ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話 作:川崎忍ノ介
ラインハルトとキルヒアイスの二人は、イゼルローンの面々に顔が割れている。情報収集に余念がなければ今回のメンバー全員、VIPとして情報は出回っている筈だった。
それを承知で偽の身分証を用意させたのは、只ヤン・ウェンリーが自由惑星同盟上層部に対して言い訳が立つように、である。
思い付きに近い今回の会談で、ヤン・ウェンリーにあらぬ疑いが掛けられぬように、とのせめてもの気遣いである。もちろん、撮影した画像や映像、録音した声で個人が特定されないような機械も持ち込んでいる。
つまり、今回のラインハルト・フォン・ローエングラム帝国宰相とヤン・ウェンリー要塞司令官兼駐留艦隊司令官との会談は、全く記録に残さない形で行うことが可能なのだ。
―――それはつまり、要塞内に入ってしまいさえすれば、一切身分を偽る必要はないわけで―――
「御初にお目にかかる。私は、銀河帝国宰相・ラインハルト・フォン・ローエングラム公爵だ。隣のこの男はジークフリート・キルヒアイス・フォン・グリューネワルト侯爵。そしてその夫人であり、私の姉でもあるアンネローゼ。そしてこの三人が、私の婚約者であるエリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクとサビーネ・フォン・リッテンハイム、ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフという。―――まあ、キルヒアイスはまだ襲名前の身だが」
ラインハルトは護衛を置き去りにして先頭を歩き、出迎えたヤンたち一行の前で歩みを止めると、見事な敬礼を施し、一行を紹介した。
『……、……っ!』
あろうことか、ヤン・ウェンリーはもちろんその他の幕僚連中まで、大きく口を開けたまま、返礼も忘れて固まっていた。
当然、といえば当然だった。彼らイゼルローンのメンバーは、フェザーンからとあるグループ企業のオーナー社長が視察に訪れる、と同盟政府から聞かされていたのだ。粗相があってはならぬ、と念を押されていたため『これも給料のうち』と思って幕僚を引き連れて出迎えに来たのである。訪れた客が実は帝国のトップでしたなどと、予想出来るものではなかった。
ラインハルトはその様子を眺めて満足そうに一つ頷き、背後に控えるキルヒアイスに振り返った。
「見たか、キルヒアイス。俺は、かのヤン・ウェンリーの度肝を抜くことに成功したのだ。帝国軍人の誰も為し得なかった快挙だぞ、これは。―――ああ、この顔が見られただけでここまで来たかいがあったというものだ」
「それはようございました、ラインハルト様」
苦笑を浮かべ、応えるキルヒアイスだった。
「それにしても、どういうつもりなんだ?まさか帝国宰相とその腹心がフェザーン経由でここまで来るなど予想外にもほどがある」
ラインハルトがヤンとの会談を望む、といってヤン共々一室に閉じこもってしまったため、指令室で幕僚たちは顔を突き合わせて相談していた。先の一言は、アレックス・キャゼルヌ少将のものだ。
「いやあ、それにしてもさすがは帝国のトップとその腹心だ。連れている女のレベルの高いこと。おまけに婚約者が三人ときたもんです。私はいっそ、帝国人になりたいですな」
「お前さんは、元からそうじゃなかったか?」
ワルター・フォン・シェーンコップ少将の軽口に突っ込みを入れたのはダスティ・アッテンボロー少将だった。
「おい、ユリアン。何ぼーっとしてるんだ?まさか、憧れのキルヒアイス提督に婚約者がいて、がっかりしたか?」
オリビエ・ポプラン少佐がヤンの被保護者であるユリアン・ミンツを肘で小突き、からかう。
「ち、違いますよっ!なぜ僕ががっかりするんですか。そもそも、あれだけご立派な方なんですから、婚約者位いるでしょうっ!」
「―――ゴホンッ!……メルカッツ客員提督、ローエングラム公の目的が一体なんであるのか、心当たりはございますか」
ムライ少将が咳払いをして場の空気を引き締め、メルカッツに尋ねた。
「……案外、本当にただ旅行に来ただけ、なのかもしれませんな」
目を閉じて思考に沈んでいたメルカッツは、しばらくして目を開くと若干投げやりにそう言った。
そもそも、要塞はもともと帝国のものなのだから内部構造は熟知している。だから要塞内部を探る―――という線はない。ヤン・ウェンリーに会いたい。これが主目的ならば要塞の帝国側出口から来訪するはず。であるならば単なる興味本位、余暇。そう考えてしまうのが一番しっくりくるのだ。
「内乱は片付き、ローエングラム体制は固まった。同盟は少ない戦力を更にすり減らして当分侵攻の目はない。なるほど、今のうちに婚前旅行に洒落込もうというわけですか。『くたばれリア充!』と叫びたくなりますな」
アッテンボローがそう毒づいた。
「いやいや、同意を求められても困ります、アッテンボロー少将。小官は、宰相閣下ほどではないにせよ、一夜の夢を共に語らう相手には不足致しておりませんので」
「僻みはいかんな、アッテンボロー少将。俺はむしろ、奴さんを見直した所だ。前に三次元映像を見たときはいかにも潔癖症の完璧主義者という印象だったのだが、今日の彼は余裕と懐の広さがあった。やはり、女は男を変えるものだ」
ポプランと、シェーンコップの反論だった。
「いいか、ユリアン。お前さんはローエングラム公の真似をしようなんて考えるんじゃないぞ。流石の俺も、娘を二人ともくれ、なんて言われた日にはお前と果し合いをしなきゃならんからな」
同盟でも随一の色事師二人に論破され、返答に窮するアッテンボローを尻目にキャゼルヌは殊更重苦しい口調でユリアンに忠告した。
「言いませんよっ、そんなこと!っていうか、今あの子たちはいくつだと思ってるんですか!?」
「なんだとユリアンっ! まさかうちの娘たちでは不満だとでも言うのか! よろしい、決闘だ!」
白手袋代わりにベレー帽をユリアンに投げつけるキャゼルヌ。うんざりとした様子でバカ親の説得をするユリアン。口論など忘れてどちらが勝つか賭けを始める幕僚たち。
「止めろよっ! 賭けなんてやってないで! あと、なんで僕のほうが人気なんですかっ!」
ユリアンの叫びが、指令室に響くのであった。
七ヶ月ぶりの更新。
なんだか「今更」という気がしないでもない。