ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話 作:川崎忍ノ介
ちなみに私は、オーベルシュタインがそんなに嫌いではありません。
ラインハルト・フォン・ローエングラムも人の子だ。感情の動物たる人間。であるからには当然、嫌いな人物というのも存在する。
嫌い、もしくは二人きりで相対していて鬱になる相手、と言い換えても良い。
堂々の第一位は故・フリードリヒ四世だ。これは当たり前。姉を奪った最も憎い相手。鬼籍に入ったからといって憎しみが昇華するようなこともなかった。おそらくは一生憎み続けるのだろう。
では第二位は?
フレーゲルを始めとする門閥貴族共か。いや、不快ではあるが現実の見えていない道化っぷりはいっそ愉快ですらある。まあ、皆まとめて第三位という所。
ここまで言えばわかるだろう。ラインハルトにとって今目の前に立つこの男―――パウル・フォン・オーベルシュタイン総参謀長こそが、生者のなかでは最も嫌いな人物なのである。
はっきり言って嫌いだ。出来ればリストラしたい。視界に入ってほしくない。
―――だが、世の中とはままならぬもので。
オーベルシュタインほど謀略面において頼りになるやつもいない、というのもまた確かな事実なのであった。
「我ながら、私は大した器量の持ち主だな。卿のような人好きのしない部下からの直言も、しっかりと聞き入れてやるのだからな」
「はっ。お聞き入れ下さり感謝いたします。―――それはつまり、キルヒアイス提督を他の提督と同列に置く。そのことをお聞き入れ下さった―――ということでよろしいのですな?」
淡々とした口調。それだけでも、この男には微塵も私心などないのだ、ということが分かってしまう。ある意味において滅私奉公の極み。
もしこの男が、リヒテンラーデ公や門閥貴族連合に対して忠誠を誓っていたならば、ラインハルトは大いに苦戦したはずだった。下手をすれば、ガイエスブルクに逃げ込むのはラインハルトの側であったかもしれない。
それなのに、この男が味方で良かった―――とはあまり思えないラインハルトなのであった。
「いや、逆だ。卿がキルヒアイスを危険視するのは、彼が私と『他人』だからだろう。そこを修正する。―――つまり、キルヒアイスは姉上と結婚し、ジークフリード・キルヒアイス・フォン・グリューネワルト伯爵となる。私の義理の兄、私の一門衆ということになるな」
オーベルシュタインの義眼が、大きく見開かれていた。滅多に見る事の出来ない驚愕の表情。ラインハルトは、内心ほくそ笑む。
「文句はなかろう?キルヒアイスは私の血縁者となり、よってナンバー2であることの法的根拠を得た。―――万が一、私が子を儲けずして戦場に斃れるようなことがあろうと、彼と姉上が私の跡を継ぐだろう」
「……今一つ懸念が。閣下とキルヒアイス提督に共に男児がいた場合、後継の座を巡って、帝国を二つに割って相争うという事態に陥る可能性が」
ラインハルトからしてみれば、そこまで面倒見切れるか、という思いである。そもそも、実力のない覇者が打倒されるのは当然の事である。
「今の段階では余計な心配というべきだな。私かキルヒアイスのどちらかが健在であるならば、器量を見定めた上で相応しい方を後継に据えるだろう」
ラインハルトとキルヒアイス両名が後継者も定めずに斃れる。そのような事態は最早帝国滅亡の危機というべきだろう。だから、考えるだけ無駄だとラインハルトは思っていた。
「まあ、よろしいでしょう。どちらかに女児があれば、結婚させ、もって正統の皇家となすこともできましょう」
『よろしいでしょう』などとお墨付きをもらっても、少しもうれしくないラインハルトであった。
「―――で、それはそうとエリザベートとサビーネの件だ。卿の事だから大いに反対するかと思ったのだが」
「その件でしたら、私はむしろ感服いたしました。一兵も損なうことがなく、戦わずして門閥貴族連合は瓦解寸前です。事ここに至れば、艦隊戦は最後の決戦だけで済みましょう。まさに閣下にしか成し得ぬ偉業である、と」
「そ、そうか」
『ドライアイスの剣』を驚愕させ、次いで感心させる。ラインハルトは二つの偉業を成したのだった。
「近いうちに、エリザベートとサビーネ、マリーンドルフ伯爵令嬢ヒルデガルドとの婚約を発表する。キルヒアイスの件も同時にな」
「は。―――であれば、賊軍との決戦前がよろしいかと。奴らにとって致命的な一撃となりましょう」
「……リヒテンラーデは?あの宰相が、私が皇女の婿となることを承知するとも思えんが」
「……玉璽を、掌握してから発表した方がいいかもしれませんな。賊軍に対しては、超光速通信を用いて『挑発』という形で決戦の前に」
「そんなところだな。―――もう用は済んだ。退出してもいいぞ」
敬礼し、退出するオーベルシュタインの薄い背中を眺めながら、大きなため息を吐く、ラインハルトなのであった。
オーベルシュタインと話を付けてくるから先に帰宅していろ、とラインハルトから伝えられたヒルダは、若干荒れ模様で帰宅してきたラインハルトを出迎えた。
「おかえりなさいませ―――って、随分と荒れていますわね、ラインハルト様。総参謀長とのお話が、うまく纏まらなかったのですか?」
「いや、奴も納得した。問題はほぼ解決しただろう。……ただ、あいつと話をしていると、どうにも自分が薄汚い陰謀家になったような気がしてな……」
外套をヒルダに手渡しながら、ラインハルトは嘆息した。
―――パタパタと、慌ただしい足音が二つ。そしてしっとりとした落ち着いた足音が一つ。
前者はエリザベートとサビーネ、後者はアンネローゼだった。
姿を現すなりラインハルトに飛び込んでくる二人。流石に慣れたラインハルトは、特に慌てることもなく二人を同時に抱き止める。
『お帰りなさいませ、ラインハルト様!』
「ああ、ただいま」
眉を吊り上げ、しかめっ面をしていたラインハルトが、二人を抱き止めるや否や穏やかな、柔らかい微笑を浮かべるのがヒルダには印象的だった。
(わたしがああやって出迎えていたら、ラインハルト様は同じような微笑みを浮かべてくれたのかしら……)
「すぐに、は難しいでしょうけれど、少しずつ慣れていきましょうね、ヒルダさん。―――あの子は、人の好意を袖にするようなことは決してしませんから」
アンネローゼには、どうやら見抜かれてしまったようだった。
「着替えていらっしゃい、ラインハルト。その間にお食事の支度をしておきますから」
「お手伝いします、ラインハルト様!」
「あ、エリザベートずるいわ。わたしもお手伝いします!」
「サビーネ、あなたはお食事の支度があるでしょう!」
「じゃあサビーネ、手伝ってくださるかしら。ヒルダさんはラインハルトの方へ」
テキパキと指示を出し、纏め上げるアンネローゼを見て、やはりこの館の真の主人はこの人なのだと痛感するヒルダであった。
ジークが仲間になりたそうな目で(窓の外から)こちらを見ている
仲間に入れますか?
→はい いいえ
「だから言ったのだ。ここに住め、と」