魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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第十話 物語は歪に、しかし着実に。

 ―――――レーベンスシュルト城。

 其処は、闇の福音たるエヴァンジェリンの所有する修行用別荘の内の一つであり、大瀑布と広大な熱帯雨林の中に聳え立つ巨大な石城。

 全長約1100メートル、高さ約600メートルと、数ある別荘の中でも最も巨大な建造物である。

 

 そんなレーベンスシュルト城で、激しい剣戟が鳴り響く。

 

 膝をついて息を乱しているのは幼い少女二人。

 一人は慕う少年がポニーテール萌えだったのを最近知り、以前のツインテールからポニーテールに変えたオレンジ色の髪の少女、神楽坂アスナ。

 その両手には、その形状は「デフォでラストダンジョン仕様!?」ととある少年を驚かせた、彼女のアーティファクトたる大剣『ハマノツルギ』が握られている。

 尤も、柄の先には火星をモチーフにした装飾がされているなど、様々な相違が存在するが。

 

 もう一人は片手に野太刀を持ち、一対の白翼を背負うサイドポニーの黒髪の少女、桜咲刹那。

 

 咸卦法を使用したアスナの足を引っ張らない様に、烏族としての力を最大限発揮し膂力を向上している。

 何故こうも開けっ広げに彼女最大のコンプレックスを晒しているかというと、既に京都で酔っぱらい共に暴露され、更には「コンプレックスって、他人にしてみればどうでもいいんだよね」とトドメを刺されてしまったりしているのが原因だ。

 この出来事が原因で、刹那にとって皐月はこのかとは別の意味でも絶対者に君臨してしまった。

 

 そんな未熟ではあるものの才能溢れる二人が膝をつく程の相手は、麻帆良学園でエヴァンジェリンの別荘に入れるとすればかなり限られてくる。

 

 紅き翼(タカミチ)か? 闇の福音(エヴァンジェリン)か? それとも魔王(皐月)か?

 

 

 

 

 

 

 「――――――何時までも立ち上がらないのは、そのまま潰されるのを所望していると判断します」

 

 

 

 

 

 

 しかしソレはそのどれでもなく。

 雪の様な白の長髪を靡かせ侍女(メイド)服を身に纏う、エヴァンジェリンから『茶々丸』の名を冠した、神々をも魅了する美貌を持った美女だった。

 

 「――――――神鳴流奥義! 斬鉄閃!!」

 「難儀ですね、一々言霊による自己暗示が必要など。小技で誘導もしないのであれば、折角の奥義も全てがテレフォンパンチのソレに成り下がりますが?」

 

 鉄すら容易に切断する、飛来する螺旋状の斬撃を放たれる前から最小限の動きで躱す。

 そんな茶々丸を上から粉砕するように、アスナが跳びながら大剣を叩き込んだ。

 

 「空中での移動手段を持たないのにも拘わらず、不用意に跳ぶのは下策かと思われますが」

 「ッ!」

 

 茶々丸が掌を翳した瞬間、跳躍中のアスナが異常な軌道で地面に叩き付けられた。

 

 「なっ、んでッ……!?」

 「貴女はその強力な禍払い(マジックキャンセラー)がある所為か、物理攻撃以外を警戒しない癖が有るようですね」

 「……重、力!?」

 「半分正解です。(マスター)から頂いた記録では、上位互換の様に描写されておりましたが」

 「背中が――――ッ!!?」

 「ガラ空きとでも?」

 

 背後から迫った刹那を見ずに、刹那の頭部を脹ら脛で挟むようにして地面に叩きつける。

 

 「――――浮雲・桜散華」

 「かハッ……!?」

 「背後からの奇襲で声をあげてどうするのです」

 「セツナ……! ッ、いい加減鬱陶しい!!」

 

 押し潰してくる何かを、禍払いの力を全開にして緩和する。どうやら一応は異能の類いのようだ。  

 刹那も体勢を建て直し、アスナと同時に茶々丸へと突撃する。

 

 「――――『無極而太極斬(トメー・アルケース・カイ・アナルキアース)』!!」

 「――――神鳴流奥義! 雷鳴剣!!」

 

 放たれるのは、現在彼女達が持ちうる最高の一撃。

 茶々丸は、ソレを圧倒的戦力差で叩き潰す。

 右手が流動体の様なモノに包まれ、剣が造り出される。

 彼女の身体全てが武器へと変えられるのだ。

 

 

 

 

 

 「神鳴流奥義―――――――滅殺斬空斬魔閃、百花繚乱」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第十話 物語は歪に、しかし着実に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アレは何だ、皐月」

 「自動人形ですが何か?」

 「治すでー」

 

 せったんとアスナの稽古を、俺と肉体を操作して16歳程になったエヴァはその様子を優雅に観戦していた。

 曰く、残った再生能力を応用したものらしい。

 アーカードの旦那か? 吸血鬼繋がりか? アレは性別も変わってたけど。

 そしてフッ飛んだ二人を治療すべくこのかが突入する。

 珈琲うまー。

 

 「しかし、神の権能とは本当に何でもありだな。まさかあんなものまで造れるとは」

 「神話って、大昔に書かれた中二ノートみたいなモンだからなぁ」

 

 取り敢えず、あの『茶々丸』の解説でもしましょうか。

 

 あれは毘沙門天(ヴィシュヴァカルマン)から簒奪した権能、エヴァ命名『万能の工匠者(オムニポテント・アーティザン)』。

 権能は単純明快、ヴィシュヴァカルマンが造ったとされる宝物機械を造る力と、ソレを納めるクベーラの宝殿を得た。

 尤も、クベーラの宝殿の中身は薬剤やら霊薬などばかりで、武器の類いは皆無だったし、工匠能力にも軽い制約がある。

 

 ヴィシュヴァカルマンは太陽神の光を削り取って神々の武器を作り出したとされる。

 つまり工匠能力を使用するためには光が無いといけないのだ。

 まぁ、光源ぐらいアグニの炎で幾らでも作れるのだが。

 

 そして、ヴィシュヴァカルマンの作品の中に、ブラフマーから命じられて造ったティロッタマーという天女(アプサラス)がいる。

 インド神話最高の美女である彼女の美しさは本当に凄まじく、愛妻家で有名なシヴァ神すらティロッタマーを見たいという誘惑に勝てず、彼女がシヴァ神の周りを回ったときに4つの顔が生じて彼女の動きを追ったという。

 同様にインドラ神は体中に千の目ができたとされる。

 どんだけ見たいんだ神々。

 

 「まぁ、納得だがなぁ」

 「人体美の究極形というヤツか。それで何だ、あの戦闘力は」

 「鶴子さんに持ち掛けたんだよ。『自分と戦いたくはないか?』ってよ」

 「……」

 「鶴子さんの戦闘技術と経験、後は女中の中でも指折りの人の女子力をスキャンしてブッ込んだ結果、神鳴流だけなら鶴子さん16パーセント落ちで再現に成功したぜぃ」

 

 だからこそ、修行途中の刹那は麻帆良に来れた。

 彼女は現在で神鳴流の秘伝弐の太刀はおろか、奥義すら数えるほどしか体得していない。

 それでも麻帆良に来れたのは、此処で神鳴流の奥義を茶々丸が教えることができるからだ。

 

 「技能をすきゃんとか、一体どうやったんだ」

 「ノリノリで鶴子さんが呪術でやってくれたぞ? 魔法にもそういう技術や能力を転写するのあるだろ」

 

 まさにエヴァこそが、闇の魔法の会得のためのスクロールに分身を宿したことがあるのだ。理解は早いだろう。

 そして完成したのが、カワカミン式自動人形『茶々丸』だった。

 

 「神楽坂アスナを沈めたのは何だ?」

 「アレは茶々丸の核の魂が既に持っていた異能を、天女の器で増幅したんだよ。アスナの禍払いを全開にしないと無効化できないレベルになったのは驚いたけど」

 

 元々カワカミン自動人形の再現のため、重力制御を搭載する予定だったから、本当に思わぬ見っけものだった。

 

 「核となる魂は何処から手に入れた?」

 「秘密」

 

 まぁ、鶴子さんの影響で性格も変わってるかもだが。

 天女が神獣に属してるのなら、念力じゃなくて『神通力』が正しいし。

 

 「50年以上幽霊やってたから霊格やらエライ事になってて、下手したらまつろわぬ神の依代になってたかもな」

 

 このかと入れ替わるように此方へやって来た茶々丸は、人形とは思えないほど自然な笑顔を魅せた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 麻帆良学園の学園長室で、近衛近右衛門は大きな溜め息を吐いた。

 眉に隠れた眼を開き、机にある関西呪術協会(正史編纂委員会)から送られた資料を見る。

 

 それは、『水原』から一文字抜いた『瑞葉』の姓に変更された一人の少年と、同じ姓を持ち名を『雪姫』と変えた吸血鬼の少女だった者の戸籍だった。

 そして何よりそこには、少年を神殺しの魔王と示す『羅刹王』の一文が加えられていた。

 

 「ムゥ……」

 

 頭を抱えた。

 そこには孫娘を政争から巻き込まれずに済むことへの安堵か、それとも少年の存在故に起こることを思い浮かべての恐怖か。

 世界樹の聖母はまつろわぬ神ではない為、少年の気質によっては問題は無いだろう。

 問題は本国の上層が何かの切欠でカンピオーネの存在を知り、何も理解しないまま少年の周囲へ悪意を向ければ―――――

 

 「物理的に旧世界(地球)から本国の影響が消されるでしょうね」

 「アルか……」 

 

 いつの間にか学園長室にローブ姿の青年が現れた。

 紅き翼の参謀にして、魔導書を本体とした自我を持つ、謂わば付喪神である。

 尤も、神話や伝説が力の源のまつろわぬ神や真なる神と違い、精々神獣程度の力しか持たないが。

 

 「私見ですが、彼は友人想いと感じました。本国は光に集まってくる蠅のように感じるかもしれませんね。彼が神殺しを為す前に、怪しい格好の私に対してもお孫さんの三メートル以内に近付かせて貰えませんでしたし」

 「自覚はしとったのかお主……」

 

 近右衛門は、未だ見ぬ魔王に感謝し、信頼度が跳ね上がった。

 何せこのローブ、 近右衛門の知る限り最高位の変態性を有している。しかもロリコンは確実と来ているのだ。

 愛する孫娘を、神殺しを為す前にこの変態から護り抜いたことは、近右衛門にこれ以上ない程の好印象を抱かせた。

 

 ちなみにこの話を近衛詠春に話した結果、父親として娘を託すのを決意する程のモノだったらしい。

 

 「しかし、前途多難じゃな。まぁ、エヴァの呪いが解けたのは喜ばしいことなのじゃが」

 

 こんな老いぼれに、世界は何処まで試練を与えるのか。

 何かの心境の変化か、はたまた魔王(弟子)の存在故か、エヴァンジェリンは呪いが解けたにも拘わらず未だに麻帆良に居続けている。

 学園の裏の警備はやるかは聞いていないし、中等部も止めてしまったが、それでも友人の一人が行方知れずにならずに安堵した。

 

 が、そこでアルビレオが少し落ち込んでるのに気が付いた。

 

 (――――なん、じゃとッ…………!!!?)

 

 近右衛門が初めてこの男が落ち込むのを見たと言ってもいいほど、普段のアルビレオを知る者からすればその様子は有り得ないと言っても良いほどだろう。

 

 「ど、どうしたんじゃ、一体」

 「……京都から戻ったエヴァンジェリンが、皐月君から聞いたのか私の(もと)へやって来たのです」

 「……………………………………………………」

 

 つまり、アレか。

 大人に成長したエヴァンジェリンを見て、落ち込んでるのかこのロリコンは。 

 近右衛門がドン引いているのにも気付かずに、話を進める変態。

 

 「どうやら吸血鬼性の名残なのか、肉体年齢を自在に操作することが出来るようになったそうなので、私と会うときはかつての姿になって欲しいですね。全く、恨みますよタカミチ君」

 「ワシ、一応教育者なんでそういう発言は控えてもらえんかの?」

 

 近右衛門は変態に向けて、もう一度深い深い溜め息を吐いた。

 そして別の書類を手に取る。

 それは、とある友人の子供()の事についてのモノ。

 それは今年で三歳になる村を滅ぼされた、偉大な魔法使い(スプリングフィールド)の遺した希望。

 

 「いや、イカンな全く。希望などと、本当に押し付けがましい事じゃ。大人として恥ずかしいの」

 「……首謀者は?」

 「元老院の一部の暴走じゃろうな。ウェスペリタティアの血統が原因、か。自分達の罪を暴かれるのがそれほど恐いのか?」

 「さて、私には理解しかねます」

 

 本来の物語も、確実に進んでいる。しかしその形は確実に歪んで。

 尤も、神殺しの少年がその書類を見たら間違いなく、こう語るだろう。

 

 

 『まぁ、コレも鉄板だよなぁ』

 

 

 

 ―――――英雄の遺児は、双子(兄妹)

 




と言うことで地雷要素ブッ込んだ伏線を張った中継ぎ回でした。
ネギの双子については本当に地雷要素ですが、彼女はネギの対抗馬としての役割を持って貰う、今作品のアンチ役です。転生者ではありませんので悪しからず。
この作品はネギま!二次でやりたいことを盛り込んでますので、地雷要素はご容赦ください。つかあらすじに書いてあるし。



~権能説明ぃ~

権能:毘沙門天(ヴィシュヴァカルマン)
万能の工匠者(オムニポテント・アーティザン)』。
 要は仏教圏の霊薬や薬剤の入った四次元ポケットと、あらゆる機械や兵器を自在に造り出す権能。
 取り出すなら兎も角、造り出す場合は流石に制約を付けました。内容は呪力影響下に光源がない場合使用不可。
 アグニの権能でほぼ制約無しの権能に聞こえるけど、そのお陰で後のとあるまつろわぬ神との戦いで凄まじい危機に陥ったり。 
 ちなみにそのまつろわぬ神は、難易度はラスボス以上に設定してまする。早く書きてーなー。


~茶々丸~
 正史から五年近く早く誕生。しかしその中身は完全なる別物。
 元ネタはインド神話のヴィシュヴァカルマンがブラフマーに命じられて世界中の宝物の美しい部分をかき集め造った、三界を征服したアスラの兄弟を色仕掛けで自滅させた天女ティロッタマー。
 その美しさは妻一筋のシヴァを誘惑に屈しさせて四面にし、同様に誘惑されたインドラの眼を千個にした程。
 ソコから『境界線上のホライゾン』の自動人形仕様にし、とある地縛霊の魂を核とした皐月の神獣の様な存在。
 戦闘力は神通力を操り、筋一筋、血液一滴、神経回路の一本に至るまで自在に液体化を経て武器化可能な、神鳴流歴代最強16パーセント落ちというチート。
 外見は20代の茶々丸を白髪にしたイメージ。ただし頭部の耳部分の機械を除き見た目と感触は人間のソレ。
 コレは、核となった幽霊への配慮だったり。

~アルビレオは付喪神~
 原作設定で、本体が600歳のエヴァンジェリン以上の歴史を持つ古本と言うことで、今作ではそんな設定にしました。 

次回は次のまつろわぬ神戦への導入に行きたいですね。
アンケート結果は活動報告を載せておくのでそちらを確認してください。
修正点は随時修正します。
感想待ってます!(*´∀`)




 

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