「……で、その子の正体が、今まで散々追いかけてきた男だったってわけです」
「ぎゃぁぁぁぁああああーーーーっっ!!!
とりまるあんたなんて怖い話すんのよ寝れなくなったら責任取りなさい!!!!」
「………とりまるくん、怖い話すごい得意だよね…。うん。トイレ行けなさそうだから後で責任取って」
玉狛支部にて。
訓練終わりで暇だったので、隊員たちによる怪談大会が開かれていた。
5歳のお子様である林藤陽太郎は、お昼寝の時間のため、不参加。
自室で雷神丸というカピバラをベッド代わりにして爆睡している。
参加しているのは、陽太郎、林藤匠支部長、県外スカウトに出ている二名を除く全員。
怪談大会といっても、このように阿鼻叫喚が起きたのは、四番手の烏丸の話で漸くという体たらくであった。
一番手の千佳が「トイレの花子さん」くらいしか知識がなく、二番手の小南もどっこいどっこい。
三番手の宇佐美栞も知っていることには知っていたのだが、口にすると怖くなったらしく、あえなく中断。
四番手の烏丸が淡々と語り、千佳を除く…千佳はファウードとバオウの激突を間近で見ていたので怖いもの無し…女性陣が悲鳴をあげたのである。
「いや、怖いのが怪談じゃないっすか」
「うっ…」
「次は空閑だな。…と言っても、あまり知らなさそうだが」
烏丸が小南たちに指摘する横で、木崎レイジが五番手である空閑に目を向ける。
しかし、空閑は出生後、人生のほとんどを戦禍の中で過ごしていた。
このような娯楽に知識があるかは、判断しかねた。
「そーだな…。おれは『あっち』に伝わってる伝承くらいしか知らないな」
「お、あるのか?」
迅が確認を取ると、空閑は少しばかり首を横に捻った。
「怖いかはいまいちわからん。
でも、おれがその時、現場にいたら『あ、死んだな』って思う話だ。
おれも最後の言葉しかしっかりと覚えてないから、レプリカに読ませる」
そのような前置きをすると、空閑は指輪に目を向ける。
そこから休眠状態であったレプリカが姿を表し、皆に語りかけた。
『千年前、果ては二千年前の伝承だ。
どちらから聞く?』
「……じゃあ、二千年前で」
迅が答えると、レプリカは頭上に映像を映し出し、とある絵画を映し出す。
その絵は、非常にわかりやすくまとまっており、加えて、かなり色褪せていた。
ゲームでよく見る、古代の絵画みたいだ…と皆が感想を抱く最中、レプリカが語る。
『二千年前…。
現代のアフトクラトルと呼ばれる国が、玄界を占領するために攻めた時の話だ』
「え、待って?近界民って、そんな前から攻めてきてたの!?」
小南の素っ頓狂な声に呼応するように、修を除く皆があんぐりと口を開ける。
その中心にいるレプリカは、『こちらもあまり把握していない』と伝え、話を戻した。
『当時の玄界は、それなりの文明を築いていたが、アフトクラトルに比べればあまりにもお粗末なものだった。
玄界は即座に、アフトクラトルのものに収まる…。誰もがそう確信していた』
ーーーーーー『シン・オルダ・タングルセン』という災害が来るまでは。
その言葉に、修と空閑が目を合わせる。
どうやら空閑も知らなかったようで、二人して内心でひどく狼狽していた。
が。ここでその狼狽を出せば、魔物の存在が露呈する可能性がある。
修たちはそれを避けるため、狼狽をおくびにも出さなかった。
「なによ、その…シンなんちゃらって?」
『黒トリガーをも超える、神の御業…。
当時の記録では、その程度のものしか残されていない。
ただ一つ言えることは、当時のアフトクラトルをそれだけで壊滅させた…らしい』
空閑が確認の視線を修に送ると、修は小さく頷いた。
『シン・オルダ・タングルセン』は、街一つ簡単に吹き飛ばせる威力が備わっている。
そこに「とある術」を加えれば、国一つを落とすことなど、造作もないだろう。
しかし、二千年前にも同じ術を使う魔物が居たのだろうか。
ユーの先祖なのでは、などと考えながら、修はレプリカの話に耳を傾ける。
『では、次に千年前…「バオウ」について語るとしよう』
その単語に、修は思わず目を見開く。
バオウ。正式名称、「バオウ・ザケルガ」。
悪を喰らい、意志を持つ…極めて特殊な性質を持つ術。
シンの名を冠することは無くとも、条件さえ整えれば、シンの術すらも突き破る。
その術は、高嶺清麿とガッシュ・ベルを象徴するかのような術であった。
「バオウ…。なんか強そうな響きだね」
『強いも何も、あちらでは「玄界が起こす災害」として認識されている。
現れたが最後、国が滅ぶまで喰らい尽くすとまで言われている』
レプリカの話は、バオウが…果ては、その生みの親である、先代の魔物の王たるガッシュの父が残した伝説の一端なのだろう。
修は一種の懐かしさを胸に秘め、口を開く。
「その、バオウっていうのは、どんなことをしたんだ?」
『さっき言った通りだ。
攻めてきたある彗星国家…それも、かなりの大国を、母トリガーごと噛み砕いた』
想像に難くない。
そんなことを思っていると、レイジが口を開いた。
「…そのバオウというのは、生物なのか?」
『記録としては、「雷を纏う竜」として残されている。
あちらでは一部の国は「竜」と「雷」を、「不吉の象徴」として扱う風習もあるな』
「代表的なものだと、キオンがその一つだ」と空閑が付け足す。
皆がバオウの姿を連想する中…小南はやけにメルヘンチックなデザインの竜を連想している…千佳がふと、声を上げた。
「…ねぇ、修くん。もしかして、五年前の巨人を倒した竜じゃない?」
「………そうだな。特徴は一致している」
その通りです、などと言えるはずもなく。
修は「特徴は一致している」とだけ言って、嘘をつかないことにした。
空閑にはバオウ関連のことを話していない。
あまり修自身に関連しないため、必然的に話す機会がなかったのである。
「五年前の巨人…って…そういや、デッカい竜が噛み付いて消えたわね」
「俺も見ました。…もしかして、守り神だったりするんすかね?」
ファウード関連も話していないので、下手な発言はできない。
いろいろとひどい目にあったため、あまり話さなかったことが裏目に出た。
思えば、シン・オルダ・タングルセンと「とある術」が目覚めたのも、ゼオンとの戦いの最中であった。
レプリカの話といい、バオウの件といい、脅威は脅威を目覚めさせるジンクスでもあるのだろうか。
皆がバオウについて話す中、空閑が締めの言葉を紡ぐ。
「…で、この二つの話は、この言葉で締め括られる」
ーーーーーー『シン』を恐れろ。『バオウ』を恐れろ。決して忘れるな。その天罰を。
シンとバオウ。
魔界が生み出した天災と粉うほどの存在。
ある意味、魔界の王を決める戦いが、これまでこの世界を近界民から守ってきたのだろう。
しかし、次に訪れる大規模侵攻…修の隣にユーはいない。
早く魔界とこちらを行き来する方法を見つけなければ、と決意を新たにする傍、修に向けて空閑が顔を向けた。
「じゃ、次はオサムな。
おれのがあんま怖くなかったし、とびっきり怖いのたのむ」
「あ、ああ。…そうだな。じゃあ、虫に関する怖い話を…」
その後、珍しくレイジや空閑、迅までもが叫び散らかす事態となった。
断っておくと、修はアンサートーカーを使っていない。
単なる才能である。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「空閑のあんな声、初めて聞いたな」
「おう。おれもあんな声出るなんて知らなかった。おぼえてろよ」
「…そんなにか。いや、ごめん」
玉狛支部から帰宅する途中。
今日は修の家に泊まる予定の空閑は、修の脇腹を肘で突く。
余程、先程の怪談で悲鳴をあげたのが悔しかったらしい。
二人でしばらく戯れあい、空閑が本題を切り出す。
「『シン・オルダ・タングルセン』。
オサムのパートナー…ユーの最強の術…って言ってたよな?」
「…術は遺伝するんだ。
きっと、ユーの先祖が、当時のパートナーと近界民を追い返したんだろうな」
魔物の寿命がどのくらいかは知らないが、王が千年を生きるのだ。
先祖という表現は、少し誇張しすぎたかもしれない。
何にせよ、件の魔物とユーが無関係ということはあり得ないだろう。
「で、どんな術なんだ?」
「んー…。『最弱であり最強の術』、だな」
一言で言ってしまうと、それに尽きる。
シンに相応しい威力はあるのだが、シンとするには弱すぎる術。
相対したデュフォー曰く、「ここまで弱く、ここまで脅威だと感じた術は、過去未来含めて存在しない」とのこと。
空閑は意味がわからないのか、首を傾げた。
「…どういうことだ?」
「バオウやファウードのことも話さなきゃいけないし、帰ってから話すよ」
修が言うと、空閑は「そっか」とだけ返す。
空閑の瞳に映る修は、少しだけ寂しげな表情を浮かべていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
翌日。
修が本部で昼食を摂っていると、幽鬼のようにふらふらとした男がそばを通りかかる。
あまりにも疲れているのか、そこらに頭をぶつけ、果ては転び、そのまま爆睡していた。
その様子を見かねた修は、男に駆け寄った。
「あの、大丈夫ですか?」
「………た」
「た?」
「高嶺の、人でなし…」
男はそれだけ言うと、ばたーんっ!と音を立てて、地面に突っ伏する。
こんな往来がある場所で寝られては困る、と判断した修は、なんとかして男を抱き上げ、自身の座る席の向かい側に座らせる。
ひどいクマに、深い眠りに落ちているあたり、かなり疲弊していたのだろう。
机に突っ伏させる形で寝かせると、修は昼食の続きに戻る。
暫くすると、男が呻き声をあげて、顔を上げた。
「………ここはどこだ?」
「食堂です、太刀川さん」
男の名は太刀川慶。
高峰清麿に言葉によりボコボコにされ、果ては今日、初めて物理的にボコボコにされたA級トップの隊長である。
「…………ああ、そうだ。高嶺に物理的にボコボコにされて、満身創痍で来たんだった…」
「なら休みましょうよ……」
修が呆れ気味にツッコミを入れると、太刀川はふと顔をあげ、修を見る。
「…………………ああ!!
こないだ戦った凄いやつ!!迅の後輩!!」
「あ、はい。三雲修です」
急にテンションが上がった太刀川にたじろぎながら、修はあらためて自己紹介をする。
先日、太刀川とアンサートーカーありきで戦い、勝利をもぎ取った修。
そのことを太刀川が忘れるはずもなく、彼は先程の疲労を忘れ、勢いよく修に詰め寄る。
「このあと暇か!?ランク戦やろうぜ、ランク戦!!三日もやってないんだ、頼む!!
全力でぶつかり合おうぜ!!」
「は、はぁ…」
ランク戦を三日やってないだけで、ここまで疲弊するものなのだろうか。
呆れ気味にそんなことを思いながら、ふと、視線をある方向に向ける。
そこには、「うわぁ」とでも言いたげな、なんとも言えない表情を浮かべる迅がいた。
その直後、迅が口パクで「がんばれ!」と身振り手振りしながら言うと、そのまま去ってしまう。
面倒なことを押し付けられたようだ。
「昼食が終わってからでいいですか?」
「いいぞいいぞ!!あ、俺もなんか腹にいれるから、ちょっと待っててくれ!!」
ここまでハイテンションな太刀川は、付き合いの短い修も初めて見た。
本気でやらなくては、失礼というより、無気力になってしまうかもしれない。
そんなことを考えながら、修はドリンクである炭酸飲料を飲み干した。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ああっと!ここで太刀川隊長、ダウン!!
三雲隊員の快進撃は止まらないーーー!!」
太刀川さん、すごくはしゃいでるな。
出水はそんなことを思いながら、見るからに上機嫌な太刀川の姿と、対する全てを見透かすような瞳をした修を見比べる。
一戦目。太刀川が剣を抜く前にスラスターで近づき、抜刀する直前で柄を蹴り上げ、孤月を一本奪取。
更にはスラスターで『飛び上がり』、追撃を躱し、落下と共に孤月を孤月で叩き折った。
さらには孤月の『柄の裏』に隠していたアステロイドを直撃させ、右腕を落とす。
間髪入れずにレイガストのモードを切り替え、修は太刀川の脳天にその鋒を突き刺したのだ。
孤月を奪取された際、太刀川には破棄して新たに生成する暇がなかった。
修はアステロイドを、太刀川から見える位置と見えない位置に配置していた。
しかも、体のブラインドと弾のブラインドをも織り交ぜていた。
もし放たれたら、いくら太刀川といえど、無傷では済まないだろう。
以前の戦いで、太刀川もそれを警戒し、迂闊に生成するのに集中力を割けなかったのだ。
「なんつーか、対人戦に慣れてるカンジあんな、メガネくん」
「スラスターであんなこと出来るって、多分誰も知らなかったよな?」
出水の隣に座る米屋陽介が、彼に同意を求めるようにこぼす。
それに対し、出水は首を横に振った。
「知らないっていうより、『やる意味がない』から、誰もやらなかったんだろ。
グラスホッパー入れりゃいい話だからな。
トリガーの奪取も同じだ。破棄されて作り直されりゃ終わる。
メガネくんがうまくいったのは、前の戦闘経験も合わせての牽制がめちゃくちゃ上手かったからだな」
全くもっていやらしい戦い方だ。
出水としては、これほど相手にしたくない相手もいないだろう。
恐らくだが、三雲修は自身の使うトリガーで幾度も試行錯誤を重ね、熟知している。
出水が戦えば、合成弾を作る暇すら与えず、瞬殺されるのがオチだろう。
というより、先日はそれで負けた。
「トリオン貧民ってレッテル貼られてんのに、それを忘れさせるくらいに戦い方が上手すぎる。
なんつーか、『あらゆる予測をしてる』みたいな…、そんな戦い方だ」
「同感。俺の幻踊孤月も全部見切られたし、秀次なんてお手玉だったからな」
二人してそんなことを話していると、ふと、米屋が思い出したような仕草をする。
「……なぁ、出水。アンサートーカーって噂話、知ってるか?」
「おう。有名だろ。
…………メガネくんがそれとか?」
「ま、ネットの噂話だし、信憑性ねーだろ。
ただ単にめっちゃ頭いいだけだろうし」
たまたま近くにいた空閑は、その話を聞きながら、「本当なんだよなぁ」と呟き、カルピスソーダを一気飲みした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「アース、どしたの?法律のお仕事は?」
「今日は休暇を取っている。
こちらに帰ってきて、ユーに少し、話しておきたいことが出来てな」
魔界のとある平原にて。
巨体の少年の言葉に、白い髪の少年が首を傾げた。
学校もなく、特に用事もない休日の昼下がりに呼ばれた白い髪の少年は、少しばかり不機嫌そうに問うた。
「なら、五年前に話してくれよ。
おれも勉強って予定があるんだけど」
「それは済まない。だが、大事なことなのだ。きちんと聞いて欲しい」
ーーーーーー『シン・オルダ・タングルセン』について。
二人の間に、緊張が走った。
バオウのこと書いてる時、凄く楽しかったです。