「頼む三雲!!この通りだ!!!」
「…その、落ち着いてください」
ボーダー本部の太刀川隊室にて。
ハリウッド俳優もビックリな動きで土下座をかます太刀川に、修は冷や汗を流す。
皆が「なんだ?」と疑問に思い、年の離れた後輩に土下座をかます太刀川を見やる。
修は申し訳なさそうに頰を掻き、ことの経緯を確認する。
「えっと、プロジェクターがある部屋、貸し切ってたんですよね?」
「高嶺が細かい文字が見えるようにって、たまに指示すんだよ…」
「ソレはまだ良かったけど、問題の難しさにブチギレて投げたペットボトルが、奇跡的な角度で反射して、天井のプロジェクターに激突して落下。
プロジェクターが木っ端微塵になった…と」
大体、修が語った通りである。
後でその部屋へ映画を見にきた荒船が訪れ、奇声を上げながら崩れ落ちたという。
その話が忍田に行くのも時間の問題。
どうしようかと悩んでいるところ、先日、太刀川が壊したパソコンの修復をやってのけた修が通りがかったというわけである。
「……そのプロジェクターなら、直せないレベルで壊れてます。
給料で買い換えた方がいいですよ」
太刀川が手に抱えていた残骸を指差し、修は淡々と告げる。
この後は、風間と東に対し、修と空閑という、どう考えても勝てるビジョンが見えない対決が待ち受けているというのに。
が。ソレを知らない太刀川は、非常に情けない顔で修に縋りついた。
「それが、このプロジェクター、数百万はくだらないらしいんだよ…。
唐沢さんが『頑張ってる隊員たちにプレゼント』って買ったモンらしくて…」
沈黙が漂う。
互いに冷や汗を流しながら、修は恐る恐る太刀川に尋ねた。
「…預金残高は?」
「百万ちょい…」
「諦めてください」
「待ってェ!いや、ホントに待ってェ!!」
踵を返す修を必死に引き留める。
太刀川の勢いに負けた修は、渋々ながらも退室を止める。
「頼むよぉ…。なんとかしないと、一日磔の刑なんだよぉ…。
唐沢さんに頼んだんだけど、『新しいの頼んでもいいけど、磔の刑は受けようか』って笑顔で言ってくるんだよぉ…」
「数百万するプロジェクター壊して、その程度で済むならマシだと思いますけど」
「はぁ!?見たろ、あの迅の悲劇!!」
磔の刑とは、ボーダー内で流行っている私刑である。
流行の理由としては、先日の「セクハラ大魔迅処刑事件」…誤字にあらず…であろう。
あのところ構わず尻を触る迅が、目に見えてセクハラをしなくなった。
その効果を実感したがために、ボーダー内で流行り始めたのである。
迅に何が起きたかは語らぬが、少なくとも、彼の心を折るには十分だったとだけ記しておく。
「見ましたけど、弁償よりは遥かにマシなのでは?」
「うぅぅぅうう……!!」
「太刀川さん、諦めて磔になりましょう?
荒船さんが溶鉱炉があったり、バケモノがいたりする仮想空間作ってるらしいんで」
「何する気!?!?ねぇ荒船のやつ俺に何する気なの!?!?!?」
アンサートーカーを使わなくてもわかる。
出来るだけ凄惨な映画のシーンを、太刀川に再現させるつもりだ。
出水の言葉に戦慄する太刀川に、修は追い討ちをかけるように続ける。
「逃げた分だけ酷い目に遭うと思いますよ」
「………………」
その言葉は、迅の顛末を知る修だからこそ、説得力があった。
太刀川は見抜けなかったが、一つだけ、この言葉には嘘がある。
逃げても逃げなくても、太刀川の運命は変わらない。
普段、あまり嘘をつかない修が、この嘘をついた理由は単純。
アンサートーカーで導き出した残酷な現実を正直に伝えるほど、修は非道ではなかっただけのことである。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「……はぁぁぁ……。や、マジか……」
魔界にある王宮図書館にて。
特別な許可を得て、そこに立ち入った白い髪の少年は、深いため息を吐く。
そこに広がる資料は、歴史の長い魔界でも、それなりに古いものが揃っていた。
内容もバラバラであるが、ある内容だけが共通して書かれていた。
「……何やらかしてんだよ、二代前の王」
二代前の王。
二千年前の覇者となった存在の情報である。
書かれた内容は一律して、その『悪行』に焦点が向けられていた。
曰く、「魔界の半分を消しとばした」。
曰く、「魔界初の圧倒的な力と恐怖による独裁政治を平然と行った」。
曰く、「魔物としての理性を捨てた」。
曰く、「魔界の脅威と化した愚王であり、その千年後にバオウに食い尽くされた」。
それらの情報をノートにまとめた少年は、これまた深いため息を吐く。
当時の様子を鮮明に残そうとしたのだろう。
殴り書きされたのち、所々黒い染みがある資料に、少年は顔を顰める。
「アースが言ってたのはコレか…」
少年が思い浮かべるのは、先日聞かされた、とある伝説のこと。
当時の証人は、隠居してしまった前王ダウワン・ベルのみ。
だが、それは伝説と呼ぶには、拭い難い現実感を伴っていた。
「『悪魔の呪文』…か」
二代前の王が使っていたという呪文。
第一の術『タングル』。
これで海を叩き割り、海にて反逆の準備をしていた者たちを一網打尽にした。
第二の術『ブルクオ』。
一発で海を叩き割るタングルを、何倍にも増やして国民を監視した。
そして、二千年前の誰もが恐れた、最強であり最恐の呪文。
「『シン・オルダ・タングルセン』に、おれの『あの呪文』……」
この二つの呪文だけで、魔界は1秒と保つことなく、崩壊しただろう。
ソレを司るバケモノを倒したダウワンは、魔界でも「勇猛なる王」として名を馳せることになった。
そんな旨が書かれた本を置き、少年はこれまた深いため息をつく。
「…『我は無限、我は不滅。
故に我は、永遠なる王である』」
その言葉は、バオウに食い尽くされようとしている二代前の王が放った遺言だった。
強制的に隠居だというのに、随分な発言だ。
そんなことを思いながら、少年は自身の前の髪を視界に入れた。
「………『白い髪の愚かな王』、か」
ここまで来ると、いやでも察してしまう。
唯一の救いといえば、この問題を生涯の友たるパートナーの居る人間界に持ち込まなかったことだろうか。
「……や、待てよ?タングルに限らず、第一の術って、そんな威力ないよな…?
クリアのは性質が破格だっただけで、アシュロンの第一の術も、そこまで強くない…。
……ソレで海割るの、無理じゃね…?」
そこまで行って、少年は更に訝しんだ。
「…………『王の権限』で抹殺出来たろ?
なんでそれをせず、態々バオウで……?」
王の権限。即ち、『民の選定』。
人間界での生き残りが一定数の減少が確認されると、魔界に住む全ての住民が魂だけの状態となる。
彼らに生の権限を与えることができるのは、その戦いでの王のみ。
少年はそこまで考えると、あることに気づく。
「………『蓄積の術』…。
もっと調べてみるべきだな」
今後の活動傾向に関する活動報告です。「この作品の続きが読みたい!」、同作者の「そうだ、先生になろう」が続くかどうかが気になるという方は、それにについても明記してるので、お手数ですが下記のリンクから飛んでお読みください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=258965&uid=299998