魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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難産。


第三十二話 面白い奴だ。殺すのは最後にしてやる

 アカリとカリンの戦いが始まる少し前、人気のないベンチで目を閉じている魔王が空を仰いでいた。

 快晴の青には、いくつもの気球船やどれだけ作っているのか、絶えず紙吹雪が舞って祭りの風景を彩っている。

 

「あー、やかますぃー」

「それは仕方無いですネ。何せこの麻帆良学園のあまたある部活動の一年の総まとめ、気合が入るのは当然かト」

 

 そこに、ローブで身を包み黒髪を中華風のシニョンにまとめた、訛り混じりの少女がやってきた。

 麻帆良学園が誇る完璧超人、である。

 

 そんな彼女は皐月の下へ歩みを進め、迷わず跪いた。

 完璧超人と名高い少女が、一目でわかるほど緊張し臣下の礼を取っていた。

 

「王をお待たせする非礼、深く謝罪しますネ」

「いいーよそれぐらい、女の子を待たせるのはこっちが悪いし、何より雪姐が用意した場だ。それなりの配慮はこっちがするさ」

 

 その言葉を証明するように、この場に人気は皆無だ。

 当然、人払いの結界が張られている。

 

「本来ならば、場所などの用意は此方がすべきなのですが……」

「そんなクソみたいな呪紋処理させられてる子に、魔法使えとは言えんよ。痛いんだろ? それ」

「! お分かりになりますカ」

「眼が良いもんで。まぁそれはいいんよ、本題にはよ入ろうや。お互い────というか、オタクの方が忙しそうだし。そのカッコ疲れるでしょ、ホラホラここ座りんしゃい」

 

 ポンポンと、ベンチの横を叩く皐月に、少し戸惑った超は皐月の言う通り同じベンチへ座る。

 

「飴屋コンツェルンにアレを売り込んだのはお前だな?」

 

 切り出された話は、彼のクラスメイトに関連する話だった。

 マギア・アプリ。

 アレは画期的が過ぎる程の発明だ。幾らなんでも天才程度で出来る代物ではない。

 それこそ、百年後の未来でなければ。

 

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「スポンサーの御子息ですヨ。飴屋コンツェルンに取り入る際、彼の病を治療したのが切っ掛けですネ。部下というより同志ですヨ」

 

 飴屋一空。

 後に、不治の病から機械化という治療方をもって不死となり、百年後不死人の組織で活躍するであろう少年。

 しかし彼は見事に病を脱し、麻帆等学園に編入学した。

 そんな彼が魔法の科学化などされた代物など持っていたら、勘繰りの一つも考えられるというもの。

 

「未来人って、何だか実感ないのな」

「……そこまで、御存じでしたカ」

「じゃねーとアレは無いわ」

 

 それこそ、某猫型ロボットの秘密道具の様に未来の産物でなければ。

 息を呑む音と共に、皐月の言葉に静かに超はベンチから下りて再び跪き、頭を下げる。

 

 超鈴音。

 その正体は未来人である。

 無論、原作知識だ。

 態々誇っても空しいだけである。

 

「何卒、お願いしたいことがあります。どうかお聴き頂けますカ」

「言ってみんしゃい」

 

 余りにも気軽に問われるものだから、思わず苦笑を浮かべるも、直ぐに真剣な面持ちに戻し───彼女は、これから起きたかもしれない百年を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十二話 面白い奴だ。殺すのは最後にしてやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法世界が、火星上の異界────隔離された幽世だというのは御存じですカ?」

「隔離する魔力が無くなり、消滅寸前だってのもな」

 

 魔法世界。

 それは西暦以前にとある偽神によって幽世から切り離され、隔離され火星に根付いた成立しなかった理想郷。

 完全を求めた哀れな偽神が、その身を神祖に落としてまで造り上げた、異界である。

 そして、滅びが迫っている世界。

 

「今から約十年後、魔法世界はその在り方を保てなくなり、中に居る全ての人間を放り出し修正力によって幽世の一部に戻る定めネ」

「やっぱそうなる?」

「曰く、幽世を隔離し、個別の異界として形成し、二千年以上維持するなど前例さえ無かタですが、結果はその有り様」

 

 魔法世界という形は失われ、そこに形創られた者達も同様にその個を失う。

 そして世界の一部では無かった人間は幽世に取り込まれる事なく現実へと帰還した。

 火星という、人の住むには余りにも厳しすぎる世界へと。

 

「放り出された魔法使い達が地球に逃げましタ。生きるためであるのが一番でしたが、一部の権力者は喪った地位と権力を取り戻すため────地球への侵略を始めたのですヨ」

「……へぇ」

 

 侵略、と言っても実際は乗っ取りという方が正しかったが、兎に角魔法使いたちは喪った居場所を新しく手に入れることが出来た。

 だが魔法使い─────より正確に言えば、メガロメセンブリア元老院はより権力を求めた。

 国を手に入れられた事も、何よりその国が神秘の薄く、碌な魔術結社さえ無かったことも増長する要因だったのかもしれない。

 

 元老院は何とも愚かしくも、世界征服を企んだ。

 魔法も使えないただの無能者だと。

 元々選民志向が高じて起きたのが20年前の戦争である。その行動は、当然と言われても違和感を感じない程自然であった。

 戦争が起き、そして戦場で魔法が使われれば当然世界はそれを知るだろう。そして神秘に対応するのは必然、神秘だ。

 

「そうして全世界は魔法を、魔術を。何より神秘を知った」

「全世界の神秘の認知か」

 

 無論、現代兵器が魔法に対して無力だった訳ではない。

 だが魔法使いと一般人の違いなど魔力の大小程度。転移魔法などを用いれば入国規制も糞もない。

 そして魔法は魔法世界では全域で日常生活に使われるほど発展し、何より半世紀以内で大規模戦争さえ起こっている。

 神秘を秘匿し、世界の裏側で隠れていた魔術師達とは攻撃性が規模も威力も段違いである。

 魔法使い達の進撃は、まさに破竹の勢いだった。

 

 だが、それも長くは続かなかった。

 

「調子に乗っていた、というのもありますが運も良かったのです。イタリアや日本、イギリスなど強力な魔術結社の存在する国に偶然攻め込んでいなかったのもありました。ですが、彼等は出会ってしまった。自分達の想像を遥かに超える絶対強者に」

 

 神殺しの魔王カンピオーネ。

 ヨーロッパでは一時期『魔術師の王(ロード・オブ・メイガス)』とも呼ばれていた超越者たち。

 そんな皐月曰く「キチガイ連中」など知らずに彼等は、これまた最悪なことにバルカン半島のとある魔王の居城に攻め込み───死体となって帰って来た。

 

「……よりにもよってクソ爺んトコ行ったの?」

「と、記録されてましたヨ」

 

 哀れみさえ込められた問いに、超が何とも言えない表情で肯定する。

 

 魔法使い達の恐怖は如何程だったか。

 兎に角、魔法使い達の進撃は止まり、同時に各国がそれの理由を調べ───結果として、各魔術結社が隠していた魔王の存在は明るみになった。

 

 特に、最凶のカンピオーネにふさわしい数多の悪行を重ねているヴォバン侯爵擁する半島を構成する各国政府と市民は、堪ったものでは無いだろう。

 幸い狼王は雑魚に構うほど人間的ではない。逃げた者をそこまで執着して殺し尽くすことはしなかった。

 精々魔法使い達に死せる従僕でトラウマを刻み込む程度。

 アメリカの魔王は、ある意味アメコミヒーローの風体で、行動もアメコミヒーロー染みているのだ。比較的馴染みやすかった。

 イギリスの魔王も、怪盗という解釈をすればまだマシである。

 とある剣馬鹿の場合は側近の秘書が優秀だったためか、比較的穏便に運んだそうだ。

 

 酷かったのは中国だ。

 

 ──────羅翠蓮。

『羅濠教主』の通り名で知られている狼王に次ぐ最古の魔王の一人。

 普段は中国江西省・廬山の山深くに編んだ庵で隠居しているという、平時は極めて安全な魔王であり二百年を生きる仙人である。

 ある意味に於いて狼王に匹敵する戦闘欲と腕力至上主義者。

 それ故に同格の強者や自身が許可した者以外には配下であろうとその姿や声を見聞きした場合、その両目や耳を削ぎ落し償いとする非情を強いるという。

 そんな自身を地上で至高の存在と信じて疑わず、そのことを満天下に示すためなら周囲の存在を一切考慮しない魔王に対し、よりにもよって自国で軍事利用せんと高圧的に徴兵しようとしたのだ。

 その末路は、当時の政府高官の皆殺しという結果に終わったのは、最小の被害といえるだろう。

 

 そしてそんな魔王への注目が集まっていた中、それは起こった。

 

 まつろわぬ神の顕現、そして魔王の本気の戦いである。

 天変地異に殴り掛かって勝つに等しい偉業は、しかし人々の心を恐怖に染め上げるには充分すぎた。

 何せ魔王は周囲に配慮などしないし、出来ない。

 都市一つ容易く消し飛ばす程の激戦は、周囲の人々ごと魔王の脅威を世界に見せ付けた。

 

 人間がマイノリティに恐怖を覚えた際に行うことは、排除一択。

 元々倫理観など投げ捨てたキチガイの類い。

 そんな神殺しを嫌う組織はバチカン教皇庁を含め山程居る。そんな連中に唆された国連が主導で、魔法使いとさえ手を合わせて魔王との戦争を始めてしまった。

 

「戦争などと、口に出来たものではなかタそうですが」

「ですよねー」

 

 人類史に於いて、人が魔王に勝てた前例は無い。

 そして、それが欠片も揺らぐことはなかった。

 

「なまじ世界中が協力していたのが悪かったのでしょう。イタリアやイギリスなど魔王を抱える国や、真なる神を複数抱えるこの日本などを除き、魔王の手によって蝿を払うが如く蹴散らされましたネ」

 

 魔王による報復と、それによる世界規模での混乱は世界中で紛争を起こし、抑止する大国がその軍事力を喪った事で止める国もなく。

 

「あれ、アメリカは?」

「かの国の魔王は権能による市民への影響が高く、何より大統領が率先して排除を試みたのですヨ」

 

 アメリカの魔王ジョン・プルートー・スミス。

 彼女がアステカ神話の魔神テスカトリポカから簒奪した、特定の物を『贄』として捧げることで発動する権能。

 その『贄』とは人が土から作った巨大な建造物、照明などの人工の光などの文明などから、雨と自分自身という干ばつに周囲に地震を発生させることで大地を傷つけるなど。

 都市圏で行われれば当然、悪い意味で影響は大きい。

 特に魔王への恐怖が世界的に高まった状況ならば、如何にスミスがアメコミヒーローめいても限界はある。

 

「尤も、そもそも魔王の正体を知ることが出来なかったので基本的には狼王へ矛先が向けられたのですが」

「あぁ。ま、世界の警察を謳うならそうなるかもな」

 

 それでも自国の魔王への攻撃が無かったのは、彼女が常に己の姿を隠す仮装姿だった為誰も正体を知らなかったからに尽きる。

 

 結果は魔術結社の制止も叶わず、合衆国の送り込んだ特殊部隊は屍になって帰還し、そのまま大統領の首を落とした。

 

 最終的に核兵器さえ持ち出された魔王と世界との戦いは、結果として人類の総人口を激減させる程に多くの国を壊滅に追い込み、世界の文明を大いに後退させた。

 魔王による世界統治という名の、放逐による無政府状態という世紀末に陥る。

 

「世界は魔王に従う国と、それに抗う人類圏に別れました。イギリスやイタリア、アメリカの一部は魔界扱いですヨ」

「なんかジャンルが異世界ファンタジーモノになってきたな」

「えぇ、勇者さえ出現しましたから」

「ウッソォ」

 

 魔王に対する勇者。

 極めて王道ではある。

 

「つーか勇者って何よ。何の定義で勇者? 伝説の聖剣でもあったの?」

「神祖、または真なる神から恩恵を与えられた者達です。尤も、一人を除いて帰ってきたものは居なかったそうですが」

 

 神祖など魔王にとって少々しぶとい雑魚も同然。

 そもそも神殺しは万全のまつろわぬ神を殺している者達。

 それらの力をほんの少し与えられた程度で勝てる訳がない。

 

「……一人?」

「はい。そしてその勇者の名は──────ネギ・スプリングフィールド」

「……へぇ」

 

 ここでその名前が出てくるのな、と皐月が頷く。

 成る程英雄の息子ならば、正にというべき人選である。

 容姿能力人格共にこれ以上の人材は居ないだろう

 

「ですが、彼も魔王に勝つことは出来なかった。元々魔王討伐もそこまで乗り気では無かったそうです」

「ほう?」

「形だけ魔王に向かい、その後は研究に没頭しましたネ」

 

 そもそも彼は、魔王の一人を何かの間違いで倒せたとしても大した意味が無いと悟っていた。

 故に勇者ネギは考えた。

 そもそもの状況を、秩序が崩れ幾千幾万幾億の死者を出した悲劇。その根底を覆す一手を。

 

「それが──────」

「過去改変、か」

 

 切っ掛けは魔法世界の崩壊に伴う、約五千万もの魔法使いの侵略である。

 例えそれが元々生存の為の行動だったのだとしても、元凶と呼ばれるに相応しい出来事だったのは間違いない。

 世界を救うには、地球から遠く離れた火星に存在する魔法世界を救わなければならないのだ。

 

 その為に、ネギは時間旅行を達成しうる手段を遺した。

 端的に言えば、タイムマシンの設計図である。

 

 超はその設計図を元にタイムマシンを造り上げた、ネギの子孫であった。

 

「陛下のお力添えがあれば、最小の犠牲で魔法世界の崩壊を阻止できるのですヨ」

「へぇ、随分持ち上げるんだな」

「この時代、この麻帆等学園に於いて全ての条件が整っております。明日菜サンやアカリサンの諸問題の解決も図れるかと愚考しますネ」

「まぁなぁ」

 

 超にとって、皐月は魔王としては理想的だった。

 狼王のような残虐性は無く、教主のように偏執性も無い。

 人と同じ感性を持ち、庇護下に在る者を護ることに躊躇がない。

 何より、麻帆等学園に在籍している。

 当初の予定を急遽変更してでも、協力を仰ぎたくなるのも当然である。上手く行けば当初予定していたより多くの人間が救われるだろう。

 

 全てが上手く運べば、来年の内に魔法世界が救われるかもしれない。

 

 混沌とした未来に生きた超鈴音の根本にあるのは、平和主義だ。

 平和を得られるのならばどの様な手段も取るし、必要であるならば如何様にも自身を犠牲に出来る。

 魔王が対価として女としての身体を望むなら迷わず捧げよう。

 醜態をさらせと言われれば何処までも道化に甘んじよう。

 それで数十億の犠牲が無くなるのならば安過ぎる買い物だ。

 

 超の話を聞いて、皐月は変わらぬ表情で背凭れにもたれ掛かる。

 

「……例えカルキが現れようが、最後の王が迷い出ようが喪われた命と繁栄は喪われたまま。ネギ君、話に聴いてたよりも随分ブッ飛んでるのな」

 

 そして再び前のめりになった皐月は、一つ質問を投げ掛ける。

 

 

 

 

「で、アカリの情報をバラまいた理由は何だ?」

「―――――――」

 

 

 

 

 初めて、超の言葉が詰まった。

 最早断定された口振りに、しかし超は否定を口にしない。

 それは事実であり、知覚に優れた魔王に嘘など吐けるわけが無いのだから、

 

「っ……、陛下の存在は正しく望外。しかしそれ故に、ネギ・スプリングフィールドが勇者に至るには新たなライバルが不可欠ネ。その点、アカリサンはその関係上切磋琢磨する相手には最上だたヨ。無論、アカリサンには誠心誠意の謝罪と賠償を行うつもりですヨ」

 

 一度しか会えなかった何処に居るかもわからない憧れの父親ではない、明確に存在するライバル。

 本来ならば力の差からライバルなど程遠いが、兄妹という関係はネギに対抗意識を持たせるだろう。

 その為にはアカリの実力をネギが知らなければならない。

 だが直接知るのは力の差が大きすぎる。

 故に、伝聞という手段を選んだ。

 

 魔王の一行ではなく、英雄の娘なら魔法使いにとってその注目度は跳ね上がる。

 アカリとカリンとの戦いは、人払いの結界によって隠されているが、その対象は一般人のみ。

 事実魔法先生や魔法生徒は、実はその戦いを遠巻きに目撃していたのだ。

 その注目度から、比較対象になるだろうネギの耳にも容易に届きうると考えられた。

 だが───、

 

「別に、ネギ少年を無理に成長させる必要なくね? 俺が協力すればそっちよりイイんだろ?」

「し、しかしネギ・スプリングフィールドの将来性を鑑みるに────」

「保険か?」

「─────っ」

 

 保険。

 その言葉の意味は二つあった。

 

 一つは、単純に皐月が超の願いを断った場合。

 そうなれば超は当初の計画としてネギと協力し魔法世界を存続させなければならない。

 それも、十年以内に。

 超は兎も角、ネギの急成長は必要不可欠なのだから。

 

「まぁ、別に構わんよ? 俺の協力なんざ、魔王知ってるなら断られる可能性も高いからなァ」

 

 魔王によって荒れ果てた世界。

 そんな世界で生まれ育った超に、魔王に対する根源的な恐怖が無いわけがなく。

 例え皐月の人柄を表面上ではあっても知った今尚、その恐怖は未だ健在である。

 そんな魔王に未来と数十億の命を、イキナリ全て託せる訳がなかったのだから。

 

「でもよ、個人情報の流出はちぃと頂けなかったな」

「陛下、それは──────」

 

 実を言えば『鋼鉄の聖女』という不確定要素が、例えエヴァンジェリンが存命していたとしても彼女が封じられた事実からスプリングフィールドへの怨執を晴らす為、未熟なネギを襲う事態への対処なのだが─────。

 瞬間、地面から二つに割れた柩のような形状の黄金が飛び出した。

 

「──────ッ!?」

「安心しろよ、まだ殺さないから」

 

 しかし柩のような、という感想が一番に出てきたにも関わらず、その柩は竜の顎を思わせた。

 

「ここでお前さんを灰にするのは簡単だ。あぁ、未来の破滅とやらに対する配慮とかじゃないぞ?ぶっちゃけどうでもいいし。だけど」

「まッ─────」

 

 筋は通さなければ。

 そうして、アイアン・メイデンの如く超に食らい付き、彼女が叫ぶ間もなくその顎でもって閉じ込めた。

 

「確かにアカリは俺の身内だが、俺はアカリの保護者じゃない。そしてこの場を整えたのはその保護者の雪姐だ。なら色々把握している筈だしな」

 

 恐らくある程度事情を聞いた上で自分の前に通したのだと、皐月は理解していた。

 同情か、苦悩しながら足掻く姿が気に入ったのか。

 否。雪姫はそんな感情でモノを運ぶだろうか?

 

 無論、アカリを含めた娘衆に厳しい部分もあるのだろうが、超の魔王への謁見を許したのは偏に─────役に立つと判断したからだろう。

 

「お前に落とし前を付けさせるのに俺がやったら筋通らねぇだろ? まぁ、後回しをする余裕も身に付けたんだよ。五年前なら殺してたかもだが」

 

 だから魔王は怒らない。

 そんな雪姫の配慮を無視して怒り狂っては、小学生の頃と何も変わらないからだ。

『まるで成長していない』などという評価は、流石に御免被る故に。

 

「─────だから精々アカリに媚を売れ。その無様さが命拾うことになるかもしれないからなァ」

 

 何より、今回一番被害を被った彼女にこそ、沙汰を下す権利があるのだから────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は成長していた主人公。

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