魔王生徒カンピオーネ!   作:たけのこの里派

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初等部編
第五話 少女達は


 皐月が北欧へ向かうため麻帆良を発ってから数週間が経ち、アスナ達はその学年を一つ進めた。

 

 新しい学年となり、新たなる一年に期待を膨らませる筈のこのかとアスナの顔色は優れない。

 彼女らの隣に並び立つ少年の不在が、彼女達を暗鬱とさせている。

 このかの笑みは陰りが射し、アスナの顔は嘗ての無表情へと戻ってしまった。

 

 よく喧嘩をしていた雪広あやかも、そんなアスナ達に話し掛けることを躊躇していた。

 

 「アスナ……。つっくん、何時になったら帰ってくるんやろ」

 「………」

 「もう、二年生になってもうた」

 「……………」

 「せっかくまた同じクラスになれたのに、つっくんが居いひんかったら楽しゅうない」

 「……………」

 「こんなとき、つっくんやったらどうするんやろ」

 「…………………サツキなら、何をするか」

 

 あの自由奔放で、賢く、時より自分達より子供らしい彼なら、一体何をするだろうか。

 

 「待ってるだけじゃ、もう居られない」

 

 もう十分待った。

 なら動いても良い筈だ。

 自分達は知る必要があった。北欧で彼の身に何があったのか。

 

 「コノカ、協力して」

 「協力……? ウチは、何をすればエエん?」

 

 二人は小学生。百年分の記憶があるアスナは兎も角、このかは右も左も解らない正真の子供だ。

 

 だが、アスナは皐月と友達になる方法。つまりタカミチのアドバイス「その人の事を知る」を実践。

 ストーカー紛いの行為により、皐月の言葉を余さず覚えている。

 そして皐月は、以前二人と食事をした時こう漏らしていた。

 

 

 『立ってる奴は親でも使え』

 

 

 ならば使おう。

 自分達の頼れる大人達を。

 

 

 

 

 

 

 

 第五話 少女達は

 

 

 

 

 

 「王手」

 「フォッ!? 待っ」

 「待った無しだ」

 「ぐむぅ……」

 

 麻帆良学園都市の女子中等部。その校舎に何故かある学園長室に、二人の魔法使いが居た。

 

 「厳しいのぅ。年寄りには優しくしてくれんのか?」

 

 ヨヨヨ、と嘘泣きをする老人の名は近衛近右衛門。

 麻帆良学園都市の学園長であり、近衛木乃香の祖父であり、暫定であるものの関東最強の座にいる。

 突起した後頭部のせいでぬらりひょんと間違われる者である。

 

 「私は貴様より年齢は上なんだが? 小僧(ジジイ)

 

 対するは、六百年の年月を重ねる生きる伝説。

 見た目は幼い少女の姿で、尚且つとあるバカに適当に封印されているものの、吸血鬼の真祖であり実質旧世界の魔法使い最強であるエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル。

 

 「……しかし、最近は随分と不機嫌じゃのう」

 「……貴様には関係無い」

 「確か、弟子にしたという水原皐月君じゃったか。彼が何時になってもやってこんから、苛々しとるんじゃろ? む? 何故彼の事を知っとるか? 生徒の事を知るのは学園長の仕事じゃぞ?」

 「……一人で勝手にペラペラと」

 「彼に非は無い。そもそも水原皐月君は日本に戻っとらん」

 

 近右衛門は、引き出し取り出した一枚の新聞記事をエヴァンジェリンに見せた。

 

 「―――――ッ」

 「アイスランドで未曾有の災害が発生した。都市一つ丸ごと潰れた原因は突発的に発生した台風に地震や、火山の噴火と、連続した自然災害とされとるが……解るじゃろう(・・・・・・)?」

 

 つまり真相は違う。

 そして一般人には唯の天災としか認識できない『ソレ』を、エヴァンジェリンは知っていた。

 

 「チッ……運の無い奴だ。よりにもよって『天災』に遭うとはな」

 「……エヴァ」

 「ったく、まるで同じじゃないか。同じクソッタレだ。私が希望を見出だした奴はどいつもこいつも私の前から居なくなる」

 

 居なくなって初めてエヴァンジェリンは自覚した。

 最初は取引によって興味を引かれたが、いつの間にかその人間性に惹き付けられていた。

 エヴァンジェリンはこれまで、真祖の吸血鬼や悪の魔法使いとして見られ続けていた。それは構わない。その為に悪を名乗り続けていたのだ。名乗るしかなかったのだが。

 それは麻帆良学園に来ても同じであった。

 確かに最初の三年間は悪くなかった。真面目に出席し、不器用ながらも友人が出来、まさしくただの少女に戻ったかのようだった。

 しかし、卒業を迎えればエヴァンジェリンを拘束する『登校地獄の呪い』に、地獄の言葉が付いている意味を知った。

 何度友人を作ろうとも、三年経てば全て忘れられ取り残される。

 そうして、ここは日向ではなく牢獄だと気付いた。

 

 そんな中で生まれた変化が皐月だった。

 ナギの生存を教え、地獄の解き方すら導き出した。

 真祖の吸血鬼でも悪の魔法使いとしても見ずに、エヴァンジェリン個人を見、あまつさえからかって来る始末。

 弟子に取り、決して早い訳ではないが成長していく日々に充実感すら覚えていた。

 

 しかし少年は、エヴァンジェリンの前から姿を消した。  

 嘗てのナギ・スプリングフィールドの様に。

 

 「まだ死んだ訳でも無いじゃろう」

 「アレに巻き込まれて生きてるとは思えんよ」

 『どういうこと?』

 「!」

 

 扉の向こうから二人の会話に割り込んできたのは、普段無表情の顔を強張らせているアスナと、呆然とする木乃香だった。

 

 「サツキが、死んだ? ガトウさんみたいに―――――」

 「アスナ君、このかまで……ッ!? どうしてここに」

 「どういう、ことなん……おじいちゃん?」

 

 近右衛門は、その問いに対し直ぐに答えることが出来なかった。

 何故アスナの記憶の封印が解けているのか。そもそも何故此処に居るのか。

 そして思い出したのは、件の少年が彼女達と仲が良かった事。

 

 「聞いていたんだろ? 皐月(ヤツ)は死んだ」

 「エヴァ! まだ死んだと決まった訳では――――」

 「死んだも同然だ。よりにもよってまつろわぬ神に遭遇したんだからな」

 「まつろわぬ神………?」

 「待つんじゃエヴァ! 二人は一般人じゃ!」

 「もう遅い。ここでは鬱陶しいのが居るから、話は私の家でするか」

 

 エヴァンジェリンは語る。この世界に存在する理不尽のソレを。

 人が決して抗えぬ神たる存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 「私の名前はエヴァンジェリンだ」

 「神楽坂アスナ」

 「近衛、このか」

 「良いか? 私の話は全て真実だ。魔法やら魔術やらのオカルトを多用するが、『そういうモノ』だと仮定しろ。そこから一々説明するのは面倒だ」

 

 麻帆良の、エヴァンジェリンのログハウスに向かう途中に、痺れを切らしたアスナによって、話は始まった。

 

 「ガキ共、貴様らは神を信じるか?」

 「?」

 「神様って、仏様のこととかの?」

 「ソレも含めて、宗教や神話、伝承や伝説で登場する神々。それらは残念ながら実在する。尤も、連中は本来世界に存在した超自然的な力を神話という枷で纏め上げたモノと解釈されていてな、神話上の範囲でしか動かん。しかしそんな中に神話には全く関係無く地上に顕現して好き勝手にする奴等がいる。ソイツ等を総称した名前が―――」

 「『まつろわぬ神』」

 「賢いガキは嫌いじゃないぞ」

 「………ッ」

 

 同級生をガキと称しているアスナは、自分がガキ呼ばりされてムッとしてしまう。

 この場に皐月が居れば、雪広への態度を引き合いに出して以前行ったアスナの間違いを正そうとするだろう。

 皐月の影響を受けて早熟している木乃香には、その様子を容易く想像できた。

 しかし、今少年はこの場にいない。

 もしかしたらこの世にすら―――

 

 そんな暗い想像を振り払い、アスナ以上に知識が足りないこのかはエヴァンジェリンの話を伺う。

 

 「その場合に顕現したまつろわぬ神は、様々な形で世界に干渉する。善神が結果的に悪しき形で被害を出したり、北欧系の神が日本で出現したりな。まぁその場合は何かしらの理由があるか、日本の神と同一視されていたり習合されていたりするが。そして神々を何も知らない、関係の無い一般人が知ることは出来ない。様々な自然災害として認識される。地震や台風などにな」

 

 そして最悪なのが、片方のまつろわぬ神が出現したからこそ、更にまつろわぬ神が出現する事態だ。

 その場合は、神話上で英雄に倒された地母神や竜などが出現した際の英雄神など、神話的には関係無くとも立場的に戦ってしまう。

 

 「それじゃあ、つっくんは……」

 「北欧のアイスランド。数週間前、そこでまつろわぬ神が暴れた形跡がある」

 「……………ッ」

 

 まつろわぬ神の出現には、ある程度原則がある。

 北欧の神話と言えば、別名ゲルマン神話とも呼ばれているアイスランド、ノルウェー、スウェーデン、デンマークに伝わる巨人族と神族の争いが中心の神話だ。

 北欧神話の代名詞と言えるエッダや、ヴォルスング・サガ、ルーン石碑にデンマーク人の事績などで構成され、有名なのは巨人族と神族の泥沼の戦争。果ての世界の終わりの物語(ラグナロク)がある。

 人間達はその戦争の巻き添えを喰らい、最終的に二人の男女を除き主神も最強の雷神も、主神を呑み込んだ怪物達や神々を殺した炎の巨人も世界すら飲み込んで何もかもが共倒れした終末劇だ。

 つまり北欧では神々が戦い合う形で出現しやすいのだ。

 

 神々の激突。それはまさしく天災だ。

 死者が出ない訳が無い。

 

 「……倒せないの?」

 「不可能ではない。だがそんなヤツは百年に一人かそこらの化け物ぐらいだ。本国出身の何も知らん馬鹿共は兎も角、昔からその地に隠れ住む魔法使いはより上手くやり過ごすのが一番だと理解している。仮に紅き翼―――近衛このか、お前の父親の青山詠春達魔法世界最強クラスと言えど、封印するのがやっとな筈だ」

 

 十二年前に、地球とは異なる異界である魔法世界で勃発した戦争で様々な活躍をし、英雄とまで呼ばれた紅き翼すら、事実京都に出現したまつろわぬ神、飛騨の大鬼神『両面宿儺』を殺す事は出来ず、封印するしかなかった。

 

 「ほえぇ。お父様凄いんやなぁ」

 「まるで理解して無いだろうが、話を戻すぞ」

 

 そしてまつろわぬ神を億が一、兆が一殺す事が出来た場合、人間は殺した神の権能を簒奪し、人を超越する事が出来る。

 

 「その恩恵は様々だ。先ず既存の兵器はまず効かん。それに通常の高位魔法使いの数百倍の魔力と気、呪力を手に入れ、不老に近い体質を得る。瀕死の重傷や四肢欠損などからも回復するし、人間離れした生命力と回復力も追加だ。もし殺したまつろわぬ神が武神だった場合武術の才能も得られるだろう。そして何より魔術や魔法に対する抵抗力が跳ね上がる。それが仮に山を消し飛ばす程でも、ただ威力のある魔法では傷一つ付けることは出来ない。最も、これはまつろわぬ神についても同じだがな」

 

 更に高い言語習得能力、梟並みの夜目、人間離れした直感力と様々。

 基本スペックだけでもこの有り様である。

 仮に技能をキチンと学べばそれだけで紅き翼を、現代の英雄達を凌げるだろう。

 そしてダメ押しの権能だ。

 

 「連中は『エピメテウスの落とし子』『魔王』『ラークシャサ』『堕天使』『神殺し』と、様々に呼ばれている。まぁ説明したとはいえ、関わらない様にしろ。奴らにとって人間など虫と同列だろうからな。潰されても知らんぞ」

 「なんや、怖い人達なんやなぁ」

 「そんなことはどうでもいい」

 

 アスナが話を断ち切り、エヴァンジェリンに縋るように問い掛ける。

 

 「サツキは、何処に居るの………!?」

 「……」

 「アスナ……ッ」

 「サツキはッ! 私と約束したよ? 一緒に楽しい思い出を作るって。だから、私は」

 

 そう言って、アスナも気付いた。いや、思い出した。

 嘗て彼女はタカミチに、自らを伽藍堂と表現した。何も無い空っぽなのだと。

 しかし、自分が決して空っぽではなかったのだと気付いた。

 この半年で、こんなにも涙を後押しするものを手に入れたのだから。

 

 「っ……ひっく、うぅっ……!」

 「アスナ……」

 「……私は先程皐月は死んだと言ったが、死んだ可能性が最も高いからそう言った」

 

 だがまぁ、

 エヴァンジェリンは溜め息をつきながら、しかし面白そうに二人に告げる。

 

 「奇跡が起これば生きている可能性は無いこともないが……、お前達はどうする?」

 「「―――――探すッ!!」」

 

 羨ましいな。

 エヴァンジェリンは二人を見ながら素直に思う。

 縛られたこの身では、探しに行くことすら出来ないのだから。

 

 「―――いや、出来ないことも無いな」

 

 皐月の話が真実ならば、図書館島に手段はある。

 あの少年を取り戻せるなら、足掻く事が出来るのならば土下座の一つでもしてやろう。

 尤も、その前に二人の少女を鍛えるのが先なのだが。

 

 「ハッ! ならあのバカ弟子を探す為に先ず貴様らを私が鍛え上げてやろう!! だが貴様ら、悪党に教えを乞う覚悟はあるか!?」

 

 返事に否はなかった。

 二人の少女は、エヴァンジェリン宅のログハウスに足を踏み入れる。

 少年を取り戻す為に。その為の力を得るために。

 そして―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、お帰り」

 『――――――――――』

 

 ――――そして、後に彼は語る。

 このか以外は、確実に白目を剥いていた、と。

 

 おそらくレッグウォーマーなのだろうが、嵐に逢ったか戦場にでも居たのか、某Z戦士の様にボロ雑巾を超えて残骸と化した服に、エプロンを着て料理を並べている水原皐月がそこにいた。

 

 直後、麻帆良学園に絶叫が響いたのは言うまでもない。

 

 




シリアスだと思った? 残念! シリアルでした!!


後、カンピオーネ原作の主人公、護堂君を出すか決めあぐねていますので、アンケートを取りたいと思います。

追記。
活躍報告にアンケート枠を作ったので、感想で書いて頂いた方も、そちらに投票お願いします。
感想で教えて頂き、本当にありがとうございます。

修正点は随時修正します。
感想待ってます(*´∀`)





あと、ストックが切れました。

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