三雲修はアンサートーカー   作:鳩胸な鴨

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上層部との対談は次回になるかな。


魔物たちがいる日常

「母さん、おはよう」

「カスミさん、おはよー!」

 

街の疲弊を理由に、ユーたちについての説明をなんとか後日に持ち越した修たちは、香澄が用意した朝食の並ぶ食卓の前に座る。

ユーがかつて使っていた椅子を引っ張り出し、お気に入りだった食器の上に彩られた朝食に、満面の笑みを浮かべた。

 

「カスミさんのご飯はひさしぶりですなぁ」

「五年経っても、ちょっと身長伸びただけじゃないの。ほら、もっと食べなさい」

「おー!」

「…母さん、魔物と人間の成長速度は違うから…。伸びる時は一気に伸びるから…」

 

どん、と市場で買ってきたのであろう、巨大な鮭がびちびちと食卓にて踊る。香澄も表情は変わらないが、家族の一員とも言えるユーが帰ってきたことが嬉しいのだろう。ユーはそれに溢れんばかりの嬉しさを声に出し、思いっきりかぶりついた。

恐らく、高嶺宅でも同じような光景が繰り広げられているに違いない。

そんなことを考えながら、修は朝食のベーコンエッグを口にした。

 

「………ホントに生のままかぶりついてる…」

「空閑くん、おはよう」

「おはよーございます、オサムの母上どの」

 

と、そこへ夜通し勉強に励んでいた空閑が、食卓へと座る。

自分によく似た少年が、生きた鮭を未処理のまま勢いよくくらい尽くす様をまじまじと見ながら、「いただきます」と手を合わせた。

本来であれば、彼が暮らしているのは玉狛支部の一室なのだが、普通に帰れば、事前に修の秘密を知っていたことをレプリカに知らされた玉狛支部の皆に質問攻めに合いそうなので、修の家に逃げてきたのだ。

その予感は当たっており、修、空閑両名の携帯には、数えるのも馬鹿らしくなる程、着信履歴が更新されている。「後日説明する」とだけメールを打って電源を落としたが、恐らく今なお、その数は増えていることだろう。

 

上層部からも家の方に連絡があり、受話器からはユーを連行しろと騒ぐ彼らの怒鳴り声が響いた。ユーとの再会を喜んでいた香澄が「水を差された」と言って、威圧だけで乗り切ってくれたため、先述した通りに後日、共に説明すると言うことでなんとかなったが。

 

「ああ、そうそう。サンビームさんから電話あったわよ。近いうちにシスターさんたちと一緒に来るって」

「ウマゴンも?」

「『メルメルメー』って嬉しそうな鳴き声はしたわね」

「………モモンも?」

「勉強はしっかりしてるけど、本能レベルの悪癖は治ってないそうよ」

「モモン…」

 

モモン。かつて、ファウードの中での戦いで、清麿復活までの時間を稼いだ、戦いへの恐怖を克服した勇気ある魔物。

しかし、それを差し引けば、エロスに対する執着が並々ではない「エロザル」と罵られるほどの悪戯っ子である。

前科で言えば、シスターであるエル・シーバスとの邂逅では、修道院に干されていた女性ものの下着を盗みまくって折檻され。術をこれでもかと悪用しまくり、ティオのパンツを覗き、チャージル・サイフォドンで殺されかけたり。挙句、香澄の下着…四十手前なのにかなり過激なもの…さえも狙い、打撃を受けてアスファルトに埋められたりとかなりひどい。

美人揃いのボーダー隊員たちを目の当たりにすれば、必ずや何かしらの問題を起こすだろう。確信に近い予感に冷や汗を流していると。ピンポン、とインターホンの音が鳴った。

 

「ちょっと出てくるわね」

 

香澄が食べ終えた食器を流しへと置き、客人が待つであろう玄関へと向かう。

誰だろうか、と思いつつ食事を口にすると。聞き覚えのある声が、小さな足音と共に近づいてくるのが聞こえた。

 

「オサム、久しぶり!」

「………え?ティオ?」

 

現れたのは、ティオ。アイドルとして活躍する大海恵とパートナーだった魔物が、五年前とさほど変わらぬ姿で修との再会を喜ぶ。

遅れて、恵がひょっこりを顔を出し、「ご飯時にごめんなさい」と苦笑を浮かべた。

 

「恵さんまで…」

「おはよう、修くん。急にごめんね?」

「ゆ、ユーが二人!?!?」

「………まぁ、そうなるよな」

 

ユーと空閑は、見れば見るほどに瓜二つな見た目をしている。どちらも背は低いが、10歳前後の成長期真っ只中の背丈が空閑で、7歳前後の成長期前の背丈がユーという見分け方をしていれば、ほぼ間違えることはない。

 

「いきわかれの兄です」

「どうも、兄のユーマです」

「バレバレの嘘ついてんじゃないわよ!!」

 

ユーの悪ノリに付き合い、同じように朗らかな笑みを浮かべる空閑。しかし、ティオはそれに騙されるそぶりすら見せず、即座にツッコミを入れた。

小南やキッドあたりなら簡単に騙せそうなものだが、ユーの事情を少なからず知る者から言えば、空閑の副作用がなくとも看破できそうな嘘であった。

 

「二人とも、なんでこんな朝早くにウチに来たんですか?」

 

気を取り直して、修が恵たちに来訪の理由を尋ねる。恵は少しばかり困った笑みを浮かべながら、ティオたちに目を向けた。

 

「ティオたちのことで、ボーダーと話に来たの」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「ふんっ!!」

「高嶺ぇぇえええっ!!死ぬっ!!死ぬってこ…れぇえっっ!?!?」

「運動不足なお前の脳細胞に追い込みをかけてるんだ…よっ!!!」

「ぎぇえええええっ!?!?」

 

時は少し進み。清麿愛用のジムにあるリングにて、太刀川の断末魔が響く。

現在、清麿は怒涛の如くキレており、顔はまるで西遊記のお供たちが変に融合した阿修羅のようになっていた。

かつて、ロデュウという魔物にしでかしたように、連続で呪文を浴びせ続けることをしないあたり、温情はあるらしい。

その様を唖然と見つめているガッシュが、隣に座る出水に問いかけた。

 

「清麿があそこまで怒るとは、たちかわ殿は何をしたのだ…?」

「半年前締め切りで、なんとか頭下げまくって期限延長してもらってたレポートを今まで隠してたんだと」

「………つまり、どういうことなのだ?」

「半年前の宿題が見つかって叱られてる」

 

自業自得としか言えない。清麿がプロレス技を仕掛ける度、元気に叫ぶ太刀川に、ガッシュはなんとも言えない視線を送る。

アンサートーカーからの判断で、ボーダーへの魔物についての説明は修たちに任せたのだが、それはそれ。今は家庭教師の高嶺清麿として、太刀川に折檻しなければ気が済まなかった。

 

「お、お前ら…!隊長のピンチなんだから助け…ろ゛っ!?」

「がんばってねー」

「見捨てるなくに、ち…かぁぁああっ!?」

「国近。他人事のように思ってるだろうが、お前もだからな?」

「ぴっ」

 

その様子をゲームをしながら傍観していた太刀川隊オペレーター…国近柚宇は、清麿に釘を刺されると情けない悲鳴をあげる。何を隠そう。国近もまた、二学期末の定期試験にて、類を見ないほどに壊滅的な結果を叩き出してしまっていたのだ。

ボーダー全体の学力向上のために派遣された清麿としては、彼らを叱らずにはいられなかった。

 

「お前にこんなことすれば絵面がまずいことになるからやらないが!!その分、次の定期試験までの講義時間を倍近く増やすことで対応する!!成績改善するまでゲームなんて金輪際触らせないからな!!」

「反対ッ!!反対反対反対反対反対!!反対ったらはんたぁぁあああいッ!!!」

 

清麿が宣告すると、国近が血相を変えて猛抗議を始める。

しかし、それが火に油を注ぐ結果となり。顔中が青筋だらけになった清麿は、更に太刀川の折檻にこめる力を強めた。

 

「どの口が言っとんのじゃーーーっ!!!」

「く、国近っ…!言葉を選べ…っ!さもなくば…俺が死ぬっ!!」

「斬新な脅しっすね、太刀川さん」

 

ちなみに、緑川駿、別役太一なども同じような宣告を受けており、ボーダー内部の成績残念組が膝から崩れ落ちたのは、言うまでもないだろう。因みに。危うかった空閑は、修の奮闘でなんとかボーダーラインを超えたため、清麿の補習を受けずに済んでいる。

閑話休題として。太刀川と国近は、必死で清麿の怒りをよそに逸らそうと、言い訳を考える。国近はふと、隣に座る出水を指差し、口を開いた。

 

「出水くんは!?ねぇ、出水くんも同じ処分でしょ!?」

「お前らと一緒にするな。出水は平均点よりもちょっと上だ」

「「裏切り者!!」」

「真面目に勉強してただけなのに!?」

 

ただ勉強していただけなのに、裏切り者呼ばわりされた出水は、間髪入れずツッコミを入れる。

自身が招いた結果を受け入れるほかないと察した国近は、三角座りをして寝転んでしまった。

 

「げ、元気を出すのだ、くにちか殿!勉強は…その、確かに辛いが、きちんとできれば、それだけみんなが褒めてくれるのだ!」

「嫌なものは嫌なの…。ゲーム触れないとか本当に嫌なの…」

「う、ウヌ…」

 

生粋のゲーマーである国近にとって、清麿の宣告は身を切るよりも辛かった。

ガッシュはさめざめと泣く国近をなんとか慰めようとするも、逆効果だと悟り、目を逸らして再会したバルカン300と遊び始める。

そんなガッシュに、出水が悪戯っぽい笑みを浮かべ、問いかけた。

 

「電撃ボーイ…いや、ガッシュって言ったな、王様さんよ。そういうお前はしっかりやってんの?」

「王様だから、きちんと勉強しないとみんなが困ってしまう…と、ゼオンやアースに言われたから、がんばってるのだ」

「えらいな、お前。…少なくとも、アレみたく言われてもやらないよりはマシだわ」

「ウヌゥ…」

 

もし、勉強していなかったら、清麿は自身にも同じ折檻をしただろう。

そんなことを思いながら、ガッシュと出水は折檻を受ける太刀川と、激しく落ち込む国近から目を逸らした。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「と、いうのが修が体験した事の顛末と、コイツらについての説明だ」

「……なーるほど。戦い慣れてるわけか」

 

玉狛支部にて。後日にある修への尋問を少しでも有利に進めるべく、デュフォーが訪問し、魔物の王位継承戦について説明する。

前回の王を決める戦いは、二年少しで終わったものの、その被害はバカにならない。

巻き込まれた修も被害の中に含まれており、かれこれ10回以上は臨死体験をしている。

千佳を人質に迫る魔物の襲撃によって数回死にかけた経験など、まだ可愛い方である。酷い例で言うと、気絶すら許さず、相手の心を完璧に屈服させるゼオンの術…「バルギルド・ザケルガ」をモロに受けても、本だけをユーに託し、ただひたすらに耐え続け。直後にはロデュウ相手に傷だらけの体で大立ち回りを演じたこともあった。

 

「ああ。アイツのアンサートーカーは、そんな極限状態の積み重ねが引き起こした、奇跡の産物だ」

「ふむ…。この『どらやき』とやら、素朴な見た目をしているが、うまいな。かつおぶしもいいが、これもいい。もっとくれ」

「はいはい、どうぞどうぞ〜」

「あー!?アタシのどらやきぃっ!?」

「ありがたくいただいてるぞ、小娘」

「むきぃーーっ!!なによこのお子様!!」

「……ちゃんと話は聞こうな、お前ら」

 

どら焼きを強請るゼオンに、追加のどら焼きを貯蔵から引っ張り出す宇佐美。その貯蔵が自分のものも含まれていることに気づいた小南が抗議の声を上げるも、軽くあしらわれる始末。小南はどこまで行ってもナメられる運命にあるらしい。

そんな様子を傍目に、レイジと迅が呆れたため息を吐いた。

 

「…で、それを話して、俺たちに何を頼むつもりだ?」

「頭悪いな、お前。この説明が尋問を有利に進めるためだと、そこらのガキでも簡単に想像がつくと思うが」

「………」

 

デュフォーの罵倒…彼にその自覚はない…に、レイジは険しい表情で顔中に青筋を作る。

迅はいつものように胡散臭い笑みを浮かべながらも、なんとかレイジの怒りを逸らすべく、デュフォーに問うた。

 

「尋問を有利に進めた先に、何を求めているのかな?差し支えなければお聞かせ…」

「お前も頭が悪いな。魔物は別世界の住人…極論を言えば『近界民』だ。お前たちのところの過激派がいつ襲ってくるか分からんから、今のうちにゼオンたちが友好的かつ有益な存在だとアピールする必要があることに気づかないのか?」

「………」

 

迅も同じように、真顔になって顔中に青筋を作る。

その様子を傍目に、ゼオンと一緒にどら焼きを頬張っていた陽太郎が口を開いた。

 

「よーするに、デュフォーたちはゼオンたちのためにがんばってるのだな!」

「お前はコイツらよりも頭がいいな」

 

その一言に、陽太郎が胸を張って、青筋を浮かべる二人を煽る。二人が更に青筋を浮かべるのをさておき、烏丸が問うた。

 

「なぜ、ボーダーと協力関係を結ぼうとしてるんだ?アレだけの力があれば、魔物たちだけで徒党を組んだ方がいいんじゃないか?」

「…それに関しては、俺から言えることは一つだけだ」

 

────魔界、人間界、近界は今、かつてないほどの危機に瀕している。




キャンチョメとフォルゴレは、五年越しのアイスパーティをパピプリオとルーパーのペアと一緒に楽しんでます。
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