しかしこの作品には関係ありませんので、続行しまーす。
麻帆良学園の中等部エリアの校舎の一室。学園長室で、二人の夫婦は深刻な表情で俯いていた。
そして夫人とおぼしき女性の腹部は大きくなっており、妊婦だというのが容易に見てとれた。
学園長室に居るのは、雪広あやかの両親と学園長近衛近右衛門。
そして学園長を除き関東魔法協会最高戦力高畑・T・タカミチ。
そしてエヴァ姉こと瑞葉雪姫と俺、瑞葉皐月。
「……どうにか、ならないんですか?」
「無理だ。出来るならこんな場など設けていない」
縋り付くような雪広夫人の懇願を、エヴァ姉が断ち切る。
実際問題、運が悪かったとしか言えない。
「間が悪かった、ならばこれからどうするかを考えるのが肝要だ」
「エヴァがマトモな事を言っとる……!」
「人見知りのエヴァ姉が初対面の人を励ましてる……!」
「エヴァ、成長したんだね……!」
「縊るぞ貴様らッ……!!」
何時も閉じてる学園長の目が見開き、俺は開いて塞がらない口に手を当て、タカミチさんは顔を手で覆って涙すら浮かべた。
そんな俺らに対するエヴァ姉の怒りに魔力が高まり、氷属性に適性が高いエヴァ姉の周囲の気温が急激に下がる。
「覚悟……ていうか決心が付くまでの時間はまだありますが、手遅れになれば夫人の命までもが失われます」
「しかし、神だなんだと言われても……」
「信用させるために裏山に
「いや、麻帆良諸共埼玉県が焼け野原になるから」
AUOの蔵の様に空間が歪み、取り出した
「便利じゃのう。毘沙門天の権能じゃったか?」
「いやぁ、両手が常に自由で楽ですわ。ってな訳です、……まぁ子供の俺が言うのも何ですが、小学生で母親が居なくなるのは、キツいモンですよ」
「……っ」
俺の身の上は既に話してある。勿論、魔王やらなにやらは省いているが、ソレでも俺が親元から離れなければならなかったのは理解してくれていたのか、雪広夫妻が息を呑む。
「……お願いします」
「うむ、此方も最善を尽くしますぞ」
「だからその分、雪広────あやか嬢のフォローは頼みますぜ」
決心したように頭を下げる雪広夫妻に、俺達は笑顏で返事を告げる。
お膳立てはしたんだ、コレで失敗とか雪広に顔向け出来ねぇ。
「────して、君があやかの言っていた皐月くんか。娘とはどんな関係だい?」
「ナニいきなり親馬鹿みたいなツラしてるんスか」
第十三話 混ぜるな危険
まつろわぬカグツチの覆滅に、京都────正史編纂委員会も腰をあげ、というより魔王である皐月が協力を要請した。
正史編纂委員会によって情報統制、更には実行する土地の選出。
関東魔法協会は当事者の配慮のみと、やはり近右衛門は今はまつろわぬ神を魔法生徒達に関わらせたくないらしい。
万が一、まつろわぬ神に猪突猛進されるのは敵わないのだ。
そして実行員に選ばれたのは、皐月とエヴァ姉、そしてアスナだ。勿論理由はある。
────そして時は経ち、一ヶ月後。
無人島に場所を構えた、魔法で意識を失ってベッドに横になっている雪広夫人を含めた五人が集まっていた。
離れた場所には青山鶴子、近右衛門、結界を担当とする正史編纂委員会の術者が控えている。
「────さて、殺りますか」
皐月が雪広夫人の大きく膨らんだ腹部に手を当てる。
アグニの炎の権能はあらゆる『火』を操る。勿論、まつろわぬ神や魔王でない限り、命という火を消すことも可能だ。
このまま胎児の命の火を消せば、『なぞり』は起きずカグツチが出現することはない。
勿論、そんな簡単に終わるわけもないのだが。
「────」
ドクンッ! と、巨大な鼓動が周囲に響き、その瞬間腹部から火柱が出現した。
カグツチが自身の顕現の邪魔をされ、時期を繰り上げて無理矢理顕現を始めたのだ。
「作戦開始ッ!!」
無論、こうなるのは先刻承知。
火柱が雪広夫人を呑み込む直前に、アスナの『ハマノツルギ』―――――場合によっては権能すら切り裂く
今のアスナは、人体の切断に躊躇は無い。
胸元で上半身と下半身に分かたれた夫人の身体から血が吹き出す前に、エヴァンジェリンが夫人の周囲ごと凍らせ、夫人を棺桶のようにスッポリと覆う氷柱を生み出す。
上半身だけとなった夫人を仮死状態にしたのだ。
下半身など、後でグロ耐性が出来たこのかが完全再生させれば事足りる。
ソレを見届けた皐月は、右手に集めたアグニの浄火を最大出力に上げ、切断されて浮かび上がっている夫人の下半身に、山をも吹き飛ばす威力の炎をブチ込む。
「────ッ!?」
その瞬間に、火柱が巨大な腕となって、皐月の右手を掴まなければ。
「なッ!?」
「サツキッ!!」
「来るなッ!」
皐月はそのまま火柱の腕に引き摺り込まれた。
「このッ……!」
「止せッ!」
アスナが火柱に突っ込もうとするも、エヴァンジェリンに止められる。
「離して! サツキがッ……!!」
「奴は無事だ! アレは幽世に引き摺り込まれただけで!!」
「幽世……!?」
「問題は奴のホームグラウンドとも言える場所で、皐月がどうやってカグツチを倒すかだが……」
幽世とは不死の境界にある世界で、欧州ではアストラル界。
中国では幽冥界、もしくは幽界。
ギリシアではイデアの世界。
ペルシアでは
パンドラがカンピオーネと会う場所もここであり、謂わば神特有の別位相の世界とも言える。
全ての神がこの世界を保有しているかは不明だが、神が保有する幽世は謂わば神だけの世界。
スサノオの幽世は高天ヶ原の如き神殿だったりと様々だ。
「カグツチの幽世など大体予想が付くが……皐月は神殺しだ。待つしかあるまい」
「皐月ッ……!」
◆◆◆
カグツチの幽世、ソコは紅蓮で埋め尽くされた灼熱の地獄だった。
マグマの海に、天蓋を覆う炎が世界を覆い尽くしていた。
その真っ只中に、皐月は放り出されていた。
「ぐぅッ……!
スレイプニルを出し、マグマの海に落下するのを防ぎ、最も熱気が薄い天地の中間に位置取る。
「ぐぁああああッ……、あの野郎、人様の腕もぎやがって……!!」
幽世に引き摺り込まれる際に掴まれた腕は、焼け爛れ肘から先が炭化していた。
「手癖の悪ィ餓鬼だなオイ」
『クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!!!』
マグマの海が盛り上がり、中から巨大な溶塊が鎌首を上げる。
溶岩でまみれ、炎が包む巨大な蛇が顕現した。
それは歓喜の雄叫びだった。
それは憤怒の絶叫だった。
「何処ぞのオサレ漫画の主人公みたいな設定しやがって」
火神であり、豊穣と鍛冶────鋼の側面を持つカグツチには、更にもう一つの要素を持っていた。
カグツチの『先代旧事本紀』での名である軻遇突智は、「かぐ」
つまりは竜蛇。
カグツチは鋼の不死性に竜蛇の不死性、そして火神と神殺しの力を持っているハイブリッド。
ソレがまつろわぬカグツチだ。
『ようこそ、我が
触れれば『鋼』ですら容易く溶解する溶岩で固められた鋼の皮膚に、竜蛇の耐久力と膂力を兼ね備える。
カグツチの全身が励起し、一撃一撃がまともに喰らえば致命傷の砲弾が装填される。
『我の誕生を祝う号砲だ。早速で悪いな名も知らぬ神殺し、受け取れ』
「……、ヤダね」
噴火の様な轟音が鳴り響き、山をも砕く灼熱の流星が万発吹き出した。
「────我は稲妻、中空に在る罰を与える裁きの雷火なり!」
『足掻け足掻け。まぁ、自らの寿命を延ばすことは出来るやもしれぬがな』
────ヌルいなコイツ。
皐月はカグツチの肉体的能力ではなく、精神的幼児性を見抜いた。
神話ですら、生まれた直後にイザナギに斬り殺されている。
皐月を徐々に追い詰めて楽しむつもりだろう。
慢心王もいいとこだ。
雷に転じた皐月は、神速で流星火山の如き流星群を切り抜け、
「オラァ!」
『ッ!?』
片腕を炭化された激痛を振動に変え、カグツチの側頭部に撃ち込む。
超分子振動波で、溶岩の鱗が一瞬で粉砕、溶解、蒸発していく。
『グオオオオオオ!!』
「うおっ!」
巨大過ぎる火竜が、その身体を捩る。
巨体で肉体それ自体が武器のカグツチは、それだけで致死レベルの攻撃となる。
ソレを危なげに避け、皐月は再び離脱し距離を取る。
『蝿の分際で、小賢しい真似を……!』
「せめて大雀蜂にしてくんねぇかな、餓鬼」
『は! こんなもの!!』
カグツチが傷口をマグマに浸す。
それだけで砕かれた鱗が再生する。
「オイオイ、チート過ぎんだろソレ」
『鋼』は性質上存在自体が『剣』の暗喩であり、神話上で「石」「火」「風」「水」と共生関係にある。
確かに金属を溶かす強烈な高熱に弱い反面、『剣』をより強く鍛える事も出来る。
大地がマグマのこの幽世において、カグツチは常に呪力の供給を受けているに等しい。
『貴様が我に引き摺り込まれたその瞬間、貴様の負けは決定したのだ!』
「────」
カグツチの口から、巨大な熱線が放たれる。
「グラビモスかよ」
未来視が出来、神速を持つの皐月には面の攻撃すら当たらない。ソレが点や線なら尚のこと。
だが、一発足りとも当たる訳にはいかない。
カグツチの真骨頂は神殺しだ。
権能が『神』と判断されたのか、雷化は出来るもののアグニの『太陽』と『浄火』の権能が封じられている。
腕を炭化されただけでコレなのだ。
直撃などされたらどれだけの権能が使い物にならなくなるか。
問題は、神速を封じられれば、その時点で詰みだということ。
再び降り注ぐ流星。
神速で回避できなくもないが、防戦一方。
だからと言って半端な攻撃は『鋼』の鎧たる溶岩の鱗が防ぎ、ダメージを与えても容易く回復される。
そしてその度に防御も堅くなる。
攻防一体。
即時補給可能。
難攻不落の要塞型高火力砲台。
最強の『鋼』たる「最後の王」も、その神剣の御業でカグツチの死因の『伊都之尾羽張』を以て挑まなければ苦戦必至だろう。
既存の魔王の最古参の狼翁も、羅濠教主も。
後に生まれる剣の王でもこの状況では打つ手はなく、恐らく全ての魔王に対して非常に高い勝率を誇るであろう。
「――――――――――――――――――ブハッ」
唯一人、皐月を除いて。
「あハッ、ハはハハハはハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハはハハハハッッッ!!!!!!!」
皐月は笑いが止まらなかった。
可笑しくて堪らないのだと言うように。
『……何が可笑しい? 気でも触れたか?』
「何が可笑しいだと? コレが笑わずに居られるかッ!」
全ての魔王に対して勝てる能力を有するカグツチは、何処までも運が無かった。
「全門────開放」
毘沙門天の蔵が開かれ、短い槍のような弾頭が大量に、火竜を囲む顔を見せる。
その弾頭全てには、とあるルーンが刻まれていた。
「────『
凡そ30はある弾頭全てに。
『────は?』
ソレは、恐らく地上で絶対に取れない反則技。
アグネアの矢────それ一つだけで戦いを終わらせかねない核の弾頭に、万物を燃やし尽くす諸刃の剣であるレーヴァテインの、絶対にやってはいけない禁断のコラボである。
確かにカグツチは火力も高く防御も硬い。耐久力と、自らの幽世に引き摺り込めば永久機関の如き呪力補給で永遠に戦えるなど、卑怯な程強い。
唯し、マグマに身を浸しているため移動能力を代償にしている。
神速を出来るまつろわぬ神なら兎も角、移動能力が著しく低下するこの状況で、カグツチはこの攻撃を避けられない。
カグツチの敗因は、皐月を幽世に引き摺り込んだ事だろう。
どうしようもなく、カグツチにとって皐月との相性は最悪だった。
「チェックメイト────綺麗さっぱりケシ飛べ」
爆発圏内から逃れるように雷化する皐月の、チェスの駒を置く仕草が断頭台の刃を落とす合図だった。
『お……おおおおおおおおおお!!!』
カグツチは先程の余裕は何処にもなく。
恐らく切り札であっただろうマグマを操り迎撃を試みるも、終末の爆炎と核の爆風は海のようなマグマを全て吹き飛ばさんと猛威を振るう。
一発だけでソレだ。
爆炎が止むまえに間髪入れずに次が叩き込まれる。
カグツチの体感では、永遠に爆炎と爆風に曝されたと感じられたかもしれない。
「……へぇ」
爆風が晴れたソコには、マグマが吹き飛び、胴体は千切れ鱗は大半が爛れるように剥がれ落ち見るも無惨なカグツチの姿だった。
『ぐ……、ごっ……』
「オイオイ、一日にアレ数発しか造れないんだぜ? ソレを30ブチ込んだのにまだ生きてるだなんてよ────」
傷付き、半死半生満身創痍のカグツチの瞳は、未だに死んでいなかった。
理不尽に殺された神話の様になるものかと、死にかけとは思えないほど呪力を漲らせ鎌首を持ち上げる。
持ち上げて────────
「────ストックが後126発しか残ってないんだぜ?」
────三日月の様な裂けた笑みと共に、眼前を覆い尽くす弾幕が襲い掛かった。
地獄はまだ、終わらない。
何がチートか? と問われれば、別荘が、と皐月は答えるだろう。
「言ったろうが、チェックメイトだってよ」
ソレが、カグツチの最後に聞いた言葉だった。
というわけでまつろわぬカグツチ戦終了。
恐らくここまで酷いのは後にも先にもこの戦いだけかと(造物主戦が戦闘描写なしになる可能性が……)。
幽世については、下手したら自分の解釈が間違ってる可能性があるので、もし「コレはねーわ。幽世ってのは~~」と、明確なソースと間違いがあったら是非とも指摘ください。可能な限り修正します。
『
単純にアグネアの矢を弾頭に変形、レーヴァテインのルーンを刻んだだけの、呪力こそ必要だが極めてお手軽な危険物。レーヴァテインを数十発造れる皐月でも一日数発しか造れない。
ソレの凄まじい規模の爆炎が尽きないタイミングで掃射しつ続ける、究極の鋼殺し。
唯一『最後の王ラーマ』に対して正面から打倒しうる方法。
カグツチの権能も混じれば当たれば確殺可能である。ただし幽世以外で使えばリアル世紀末が到来するので絶対に使用できない。
レーヴァテインだけでも出来るが、そちらは地上でも使用可能と、威力は控えめ。
修正点は随時修正します。
感想待ってます!(*´∀`)