺麗だねー!」

「夜なのにこんなに明るい」

「……あれ?これ、御神酒じゃない?普通に呑んじゃったけど…」

「身体に変化無いんだったら大丈夫だよー」

「……どうだい?」

「大丈夫だ。問題ない」

「そりゃ良かった。なら…ほら、呑んだ呑んだ!!」

 

 ネタが通用しない!!

 ……当たり前か。随分と未来のネタとなってしまったんだなぁ。

 

「うぃー…かーなーこー?」

「うわっ、諏訪子!?どんだけ呑んだのさ!?」

「あたまがグールグル回るーアハハハ!!」

「ていっ」

「ん゛にゃ!?」

 

 当て身。首に手刀を落としてみた。無論衝撃操作(プラス)である。

 ……ここに来た当初には考えられなかった暴挙である。神様の首に攻撃するなんてね。

 

 バタリ……ズルズルッ!

 

「諏訪子が屋根を滑り落ちていく!?」

「解説口調!?っていうか、屋根でいきなり気絶させるんじゃないよっ!?っと!!」

 

 落下寸前の諏訪子をキャッチした神奈子。

 ……いやぁ、ここが屋根だって忘れてたよ。

 

「……降りて縁側で呑もうか……危ないし」

「…そうだね…諏訪子も寝かせて、静かに呑み直そうかね……」

 

 

 

 結局降りて、縁側にて酒盛りを再開する。

 諏訪子は後ろの部屋で既に就寝している。まぁ、あんな隙だらけの所に手加減なくぶち込んだし……当たり前か。

 諏訪子はペース配分が間違ってたんだよ……。

 

 私と神奈子はのんびり月見酒を続行中。日本の原風景とはまさに此処にあった。

 静かな夜。村もいつになく静かだ。代わりに妖怪達は騒いだりしてるんだろうけど。

 

 閑話休題。

 月を見ながら、酒をちびちび呑む。風情だね~。

 

 

 

「そういえば詩菜はなんで私達の所に来たんだい?」

「ん~、別に理由は無いよ?単に旅の途中で来ただけだからねぇ」

「無いのかい!?」

「…そんなに驚く事?」

「……呆れた…アンタ、もしかしたら私等に殺されてたかも知れないんだよ?」

「うん。今回で自分は弱いって痛感したよ」

「…旅は止めないんだね」

「私の生きる目的みたいなものだからね」

「生きる目的?」

「ん~、何て言うか……『自分探し』?」

「アンタはここに居るじゃないか?」

「いや、そうじゃなくて……」

「?……まぁ、探し物が見つかると良いね」

「ん、ありがと」

「……」

「…ん?もうそんなに酔ったの?赤いよ?」

「い、いや大丈夫!大丈夫だから!!」

「まぁ、良いか…?……」

 

 

 

 翌日の朝。

 

「うぅ~……頭痛い…」

「「飲み過ぎ」」

「ご、ごめんよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪という素性を隠し、最近ここで人助けを生業とする旅人……という良く考えれば矛盾点が当たり前のようにちらほらと出てくるような自己紹介をし、妖力を隠し紅い瞳も隠し、物凄く微量の神力を発しながら人々の助けを繰り返し、信仰を微妙に摂りつつ呑気に生きていく今日この頃。

 

 しかして、私の大元は『妖怪』である。

 妖怪の源『妖力』を確保しなければ、たったちょびっとの神力では、存在する事すら厳しくなってくる。

 いやまぁ、存在自体は可能なんだけれど、いつ神力が無くなってしまうか分からない恐怖と戦わねばいけない。それは困る。というかめんどくさい。

 そういう事で、ヒトを喰らうか、ヒトを脅し威し嚇さなければ妖怪でなくなってしまう。

 喰らうは気分的に無理。という事なので……。

 

 

 

 レッツ!寝起きドッキリ!!

 説明しよう!

 まず私が諏訪子または神奈子の部屋に忍び込む、これで準備は万端。

 壁に触れて『衝撃音反射』をセットし、外部に音が漏れないようにする!!そして残りは何かしらの『衝撃音』を増幅!

 つまり、後は私の『黄金の左手』とまで呼ばれた指パッチン(大嘘)を盛大に鳴らすだけ!!

 

 という訳で、諏訪子の部屋に侵入。

 神社の周りに結界、更に村の周り、そして辺り一帯に結界を張っている癖に、寝室には張っていないのだからなんだかなぁ、とか思いつつ。

 

「……し~つ~れ~い~し~ま~す~ク~マ~」

「ZZZ……」

「おやおや、ぐっすりとお休みのようで……では、失礼をして」

 

 …ッバァン!!!

 

「わぁぁぁぁぁぁァァ!?何ィィ!?一体何事ォォ!?」

 

 こりゃ凄い。見事なエコーがかかって物凄い耳障りな反響音がしてる。

 妖力も一気に戻ってきてくれた。あれだけ驚いてくれると、逆にこっちが驚くわ。

 

 まぁ、目的は簡単に達成出来ちゃったので能力を解除、ネタバレと行きますか!!

 

「てれってってー、お早う御座いま~す」

「詩菜!?何したのさ!?ていうかなんで居るの!?」

「いやぁごめんよ~?妖力回復するためには誰かを盛大に驚かさないといけなかったんだ」

「だからってなんで私なの!?神奈子にしなよ!」

「して驚くと思う?私としては即座にオンバシラで吹っ飛ばされると思うけど。軍神ですよ?」

「……だろうね」

 

 即座に反応して音の根源に対して的確に攻撃をしてくるだろうなぁ……反射で。

 いや、逆に寝相は最悪というギャップも……。

 

 …とか考えている内に、諏訪子がだんだん面白いオモチャを見付けた子供のように笑顔が広がっていくのに気付く。

 ……なんか、ヤバイスイッチ押しちゃった?

 あれ?なんだろう、物凄く嫌な予感が……。

 

「よし!詩菜!!神奈子の部屋に行くよ!!」

「え?ええっ!?吹っ飛ばされるって話をしてたじゃん!?」

「ここまで来たら精一杯驚かしてやるよ!!」

「人の話を聞いてないし!?」

「え?キミは妖怪でしょ?」

「聞いてた!?」

 

 

 

 当然の事ながら、私と諏訪子は吹っ飛ばされ満身創痍で朝の食卓を囲む事となった。

 能力が通用しないでっかいツッコミ、オンバシラ。恐るべし。

 

 

 

 


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