ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話 作:川崎忍ノ介
誤字の報告も同じく感謝を。
ラインハルトの話を聞き終えたキルヒアイスは、軽い頭痛に襲われた。
知恵を出すも何も、話を聞く限りとっくに出来上がっている。
最早、あと一押しすれば陥落する事は間違いない。恐らく邪魔をするであろう二人の父親を、どうやって排除するか。むしろそちらに意識をさく方がよほど賢い。
「閣下……事態は最早、私のでる幕ではないと存じます」
「閣下はよせ。どういう意味だ、キルヒアイス」
「もはや相思相愛のご様子ですので、後は父親を排除するのみ、という事です、元帥閣下」
「なあ、頼むから閣下は止めてくれないか……?というか、今の話でそこまでわかるのか?」
分からないのはアンタだけだ、これだから童貞は……という台詞は、かろうじて呑み込んだキルヒアイスであった。
「呑み込んでいないんだよ、キルヒアイス!そもそもお前も『そう』だろうが!」
「申し訳ありません、ラインハルト様。溢れんばかりの想いが、つい口から飛び出たようです。あと、私が『そう』だという証拠でも?」
「よし、その喧嘩買おうじゃないか」
拳を振るうラインハルト。キルヒアイスは、軽く身を捻って避けた。ついでに、たたらを踏むラインハルトの足を払ってやる。
だが、流石というべきかラインハルトは倒れざまにキルヒアイスの腕を掴んだ。
諸共に床に転がる二人。
暫く揉み合った。第三者が此処にいたら『いちゃついてるんじゃねぇ!』と叫んでいただろう。あるいはどちらが攻めか、受けか興味津々だったかもしれない。
どちらにせよ、今日も仲の良い二人だった。
エリザベートとサビーネは、二人でお茶会を楽しんでいた。話題はもちろん、先帝の葬儀で出会った『金髪の君』。
「ねぇねぇ聞いて、サビーネ。今日も御父様の言い付けで何とかいう伯爵の御子息とお見合いしてきたの。……もう最悪だったわ。ブクブクと醜く肥え太って、顔は吹き出物だらけ。手も足も短くて、おまけに何だか臭くって……息も出来なかったわ」
「まあ、それは災難だったわね、エリザベート。……でも、私だって似たようなものなんだから。昨日お会いした何とか男爵は、ほんの少しの血を見るだけで卒倒するような軟弱者の癖に、『金髪の孺子(こぞう)など軽く捻って差し上げよう!』なんて仰っておられたのよ」
顔を見合わせて、クスクスと笑う二人。そしてひとしきり笑った後、示し合わせたかのように大きな溜息を吐いた。
『あの方がお見合いの御相手だったら良かったのに』
呟く言葉まで同じであった。
―――先帝の葬儀が終わり、屋敷へと帰ってからの話である。
エリザベートとサビーネ、二人の行動は早かった。まずはラインハルト・フォン・ローエングラムの半生を調べに掛かった。家族構成、住所に始まり幼年学校への入学。在学中の素行に成績、他の生徒からの評判と教師の評価。
それから軍に入隊。最前線へと送られそこで上げた武勲。これまで挙げられてきた功績。艦長となりさらに積み上げられる武勲。ついには十代で小艦隊の司令官となる。初めは十数隻。それからは飛ぶ鳥を落とす勢いで戦果を積み上げ、戦場から帰って来る度に昇進し、率いる艦隊の桁が増えて行く。
刮目すべきは『第三次・第四次ティアマト会戦』、『アスターテ会戦』。更に、記憶に新しい『アムリッツァ星域会戦』どれもこれもが凡百の指揮官には成し得ないであろう功績だった。
―――まるでそれは、現在進行形の英雄譚を目にしているかのようで。
更には彼の端麗な容姿も加わり、『もしかして彼は大神の遣わし給うた軍神なのではないか』という思いすら二人に抱かせた。
こうして調査書を読み終えた二人は、ますますラインハルトへの思いを募らせるのであった。
「ねえ、エリザベート。もしかして、なんだけど……お父様たちは想像を絶する『阿呆』なのではないかしら」
「そうね、サビーネ。……自分の身内がここまで白痴だったなんて、私恥ずかしいわ……」
およそ真っ当な感性の持ち主ならば、辞を低くして機嫌を伺い、何をもってしてもまず真っ先に助力を乞う筈であった。
さて、彼女たちは、ただ身内の無能を嘆いているだけでは済まされなかった。なにせ、自分たちは貴族連合の旗頭なのである。数多の貴族がブラウンシュヴァイク・リッテンハイム両家に味方するのは皇位継承権を持つ自分たちがいるからに他ならない。
彼らは、ともすれば己の息子・親族が女帝の婿になれるかもしれぬ、との打算をもって連合に加わっていた。
「どうしましょう。私たち、もし帝位に就いたら数百人の旦那様を持つことになるわ」
「……欲しいならあげるわよ、エリザベート。私にとっては、あのお方の微笑み一つの方が遥かに価値があるの」
「サビーネ、ずるいわ。そんなの私だってそうなんだから!」
侃々諤々。ついには取っ組み合いに発展する二人であった。
―――ただし、あくまでもお上品に。彼女たちは、自分が若いとはいえ貴婦人であることをわきまえていた。
「じゃれ合っている場合ではなかったわ。……ねぇ、どうしよう、サビーネ。このままだと、私たちお父様と一緒に破滅よ」
乱れた髪を梳かしながら問いかけるエリザベート。
「そうね。そんなのまっぴらごめんだわ。―――ねぇエリザベート、あなた、ご両親を……棄てられて?」
乱れた襟を直しながらのサビーネの問い掛けに、考え込むエリザベート。
―――それなりに大事にされてきた。だが、あくまでそれなり。『お前が男児であったら』なんて言われたことも一度や二度では済まない。もし自分に皇家の血が流れていなかったならば、適当な貴族の家に嫁に出されてそれっきりだっただろう。
「……どうしよう、サビーネ。お父様が破滅する姿を想像しても、大して心が動かないわ。私って、とんでもない冷血だったのかしら」
「安心して、エリザベート。―――私も、そうだから」
顔を見合わせ、クスリと笑う二人の少女。
もしこの場にラインハルトがいたら、二人の可憐さに身悶えしていたに違いなかった。
「……ふと思い出したのだけど……サビーネ、今日ってお父様たち『決起集会』とか言ってなかったかしら……?」
紅茶をティースプーンで、くるくるかき回しながらエリザベートが言った。
その何気ない言葉に、テーブル中央に鎮座するクッキーに手を伸ばしたサビーネが硬直した。
「もう猶予はないわ。そこで提案なのだけど……今すぐ、行っちゃう?」
「……行きましょう……!」
『ローエングラム元帥府へ!!』
―――かくして、本来有り得ざる一つの出会いによって歴史は大きく歪められることと相成った。
―――この、二人の少女がラインハルト・フォン・ローエングラムという一人の青年にどのような影響を与えるのか、知る者はいなかった。
元帥府を訪れた少女二人はそこで、妙齢の美女と出会う。
その名は、マリーンドルフ伯爵令嬢ヒルデガルド。未来の嫁との出会いにかつてない強敵の予感を覚える二人。
火花を散らす三人。
おたおたするラインハルト。
どちらが勝つか、周囲を巻き込んで掛けを始めるキルヒアイス。
次回、『修羅場』
お楽しみに(嘘)