ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話 作:川崎忍ノ介
「なあ、キルヒアイス」
銀河帝国首都、オーディンの元帥府。その執務室にて、部屋の主―――ラインハルト・フォン・ローエングラム伯爵が腹心たるジークフリード・キルヒアイス上級大将に語り掛けた。
「はい、何でしょうか、ラインハルト様」
読んでいた書類から顔を上げて、キルヒアイスが穏やかな声でそう答えた。
「お前は、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯の娘二人を知っているよな?」
「もちろんです。それがどうかしましたか?」
門閥貴族連合との決戦に関する話だろう、と予想したキルヒアイスはコーヒーを啜りながらラインハルトに話の続きを促した。
「―――彼女たちに惚れた。正直に言って二人ともモノにしたい。何か知恵を出せ」
「ブハッ!!」
「あああ熱―――っ!!」
口に含んでいたコーヒーを盛大に噴出した。ラインハルトの顔目掛けて。予期せぬ奇襲攻撃を受けたラインハルトは顔を押さえて床を転げまわっている。ちょっとした地獄絵図だ。
「何なんですか、いきなり! アレですか、元帥閣下ご乱心、というやつですか!?衛生兵でも呼びましょうか、それともアンネローゼ様を―――!?」
「やめてくれ、それだけは」
電話に手を伸ばしたキルヒアイスの腕に縋り付きつつ、ラインハルトが言った。
―――どうやら、乱心してはいても人道に外れた主張をしているという自覚はあるようだ。
キルヒアイスは、ラインハルトのコーヒーに染まった顔を見ながらそう思うのだった。
―――それは、故・フリードリヒ四世の葬儀が執り行われた日のこと。幾分早めに宮殿に到着したラインハルトは、暇つぶしがてらに庭を散歩していたのだ。
そこで、出会った。二人の天使と。
喪服に身を包み、噴水の傍らで水を掛け合って戯れる二人の少女。
目と、心を奪われた。
柄にもなく声を掛けようと思ったが、これまでとんとそんな機会に恵まれなかったために何と声をかけてよいかわからない。
『私が次の皇帝―――』だとか『エルウィン・ヨーゼフはまだ幼い―――』だとか言っていたところから察するにこの天使二人はエリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクとサビーネ・フォン・リッテンハイムだろう、とラインハルトは当たりを付けた。
エリザベートと、サビーネを探す侍女の声が届き、ラインハルトはそれで我に返った。
気付くと、二人はこちらに向かって駆けて来ていた。顔はお互いの方を向いておりこちらには気づいていない。避けよう、と思う間もなく三人は衝突した。
『キャッ!』
『しまった!』
よろける二人の天使。彼女たちを地に這わせるわけにはいかない、と咄嗟に思ったラインハルトは二人の身体を掴んで半ば無理矢理に自分と入れ替え、彼女たちの下敷きになって倒れ込んだ。
―――己の胸板に当たる『むにゅん』、という柔らかい感触。鼻腔をくすぐる天使二人の甘い体臭。控えめに言っても極上の快楽―――というやつだ、とラインハルトは遠くなりそうな意識を現世に留めながら思った。
よそ見をしながら駆け出して、誰かにぶつかり『倒れる』と思い咄嗟に目を閉じた。
(あれ、痛くない)
恐る恐る目を開けたエリザベートは、自分を抱きながら地面に横たわっている超の付く美青年と目が合った。
気遣わしげにこちらを見つめる憂いを帯びたアイス・ブルーの瞳。自分の身体に感じる軍人らしく引き締まった、無駄のない逞しい肢体。
エリザベートは、思わず顔が熱くなるのを感じて青年の胸に顔を伏せた。
(あ、男の人の匂い……)
顔どころか身体まで熱くなってしまった。
「申し訳ない、フロイライン。お怪我はありませんか」
イケメンは、声までイケているというのか。低く、それでいて透き通った、心地よい声色。
目でやられ、鼻でやられ、そして耳でとどめを刺されたエリザベート(サビーネも)であった。
「まあ、あなたがあのローエングラム元帥閣下なのですか?」
「父から、あなたへの恨みつらみを散々―――あっ」
しまった、とばかりに口を閉ざすサビーネに、ラインハルトは苦笑を返す。
「私は、誠心誠意帝国と陛下に対し忠勤を励んでいるつもりなのですが……どうにもあなた方の御父上の御眼鏡には叶わぬようで……我が身の非才を嘆くばかりです」
腰を抜かして立てない、と主張する二人の令嬢。『やむを得ぬ』とばかりに彼女たちをそれぞれ片手で抱いての移動であった。右腕にエリザベート、左腕にサビーネである。彼女たちの口はラインハルトのちょうど耳元に来る。そのため、彼女たちが何か言うたびに美声に悶えそうになるラインハルトであった。無論、態度にも声にも、表情にすら出さない。過酷な軍務で培って来た鋼の精神は伊達ではないのだ。
ちなみに、少女とはいえ二人を片腕に抱いて小揺るぎもしないラインハルトの逞しさに、エリザベートとサビーネの二人はさらにときめいているのだが、無論ラインハルトは気付かない。
正面入り口に近い広場にベンチを発見したラインハルトは、二人をそこに座らせた。ここにいれば侍女たちもすぐに見つけるだろう。
貴族連中の縁者に見つかっては面倒なことになる。名残惜しいがここらが潮時。
「―――もう、行ってしまわれるのですか……?」
「せめて、侍女が迎えに来るまで―――」
「申し訳ない。お二人の御父上に見つかっては面倒なことになるし、あなた方までお叱りを受けることになってしまう。そうなっては、お詫びのしようもない。いずれ機会がありましたら是非元帥府までお出で下さい。正式な謝罪はその時にでも」
ラインハルトは、そう言って彼にとって精一杯の微笑みを浮かべ、彼女たちを見詰めた。そして、踵を返したのだった。
背後で、『はうっ』だの『きゃあっ』だのという嬌声が聞こえたような気もしたが、ラインハルトにとっては自分を非難する咎めの声にしか聞こえないのであった―――