魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

22 / 49
明けましたおめでとうございやす( ̄ω ̄*)ゞ



第二十話 会合と

 現れた男女に対する魔法使い達の反応は、そのキテレツな言動に対する警戒と、見知った人物であるという一部教師陣達の驚愕は大きかった。

 

「あぁ、魔王ってそういう……。ちょっと洒落にならないじゃないか……」

 

 特に瀬流彦は配布された資料の内容を思い出し、少年を苛めようとしていた生徒達がどれだけ地雷原でタップダンスしていたか理解できたため、ひどく顔を青褪めさせていた。

 

 それに、皐月以外の生徒達もある意味驚きを与えていた。

 どれだけ問題児であろうと、アスナ達の善性と人格は教師達もよく知っている所である。

 そんな彼女達が、魔王に侍る様に居るのが信じられなかった。

 そしてそれ以上の衝撃は、

 

「そんな……雪姫先生まで……」

 

 魔法生徒から、呆然とした言葉が漏れる。

 生徒だけでなく教師からもその美貌から絶大な人気を誇り、周囲の憧れの的である女教諭。

 1-Aの担任、瑞葉雪姫。

 

 そんな彼女が、魔王の側に立っている。

 当初持っていた敵愾心が成りを潜める程の困惑が、魔王一行という、勇者一行とは別の意味で襲撃されかねない肩書きの彼等への攻勢を緩めていた。

 

 いや、寧ろ幸いと言えるかもしれない。

 

 学園長の諫言が無くとも、魔王とその配下と言える少女達の正体からの動揺が無かろうとも。

 どちらにせよ、魔法生徒も魔法教師も手は出せなかっただろう。

 

 畏怖に身を震わせ。

 

 それほどに彼等の────正確には、一人の少年が連れている銀狼から滲み出す呪力は他と隔絶していた。

 

「どもども。いやマジで俺ら遅刻してませんよねタカミチさん。っと、高畑先生」

「もしそうだったらタカミチ、近右衛門にハイクを読ませて。カイシャクするから」

「フォッ!?」

「はは、本当に明るくなったなぁアスナ君は。大丈夫。時間通りだよ。それに公私を分ける所は素直に感心するけど、今の君は生徒ではなく魔王なんだ。僕らに必要以上の敬いは必要無いよ」

「そですか。じゃいつも通りに」

「うん。いつも通りで大丈夫だよ」

 

 タカミチは普段通りに生徒に接する様に皐月と接するも、内心冷や汗が止まらなかった。

 

 元より、魔力や気というのは感情に左右される。

 魔力暴走程の感情の揺れは基本負の感情による物だが、ソレほどの感情の揺れはそうはない。

 しかし魔法世界において最強と呼ばれる類いの者達は臨戦態勢に入る前にすら、畏怖させる程の威圧感の類い────エヴァンジェリンならば冷気。ジャック・ラカンならば圧力────を周囲に与える。

 

 そしてこの魔王と銀狼の発するモノは、僅かに熱の伴う圧迫感であった。 

 

「御足労感謝しますじゃ、魔王殿」

「本当にその通りです。本来ならそちらが謁見という態度を取るのが然るべき道理。たかが一魔法協会のトップ風情が、魔王である皐月様をアゴで使うなど」

「アカリちゃんシャラップゥ! 俺そんな事されるの困る!」

 

 激昂時は常識を投げ棄てる皐月であっても、平時にソレを遣られるとドン引きするだけである。

 だがその発言に反応したのは、年若い魔法使い達。

 

「が、学園長になんて口の聞き方を……!」

「…………」

「生徒と聞いたが……まさか彼等とは」

「優等生ばかりではないか」

「ひゃー、絶対ヤバイよアスナ達。ここはバレないようにしないと……!!」

「遅いと思うよミソラ……」

 

 各々が感想を述べるなか、魔王一行が前に出る。

 

「ども、男子中等部1-A。瑞葉皐月です。以後お見知りおきを」

「ドーモ。魔法使い=サン神楽坂明日菜です」

「皐月様の配下が一人、瑞葉燈」

「女子中等部1-A、近衛木乃香や。よろしゅうしてな」

「同じく、京都神鳴流末席。桜咲刹那です」

「まぁ私は二年前の始業式に挨拶したと思うが、英語担当の瑞葉雪姫だ。皐月とアカリ、そしてアスナの保護者でもある。またその手の質問がある生徒は職員室に来い。それと春日、顔を隠すなら明日出す宿題を倍にするぞ」

「すみませんでしたッッ!!!」

 

 修道服にマスクで顔を隠し、初等部の生徒であろう褐色の修道服の少女に隠れていた少女が悲鳴を上げるように答える。

 

「あ、美空だ。それにゆーなも居るじゃん」

「ゆーなは兎も角、美空は何で隠れとるん?」

「え、誰? 友達?」

「今度紹介する」

「(明日菜やめてぇえええええッッ!!!)」

 

 小市民を自称する1-Aの春日美空が内心悲鳴を上げるが、上司である褐色美女のシスター・シャクティからギロリと睨み付けられ涙目で固まるしかない。

 

(ゆーな? 明石教授の……確か最終決戦でフェイトの石化を喰らっていた、だったか? もう原作知識がうろ覚えだし怪しいが……初めから魔法生徒だったのか?)

 

 アスナ達が手を振るのに、苦笑いしながら振り返すサイドポニーの少女に、皐月が疑問符を浮かべる。

 だがそれも、原作なんぞ粉微塵になった現在ではソコまで注視しなかった。

 彼女の放った、小さな小さな言葉が無ければ。

 

 本当に、本来ならば誰にも聴こえる筈の無いソレ。

 皐月の権能は、彼女の正体を決定付ける言葉を聞き逃しはしなかった。

 

 

「────魔王なんて原作に居たっけ? 居ないよね……しかも明日菜達を侍らせて……いや、アレは侍らせてるのか、な? 何か、引率の先生を彷彿と…………」

 

 

 皐月が目を見開かせるには、十分すぎるものだったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

第二十話 会合と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園長、彼等と我々を会わせたという事は彼等も警備に参加するのですか?」

 

 褐色に白いスーツを着た眼鏡の魔法教師、ガンドルフィーニが学園長に質問する。

 皐月達が如何に魔王とその一派であろうとも、それ以前に麻帆良学園の生徒。

 ならば魔王の力を学園の平和の為に使ってくれるのではないか。

 

 根が善人であり、そもそも魔法を他者の為に遣う事を根本としている魔法生徒や魔法先生ならば、そう考えるのは自然であった。

 しかし、

 

「うむ……残念ながら、それは彼等の立場上出来ん」

「立場……?」

「このかはそもそも狙われる立場。そんな奴が警備とか阿呆のやることだ。んで、一応刹那はこのかの護衛or従者」

 

 疑問の声に答えるように、皐月が答えを口にする。

 

「まぁアスナとアカリは成る程白兵戦こそ真価を発揮するが────相性が悪い」

「相性?」

 

 この言葉に、学園長すら疑問符をあげるが、その答えに魔法使い達が戦慄した。

 

「あの二人はちょいとした事情で、基本敵対者は皆殺しをセオリーに鍛練してたから。幾ら警備っつっても、侵入者皆殺しは不味いんでねーの? と思いましてね」

 

 刹那ならばその目的は主である皐月とこのかの守護。

 彼等の立場故に、場合によっては不殺をしなければならない。

 

 だがアカリとアスナは自己防衛こそが目的である。

 敵対者はメガロメセンブリア元老院の暗部か、『完全なる世界』。

 後者なら兎も角、前者に対しての敗北はほぼ死を覚悟しなければならない。

 特にアカリは確実に殺されるだろう。

 故に一切の容赦を棄てさせなければならなかった。

 

 では、麻帆良学園の警備にはそんな『外敵絶対皆殺しウーマン』は合うと言えるだろうか?

 

 ハッキリ言って否である。

 魔法は確かに容易く人を殺せるが、人殺しを推奨している訳がない。

 正義を自称する彼らにとっては、寧ろ人助けが目的と言ってもいい。

 

 勿論魔法使いでも一部の人間は人殺しもいるだろうが、麻帆良学園の彼等は確実にそうではない。

 幾らなんでも、正義を志す学生に人殺しをさせる訳がない。

 

 学園長がこの顔合わせを企画したのは、コレこそが目的だった。

 麻帆良は学園都市で、通常の学園と比較すれば極めて広い。

 しかし裏の人間に限って言うならば、途端にその活動範囲は狭くなる。

 確実にどこかでかち合う事ととなるだろう。

 

 戦争を知っている子供と戦争を知らない子供の価値観は違う。

 

 その際に、要らぬ犠牲者を出さないためにも、学園長は魔法使い達に認識して欲しかったのだ。

 彼等の強さと、その価値観の違いを。

 

「(ふむ、強さは……そうじゃの。模擬戦でもすれば手っ取り早く理解できるかの? フォッフォ)」

 

 コレは、しかし近右衛門の悪癖である。

 物事を面白おかしく、かつ盛大に。

 そのお祭り気質は、良くも悪くも麻帆良学園の生徒達にも浸透していた。

 

 模擬戦ともなれば、なるほど被害は大きいだろうが、ソコは自分や魔王である皐月と協力すれば大丈夫だろう、と。

 

 そんな学園長の様子を知ってか知らずか、皐月は構わず話を進める。

 

「そんで俺は一応、正史編纂委員会の総帥。雪姉はその保護者って立場だし。政治的な意味で警備には向かんなぁ」

「フォッ!?」

 

 極めて気軽に、麻帆良学園の魔法使い達にとって極めて重大な言葉を口にした。

 

「────な」

「馬鹿な……それでは」

「せいしへんさん……?」

「それは、何処の魔法組織なんですか?」

 

 一部の、その組織名を知る魔法先生────関西出身の刀子教諭と、戦闘能力が低い代わりに情報処理に優れている明石教授は言葉を失い、知らぬ魔法先生や生徒は首を傾げる。

 

「正史編纂委員会……。それは私達が、関西呪術協会と呼ぶ組織の本来の名だよ」

『────ッッ!!?』

 

 理解が及び、漸く魔法使い全員に衝撃が走る。

 関西呪術協会────。

 関東魔法協会の人間である彼等麻帆良学園の魔法使いにしてみれば、まさに今対立している組織である。

 その対立組織の総帥。

 即ちトップが目の前に現れたのを理解した武闘派の魔法使い達は直ぐ様武器を取り出し、臨戦態勢に入る。

 

 それは警備をしている魔法使いとしては、反射に近かったのかもしれない。

 だが、己の主に対して武器を取った者を彼女は決して見逃さない。

 

 

「────────誰に刃を向けているつもりですか? 下郎」

 

 

 瞬間、魔法使い達全員の首を囲む複数の剣が出現した。

 魔法使いが常に展開している命綱である魔法障壁を、豆腐のように切り裂いて。

 

「ひっ!」

「……ッ」

「これは……」

「くっ……!?」

 

 突き付けられた剣にもだが、その研ぎ澄まされた殺気の刃にこそ、彼等は押し留まる。

 そしてその殺気故に、その剣の主が誰かは容易に知ることが出来た。

 

 金髪の長いサイドポニーを靡かせる少女────アカリが、ハイライトの消えた瞳で魔法使い達を見据えていた。

 

「速っ。てか、アレってアーティファクトやん。いつの間に召喚(出し)とったん?」

「恐らく初めから呼び出していたのでしょう。しかし私も操剣の武器はありますが、やはりアカリさんには敵いませんね」

「流石アカリ、マジ容赦無い。良いぞもっとやる」

「アスナェ…………」

「というサツキも、こうなることは分かってたよね」

「そして命令違反したワイルドリーゼントの腕を切り落とすんですね解ります」

「ヨン様ゴッコ乙」

 

 魔王一行は道化のようにおちゃらけるも、魔法使い達は自己の生殺与奪権を奪われたも同然。

 堪ったものではあるまい。

 

 特に攻撃姿勢に入った魔法生徒は顔面を蒼白にさせていた。

 しかし、首元に突き付けられた魔法剣が原因で、腰を抜かす事も出来ない。

 

「うっひゃぁー、やべぇよやべぇよ。戦闘能力無くて良かったー!」

「ミソラ……」

「麻帆良学園の防衛陣が一瞬の内に制圧、か」

「は、ははは」

 

 戦闘姿勢に入らなかった限られた魔法生徒が、それぞれ感想を述べたてる。

 時期によっては頻繁にやって来る侵入者を撃退している麻帆良防衛線は、決して弱くはない。

 一部の魔法先生ならば高位の魔法使いと呼べるレベルの猛者も存在する。

 それを戦闘姿勢に入る直前に制圧するアカリの力量に、残っていた魔王一行に対する反骨心は切り刻まれた。

 

「……え? 総帥? 儂聞いとらんのだけど」

「そりゃ言ってないし、ちゃんとした形式になったのは最近ですもの」

「いや、それよりアカリ君。できれば剣を下ろしてくれると助かるのだけど……」

「────」

 

 タカミチがアカリに呼び掛けるも、アカリは殺気を滾らせながら聞く耳を持とうとしない。

 

「皐月、止めろ」

「了解。アカリ、stay」

「はっ 去れ(abeat)

『────ゼハァッ!!』

 

 だが、皐月の一言で直ぐ様魔法剣(アーティファクト)を消した。

 同時に、緊張の糸が切れた魔法使い達が一斉に崩れ落ちる。

 そしてアカリは、皐月に指示をした雪姫を睨み付けていた。

 

「私は一応は教師だ。こんな下らん些事で生徒や同僚を血達磨にする訳にはイカン。どうせ奴等の魔法では皐月は傷付かん」

「些事? 皐月様に対する不敬を、些事だと?」

 

 魔法使いがどんなに戦闘準備を整えようと、皐月の魔法抵抗力を上回る魔法を使えるのは、この場において雪姫か学園長のみ。

 しかし、()()()()()()()()()()主たる皐月に向かって攻撃姿勢を取ること自体、アカリの堪えられることではなかった。

 

「貴様は一々、大仰が過ぎるのだ。皐月は貴様の恭順欲を満たす玩具ではない」

「────は?」

 

 最早殺し合い一歩手前まで張り詰めた魔力が、ミシミシと空間を圧していく。

 地面が鳴動し、無意識に溢れ出た魔力が衝突する。

 それは魔力の主達が衝突する未来を示していた様に────

 

「ハイハイ警備警備! 警備の話しよう!! ウチから警備に出せる仔居るから!」

 

 しかし、魔王の一声によってそれら全てが霧散する。

 そしていつの間にか魔法使い側に移動していたこのか達が、クラスメイトに囁く。

 

「あのキレ芸がウチらの芸風なんよ」

「って何時の間に」

「そしてアスナさんか雪姫先生、またはアカリさんが基本的に衝突します。私達ならばまだ容易に鎮圧できますが、あの二人となると皐月さん以外には止められる方が居なくて……」

「この前は私とエヴァ――――雪姫がキレて、私を茶々丸――――ここにはいないサツキの従者が、雪姫を皐月が止めたんだけど……問題は周囲の被害」

「うわぁ……」

 

 春日がその光景を想像し、怪獣大決戦を思い浮かべて気の抜けた声が漏れる。

 

「後、沸点高いから大丈夫だと思うけど、皐月だけは絶対怒らせちゃダメ」

「へっ?」

「本当に止められる人が居ませんし、何より怒った皐月さんはまるで別人です」

「まつろわぬ神を殺した理由も、めっちゃキレとった時にドンパチやってるのが鬱陶しいからやったし」

 

 何だそれは、と凡その人間が抱く感想を出した。

 三人の魔王の従者は、その怒りの程をよく知っている。

 特に、妹や娘のように可愛がっているこのかをとある狼王に拐われた際に見せた怒りは、彼を慕う三人ですら震え上がる程の激情だったのだ。

 

「つまり、ムシャクシャしてその……神様? 殺しちゃったの?」

「ん」

「あー……意味わからん」

「あの、ちょっと聞いていい?」

「ゆーな。ええで、ウチらの知ってることならやけど」

 

 春日が理解できずにいるその隣で、父親と共に話を聞いていた明石裕奈が口を挟む。

 

「その、あの人、瑞葉君? だっけ。当時はどんな凄い力を持ってたの?」

「?」

「いや、神様? を倒しちゃう程なんだから、凄い特別な力とかがあったんじゃないかなーって」

 

 神とやらだろうが、そんな特別な力さえあれば。

 しかし、アスナ達はそんな安易な考えを容易く粉砕する。

 

「……んー? 別にそういうのは無かったと思う」

「せやな。そういうのは聞いたことないし、多分無いんとちゃう? 魔王さまになる前は良く雪姫せんせーに襤褸雑巾にされとった言ってたし」

「気による強化と、瞬動術程度だったと記憶していますが……」

「────────」

 

 その答えに裕奈は、何も答えられなかった。

 

「(……え? 資料通りに捉えるなら、紅き翼が────ジャック・ラカンを欠いていたとは言え、束になっても殺しきれなかった怪物を、当時なんでもない子供がキレたから殺した?そんなの、出鱈目にも程が────)」

 

 そんな会話を、一触即発の雪姫とアカリを宥める皐月は聞き逃しはしなかった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 その後警備の諸々の話が終わり、顔合わせの意味合いが終わったのか、魔王一行を除き魔法生徒や先生は解散の流れとなった。

 実際、色々と思う所が無いわけではない。

 しかし、少なくとも一部の魔法先生達は安心した。

 どの様な立場であろうと、どんな力を持っていようとも。

 彼等教師のよく知っている生徒なのだと。

 勿論────、

 

「────お待ちください!」

 

 彼女、高音・D・グッドマンの様に理解も納得もいかない者もいる。

 

「貴方は……貴方達は、何を以てその御力を振るうのですか?」

 

 正義を志す彼女にとって、英雄すら超える力を持つ皐月と、それに並ぶアスナ達は憧れるモノもあり、それ以上に危険視するモノであった。

 

「私は人々を助けるため、正義を為すために魔法を使います。そして力は悪を挫くために」

 

 それは、魔法世界の凡そ典型的な魔法使いの目指すもの。即ち『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』である。

 しかしながらそれは、魔法世界の本国出身であることを如実に表している。

 そんな彼女の問いに、皐月は優しく答えた。

 

「申し訳ありません、先輩。俺はその質問に対する答えを持っていないんです」

「え……?」

「権能というのならまつろわぬ神を撃滅する為に、と答えますが、それは先輩の求める答えではないでしょう」

 

 それは使用目的であって、意義ではない。

 そしてこの魔王にとって神秘とは余りにも身近で、その悉くが陳腐に過ぎなかった。

 

「先輩はテレビを点ける際、リモコンを使う度に何かを誇りにしますか?」

 

 人は何かを誇りにすることもあるが、それは千差万別。

 少なくとも皐月にとって神秘とは、一々意義を求めるものではないのだ。

 絶句する高音に、苦笑しながら彼は忠告をする。

 

「それと、別に全くもってその理想や先輩が悪い訳じゃ無いけども、出来れば正史編纂委員会(ウチ)の術師には言わない方が良いと思いますよ」

「な、何故ですか!!?」

「だって、二十年前の戦争に日本を巻き込んでおいて、遺族の人間に何の謝罪も賠償もせずに平和を唱うとか……ねぇ?」

「……え?」

 

 しかし、万人受けする理想ではあっても、全ての人間が肯定する物ではない。

 その理想を唱うには、魔法世界は大分烈戦争で血を流し過ぎた。

 

「ぶっちゃけ総帥である俺からは、大分前にキチンと説明して命令してあります。『麻帆良学園を攻めるな』って。で、今現在まで攻めてきてる関西の術師は二通りに分けられるんですよ」

 

 一つは魔王の膝元であろうとも、このかや世界樹を狙う本格的な愚か者。力の差すらも理解できない、もしくは知らない阿呆だけ。

 

 そしてもう一つは、魔王の命令にすら従わないほどの憎悪を抱えた────遺族である。

 

「死者が絡んだ問題は、本当に泥沼だ。それこそ―――――戦争の様に」

 

 戦争を知らない純粋培養の、弔い合戦すら知らない彼女には理解すら出来ない感情。

 ――――――復讐心。

 

 正義を唄い悪を挫くには、彼女は余りに若かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 意気消沈の高音がこの場を後にし、会合は事実上解散した。

 

「んで、俺らを残したのはどういった御用件で?」

 

 皐月達と学園長、そしてタカミチを残して。

 

「うむ。儂ら関東魔法協会と、主らの橋渡し役を選出しての。その者を紹介する為じゃ」

「そんなん、もっと早よぅにしたらええやん」

「ソレをするには、お主らに不満を持つ者は多いのじゃよ」

 

 魔王とその従者をよく思わない者達は少なくない。

 彼等を知る教師陣なら大丈夫だろうが、如何せん魔法世界出身の生徒達からの反感は極めて多い。

 故に橋渡しをする連絡役にもその手の視線は向くだろう。

 情報伝達を妨害しようという過激派も出るかも知れないのだ。

 

「部下の手綱も握れない……コレは無能認定でよくない?」

「悪代官に賄賂送る越後屋みたいな顔で言われてもなぁ……。アスナ君、何だかあの人達に悪い意味で似てきた気が……」

「ソレに魔法生徒は部下というより教え子という面の方が大きい。未熟故に、中々言うことを聞かん者も居るやもしれん。要は念には念を、じゃよ。────おぉ、丁度来よったわい」

 

 学園長の視線に誘導されるように、聞こえ始めた足音の方向へ一同が向き、

 

「…………ッ」

 

 皐月が息を呑んだのを、女性陣の全員が気が付いた。

 

 黒い艶のある長髪に美しい褐色の肌と、中学生としては長身のアカリを優に超える長身。

 整った顔と男性なら十人中十人は振り返る豊満な肢体を、場違い過ぎる女子中等部の制服で包んでいる。

 しかしその三白眼とまるで隙の無い佇まいは歴戦の戦士のソレを窺わせた。

 そして彼女は、会合に参加していない者でもあった。

 

「紹介しよう。彼女は─────水原真名」

「……何?」

 

 その名に、アスナとこのか、そして雪姫が反応した。

 忘れる筈もない、皐月の本来の姓。

 

 その名を持つ彼女は、しかし懐から札を取り出し姿を消した。

 

「なッ────!?」

 

 ────転移札。

 タカミチと学園長が驚愕の声を漏らすも、直ぐ様ソレを理解した雪姫と何故か硬直している皐月以外のアスナ達は、直ぐ様武装を完了させる。

 

 アスナは大剣を構え、アカリは両手に魔法剣を携え。

 刹那は持っている夕凪を抜き放ちこのかの前で構え、このかは呪札を取り出す。

 その速さは学園長とタカミチも目を見張るモノであった。

 

 姿を確認したら直ぐ様無力化する。

 特に白兵戦を得意とする三人は、揃えば例え最強クラスの魔法使いでもソレを実行可能だろう。

 しかし。

 

「────は?」

 

 四人の警戒も束の間。

 皐月という、この場で最も強い者の目の前に転移し、

 

「んぐぅ────ッ!?」

 

 完全に硬直している魔王を抱き締めて、唇を奪った。

 

「な゛ッ」

「────なん、だと」

「うわー、せっちゃんアレ舌入ってるわぁ」

「み、見たらあかんえこのちゃん!」

 

 愛しい想い人の唇が、イキナリ現れた女に奪われた。

 娘や妹扱いされているとはいえ、魔王を慕う従者達にしてみれば信じられる光景ではない。

 

「────って、何をしている!!」

「し、痴れ者が!」

 

 故にたっぷり十秒、呆然としていたアカリが雪姫の声で再起動し、その剣を皐月に当たらない様に振るう。

 しかし皐月の唇を奪い続けている美女は、その攻撃を後方へ飛び避けた。

 その所為か彼女に支えられていた白目を剥いていた皐月が、万感の思いを遺言に崩れ落ちる。

 

「────────────なんでや」

「皐月さ──んッ!?」

「つっくんが倒されるなんて、どないなテクや!?」

「サツキが腰砕け……是非とも教えて貰わねば」

「ふざけている場合か貴様等ァ!」

 

 雪姫がツッコミを入れるのも無理もなく。

 何故なら魔王の魔法抵抗力に対し唯一魔法を食らわす方法こそが、粘膜接触。

 本来の皐月ならば容易く避けられた行為。

 

 もしまつろわぬ神が行えば如何に皐月といえども致命傷は免れない。

 尤も、ツッコんだ雪姫自身も最も直感力の高いアスナがボケに走っている時点で問題は無いのを悟ってはいるが。

 

 しかしながらその場合、ただ純粋に唇を奪っただけと言うことになり。 

 そんな混乱の渦に呑まれている彼女達を尻目に、褐色の美女は笑う。

 

「────久し振りだ。また会えて本当に嬉しいよ、皐月兄さん(・・・)

 

 水原真名。

 かつてマナ・アルカナと名乗り、北欧で炎の魔王が生まれる要因となった少女だった彼女は、愛おしげに唇を撫でながら微笑んだ。

 




────2015年内には更新すると言ったな、アレは嘘だ(たぶん言ってない)
ようやっと出来ました。
と言ってもかなり突貫作業だったので誤字脱字修正点は山盛りかと思われます。

という訳で麻帆良魔法使い達との初会合。

麻帆良学園への侵入者ですが、今作では世界樹と図書館島の魔導書、そしてこのかを狙った外部の魔術師と、二十年前の戦争に駆り出された術者の遺族という設定です。
捕縛した侵入者の処置としては、魔力封印してからの記憶消去などです。決して殺害はしません。
あの健全な麻帆良陣営が侵入者を皆殺しにするのは想像できませんでしたので。

アカリのアーティファクトですが、詳しい説明はまた今度です。

そして正義の魔法使い筆頭の高音女史ですが、原作で言及している程度の正義発言。つまり二次創作ではかなり控え目にしました。
あんまりしつこくするとアカリ辺りが殺しそうなんでw
 
真名については伏線を回収した次第です。
彼女の話は何時になるかわからない次話でしますので、お待ちください。
後参入ヒロインは楓と■辺りかなぁ。

ゆーなについては彼女視点のお話も書きたいと思っていますので、説明は省きます。
彼女は原作の明日菜の代わりに、ネギを導いて貰います。尤も、ネギのヒロインになるわけでも、従者になるわけでもありませんが。


いやはや、投稿速度がドンドン落ちていって非常に申し訳無く、そしてソレでも待っていただいている方々には感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
今年も暫くは忙しいので、更新速度は御察しですが、お付き合い頂けると幸いです。

修正点指摘、及び感想待ってます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。