魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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第二十八話 噂

 

 

 ────麻帆良学園の、所謂大停電と狼王の従僕の襲撃が起こした悲劇からはや数ヵ月。

 時は流れ、学生達は学園の一大イベントである麻帆良学園祭に向けて準備を始めていた。

 

 全学園合同学園祭。

 通称、麻帆良祭。

 中・高の一学期中間テスト後からが本格的な準備期間となっており、日程は前夜祭+3日間で延べ入場者数約40万人。

 初等部から大学部まで、元よりお祭り気質の学園都市全校生徒によるお祭り騒ぎである。

 

 そんなイベントに向けて、皐月の所属している男子中等部の2-Dも麻帆良祭に向けた準備をしていた。

 

「さてみんな、色々と意見を出してくれてありがとう」

 

 教室の黒板には沢山候補が出されている。

 出店だったり喫茶店だったりお化け屋敷、中には執事喫茶やら窓からの校舎壁を使ったアスレチックなどかなりおふざけな案など様々だった。

 だがそれでも決定ではなく、投票さえしなかったのはこのクラス全員がただ一人の生徒の顔色を伺っていたからに過ぎない。

 

「────取り敢えず、色んなケガしそうなのは却下」

 

 窓側最後尾の生徒────瑞葉皐月の言葉に、却下されうる案を出した、或いは賛同していた生徒達が項垂れる。

 そこに落胆はあっても抗議の声はない。

 

 中等部の魔王。

 いじめッ子の悉くをトイレに引き摺り込み、様々なトラウマを植え付けたが故に畏れられた男子生徒。

 その蹂躙範囲は知覚系権能を保持していたことも相まって、高等部まで網羅していた。

 

『悪い子はいねーがー』

 

 現代の子供たちは、なまはげという概念を学んだという。

 結果彼を畏れた生徒たちへの、ついでに一部の教師に絶大な発言権を有したのである。 

 そんな魔王の監視の元、無難にネット喫茶に決定したクラスは、それでも麻帆良の生徒としてなんとかして一捻りを加えようと四苦八苦している姿を見守りつつ、瀬流彦にパソコンの貸し出し手配を取り付けた皐月に話し掛ける生徒が居た。

 

「やぁ、お疲れ様皐月君」

「ソラか」

 

 爽やかな表情に金髪を短めのポニーに纏めたソラと呼ばれた少年は、皐月の暴虐の後に編入学したが故に彼へ気軽に話し掛けられる事が出来る数少ない生徒だ。

 

「僕は肉体労働担当だからね。そういう君は何をやってるんだい?」

「監視。麻帆良のお祭り気質は中々侮れなくてな、去年も女装喫茶をやらかそうとしてた奴ら賛同者含めて全員拳骨キメてやった」

「ははは……賛同者が居たのかい? しかもその口振りだと複数人」

「八割」

 

 ウッソォ、とドン引きする編入生は、やはり麻帆良初心者であった。

 まだ編入してから数週間程度にも関わらず、麻帆良祭という特にアクの強いイベントに直撃したのは運が良いのか悪いのか。

 

「あれ? でも確かお前って病弱だったって」

「うん、そうだね。ついこないだまでリハビリしてたよ。一年以上寝たきりだった物でね」

 

 そんな病み上がりの少年が肉体労働担当だというのが驚きだが、彼が所属しているクラブを聞けば麻帆良学園の生徒は大抵納得する。

 外部との技術差は数十年では効かないだろう。何せロボットが軍事利用レベルにまで至っているのだ。

 彼等が様々な機関に狙われないのは、(ひとえ)に世界樹の認識阻害に護られているからだろう。

 故に、彼等に接触できるのは認識阻害を受けても徴用できるほどの善人か、そもそも効かないかのニ択である。

 

「大学部の工学部の試作品の特殊テーピング。僕の実家が大学の先輩方のスポンサーとなって、まぁ軒並(のきな)み取り込んで融通してくれたんだ。まだ筋力の弱い僕には本当に有り難いんだよ」

 

 袖を捲り上げてソレを笑顔で見せるソラに、皐月は胡乱気な視線を向ける。

 それに気圧されるソラは無茶をした際に見せる医者の目を思い出して両手を上げて降参する。

 

「無理して大丈夫なんですかねぇ」

「まぁ無理はしてないよ。あくまで補助だから」

 

 そんな風に笑いながら、彼は壁にもたれ掛かり携帯端末を取り出す。

 そして、ソレを起動させた。

 

「さて、本題といこう」

「それは……」

「僕の実家の商品、と言ってもまだ試作段階だけどね。名付けて『魔法アプリ』」

「────へぇ」

 

 その携帯端末の画面から魔法陣が浮かび上がり、紛れもない認識阻害の魔法を発動させていた。 

 科学によって魔法を行使する。

 逆に言えば、魔法適性の無い者でも魔法を扱う事の出来る手段。

 彼の実家の、雪広財閥に匹敵する巨大コンツェルンは、まさに世紀の発明を成していた。

 魔法使いにとって驚天動地の出来事に、しかし皐月は関心程度で答えた。

 

「あんまり驚いてくれないんだ」

「いやいや驚いたよ。関係者って事もだが、ソレは素人目にも売れると思うぞオイちゃんは」

「その程度の驚きなんだ。やっぱり魔王って凄いんだね」

「どんな説明されたの」

「うーん、指向性を持った移動災厄?」

「ひでぇ」

 

 だが間違っていない、と溢しながら、皐月はこの編入生が生粋の魔法使いではないのだと確信する。

 少なくとも『科学で魔法を行使する』という発想は、魔法使いや呪術師には無いものだ。

 

「で、本題なんだけど。最近学園側で妙な噂が流れているみたいなんだ。君は何か知っているかい?」

「噂?」

「おや、君も聞いたことはないかい? かの英雄、紅き翼の『千の呪文の男(サウザンド・マスター)』。その息子がこの麻帆良学園に修行に来るって」

「……あー」

 

 遂に来たか、と。皐月は感慨さえ感じながらその言葉を受け止める。

 原作開始。

 その事実はしかし、皐月にとって余り重要な事ではなかった。

 何故なら原作など予備知識程度にしかならないほど崩壊しているからに他ならない。

 

「大戦の英雄の息子。しかし二十年前にそんな英雄が誕生する大戦など無かった。魔法世界────初めて知ったときは本当にワクワクしたよ」

「ま、うら若き少年としては正しい反応だよな」

「あれ? 君はワクワクしないのかい?」

「色々知ってる身としてはなー」

 

 ネギ・スプリングフィールドの最初のパートナーであるアスナは、魔王たる皐月の庇護下にある。

 彼の手伝いこそするだろうが、自惚れで無ければネギとの仮契約までには至らないだろう。

 そして修学旅行までの対魔法使いの本格戦闘は雪姫のみ。

 図書館島の探険こそあったが、その切っ掛けである綾瀬夕映にそんな蛮勇は最早欠片も存在しないし、親友を失うという悲劇を経験した彼女はソレを行う程愚かではない。

 

 問題の修学旅行に至っては、彼の使命である親書など学園内で済んでしまうだろう。何せ親書を渡すべき相手組織の総帥が皐月なのだ。

 そこから態々皐月を無視して纏め役である現長の沙耶宮馨に親書を渡すという、魔王を軽視するという暴挙をすればどうなるか。

 幾らネギ少年の成長を促したい近右衛門も、魔王を敵に回す程愚かでは無いだろう。

 となると、英雄の息子の修行は極めて穏やかになること請け合いだ。

 

 それで魔法世界がどうなるかは判らないが、そもそも皐月にアスナを百年人柱にさせるつもりは毛頭無く、ネギについても十歳の子供に背負わせる事でも無いのだと割り切っていたが。

 女子供を生け贄にしなければ滅んでしまう世界など、いっそ滅びるべきだろう、と。

 

「で、学園側がその受け入れの準備で緊張していると?」

「勿論、それもあるんだろうけどね。でも僕の聞いた噂は彼の事じゃあない」

「?」

 

 しかしソラの口にした言葉は、皐月にとって決して聞き逃せないものだったからだ。

 

 

 

「女子中等部の瑞葉アカリ────君の家族が、実は英雄の娘だって噂さ」

 

 

 

 

 

 

第二十八話 噂

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことだ」

「すまん、まるでわからんのじゃ」

 

 学園長室でソファに腰を預けながら、雪姫がこの部屋の主を睨み付ける。

 しかし学園長自身、今回の事を把握しきれていなかった。

 

「アカリの身の上を知るのは、麻帆良(ここ)では私達を除けばお前とタカミチだけだろう」

「無論儂等もそんな噂を流してなどおらん。しかし、噂の出所はまほネットなんじゃよ」

「ネットだと?」

 

 そもそも麻帆良学園外部でさえ、アカリ自身がウェールズの山中で暮らしていた事もありその身の上を知るものは限られている。

 学園長でさえ把握しているのは、従姉のネカネ・スプリングフィールドにその祖父メルディアナ魔法学校長だけ。

 その二人ともアカリの情報をネットに流すことの致命的さを理解している。

 

「というより、彼等がネットを駆使している姿を想像できん」

「つまり、何一つ分かっていないと?」

「ネギ君の情報が漏れた事も気掛かりじゃ。明石教授達に手伝って貰っとるが、何分儂の分からん分野じゃからな。じゃが、問題は噂の出所だけではない」

「……本国側の対応は?」

「それがまた奇妙なんじゃが、何の反応も無いのじゃよ」

「は?」

 

 あり得ない事だった。

 アカリは本国の元老院にとって生きる罪の証拠である。

 そんな存在が自身の下位組織のお膝元に居るのだ、即座に動きを見せてもおかしくない。寧ろ動かなければ不自然と言える。

 

「どうやら、本国ではこの噂が全く広まっておらぬようなのじゃ」

「……出所はネットなんだよな? 私が知る限り、ネットはそんな都合の良いものではないと思うのだが」

「明石教授も頭を抱えておったよ」

 

 意味不明である。

 少なくとも科学関連の素人である二人には全く理解の及ばない領域であった。

 

「まだ警戒は続けておるが、明石教授始め各員にはキチンと口止めはしておる。本国が動かぬ以上、アカリ君を害する可能性がある者はかぎられるじゃろう」

 

 何せ噂の外聞は英雄の子。

 そこから災厄の魔女に繋がるモノは外見だけ。

 仮に繋げる事が出来たとして、英雄の子という最初の噂が混乱させることになり、迂闊に手を出せなくなる。

 少なくとも彼女の過去を知って害意を持てる者は、善人で溢れるこの学園には居ない。

 

「……一応私からも釘を指しておく」

 

 そう言ってその場を後にした雪姫を見ながら、学園長は嘆息しつつ机の上の書類を見る。

 

「全く、麻帆良祭やネギ君の事も悩ましいと言うのに」

 

 実際麻帆良祭は一大イベント。

 その下準備の忙しさは目を剥く程だというのに、この異変は辛いものだった。

 彼の経験上、これがただの嵐の前の静けさに過ぎないのだと知っているのだから。

 

「願わくば、取り返しのつかない事態にならぬことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ。アカリの兄貴がね」

 

 女子中等部2-A。

 そんな彼女達も学園祭の準備を進めており、彼女達のクラスのお題目は『メイド喫茶』である。

 

 料理という意味では達人である四葉五月に、完璧超人である超鈴音が存在する上。

 ことメイド服に関して一家言有する長谷川千雨が居る。

 貴重なツッコミ要員が珍しくガチ面でボケに回ったことで、2-Aのアホ共は気圧されたのだ。

 そんな千雨はデザインされたメイド服を確認しながら、備品を運んでいたアカリと会話していた。

 

 彼女の外見は兎も角、実年齢は両手で数えられる程度。

 そんな彼女をここまで成長させ、初等部ではなく中等部に置いているのは様々な理由が存在する。

 彼女の精神年齢の高さから初等部が合わない。

 彼女の保護者である雪姫が担任教師で、生徒も身内の多いこと。

 そもそも肉体を成長させたのも、体格の小ささという戦闘面でのハンデを克服するための、アカリの要望だったりと様々だ。

 そんな彼女の実年齢を知った千雨の驚きは、半端なものでは無かった。

 

「どんな奴なんだ?」

「さて、どうでしょう」

「いや、どうでしょうって……」

 

 千雨は肉親、恐らく唯一の兄妹相手への余りの態度に引いていた。

 

「五年前、五歳の時から会っていないので私では何とも。元より興味も無ければ関心もありません」

「あー、成る程。血の繋がった他人って訳か」

 

 血しか関わりが無い。

 アカリにとって家族とは魔王の身内であり、従姉のネカネさえ彼女にとっては知人でしかない。

 改めて千雨は、アカリの壮絶な過去に掛ける言葉が無かった。

 

「問題はアレが訪日した際、どの様な面倒を撒き散らすかです」

「……よく知らないんじゃねぇの?」

「私が知っているのは、アレを担ぎ上げて都合の良いように扱おうとする連中です。連中は私の愚父を神格化している様なので。その影響の一端は、この学園にも及んでいますよ」

「宗教かよ……」

「あちらの世界に宗教らしい宗教が無いのも、反動として有るのかもしれません」

「あちらの世界、ねぇ……」

 

 地球とは異なる歴史と異なる文化を育んだ世界が、火星に存在する。

 魔法世界の真実を軽く教えられた千雨にとって、その情報の重さを理解することは困難だった。

 

 彼女は教室内に居る、綾瀬夕映と共にいる白髪の人形を観る。

 人形と言うには余りにも精巧で、しかし人間と言うには何かが未だ欠落した、クラスメイトの魂を有するヒトガタ。

 既に様々な神秘を眼にしながら、千雨はそれを実感するにはまだ何もかも足りなかった。

 

「ともあれ、私にとって『スプリングフィールド』の名は棄てたものでしかありません。それで騒ぐのは煩わしいですが、それだけ。しかし────ソレが原因で皐月様の御手を煩わすのならば、話は別ですが」

「……お前も大概アイツ大好きだよな」

「貴女に言われたくはないですね」

「うるせぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────斯くして、各々は英雄の息子という劇薬と、劇薬故に魔王の傍に現れた名を棄てた娘に眼が集まった』

 

 麻帆良学園のとある一室。暗闇の中PCの電子光だけが妖しく光を発する中で、本来教員でしか観ることの出来ない資料を観ている者がいた。

 その声は機械音めいて、その者の本来の声色を隠していた。

 

『これで、英雄の娘の更なる武勇を目の当たりにしたら、その評価はやがて来たる英雄の息子に伝わるだろう。そんな妹の武勇に触発され、兄も更なる力を求めることは想像に易い』

 

 その者がキーボードを叩けば、PCのディスプレイには英雄の娘の存在に様々な反応を見せている者達の姿が表示される。

 その様子に、その者は演技がかった様な仕草で満足そうに頷く。

 

「でも良いんですか? こんな事して」

『ム?』

 

 そんな存在に、気安く声を掛ける少女の声が割り込んだ。

 

「件の魔王様、怒ったりしたらどうするんですか?」

「…………そこは誠心誠意謝罪するし、万が一が起こらない相手を用意したのだヨ」

 

 途端に機械音めいた声色が変わり、問い掛けた少女の声と変わらぬ年頃の娘の訛り声が応える。

 焦りを滲ませたそれに、先程のような黒幕感は何処にもなかった。

 

()()()()()()()の状況は?」

「良好ですよ、凄い勢いで飛び付いてくれました。しかし、我ながら何とも詐欺師みたいですね。肝心なことを何一つ話してない辺り。謝罪する相手を増やすのは良心が痛むのですが……」

「おや、科学に魂を売ったのだろウ?」

「むぅ……」

 

 挑発的な片言の少女の言葉に、大きな眼鏡の少女の口が詰まる。

 

「うむ。では私は彼女の手引きと、当日に万が一が起こらない様に準備しておくネ」

「頑張ってくださーい」

 

 こうして、麻帆良祭の裏で細やかな企みが蠢いて。

 学園都市最大規模の催しは、着々と準備を進めていた。

 

 




あとがき解説

ソラ
 皐月のクラスメイト。本名はまだ秘密。
 とある巨大コンツェルンの御曹司。
 つい最近まで意識不明の昏睡状態であったが突如回復。麻帆良学園に編入学する。
 外見は描写した通りパツキンポニテの爽やか系イケメン。
 彼が使用した「魔法アプリ」はでのソレそのもの。


 ……これくらい?
 というわけで原作前の最後のエピソード。
 というか原作エピソードの大半カットされるよね、という崩壊具合。
 そしてカンピオーネ!原作完結おめでとございます。

 それ以上に毎度更新が遅れて申し訳ない。
 なので明日次話を投稿します。
 誤字修正、心から感謝を。
 修正点は随時修正します。
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