修がボコボコにされた記録です。
「………」
「修くん、どうしたの?」
千佳が玉狛支部に着くと、修がソファで撃沈していた。
なんとも形容し難い表情を浮かべ、ピクピクと痙攣している。
その姿は、兄が持っていた有名な漫画のワンシーンを彷彿とさせた。
「本部の方に行くと、勧誘とか嫉妬とかで変な絡まれ方するんだと。
今日は定期報告の日だから、オサムはあんな疲れてるわけだ」
修を労っていたのであろう、手にドリンクを持った空閑が、千佳に軽く説明する。
それを聞いて、千佳は納得した。
アンサートーカーを発動させた修は、ハッキリ言って強すぎる。
風間を刈り取ったレイガストブーメランを初め、何人ものA級のリズムを崩したブラインドアステロイド、更には百発百中の投擲やアステロイドのコントロール。
完璧な間合い管理に、攻撃予測。
彼が食らったダメージは、少なくとも自傷分のみだろう。
引く手数多なのも頷ける。
「まぁ、アンサートーカーありきのオサムは強すぎるしな。
一対一じゃなく、チームで『詰み』までもってく必要がある。
成功例で言うと…たちかわ隊とか、この間のこなみ先輩たちだな」
そう。実は修は、アンサートーカーありきで敗北を経験している。
というのも、太刀川が狙撃手ばりに隠れながらの旋空孤月を放ち続け、牽制。
合成弾をこれでもかと同時に作った出水――この後、知恵熱を出した――が、誘導炸裂弾で攻撃のついでに煙幕。
その煙幕に隠れ、居場所を悟らせなかった太刀川が、旋空孤月で刈り取った。
黒トリガーの空閑も一応は勝利を収めており、その方法も「錨をプラスした射をこれでもかと設置して、身動きを取れなくする」というものだった。
本部に特別に許可をもらった風刃を使った迅もまた、「閉鎖空間に追い込んで全発放つ」という荒技で倒した。
また、空閑の知ってる限りでは、くじ引きで決まった村上鋼と那須玲のペアや、荒船哲次と二宮匡貴のペア、加えて諏訪洸太郎と生駒達人のペア、東春秋と佐鳥賢のペアが倒している。
玉狛第一も、あのあとはレイジが全武装で牽制と煙幕を務め、小南と烏丸、迅の煙幕の中での超連携で勝利を収めている。
アンサートーカーは無敵ではないことが証明された。
のだが。一対一でそのような状況に持ち込むのは、ほぼ不可能。
作れるとしても、時間をかける必要があり、用意が完了する前に刈られるのがオチ。
こんなわかりやすい強者が目につかないわけもなく。
修は勧誘で疲れる羽目になったのだ。
「…ってか、オサム、結構負けてるよな。
一対一は兎に角、二対二とか、相手が増えるだけで負けてる。
この間のつつみさんと組んだ時とか、そっちも味方の数も増えてんのに」
その言葉に、修は先日の戦いを思い浮かべた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「あの、なんか、ごめんなさい…」
「いや、いいよ。巻き込んだの、こっちだからね。加古さんの炒飯から逃げられたって思ったのが運の尽きだったなぁ」
「…そんなに酷いんですか……」
ランク戦ブースにて、堤大地が修に苦笑を浮かべる。
この団体戦が開催される経緯は、少々面倒な説明がいる。
事の発端は、加古望の炒飯が奇跡的な化学反応を起こし、簡易キッチンを大爆発させたことだった。
加古はトリガーを起動したことにより、なんとか無傷で済んだものの、加古隊の簡易キッチンはものの見事に木っ端微塵。
ハズレ炒飯を引く運命だった堤大地の命は、キッチンが直るまでに伸びた。
そのことを、堤は開眼してよくわからない舞を踊り、奇声を上げながら歌い喜んでいた。
その様子は、親友とも呼べる諏訪が「疲れてるんだな…」と、そっとしておくことを決めるほどに酷かったと言う。
が。諏訪隊のオペレーター、小佐野瑠衣がそんなネタを放っておくはずがなかった。
何を思ったか、小佐野はその動画をボーダーの女子隊員グループチャットに送りつけた。
あまりの喜びように、皆がチャットで「草」と打ち込む中、一人だけ反応がなかった。
もうお分かりだろう。加古望である。
キッチン爆発で人生最底辺レベルで機嫌の悪かった加古が、それを見てしまったのだ。
結果、加古はキレた。
それはもう、清麿やティオの呪文…『チャージル・サイフォドン』と張り合えるレベルの般若顔でキレた。
この時点で堤がボコボコにされるのが確定したのだが、神は堤を見捨てなかった。
勧誘から逃げてきた修が、たまたま加古に引きずられる堤と遭遇したのだ。
堤は藁にもすがる思いで、修を巻き込んだ。
というのも、「助けてくれ!!」と号泣して叫んだだけなのだが。
しかし、修は通称「面倒見の鬼」。
堤の助けを求める手を振り払うことなく、修はその手を取ったのだ。
しかし。加古の怒りは、その救いの神さえも焼き尽くすほどのものだった。
般若となった加古は、修を倒した実績ある出水と村上を召喚した。
村上曰く、「来なかったら殺すとか言われた」、出水曰く「自分の思う最大限クソまずい炒飯を食わせるって脅された」とのこと。
太刀川も召喚したそうだが、現在は修羅となった清麿にキン○バスターをかけられているらしく、応じなかった。
要するに。全て堤が油断してハメを外したせいである。
「勝てる未来が見えないんだけど、三雲くんはどうかな?」
「位置によっては、出水先輩は落とせますけど、村上先輩がいるのがかなりキツいです。
あと、怒った加古隊長が無茶苦茶してくる可能性も……」
加古が暴走した時の戦闘を、修はデータベースで一度だけ見たことがある。
そこには、加古がブチギレて、ハウンドで太刀川の動きを拘束し、スコーピオンで首を切り落とす様が映っていた。
その動き方は、ホラー映画のタイトルを収める心霊のようだったと記憶していた。
「………怖いなぁ…。相手したくないなぁ…」
「今逃げたら、出水先輩たちと同じ目にあうと思いますよ」
「……………だよね」
♦︎♦︎♦︎♦︎
団体戦が開始した。
まず動いたのは修。この間の経験から、出水のサポートの厄介さは警戒していた。
アンサートーカーで位置を特定し、出水の場所を探り当てる。
そのまま出水の方へと向かおうとした時、炸裂誘導弾が修へと襲いかかった。
しかも、全方位から。
どうやら、修に何かされたら危険だと判断し、出水がトリオンを注ぎ込み、更には史上類を見ないほどの集中力で合成弾を生み出したらしい。
修はなんとかそれを避けるも、テレポーターでハウンドを放つ寸前の加古が現れる。
慌ててアステロイドでハウンドを打ち消すも、今度は村上のレイガストが加速して修へと向かう。
それと同時に、加古もテレポーターで修の頭上へと現れ、更には出水も彼らを吹き飛ばす覚悟で誘導炸裂弾を放つ。
さらには、全員のシールドですかさず修を拘束する始末。
これは詰みだ。
般若の顔をした加古のスコーピオンで真っ二つにされ、村上の孤月で4つにされ、爆発で吹き飛ぶ中、修は泣きそうになっていた。
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結果的に言うと、修と堤は敗北した。
三戦やったが、それはそれはもう惨敗した。
あの手この手で修の動きを封じ、速攻で潰した直後、三人で堤に襲いかかる。
堤大地と三雲修は三度死んだ。
堤は罰として「加古が思う最大限にクソまずい炒飯の刑」に処されることとなった。
更には修もまた、なぜかその刑にカウントされていた。
その時のことは…あまり思い出したくない。
食感、味、風味、匂い、見た目…どれをとっても最底辺と言えるレベルの冒涜物を口に含んだ時、死を覚悟した。
頭をよぎった味に、修は静かに涙を流す。
「とまぁ、こんなふうに。
相手に何もさせない、というのは、戦いをスムーズに進める上で重要なことだぞ」
「レイジさん、メガネくんが泣いてるから。
あまり思い出させないであげて?」
パソコンの前で号泣する修の背中を優しく叩き、迅は映像を再生していたレイジにツッコミを入れた。
修が想起に夢中になっている間に、レイジが修が負けた映像詰め合わせセットを再生していたのであった。
修は一対一での戦績はいいですが、相手が複数になれば途端に戦績が悪くなります。