ラインハルト様が皇女殿下二人とイチャイチャする話 作:川崎忍ノ介
帝国内で右往左往していた門閥貴族は粗方オーディンを発った。彼らは皆、ガイエスブルク要塞に集結したか、あるいはその周辺の要塞に逃げ込んだ。
そうなるとラインハルトも、いつまでも余興見物に洒落込んでいるわけにはいかなくなってくる。
軍務省及び統帥本部は掌握済み。つい先日皇帝からの勅令も出された。となれば後は出撃するのみなのである。
今、ラインハルトの前には、彼の誇る艦隊司令官たちがずらりと並んでいた。
ロイエンタール、ミッターマイヤー、ビッテンフェルト、ケンプ、メックリンガー、ワーレン、ルッツ、ミュラーといった八名の艦隊司令官。そしてラインハルトの後ろには総参謀長であるオーベルシュタイン中将、宇宙艦隊副司令長官であるキルヒアイス上級大将が控えていた。
「陛下より勅命が下された。『ガイエスブルク要塞に籠り反乱を企てるブラウンシュヴァイク公及びリッテンハイム侯、またその下に集った貴族共を討て』と」
ラインハルトのその宣言に、提督たちがどよめいた。無論、これは『まさか』という意味ではない。『ようやく来たか』というある種興奮を伴った歓声である。
「何故かはとんとわからぬが、奴らの士気はすでに崩壊寸前だ。油断は禁物だが必要以上に恐れることはない。卿らの奮戦を期待する」
「賊軍の要たる皇女二人を手中に収めておきながら、『何故か』とは閣下もお人が悪い」
ミッターマイヤーがそう答えると、一同はどっと笑う。
「そう言うな、ミッターマイヤー。私はこれでも人情家でな。彼女たちと私は純愛なのだ」
ラインハルトの冗談めかした言葉に、一同はさらに沸いた。
「ならば、閣下の恋路を成就させんがため、我らは不退転の決意を持ち、賊軍どもを討ち果たして御覧に入れましょう!」
そう大声で宣言したのはビッテンフェルトだ。
「期待させてもらおう。……相手は未来の舅殿だ。私としては穏便に済ませたかったのだが勅命を戴いては仕方ない。私情を排して朝敵を討ち果たすとしよう」
神妙な内容とは異なり生き生きとした口調で、不敵な笑みを浮かべてそう嘯くラインハルトであった。
作戦会議が終わるとラインハルトは部屋を出て行った。オーベルシュタインも一緒に出て行ったが、諸将にとってはまあどうでも良いことだった。ラインハルトがいなくなったことを確認した諸提督は、一斉にキルヒアイスを取り囲んだ。シュワルツェンの館で夕食をご馳走になろうと企んでいたキルヒアイスにとっては出鼻を挫かれた格好だった。
「申し訳ない、キルヒアイス提督。今宵は、ぜひ我らに付き合って頂きたい」
「ああ、もちろん代金は我らが持つ故ご心配なく」
ロイエンタールと、ミッターマイヤーだった。左右を彼らに押さえられ、前後はビッテンフェルト、ミュラー等諸提督によって塞がれている。こうなっては最早退路はなかった。
「はい、どこへなりとお供しますよ。……出来ればお手柔らかに」
「捕虜をどう扱うかは尋問に協力的か否か、といったところでしょうな」
ビッテンフェルトが重々しい口調で宣言する。
キルヒアイスは、周囲を見回し、肩をすくめて現状を受け入れるのだった。
「それで、ローエングラム侯は実際の所どうなのです?」
「どう、とは?」
食事もそこそこに士官専用クラブに連れ込まれたキルヒアイスは、注がれた酒を口に含む間もなく質問攻めにあった。ロイエンタールの質問に苦笑して首を傾げるキルヒアイス。
「二人の皇女殿下の事ですよ、キルヒアイス提督。閣下は冗談めかして『純愛だ』などと仰っておられましたが……実は案外本気なのではないか、と」
「いやいやミッターマイヤー、あり得んだろう。閣下のなさりようを見て、俺は感心したのだ。なるほど、このような崩し方もあるのか、とな」
やはり、というべきかロイエンタールは二人の皇女の事を、あくまで策略の一環だと思っているようだった。
「しかし、ロイエンタール提督。ローエングラム侯は御二人を大層可愛がり、御二人もまたローエングラム侯を心から慕っておられる―――との情報もありまして。どうなのですかな、キルヒアイス提督?」
そう言ったのはメックリンガーだった。他の提督たちも身を乗り出してキルヒアイスの言葉を待っている。
「本気、なのですよ。―――先帝の葬儀の日、ラインハルト様は噴水のそばで戯れる御二人の姿を見て、一目惚れしたそうです。次の日聞かれました。『あの二人をものにしたいから知恵を出せ』と」
キルヒアイスの言葉に、諸将はどよめいた。見たところ、概ね好意的に受け入れられているようだった。
「もっともそれはあの御二人も同様だったようで。しかも、私たちの想像を遥かに超えて活動的でもあったようでして。―――まさか、決起集会の日に逃げ込んでくるとは想像もしていませんでした」
「……我らが主は、なんとも豪運をお持ちだ。敵の急所ともいえる存在に、まさか家出を決意させるほどに慕われるとは……」
そう言って呻いたのは果たしてワーレンかルッツか。
「ところが、皇女殿下御二人は、彼我の戦力を冷静に分析し、『このままでは父と一緒に共倒れだ』と判断したようでもありまして」
「なるほど。反旗を翻した後となっては再会したところで敵味方。立場を考えるとどう転んでも結ばれる事は出来んでしょうからなぁ」
巨体をソファに沈めて頷くのはケンプだ。
「いや、恐るべきはその分析能力でしょう。あの時点でローエングラム侯の勝ちを確信していた貴族など、マリーンドルフ伯爵令嬢くらいのものですから」
ミュラーの言葉に、諸将は黙り込んだ。
「……ローエングラム侯は、二人を何か、情報を扱う部門に据えようとお考えなのかな?」
ロイエンタールが呟いた。
「さて、それは今の時点では何とも。―――ただ、御二人はラインハルト様のお役に立ちたい、との強い思いを持っておいでです。そうなる可能性は十分あり得ますね」
「あるいは、社会秩序維持局……とか、な」
金銀妖瞳を怪しく光らせ、再びロイエンタールが囁いた。
ラインハルト様も、未だそこまでは考えていないだろう、とキルヒアイスは考えている。ただ、現局長はあまり良い噂を聞かない。来る新政権において新しい風を、と思ったときに彼女たちに白羽の矢が立つことはあるのではないか。
「しかしまあ、あれだな。これだけやることなすことが良い方向へ転がると、本当に大神オーディンのお導きなのではないか、とすら思えてくる」
ミッターマイヤーの言葉に、大きく頷く諸将であった。
貴族連合軍が弱体化しすぎてファーレンさんとメルさん涙目。