三雲修はアンサートーカー   作:鳩胸な鴨

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注意:夢に出てくる人たちは夢のせいでアホになってるだけなので、本来なら絶対にこんなことしません。


アホのビンタをおみまいよ♪

「やったー!やったやったやったぁ!!

私、レイジさんに勝てたのよね!?ね!?」

「……疑似再現でのアンサートーカーありきでしょ。実力に入りますかね、ソレ?」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びを露わにする小南に、烏丸が聞こえないようにこぼす。

小南は攻撃手の中でも、その頂たる太刀川に迫るほどの実力を誇る。が、木崎レイジ相手に勝てるかと問われれば、「時と場合によるが、戦績で言えば負け越している」と誰もが答えるだろう。

木崎レイジはパーフェクトオールラウンダーと呼ぶべき万能手であり、あらゆる距離、あらゆる状況への柔軟な対応力を武器としている。玉狛の作戦立案も、今は県外スカウトに出向いているオペレーターの林道ゆり、宇佐美栞と彼が担っており、手の内が割れている相手には無類の強さを誇る。

それは小南相手とて、例外ではない。彼女の動きを徹底的に制限し、完封してみせた事だってある。

が。今回に限っては話が別。小南が思いつきのように言い出した「トリオン体であれば、伝達脳を弄ってアンサートーカーを使えるのではないか」という疑問から発展したこの模擬戦は、疑似的とは言えアンサートーカーを獲得した小南に軍配が上がった。

 

疑似的アンサートーカーを可能としたのは、後天的かつ現役アンサートーカーの修の協力あってのことだった。というのも、小南が激しく駄々をこね、修が折れただけなのだが。

ある程度の技術を宇佐美に叩き込まれた修は、品質はとにかく、なんとか疑似的にアンサートーカーを体験できるシステムを作り出した。…その代わり、訓練室の仮想空間のみでしか使えないのと、副作用が本来よりも酷くなってしまったが、ソレは言わぬが吉なのだろう。

何より、この再現に至るまでの過程で死ぬほど働かされたので、ちょっとした復讐心も込めて、あえて教えない事にした。

 

「……アレ、寝たらアホな夢を見るとかじゃなかったか?」

「アホな夢も見るし、この疑似再現だと二日後まで知能も低下する。訓練室の仮想空間以外の場所じゃ技術的な面でまず使えないし、正直なところデメリットしかない。

宇佐美先輩もこれは知ってるけど、ただでさえ忙しいのにこんな無茶苦茶言われて、相当怒ってる。

だから、小南先輩には痛い目見てもらうために言わない事にした」

「うふふふ……。明日は小テストらしいしねぇ……」

「………インシツだな、嫌がらせが」

 

こめかみに青筋を浮かべるメガネ二人に、空閑が微妙な面持ちで返す。

そんなこともつゆ知らず。絶好調の小南は、嫌がる烏丸を訓練室へと引き摺っていった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…ろ…なみ…。……きろ、小南」

「んぅ…、なによぉ…」

 

その日の夜。心地よい疲労感に包まれるようにして眠りについた小南を覚醒させようと、誰かが揺さぶる感覚を憶える。

小南は鬱陶しそうに目を開くと、そこに飛び込んできた光景に目を見開いた。

 

「起きろ、小南」

「わ゜ーーーーーーーっ!?!?!?」

 

飛び込んできたのは、出来の悪いバレリーナのような格好をして、鳥の被り物をした木崎レイジであった。

あまりに衝撃的な光景に眠気が覚め、凄まじい勢いで後ずさる小南。ソレに対し、レイジは真顔で迫った。

 

「人の顔を見て後ずさるとは、何事だ」

「後ずさるわよ!!何そのカッコ!?」

「人のカッコに口出しするな。さぁ、特訓を始めるぞ」

「と、特訓?」

「アホの特訓だ」

 

「ほら、ついてこい!」とヤケにハイテンションなレイジの声に、若干困惑しながらも立ち上がる小南。

レイジはソレを見ることもなく踵を返すと、両手で鳥の羽ばたきを再現しながらスキップを始めた。しかも、何故か余計に首を振りながら。

 

「わっはっはっはっはっ!!さあ、小南、お前もやってみろ」

「え、えぇ…?」

「やらないのか?やらないのなら…」

 

瞬間。どうやったのかはわからないが、レイジの手に、生きたタコが顕現する。

小南がソレに目をひん剥いていると、レイジはタコの足を掴み、彼女の頬をタコでビンタした。

 

「アホのビンタをおみまいだ♪」

(何コレ)

 

ペチーン、ペチーン、と力が抜けそうな音と共に走る衝撃に、小南は渋い表情を浮かべた。

 

「さあ、やるか?やらないか?やらないのなら…」

「………わ、わかったわよ。やるわよ…」

「よし!では、あのお花畑へ向かって羽ばたこう」

「……何なの、この状況…?」

 

笑い声を上げながら、花畑へとスキップするレイジに、一層困惑を隠せない小南。

しかし、アホのビンタはこれ以上貰いたくない。小南は心をアホにして、同じように笑いながらスキップを始めた。

 

「あっはっはっはっ!!」

「わっはっはっはっ!!そーれ!!着地するぞ!!とーう!!」

「とーう!!」

 

何だコレ。本当に何なんだ、コレ。

内心でこれ以上ないくらいに困惑しながらも、レイジの言う通りに真似をする小南。

尻から花畑へとダイブをかますと、レイジは即座に立ち上がり、リズムをつけて踊り出す。

 

「今のが所謂レッスン1♪しかし、今のはいただけない♪アホじゃないからいただけない♪」

「い、いただけないって…、アホの真似したじゃない…」

「真似と思う、それがダメ♪ダメなキミにはおしおきだ♪仕方ないからおしおきだ♪

アホのビンタをおみまいだ!!」

 

スパァン、とナマコでビンタをかまされる小南。普通に痛いし生臭い。

ヌトヌトとした粘液に塗れたナマコの感触に顔を歪める暇もなく、レイジが「レッスン2だ!」と叫び、小南の前から退く。

そこに居たのは、烏丸京介だった。ただし、フンドシ一丁の。

 

「と、とりまる…!?あ、あ…、あんた何してんのよ!?

…って、もっと隠しなさいよソレ!!も、も、も、もっこりしてるわよ!?」

「隠す必要などありません。何故なら今からレッスン2。頼みます、宇佐美先輩」

「はーい」

 

ちょっとだけリズムに乗せて言い放った烏丸が、いつの間にか隣にいた宇佐美に言うと。宇佐美は側に積み上がった皿を、フリスビーのように次々と投げて行く。

烏丸は、何処からか長い棒を三本取り出し、両手と下顎でソレを立てて見せる。瞬く間に飛んできた皿を棒の先で受け止めると、そのまま回し始めた。

 

「あははっ!!あはははははっ!!あーっはっはっはっはっ!!」

「と、とりまる……」

「アホのフリスビーをくらえ!!」

(私、まだ何もしてない)

 

烏丸は器用に回していた皿を、小南に向けて投げつける。その上には、いつの間にか大量の生クリームが乗っかっており、小南はそれを顔面で受け止めた。

 

「まだまだ行くぞレッスン3♪次の相手はこの人だ♪」

 

小南が目元に付着した生クリームを拭うのを待たず、レイジが小躍りしながら告げる。

彼の背後から現れたのは、ボーダートップクラスの問題児であり、ボーダーが誇るA級一位の男…太刀川慶。そして、その隣にいるのは、セクハラ大魔神の迅悠一。

二人の姿は、レオタードの乳首部分にスコーピオンを、股間部に孤月をくっつけた、なんとも無様な姿だった。色合いが白とピンクなのも相まって、余計に滑稽に見えてしまう。

 

「じ、迅…、太刀川、あんたたちまで…」

「ふっ!はっ!ふっ!はっ!」

「撫でるように斬る!!撫でるように斬る!!撫でるように斬る!!」

 

なんとも恥ずかしい箇所に引っ付いたスコーピオンと孤月を振り回しながら、二人して狂乱の踊りを披露する太刀川たち。

小南がその光景に唖然としていると、二人の目が彼女を捉えた。

 

「何をしているんだ、小南。特訓はしっかりしないとダメだろう」

「そんなボケっとしてると、立派なアホになれないよ」

「いや、別になりたくな…」

「「「口答えは聞きません♪アホのビンタをおみまいよ!!」」

 

二人はレオタードの胸元から、何処にしまっていたかもわからないおっさんみたいな顔をした深海魚を取り出す。そのまま流れるように、小南に深海魚ビンタをかました。

ぶよん、ぶよん、と気持ち悪い感触に顔を顰め、二人を怒鳴りつけようとするも、無駄だと悟って拳を諌める小南。

二人は小躍りしながら、小南に迫った。

 

「さあ俺らと一緒にレッツダンシング♪」

「真似ができなきゃおしおきよ♪」

「………ふ、ふふふ、ふふふふ。あははははっ!!やってやろうじゃないの!!!」

 

キレた。小南の理性を繋ぎ止めていた何かが、ぷつん、と音を立てて切れた。

太刀川たちが「セイ!!」やら「ほぉ!!」やら奇声を上げることも、左右に腰を振ることすらも、女を全力でかなぐり捨てて真似する小南。

ソレを数十分続けたのち、太刀川たちがたくあんを手に立ちはだかった。

 

「ヤケは良くない♪アホとは言えない♪」

「アホじゃないからおしおきです♪」

「「アホのビンタをおみまいよ!!」」

「一体ぶっ!?…どーしろぶっ!?…ってのよ!!!」

 

たくあんでぶっ叩れながらも、キレ気味に叫ぶ小南。

漬け汁まみれになった顔面を袖で乱暴に拭き取る小南に、再びレイジが小躍りしながら迫った。

 

「良く頑張ったな。最後はゆるりとワンコタイムだ」

 

レイジがなんとも滑らかな動きで小南の視界から外れると。そこには、出来損ないのケンタウロスみたいになったワンコの着ぐるみを着た陽太郎が、なんとも珍妙なポーズを取って叫んでみせた。

 

「ゆったりワンコ!とりゃー!」

「ゆったりワンコ!えーい!」

「ゆったりワンコ!せーい!」

「ゆったりワンコ!おりゃー!」

 

よくよく見ると、背後には可愛らしい後輩たちも同じような格好をして、同じように「ゆったりワンコ!!」と叫んでいる。さらにその背後には、何故か雷神丸が二足歩行になって、同じようにポーズを取っていた。

コレにより小南の知性は、完全に砕け散った。

 

「…………ゆったりワンコ!!えーい!!」

 

狂乱は続く。ソレが終わってゆく感覚も何処へやら、小南は実に愉快そうにアホになっていた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「あはは、あははは……は?」

 

ちゅん、ちゅん、と言う鳥の囀りで目が覚める小南。

彼女は寝ぼけたまま唖然とするという、なんとも珍妙な感覚に、半笑いのまま硬直した。

 

余談だが。その日の小テストは、解答欄に「ゆったりワンコ」とだけ書かれていたという。無論、こっ酷く叱られると共に、ボーダーの皆から激しく心配される羽目になったが、その理由は小南には言えなかった。




トリオン体で聴覚共有できるんなら、伝達脳ちょっと弄ったらアンサートーカーも再現できるんじゃね?と思ってやりました。アホのビンタを書けて満足です。

大規模侵攻編、次回からやるよ。
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