ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話 作:川崎忍ノ介
『ラインハルト様、おかえりなさいませっ!』
いつものように、ラインハルトが帰宅するなり飛び込んでくるエリザベートとサビーネであった。ラインハルトは慌てることなく受け止め、左右の頬にそれぞれからの接吻を受けてから床に下ろしてやる。もはや、この一連の流れは習慣化していた。
―――もし避けたらどうなるかな、などと考えたことが全く無かった、と言えば嘘になるラインハルトである。無論実行したことはない。
「ラインハルト様ラインハルト様ラインハルト様!お願いがあるんです!」
そう言ったサビーネは、いつにも増して騒々しかった。
「お願い?……なんだ、フェザーンでも欲しくなったか、それとも、自由惑星同盟とかいう叛徒がいい加減目障りにでもなったか……?」
「あんな雑魚はどうだっていいですっ。どうせそのうちラインハルト様に尻尾振るに決まってるんですから!」
自信満々に断言するエリザベートである。
欲しい、と言えば奪りに行くつもりだったのかしら……とヒルダは考えた。
三大勢力の残り二つを『雑魚』呼ばわりか……と夕食をたかるために一緒に帰宅したキルヒアイスは考えた。
またエリザベートとサビーネが予言染みた分析能力を発揮したわね……とアンネローゼは考えた。
なら、イゼルローンか……提督達のうち何人かは元帥に特進かな……とラインハルトは考えた。
「ラインハルト様、アウトです」
ヒルダが幾分白い目で言った。
「しっかり突っ込めるようになっただけ進歩というものですが……特進はないでしょう……」
キルヒアイスが、肩を落として呟いた。
「ごめんなさい、ラインハルト……もっと、情操教育に気を付けるべきだったわね……」
アンネローゼがハンカチで目頭を押さえた。
「だ、大丈夫ですラインハルト様!お寒いジョークを言うラインハルト様もお可愛いですから!」
サビーネのフォローが心に痛いラインハルトであった。
「旅行、だと?」
夕食も終え、食後のコーヒーとケーキを、という時になってエリザベートとサビーネは『みんなで旅行に行きましょう』と提案した。
「はいっ、貴族連合との戦いも終わり、リヒテンラーデ公も排除して、宰相府の掌握も無事に終わりました。今後しばらく、厄介事が舞い込んでくることはないと思います」
エリザベートの主張に、ラインハルトは顎に手を当てて考え込んだ。
「よろしいのではないですか?―――考えてみれば、幼年学校を卒業してからこれまで、走り続けてきましたから。もうそろそろ一息入れるのも悪くないでしょう」
「わたくしも、賛成しますわ。そもそも、上役が働き詰めだと下の者は気兼ねして、簡単には休めなくなりますから」
「考えてみると、小さい頃にもそんな機会はなかったわね……。いいのではなくて?ラインハルト」
ヒルダ、キルヒアイス、アンネローゼの援護。だが、それらの声を受けたラインハルトの顔には戸惑いの色が浮かんでいた。
「何か、御懸念でも?」
キルヒアイスの疑問に、ラインハルトはゆっくりと首を振った。
「そうではない……そうではないのだが……そもそも、旅行へ行って、何をするのだ?」
『ダメだ、こいつ。早くなんとかしないと』
ラインハルト以外の、五人の思惑が一致した瞬間だった。
とりあえず、海に行こうということで話の纏まった一同である。そうなると今度はどの惑星の、どの海に、という問題に直面する。
―――オーディンでいいではないか
―――わたくしの、いえ、元ブラウンシュヴァイク領に景勝地があるのです
―――それなら元リッテンハイム領にだって
―――マリーンドルフ領なんていかがでしょうか。父に報告もしたいと思いますので
―――そういえば、以前討伐に行ったクロプシュトック領に良さげな海がありましたね
議論は白熱して一向に纏まる気配がない。そこへ、アンネローゼが爆弾発言を投げかける。
「自由惑星同盟―――例えば、エル・ファシルなんてどうかしら?噂のヤン提督に案内をお任せして。きっと楽しい旅行になるわ」
騒がしかったリビングが静まり返った。一同、『あり得ないだろう』という意見で一致している。
だが、一人だけ真剣に検討する者がいた。
―――そう、ラインハルトである。若干どころではなく姉バカ、シスコンの気がある彼は、それがどんなに荒唐無稽なものであれ、一度姉の口から発せられたとなれば、万難を排して実行に移そうとするのである。
「どうだ、キルヒアイス。フェザーンを誑し込んで適当な商社のオーナー一家の戸籍を用意、そちら経由で同盟側からイゼルローンに接触する。ヤン・ウェンリーに会い、その案内を受けてエル・ファシルに赴く―――」
奇妙なことに、一同の誰も『ヤン・ウェンリー一党に暗殺される』という可能性は排除していた。
「フェザーンには、実家の伝手でわたくしとサビーネがコンタクトをとれます」
「はい。リッテンハイムもブラウンシュヴァイクもかなりの額の資本投下はしておりましたので、戸籍の用意自体はそれほど難しくはないかな、と」
ラインハルトがその気である以上、エリザベートとサビーネにとっては決定したも同然であった。
「……はぁ……。でしたら、その伝手を使ってヤン・ウェンリーに面会の申し出もやっといてください」
ヒルダが、諦めたような表情で呟いた。
「むしろ、味方をどうやって誤魔化すか。こちらの方が問題です。……フェザーンの動向を探る、という名目で……やはりロイエンタール・ミッターマイヤー両提督の協力を取り付けておいた方が無難ですね」
「ジーク、お願いね。―――ヒルダさん、エリザベート、サビーネ。わたくしたちは衣装の用意でもしましょうか。フェザーンの流行ってどんなのかしら。あと、水着もいるわね。―――三人とも、ラインハルトをびっくりさせてあげたいでしょう?」
そう言って、アンネローゼは三人を引き連れてリビングを出て行った。
「おい、キルヒアイス。実行計画は俺たちに丸投げらしいぞ」
「ええ、ですが、おやりになるのでしょう?」
「無論だ。姉上の望みは全力で叶える、だろう?キルヒアイス」
そう言って、ラインハルトとキルヒアイスはがっちりと握手するのであった―――
初めはオーディン内に留める予定だったのに……
どうしてこうなった
……ってそんなのばっかりですね(汗