フラウに人生を狂わされる話 作:フラウすき
食堂の賑わいのなか、フラウの透き通った声はハッキリと聞こえた。
「自分の分の旅費は自分で出すよ。○○が足りない分も出してあげる」
その提案は、あまりにも甘美で。
どうせ一人旅、断る理由もなかった。
○○に着いてくるとなれば、純粋に同行者を求めているのだと確信できた。
ただ、理由だけが不可解だった。
「なんでですか?」
「私は、ほら、ちょっと人目につくから……」
そこまで言ったところで、○○は理由を悟った。
視線を落として、自信に満ちた表情が崩れるのを見た。
フラウが求めているのは護衛だ。
絶えず何かしらのトラブルに巻き込まれてきたのだろう。
国を傾けるほどの容姿だもんな、と思った。
「それなら、大丈夫です。護衛は任せてください」
「本当!?私一人が苦手だから、すっごく嬉しい!」
ぱあっと、文字通り花が咲いたような笑顔だった。
それでも気になるのは、二人分の旅費を賄える金の出どころ。
人探しのために旅をしているのなら、何かしらの技術や腕っぷしで金を稼ぐ必要がある。
――まさか。
春を売っている姿まで想像して、○○は金の出どころについて考えるのをやめた。
「詳しい話は宿でしましょ?ここはちょっと、賑やかだしね」
そう言って、フラウは笑って再び食事に手を付けた。
フラウはこの喧噪を「うるさい」とは形容しなかった。
この島に愛着が湧きつつあった○○にとって、その些細な気遣いが何よりも嬉しかった。
「私はソナウヘン通りの宿なんだけど、○○はどこに泊まってるの?」
「! 俺もそこの宿ですよ」
「すごい奇遇だね!私は一昨日来たばっかりだから会わなかったのかな」
そうして、くだらない会話をした。
趣味のこと、耳に入ったニュースのこと、この街のこと、明日の宿の朝食のこと……。
・・・
話すうちに皿の料理はなくなって、○○は手を迷わせながら水を取った。
水を飲み干せば会話が終わることに少しの心残りを覚えながら、一気に飲み干した。
「それじゃ、一緒に帰ろっか」
それを待っていたように、紙で口元を拭いたフラウが言う。
少し乱れた髪をかき上げて、微笑みながら。
その仕草があまりにも自然で、まるでフラウが自分の恋人のように錯覚してしまうほどに綺麗だった。
「はい!」
店を出れば、通りの活気は少し落ち着いていた。
陽が落ちるよりも少し早く、白昼と呼ぶには遅いくらいの時間。
人混みのない舗装された道は、そこに○○とフラウが二人きりであることを意識させる。
――このまま宿まで着かなければいいのに。
ふわふわした頭は、ばかばかしいことを考える。
明日、また魔物を狩りに行くことも、商人と交渉することも、なんだかとても些細なことに思えた。
気分の高揚が足取りに表れそうになったのを抑えて、フラウに合わせてゆっくり歩く。
きっと手玉に取られているのだろうけれど、それすら心地よかった。
「よお兄ちゃん、随分可愛い女を連れてんじゃねえか」
そんな能天気な気分を砕くように、背後から低い声。
図体ばかり大きい、この街のマフィアの下っ端がそこにいた。