三雲修はアンサートーカー   作:鳩胸な鴨

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誰が「シン」が一つだけと言った?


大規模侵攻 終

「つまらん。タネが割れれば、ただの雑魚に過ぎないではないか。

……デュフォー。もう少し骨のある相手を充てがってくれると期待していたのに、裏切られた気分だぞ…。いや、まぁ、相当頑張ってくれたのはわかるが」

「………いや、すまん。俺のアンサートーカーも、ここまで雑魚だと言ってなかった」

 

遡ること、ユーと修が合流する少し前。

現在、エネドラは一挙一動全てが完全に封殺されていた。目の前にて繰り広げられる、なんとも腹の立つ応酬に罵声を浴びせるべく口を開くことすらできない有様。

プライドの塊であったエネドラに、到底看過できる仕打ちではない。彼は痺れる体に鞭を打ち、吠えた。

 

「ざけんじゃねェぞ…、この、猿ども…!!俺が、『泥の王』を持つ俺が、生身の猿に負けるわけがあるかァァァアアッ!!!」

「お前、他に類を見ないほどに頭が悪くなってるぞ。その角、摘出した方がいい」

「黙りやがれ!!」

「……忠告はした」

 

実のところ、デュフォーは既にトリガーホーンの副作用について見抜いていた。

トリガーホーンには、トリオンの安定した出力強化に、トリガーの最適化を促す作用がある。

しかし、頭に埋め込むという性質上、脳の深くにまで侵食する恐れもある。そうなれば、埋め込まれた本人はただ、欲望のままに暴利を貪る獣と化す。

自らさえも見失い、ただ残された欲だけを満たす怪物。それが、今のエネドラであった。

 

「……どうする?解放してやるか?」

「まずはトリオン体を解くために一度叩きのめす。暴れられても面倒だからな」

「照れ隠しが下手だな、お前」

「うるさい」

 

誰かに子飼いにされた挙句、散々利用され、自分さえ削ぎ落とされ。そこに、ただ残っただけの抜け殻のような獣。

エネドラと昔のデュフォーは、よく似ている。ただ違うのは、そこに抱いているのが衝動か、憎しみかの違いだけだろう。

この五年間で、薄らとだが感情が戻ってきたデュフォーは、この時初めて、誰かに「憐れみ」と「自己投影」を覚えた。

エネドラはデュフォーのその表情に目を丸くしたのち、激情のままに顔を歪める。

 

「なんなんだよ…!!なんなんだよ、その顔はァァ……!!!猿が、猿如きが、俺を憐れむなァァァアアアアッ!!!!」

 

エネドラはありったけのトリオンを注ぎ込み、体を肥大化させる。このまま放置しておけば、三門市の大半がこの濁流に飲まれることだろう。

迫り来る濁流を前に、デュフォーの持つ銀の本が、光を増した。

 

「ゼオン、構えろ。終わらせる」

「ああ。……『遊び』にしては、気分が晴れなかったのが残念だ」

 

────『ジガディラス・ウル・ザケルガ』

 

凛、とその呪文が響く。

瞬間。雷神が顕現し、その翼を広げる。腹部には巨大な砲台が門を開けており、その内部にはザケルやザケルガとは比べ物にならないほどの紫電が駆け巡っていた。

 

『ZIGAAAAAAAAAAAAAAAAッッッ!!!!』

 

雷神の咆哮と共に、雷と呼ぶのも憚られるような雷の暴威が濁流を飲み込んでいく。

そこに溢れるのは、ガッシュたちが受け止めた憎しみはカケラもない。そこに込められた想い。デュフォーはまだ、その答えを知らなかった。

 

その一撃が続いたのは、何秒だったか。雷が終息し、ジガディラスの姿が消える。

彼らの眼前に広がるのは、更地となった警戒区域の一端。デュフォーは、気を失ったエネドラへと歩み寄り、黒トリガー『泥の王』を回収してその肩を担いだ。

 

「さて、コイツを突き出す前に、ツノを摘出するぞ。ゼオン、運べ」

「前々から思っていたが、お前、俺のことを都合のいい足だと思ってないか?」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

再び時は遡り。

ヴィザ翁は自身を翻弄する策を数秒足らずで組み立てる清麿に、狙いを向けていた。

烏丸とレイジは確かに強いが、ヴィザの脅威となり得るかで言えば、否である。青年期から戦いに身をやつして五十年。「星の杖」を授けられる以前から、頭の回る戦士とも、ただトリオン量にモノを言わせて暴れ回る囮役とも、圧倒的に不利な状況下に導入された黒トリガーとも刃を交えた。

その全てを叩き斬ってきた功績は、アフトクラトル本国の歴史を振り返っても稀有である。その圧倒的な戦闘センスとトリオン量を買われ、国宝たる「星の杖」を授けられているのだ。

 

しかし、高嶺清麿とガッシュ・ベルは、今まで戦ってきたどの敵よりも強く、聡い。

油断も隙も、更には連携の穴すら見つからない攻撃の雨霰。三雲修が立てた策略の数歩先を行くような、息も吐かせぬ拘束。思うように「星の杖」の結界に掠りもせず、逆にこちらは体力を削られる一方。

しかし、烏丸とレイジの底は見えた。警戒する必要こそあれ、清麿たちほど、戦力を一気に傾けるような存在感はない。

 

「『ラウザルク』!!」

「ガイスト、起動…!機動力特化!!」

 

ガッシュが結界へと駆け出すと共に、烏丸もまたそれに並列するように駆け出す。

ガイスト。トリオン体のバランスをわざと崩し、腕や足を強化する、烏丸のカスタムトリガー。発想としてはアフトクラトルのものと近いのだが、角がない分、時間経過でトリオン体が負荷に耐えきれなくなり、緊急脱出してしまうという欠点もある。

ガッシュの身体強化呪文…『ラウザルク』に匹敵するほどの速度で、清麿の指示通りに結界を潜り抜け、ヴィザへと迫る二人。

烏丸は、足に集中していたトリオンを半分、右腕へと集中させる。

ヴィザが「星の杖」を抜刀しようとその刀身を抜くも、レイジが結界の隙間を縫って放ったガトリングによって阻止される。

 

「くっ…」

「白兵戦特化…!」

「『マーズ・ジケルドン』!!」

 

狭範囲高密度に刃を展開し直すも、放たれた球体によって刃が逸らされ、ヴィザの体が引き寄せられる。

ヴィザがその影響から免れようと地面を蹴ろうとするや否や、凄まじい勢いで迫った烏丸がその首を刈り取るべく斬撃を放つ。

 

「あまり舐めてくれるなよ…!!」

 

しかし、その程度で刈り取れるわけもなく。ヴィザが首を守るように添えた「星の杖」が、烏丸の孤月を止めていた。

ガッシュたちが術を出そうとすると、ヴィザは烏丸をガッシュたちに向けて蹴り飛ばす。

それに動じることなく、ガッシュはマントで受け止めると、清麿が指す方向を向いた。

 

「木崎、烏丸!!適当でいい、弾幕!!」

「分かった。射撃戦特化」

「……逃げ道は塞げるか?」

「大丈夫なのだ。のう、清麿?」

「ああ。ガッシュ、俺に任せとけ」

「ウヌ!」

「『ジオウ・レンズ・ザケルガ』!!」

 

ガッシュの口腔から突き出たのは、幾つもの鱗を持つ、雷を纏う蛇のような竜。腕のような部分は無く、鱗に包まれたその相貌がヴィザを睨め付ける。

この術は、ガッシュ一人では到底扱えない。互いを完全に信頼し切っている清麿とガッシュだからこそ、強力無比な術となる。

と言うのも、ガッシュは幼少期の衰弱が未だに祟り、術の負荷に耐えるための器官が他者に比べて未発達でいる。そのため、術の反動によって意識が一瞬だけ飛んでしまうのだ。

 

『ジオウ・レンズ・ザケルガ』とガッシュ・ベルの相性は、正直なところ最悪である。パートナーか自身にマニュアル操作が可能な鱗の弾幕と共に放たれる雷竜。

一見すれば強力に見えるが、術の発動時に気絶するガッシュでは到底扱いきれない。その欠点を補うのが、アンサートーカーを持ち、かつガッシュと絶対の信頼を築く高嶺清麿というパートナーであった。

 

レイジと烏丸が広範囲に弾幕を放つ。ヴィザがそれを「星の杖」の結界で引き裂こうとすると、ジオウ・レンズ・ザケルガの鱗の一つが凄まじい速度で結界の一つを打ち砕く。

ヴィザがそれに目を丸くしていると、綻びから飛んできた銃弾が、眉間へと迫る。

ヴィザはなんとかそれを刹那の居合によって引き裂くも、弾幕は止むことを知らず、ヴィザへと迫っていた。

しかし、ヴィザとてただ無駄に歳を食っていたわけではない。弾幕の隙間を縫い、最小限の動きでなんとか避け、結界をもう一度高密度に展開する。

 

「っ!?」

 

瞬間。竜が鱗と共に結界の薄い箇所を縫い、ヴィザの張った結界の盾に噛み付いた。

 

「……やれやれ…っ!これだから、戦いはやめられない…!!」

「「………」」

 

結界を巧みにズラし、ヴィザは竜の軌道をなんとか逸らす。

と。その言葉に反応してか、ガッシュと清麿の目が据わった。

 

「お爺さん。今、なんと言った?」

「…聞こえませんでしたかな?戦いがやめられないと言ったのですよ」

「………その戦いとは、この『戦争』のことか?」

 

滲み出る怒気。

ガッシュは基本的に、戦いを忌避する優しさを持っている。それは術にも顕著に現れており、後半に強力であり攻撃的な呪文を一気に覚えたのは、清麿が一度殺されて初めて憎しみを覚えた時のみであった。

周りの魔物が強力な呪文を多用してくるのに対し、ガッシュは清麿の工夫によって打ち勝ってきた。それ故に、最後まで善性を捨てることなく、王になるまでに至ったのだ。

 

優しい王様。もう二度と戦いで涙を流す者が現れないようにと、願いを込めた少女から貰った夢。

故に、ヴィザの言う「戦い」を彼が楽しんでいるという言葉は、看過できなかった。

 

「ええ、そうですよ。この命のやりとり、実に身が昂りませぬか?」

「お主が戦う理由は、それだけなのか?」

「……昔は国のためと尽くしてきましたが、こうも歳をとると、何かに楽しみを見出す他に生き甲斐を失くしましてな。

今は、ただのヴィザとして、この闘争を楽しんで…」

「「ふざけるな…っ!!!」」

 

ヴィザの言葉を遮るように、ガッシュと清麿の怒気が高まる。

心の力を本に込めていないため、電撃は走らない。ただ、その代わりに走るのは、思わず跪きそうになるほどの威圧だった。

 

「この瓦礫の山で、この阿鼻叫喚で誰が笑う!!お前たちしか笑わないだろう!!!」

「ここに来るまでの飛行機の中で、貴様らの悪行に泣き叫ぶ者が居るのを見た…!貴様らの攻撃で傷を負った者を見た…!!

その者たちの前でも、貴様は楽しいなどと言えるのか…!!!」

 

誰もが綺麗事だと吐き捨てるようなことを、まっすぐな瞳で放つ二人。

ヴィザは呆れたようにため息を吐き、諭すように口を開く。

 

「やれやれ…。相当にお若いようですな、お二方。戦争とは、そういうものなのです」

「その言葉だけで終わるほど、人の悲しみは簡単ではない!!貴様の笑みのために誰かが傷つくのなら、私は王として、その行いを止めてみせる!!今までも、これからも!!」

「ああ…!いくぞ、ガッシュ!!!」

 

────『バオウ・ザケルガ』ァァァアアーーーーーッ!!!!!

 

清麿の咆哮が天へと響く。瞬間、ガッシュの口腔から空間を引き裂くように、先ほどよりも巨大な竜が姿を見せる。

獲物を握りつぶすための爪に、雄々しく伸びる牙に、威圧を放つ王冠。金色に煌めく体躯を畝らせ、目の前にある敵を戦かせるような咆哮を放った。

 

『バオォオオォォォォォォォオオオオオッッッッ!!!!』

 

ヴィザは空に吼えるバオウの姿を見て、これでもかと目を見開く。

バオウ。正式名称『バオウ・ザケルガ』。先代の王から受け継いだ、真なる力を解放しながらもガッシュの制御下に置かれた、悪意を喰らう竜。

金色に包まれた赤の相貌が、ヴィザを捉えた。

 

「………そんな、バカな…。何故、何故…!?何故、かのバオウがここに居る!!??」

『バオォォォオオオオオォォォォォォオオオオオオオッ!!!』

 

刹那。バオウはその巨体からは考えられない速度でヴィザに迫る。

ヴィザは「星の杖」に全てのトリオンを注ぎ込み、超高密度の結界を盾として展開した。

 

「ぐ、おぉおおお…っ!?!?」

「いけ、バオウ…!!打ち砕けぇええーーーーッ!!!」

 

清麿の咆哮と共に、魔本から放たれる光がより強まる。それに呼応するようにバオウが力を増し、一枚、また一枚と結界が破られていく。

ヴィザは最後にせめて、と思い、「星の杖」を抜刀し、その鞘を投げ捨てる。そして、残った結界を全て刀身に纏わせ、バオウの額に切りかかった。

 

「うぉおおおおっ!!!」

 

しかし、それは叶わない。その一撃ごと、バオウは大口を開けてヴィザを食らった。

 

『バオォォォオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオッッ!!!!!』

 

バオウが勢いよく噛み砕く音と共に、その姿が霧散していく。

そこに残されていたのは、生身で気絶したヴィザと、起動停止した「星の杖」だけだった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……ヴィザ翁もエネドラもやられた、か」

 

二方に見える雷光に、ハイレインが呟く。

バオウとジガディラス。同時に放たれたソレは、ハイレインたちの心を折るのに十分だったのだろう。やや放心気味に乾いた笑みを浮かべる彼に、ミラが悲鳴に近い声で迫る。

 

「司令官!せめて、ランバネインと早急に本国への…」

「いや、もういい」

 

瞬間。門が開き、アフトクラトルの遠征艇が姿を現す。まるで隕石のように、ボーダー基地へと迫るソレを見据えながら、ハイレインは瞳に決意を宿し、告げた。

 

「骨を埋める覚悟は出来た…!!」

 

ハイレインの取った策は、遠征艇そのもののトリオンを暴走させ、巨大な爆弾として三門市に落とすことだった。

元は本国をバオウから守るための自爆特攻装置だったのだが、バオウがこの場に現れた今、用途に拘っている暇はない。もし着弾すれば、三門市やボーダー基地は愚か、周辺にも確実に被害が出ることだろう。更に言えば、キューブと化した隊員も、タダでは済まない。

内部にいるランバネインも既に覚悟を決めており、真っ直ぐ、全速力でボーダー基地へと向かっていく。無論、上層部がソレを黙って見ているわけがない。トリオンを注ぎ込んで弾幕を放つが、遠征艇を破壊するには至らなかった。

 

「『バオウ』と『シン』は、何がなんでもここで殺す…!!」

 

ハイレインが並々ならぬ覚悟を露わにすると、ミラもまた覚悟を引き締めたように頷く。

その傍で、全てをアンサートーカーで悟った修は、落ちてゆく遠征艇を見上げた。

 

「…空閑、千佳は頼んだ」

「……おいおい。生身のお前は逃げないと死ぬぞ。ソレでも残るのか?」

 

空閑の問いに、修は不敵な笑みを浮かべた。

 

「僕が、そうすべきと思ったからな」

 

瞬間、本から放たれる閃きが、より強くなる。翡翠の光が照らす瞳には、絶えず意志が宿る。

彼の心の力の源は、その「責任感」。自分がすべきと思ったことに真摯に向き合う心が、「想い」すらも『蓄積する性質』を持つ相棒の力を最大限に引き出す。

 

「行くぞ、ユー!!」

「おう!!」

 

────『シン・オルダ・タングルセン』!!!

 

かつてアフトクラトルを壊滅させた災厄の名を、己の切り札の名を、清麿たちをクリアの魔の手から守り切った名を叫ぶ。

ハイレインが、せめてもの抵抗すらも無駄に終わるかと放心しかけるも。目の前に広がる光景に、安堵を覚えた。

 

展開されたのは、家屋ほどの大きさを誇るキューブが二つだけだった。

 

「……ふ、ふふふ…。同じ災厄の名を冠するにしては、随分とちっぽけな技だな…!!」

 

ハイレインは安堵を吐き出すように、言葉を紡ぐ。

しかし、彼は知らない。『シン・オルダ・タングルセン』は、『ある術』と合わせることで真価を発揮することを。

修は心の力を本へと注ぎ込み、放つ光をより強く、大きくする。これが、この大規模侵攻を終結に導く最後の呪文。

王の名を冠する、その名は。

 

────『シン・ユーグルウス・ブルフマー』ァァァアアーーーーーッッ!!!!

 

顕現するのは、梵天。八つの目を持つソレは、四つの腕を勢いよく前に向ける。

刹那。二つだけ滞空していた『シン・オルダ・タングルセン』の数が二倍、四倍、八倍と、凄まじい勢いで増加していく。

数秒経つ頃には、曇天を埋め尽くすほどのキューブが、彼らを中心に展開されていた。

 

『RUFAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーッ!!!!』

 

ばきり、と仮面のように固定されていた口を無理矢理に開き、梵天が吼える。

『シン・ユーグルウス・ブルフマー』。その効果は、込めた心の力の分だけ、直前に出した術を増やすという、シンプルなもの。

しかし、術を増やすにあたってその上限がないという、大きな特徴がある。

今回、修が込めた心の力は、残っていた心の力ほぼ全て。増やした数は、元の数に10の11乗を掛け合わせた数になっていた。

 

「まずはキューブにされたC級たちをあそこから落とす!!後部を削り取れ!!」

「せー…のぉっ!!」

『RUFAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーッ!!!!』

 

理不尽としか言えない数の『シン・オルダ・タングルセン』が、ユー、そして梵天の挙動に合わせて動き出す。

これを使っても、シン・クリア・セウノウスの前には勝てなかったが、アフトクラトルの遠征艇相手であれば削り取ることが出来る。

殺到したキューブにより、遠征艇の後方…トリオンキューブと化したC級隊員が詰め込まれた場所が破壊され、中から幾つものトリオンキューブが落下していく。

その際に生身のランバネインも落下していたが、途中で雷を纏う影がソレを拾い、何処かへと降りていくのが見えた。

 

「サラウンド!!」

「りょー…かいっ!!」

 

梵天とユーの動きに合わせるように、残ったキューブ全てが遠征艇を取り囲む。やがて殺到したソレは、一つの立方体のように、遠征艇を覆い隠した。

 

「打ち砕け…!!『シン・ユーグルウス・ブルフマー』!!」

『RUFAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーッッッ!!!!』

 

その咆哮と共に、空に浮かぶ立方体が急激に縮み出す。…否、縮んでいるのではない。爆弾と化した遠征艇を破壊すべく、弾幕が放たれているのだ。

雨霰と破壊が降り注ぐ中、遠征艇は破片を残すことすらも赦されず、着実にその姿を縮めていく。

 

「「チェックメイト」」

 

ぽつん、と宙に残った巨大な爆弾と化した動力部分に、全てのキューブが押し寄せた。

 

『RUFAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーッッッッッ!!!!』

 

衝撃と共に、動力部を貫いて全方位に飛んだキューブが、雲すらも薙ぎ払っていく。

高い日差しが傷だらけの三門市を照らす中で、日の祝福を浴びた梵天が雄叫びをあげ、消えた。

 

「やったな、オサム!……オサム?」

「………どうやって言い訳しよう……」

 

照らされた日差しの下にて。

ユーに抱きつかれた修の喉から漏れたのは、勝利への喜びなどではなく。嬉しさと今後の心配が入り混じった、複雑な嘆きであった。




『シン・オルダ・タングルセン』…二家屋ほどの大きさを誇るタングルセンを二つ展開し、自在に操る術。威力は強いが、単体では恐らく、シンの中でも最弱。発現当時はあまりの弱さに周りから同情された。その数日後に、もう一つの術が覚醒している。

『シン・ユーグルウス・ブルフマー』…ユーが持つ、もう一つの「シン」の術。効果は単純で、込めた心の力の分だけ直前に出した術を増やす。これを合わせて使うことで、無数の『シン・オルダ・タングルセン』を放つことができる。展開される梵天は制御装置のような役割を持っていて、増やした術の軌道にブレやムラができないように微調整している。数こそ正義。

ハイレインさんたちは放心して完全に腰が抜けてます。伝承にも間違いはあるよね。まさか恐れてた術が、ホントは単体じゃ物凄くショボいなんて思わないもんね。
ちなみに、ブルフマーを使ってもクリア完全体やガッシュペア、ブラゴペアにはまず勝てません。
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