ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話   作:川崎忍ノ介

12 / 18
今回はフェザーン回


第十一話~休息③~

 ラインハルトが案内された部屋の中に入ると、そこには男性が一人、すでにソファに腰掛けていた。浅黒い肌に恵まれた大きな体格。そして髪の毛一本生えていない頭。なるほど事前に聞いていた情報通りの男。

 

 この男がアドリアン・ルビンスキー自治領主なのだとラインハルトは直感した。

 

 「遠路はるばる、お疲れ様で御座いました。どうかこちらへお掛け下さい」

 

 ルビンスキーは立ち上がり、ラインハルトを出迎えた。

 

 見た目に寄らず物腰は柔らかで、いかにも紳士といった振舞い。また、タートルネックのセーターに薄緑色のスーツと公人らしからぬ装いが、意外なほどに良く似合っている。

 

 「なるほどな。幾人もの情人を抱えているという話だったが……納得できるな」

 

 「はっ?」

 

 ラインハルトの言葉は、ルビンスキーの意表を突いたのだろう。ラインハルトに顔を向け、訝しげに眉をひそめている。

 

 「いや。卿は何人も情人がいるのだろう?それだけの器量なのだから、さぞ美形揃いなのだろう。―――だが、私の婚約者も負けてはおらんぞ。数では卿に劣るだろうがな」

 

 そう言って、声を上げて笑うラインハルトだった。

 

 一方のルビンスキーは内心気を引き締め直した。

 

 戦争こそ神掛かった強さを誇るが、人生経験の浅い青二才―――多少知恵は回るにせよ。

 

 事前の情報からそんな評価を下していた彼だが、案外手強いかもしれぬ、と上方修正したのである。

 

 「これはこれは……。閣下のようなお方のお耳にまで届いていたとは、我が身を恥じる思いですな」

 

 「咎めてはおらぬ。―――ただ、後ろから刺されることのないように、気を付けて遊んでくれ」

 

 「恐れ入ります。―――して、此度こちらにおいで下さったご用向きは、どのようなものでありましょうか」

 

 「事前に通告した通りだ。エル・ファシルに婚前旅行と洒落込むために卿の力を借りたい」

 

 「その件で御座いましたら、通告を受けてすぐにとりかかりました。人数分のカバー・ストーリーと身分証と、万端に整っております」

 

 ルビンスキーはそう言ってラインハルトの目を見詰めた。暗に、たったそれだけの用件でここまでは来ないだろう、と問い質しているのだ。

 

 ラインハルトは、焦らす様にしてゆっくりとコーヒーカップを持ち上げ、香りを堪能する。

 

 「『壁に耳あり』なる古の格言がある。―――ここは、大丈夫であろうな?」

 

 そう言って、ラインハルトはぐるりと執務室を見回した。

 盗聴などされてはいないか、という確認。当然、ルビンスキーも察した。

 

 「無論でございます、宰相閣下。神に誓って、そのようなことはございませんとも」

 

 「……卿の言う『神』とは、人類発祥の地たる、とある惑星なのではないか?」

 

 瞬間、ルビンスキーの顔から穏やかな笑みが消え、殺気にも似た剣呑な気配が発せられた。

 だが、ラインハルトは構うことなく言葉を続ける。

 

 「人類社会全体に根を張り、歴史を闇より操る。その手は長く、近くは門閥貴族、遠くは自由惑星同盟とかいう共和主義者たちの国家元首にまで伸びている」

 

 ルビンスキーは、目を細めラインハルトを見詰めている。

 

 「『俺』はな、奴らが邪魔なのだ。―――ルビンスキー、卿はそうではないのか?首根っこを押さえられ、煩わしいと思ったことはないのか……?」

 

 ラインハルトは、敢えて一人称に『俺』を使った。

 

 つまり、自分は真意を語っている。卿も偽りを口にするな―――ということ。

 

 「確かに、そのような存在があるとすれば、邪魔な事この上ありませんな。もしそうであるならば、私がこの地位にあるのも『奴ら』のおかげということになります。―――冗談ではない。『俺』は、その地位にふさわしい力量を持つからこそ『自治領主』の地位を得たのだ。恩着せがましく『奴ら』に言われる筋合いなどない―――!」

 

 ルビンスキーもまた、それに応えた。ラインハルトとルビンスキーは、共に薄い笑みを口の端に浮かべる。

 

 「よろしい。―――ならば、事この件に関しては俺とお前は『友』というわけだ。出来れば、長く、広くそうありたいものだが……まあ、おいおい詰めて行けばよかろう」

 

 「ふむ……自分で言うのもあれだが、俺は手強いぞ。あなたに俺を、使いこなせますかな?」

 

 言いながら、ルビンスキーがベルを鳴らす。しばらくして妙齢の女性がワインボトルとグラスを二つ、運んで来た。

 

 二人は、ワイングラスを目の高さにまで掲げ、一息に飲みほした。

 

 ―――ここに、銀河帝国宰相ラインハルト・フォン・ローエングラム公爵とフェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーの同盟は成立した。

 

 この同盟関係が、どれほど続くのか。そして、どのような結果をもたらすのか。

 

 知る者はいない―――

 

 

 

 

 

 「―――というわけで、ルビンスキーとの密約は成立した。エリザベートとサビーネは、フェザーン及びオーディン、更に地球に存在する奴らの根城を徹底的に洗い出してくれ。ただし、奴らに我らが探っている、という事を悟られないように。二人が必要だと判断したならば、オーベルシュタインと新しく任命したケスラー憲兵総監も使って構わん」

 

 更にラインハルトは、キルヒアイスに討伐部隊を秘密裏に編成することを命じ、ヒルダにはルビンスキーとの交渉役をするよう伝えた。

 

 「地下でこそこそと動き回る鼠を、一網打尽にするのだ。あとは同盟領だが……ヤン・ウェンリーに伝えて刈り取るよう依頼するしかあるまいな……」

 

 そして、各支部を追われた地球教徒はおそらく、聖地地球を目指すのではないか。ルビンスキーに言えば、これら地球行きの輸送船を抑えることは容易だろう、とラインハルトは考える。

 

 銀河連邦が発足してから、これまで歩んできた人類の歴史の一部が、地球の復権をもくろむ一部の狂信者によって紡がれてきた、などと認めるのはラインハルトにとっては屈辱だった。

 奴らには痛烈な報いをくれてやろう、と内心気炎を上げるラインハルトであった。

 

 

 

 

 

 「それで、皆は今日街に出て観光してきたのだろう。フェザーンは、どうだった?」

 

 どちらにせよ今は旅行中の身。今言ったこと全てはオーディンに帰還してからの事になる。今すぐに動かないとどうにかなる、というほど切羽詰まってはいない以上、気分の切り替えが必要だった。

 

 「ええ、素晴らしいですね。街には活気があり、道行く人々は笑顔と活気に溢れている。商店の品揃えも豊富で値段も手頃です。―――帝国全土がこのようになれば、と強く思いました」

 

 キルヒアイスがしみじみと言った。彼にしてみれば、フェザーンの繁栄は帝国民と同盟市民の血を吸い上げて築き上げて来たものでもあるように思え、あまり手放しで褒める気にはなれなかったのだが。

 

 「ラインハルト様、とっても可愛い水着を見つけたんです!みんなの分買ってきたので期待しててくださいね!」

 

 エリザベートが弾んだ声で言った。

 

 「そうか。それは楽しみだな。―――フェザーンには、三日ほど滞在する。今晩は、ルビンスキーが歓迎のパーティを開いてくれるそうだ。夕刻までは自由時間ということにしようか」

 

 「ラインハルト様!街に出てラインハルト様の私服を買いましょう!」

 

 「エリザベートが、すっごく格好良い服見つけたんです。色々試着してみましょう!」

 

 「お屋敷で使えそうな丁度良い調理器具を見つけたの。―――ジーク、付いてきてもらっていいかしら?」

 

 「はい、喜んで。アンネローゼ様」

 

 「ヒルダ、あなたも一緒に来て、試着してみると良い。二人が着ているような可愛らしい衣装をな」

 

 「ええっ、わ、わたくしも、ですか?」

 

 こうやって、目的もなく街を散策する、など久しくやっていなかった。エリザベートやサビーネ、ヒルダたちがいなければ、こうやって英気を養うなどという事は考え付かなかったのだろう。

 

 ラインハルトは、両手をエリザベートとサビーネに引かれながら、そんなことを思うのだった。

 




次回、ようやくイゼルローン編

覚醒したラインハルトはシェーンコップ、ポプラン二人の色事師との出会いで何を思い、何を学ぶのか―――

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。