魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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グランドオーダー、五次ライダーとジャンヌ出ぬ(血涙)



第十九話 魔法使いのざわめき

 麻帆良学園女子中等部1-Aは極めて個性的である。

 明らかに成人女性の外見をした者から、保育園にでも通っていそうな幼児の如き外見の者まで幅広く集めている。

 

 また容姿のレベルも非常に高い。

 不細工は皆無で、モデル顔負けの整った者が全てだ。

 それ故か彼女達は酷く奔放で、そして生活指導担当のベテラン教師が頭を抱えるほどに────アホだった。

 

 アホ達は年相応に、その行動範囲は非常に広い。

 そしてそのアホ達の中でも一際目立つ集団があった。

 

「ねーねーあすなん、あかりん。いつも授業終わったらすぐに飛び出していくけど、今日はしないんだね?」

 

 クラスの一人でラッキー娘の椎名桜子が、二人のオッドアイの少女に問い掛ける。

 

「今日は来るなと厳命されましたので」

「流石に今日行くと逆効果」

「今までが逆効果じゃないとでも……?」

 

 席の後方でアスナの言に慄いている、背中ほどのポニーテールの眼鏡少女────長谷川千雨に視線が向く。

 だが、このクラスの数少ない常識人にてツッコミ役の彼女はかなり大切にされているため、その発言に口出しする者は居ない。

 アホ共もそこら辺は弁えていた。

 

「何々? オトコ?」

「ってツッキーでしょ? 桜子知らなかったっけ」

 

 幾ら常人の斜め上の思考回路を持つ彼女達アホでも、その話題は年相応の物。

 クラスの仲間が異性の話をしているのに、飛び付かない訳がなかった。

 

 だがそれは一部の人間にとってはありふれた既知。

 特にアスナ達の事を知る初等部出身者は、彼女達の想い人がどんな人間か良く知っていた。

 

「男子の瑞葉皐月くんね。目付きはちょっと悪いけど、メッチャイケメンだし。ただ私達を見る目線が完全に先生とか親のそれだったかなぁ。この前も飴くれたし」

「ほー。てことはアスナやいいんちょ、このかに桜咲さん、あかりんに長谷川さんも知り合いなのかなぁ?」

「髪の毛が触角みたいに動いとるよパルー? なんや病気みたいやからせっちゃん、アレ切り落としてくれへん?」

「このちゃん!?」

「アスナのオープンさに隠れて目立たないけど、このかって意外とバイオレンスだよねッ!?」

 

 そんな中、皐月の話題を聞いて動揺している人間が複数人。

 

 共に主の走狗を自覚する根っからの戦士であるアカリや刹那は、その反応を見逃しはしない。

 直ぐ様脳内リストに魔法関係者────それもカンピオーネの存在を知る限られた者だと判断する。

 

 ただ、疑問だったのは。

 

「へ、へー……」

「アイヤ?? ゆーな食い付き悪いナ? 何か変なモノでも食べたカ?」

 

 中華を全身で表現する生徒に心配されるも曖昧に苦笑で返す。

 明るい茶色と黒色のツートーンである。左の横髪が長いアシンメトリーで、シュシュでくくったサイドテールの少女────明石 裕奈。

 

 アスナのキチさやアカリの存在に刹那とこのかの距離感。このクラスの担任教師の存在に対し、彼女は明らかな動揺と愕然に近い驚愕を示していたことだろう。

 

 もし彼女と皐月が会えば、その警戒が無用の長物だと知るだろうが────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十九話 魔法使いのざわめき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。世界樹広場に複数の男女が集まっていた。

 麻帆良学園の誇る魔法先生と魔法生徒である。

 

 その場で本来の目的である魔法関係者の生徒────進級生や編入生、または新任の魔法先生の自己紹介と顔合わせが行われ、既に事を終えていた。

 

「うむ、顔合わせも滞りなく終えた様じゃの。警備の際のみとはいえ、お主らは互いに隣に立ち共に背中を護る間柄になるのじゃ。故に信頼関係の構築を怠るでないぞ?」

『ハイッッ!!!!』

 

 学園長の言葉に勢いよく返事をする一同。

 ただ麻帆良学園の防衛を担ってきたわけではない。

 というよりも、麻帆良学園が余りに狙われ過ぎなのだが。

 

「さて。皆の自己紹介が終わった様なので、今回の集会のもう一つの理由を行おうと思う。そう、集会前に配った書類じゃ。皆は熟読して貰っていると思うのじゃが」

 

 その言葉に一同が、特に魔法世界出身の魔法先生・生徒が強く反応し、懐から事前に渡されたとある存在についての情報が載せられた書類を手にする。

 

「学園長、お訊きしたいのですが……この書類にある『まつろわぬ神』────そう神です。本当にそんなものが存在するのですか?」

「無論じゃよ。寧ろ嘘をついてどうする」

「いや、しかし……」

 

 飄々と、しかし断言する学園長に質問した魔法先生は困惑を隠せない。

 

 地球と魔法世界には一つ、大きな差異が存在する。

 魔法世界には精霊や竜、様々な亜人やモンスターは存在しても、神という存在は一柱しか存在していないのだ。

 

 ウェスペルタティア王国の初代女王始祖アマテルが魔法世界の創造主の娘である、という伝説しか神について言及する伝承が存在しないからだ。

 

 しかもその創造主に関する情報は余りに少ない。

 伝説のお伽噺のほぼ全てが史実である魔法世界に於いて、その住民が欠片もその痕跡を知らない神は空想の存在であり、実際に信じてなどいないのだ。

 

「強いて言うなら、まつろわぬ神では無いがこの麻帆良学園にも神は存在する。そう、真なる神がの」

「な────」

 

 ざわめきが波濤となって広がるが、学園長が手を挙げると静かになる。

 

「勿論、その神はまつろわぬ神のように率先して人の世を乱したりはせぬよ。寧ろ我々を護ってくださっておられる」

「と、いうと?」

「疑問に思わなかったのかな? この麻帆良学園近辺にそう言ったまつろわぬ神についての事件、情報を耳にしたことが無いことに」

「それは……その真なる神とやらが、まつろわぬ神の出現を防いでいる。または我々から隠している……?」

「前者が、正解じゃ」

 

 創立以来、重大な霊地である麻帆良学園でまつろわぬ神が顕現したことは皆無である。

 それはひとえに霊地から広がる霊脈を通して、付近のまつろわぬ神が顕現する可能性を根刮ぎ潰しているからである。

 

 そう、世界樹の────神木・蟠桃の主が。

 

 学園長────近衛近右衛門が麻帆良学園の学園長を、関東魔法協会の長をやっていながら『近衛』を名乗ることを許されているのは、その世界樹の主である真なる神の伝達役────御子であるからだ。

 

 その役目がある近右衛門が長だからこそ、関東魔法協会は「関東」という広い領域に影響を与えることができる。

 最も、大きく離れてしまえばその加護は影響せず、例えば世界を飛び回る雪広婦人にまつろわぬ神が宿るなどという事が起こってしまうのだが、それは不運としか言えない。

 

 百聞は一見にしかず。

 麻帆良学園の魔法先生達にその危険度を正しく伝えることなど、実際に見なければ理解できないだろう。

 

 ともあれ、本題はまつろわぬ神ではない。

 

「それに何ですか! このカンピオーネという存在は!!」

 

 金髪の女子中等部の制服を着た魔法生徒────高音・D・グッドマン女子の声が響く。

 その声色は義憤だ。

 彼女の反応した情報は以下の通り。

 

 とある魔王は「暇だ」というくだらない理由で、魔法も何も知らない一般人を殺害。

 とある魔王は声を聞き姿を見た、という理由で耳と眼を潰すという。

 

 本来魔王という呼称は『魔導の王』という意味合いなのだが、如何せんその傍若無人、超々自己中心的(ウルトラマイペース)さから、魔の王という意味に取られる場合も少なくない。

 

 少なくとも最古参の魔王の精神的超越さは、正義を志す魔法使いであるメガロメセンブリア出身の者達にとって許せるものではなかった。

 

「何故、我々にこの様な存在を隠しておられたのですか!?」

「質問を質問で返す様で悪いのじゃが、仮に教えてどうするのじゃ」

「勿論、悪には正義の鉄槌を! 法の裁きを与えるのです!! 一般人が被害を受けているのなら尚更!」

 

 そして純粋な者にとって、魔王とは勇者によって打ち倒される者である。

 

 その考えは至極自然の思考だ。

 法を破ったら、罰を受ける。

 現代において極めて正しい理論だ。

 

「────残念ながら、それは無理だよ」

「高畑先生……」

 

 しかし現実とは時に正しさなど何の意味もない場合も存在する。

 

「遅刻してしまい申し訳ありません。一番早い便で飛んできたんですが」

「いやいや。御勤め御苦労様、じゃよ」

 

 例の例の例によって、NGOの『悠久の風』としての仕事で国外に出張していた高畑・T・タカミチである。

 

 麻帆良学園での役職は広域指導委員だ。

 本来ならば女子中等部のA組の担任教師となっていたのだが、二十年前の大戦の黒幕『完全なる世界』の残党討伐で魔法世界と地球を往復する激務故にやっていられなくなったのだ。

 

 出張で殆ど不在な教師を担任になど出来はしない。

 故に1-Aの担任教師は別の者が勤めているのだが────。

 

「無理とは、どういう意味でしょうか……高畑先生?」

「単純な理由だよ。彼等カンピオーネを人間が倒したという事例が皆無であり、実力的にも不可能だからだ」

「……!!」

 

 実力的に魔法使いが倒せない。

 タカミチが口にした言葉に魔法先生・生徒が戦慄する。

 

 神だ魔王だ天変地異だと揶揄されても実感など湧きはしなかったが、タカミチが口にするとなると話は変わってくる。

 

 なんせタカミチは世界最強の魔法使いである紅き翼のメンバーであり、その背中を見て成長した歴戦の強者だ。

 そのタカミチが『勝てない』と言う。

 

「しかも魔王は魔法抵抗力が高過ぎて、極大呪文以外じゃマトモに傷を負わすことも不可能に近い。その上神から簒奪した権能もある。実力だけの判断でも、魔法使いの僕らには彼等に勝ちようが無いんだよ」

 

 単純なカタログスペックですらこの始末。

 加えてカンピオーネのカンピオーネたる所以は、圧倒的不利な状況から勝利をもぎ取る力にこそある。

 

「まぁ僕自身もそれなりに最近知ったから、知ったかぶりになってしまうかもしれないけどね」

 

 どちらにせよ、魔法使いがカンピオーネに勝つにはソレこそカンピオーネに成らなければ不可能なのだ。

 

「……それで学園長、ソレを我々に知らせた意図は何でしょうか?」

 

 サングラスに黒ひげが似合う男性教師────生徒からヒゲグラの渾名で親しまれている? 神多羅木が本題を問う。

 今まで隠していた存在を明かす理由は何か、と。

 

「実は我が学園の生徒が神殺しの偉業を為し、この魔王となって在学している」

『────────ッッッ!?』

 

 衝撃が走る。

 散々危険を教えられた相手が生徒として存在しているのだから当然である。

 

「ど、どうして我々にその事を教えて頂けなかったのですか!?」

「そうです! 魔王が存在していると言うのであれば────────」

「あれば、どうしていたのじゃ? 彼は悪行など行って居らず、寧ろこの学園の危機を救ってくれたというのに?」

「え────?」

 

 言葉が途切れる。

 

「話は終わっておらんぞ? その彼、この学園のとある生徒は魔王ではあるものの、明確な悪ではない。資料にもあったじゃろう。魔王とて常に悪行を成す存在ではないと」

 

 代表的な魔王といえば、アメリカの魔王ジョン・プルートー・スミスだ。

 彼────正確には彼女はその権能が周囲に甚大な被害を与える贄を必要とするため恐怖・畏怖されてもいるも、同時に『ロサンゼルスの守護聖人』と魔術界で呼ばれている民衆のヒーローだ。

 畏れられながら、求められている。

 

「正義を志すことは悪いことではない。が、それに盲目となり果てるのは悪じゃ」

 

 この世は二元論で片付けられる程、単純ではない。

 そう語る近右衛門の顔は、しかしその皺を深く刻むほど顰めていた。

 

 IFの話。

 彼等が断片的な情報を入手していたのなら、魔王である皐月を悪だと断定して正義感の元に敵対行動を取っただろう。

 その末路は、魔王に辿り着く前に彼を慕う少女たちによって死体を晒すというものである。

 そんな学園長を見ながら、学園に通う娘を持つ明石教授は己の懸念を吐露する。

 

「ふむ……危険ではないのですか? ソレだけの力を持っているのが学生というのは」

「その通りじゃ。しかし我等は彼を力で縛ることは出来ん。天災を防ぐことが出来んようにの」

「ならばどうするというのです!?」

「言葉を尽くすのじゃ」

 

 高音の悲鳴にも似た声に、学園長がハッキリと返答する。

 

「彼は鏡の様な竜じゃ」

「鏡と、竜……」

「善意には善意を。悪意には悪意を。敵意には敵意を。それ故に敵対者には、己の宝を狙う者には一切の容赦はせん。それこそ、ただの一撃でこの学園が火の海瓦礫の山になりかねんほどに」

 

 だが、幸いにも皐月は、それなりに話の出来る魔王だ。

 時代が違う、価値観が違う最古参の三人(ヴォバン、羅濠教主、アイーシャ夫人)に剣バカと比べれば遥かにマシであり、それこそ余程の事をしなければ神や魔王以外を相手に怒りはしない。

 

 一度沸点を超えれば、それこそ世界を滅ぼすことすらやりかねないが、しかしその沸点は比較的高い。

 勿論、魔王や神ではないという前提は存在するが。

 

「故に諸君らには魔法に頼らず、人として言葉を尽くして欲しい。難しいかもしれんが、きっと彼は解ってくれる」

「……」

「……しかし」

「それに彼は魔王であると同時に我が学園の生徒でもある。そんな彼を力を持つ、という理由だけで排してはイカンじゃろうて」

『……!』

 

 学園長の言葉に、半数の穏健派と呼ばれる魔法先生が心の中で賛同する。

 それとは違い、容易く承諾できない者達もいる。

 魔法を人々の為に使う物と、そう教えられソレが正しいと思う純粋な者達。

 即ち魔法世界でもメガロメセンブリア出身の魔法生徒達である。

 

 魔王の使う権能は魔法ではないのだが、彼等にとっては同じこと。

 

 ソレを人々を戯れに害し、しかも命を奪うなど許容できる物ではない。

 それは『表』の、即ち一般的な極めて正しい倫理観のソレ。

 殺人に対する嫌悪と合わさって、自らが振るう「人を幸せにする術」を汚されたと感じる者もいる。

 そんな「悪」と同じ呼称で呼ばれる者など、認めるわけにはいかなかった。

 

 そして────────

 

 

 

 

「どうやら、来たようじゃの」

「…………まさか」

 

 学園長の呟きに、どよめきが広がる。

 それと同時に、この場に押さえ付けられる様な圧力を発する莫大な呪力を纏う少年を筆頭にして複数の参入者がやって来た。

 

 その場の人間が様々な感情を表す。

 恐怖、好奇心、現実逃避、観察、懐疑、敵意、傍観。

 そして―――――――――――歓喜。

 

「なあなあせっちゃん。時間通りに来たのに何この遅刻感。イジメ? イジメなん?」

「えっと……恐らく我々への配慮では無いでしょうか……。流石に学園長が幾ら戯れの過ぎるお方とて、魔王である皐月さんにそんな事をする気はないでしょう……たぶん」

「もし仮にイジメだとすると、近右衛門はネギトロ確定。慈悲は無い」

「老害など生きているだけで百害です。殺処分が妥当でしょう」

「という訳だジジイ。肉片は拾ってやるから潔く散れ」

「ウチのキチ共血の気多すぎィ!!」

 

 魔王御一行が、現れた。

 

 

 

 

 




というわけで、お久しぶりです(デジャブ)。

今回は魔王やまつろわぬ神についての麻帆良学園の魔法関係者の反応でした。
……予定より話進んで無いですね。

この作品の『正義の魔法使い』は比較的にマトモ設定です。
特にアンチ作品でよくキチガイ扱いされているガンドルフィーニ先生も普通です。
原作からしてそこまで変な発言はしてないのになぁ。妻子持ちだし。
ただし原作からして正義正義連呼している一部の方は、常識の範囲内で正義正義言って貰います。

次回は集会本番。どこまで進めるかなー?
そして更新速度は御察しですのでご了承ください。
詳しくは活動報告の『生存報告』にて。

修正点は随時修正します。
感想待ってまーす(*´ω`*)

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