三雲修はアンサートーカー   作:鳩胸な鴨

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権利関連の問題が面倒だったので、歌詞は避けました。
出したのはタイトルだけです。


フォルゴレは名前だけでもインパクトが強い

「……生駒。その、テンション上がってる時に歌うのはわかる」

 

合宿の終わりが近づく最中、太刀川が珍しく真剣な面持ちで生駒に迫る。

生駒はというと、こてん、と首を傾げ、何が言いたいかわからないとでも言いたげに、ジェスチャーしていた。

 

「わかるけど、『チチをもげ』はやめろ。那須や雨取、三上もいるし、気が散る」

 

そう。生駒は何を思ったか、戦闘中に『チチをもげ』を歌い出したのである。

このCDは世界中で飛ぶように売れ、既に販売数は億は下らない。

攻めた歌詞に難色を示す人間は一部いるものの、衰えない人気を誇っている曲である。

 

歌手のパルコ・フォルゴレは今なお伝説を残す大スターで、誰が呼んだか「イタリアの英雄」という異名が相応しい男である。

曰く、「難病の子供たちのために、病院で独占コンサートを開いた」。

曰く、「強盗が侵入した銀行で、歌いながらもコミカルに強盗を撃退した」。

また、過去の大規模侵攻で傷ついた三門市に訪れ、設備も何もないのにコンサートを開き、更には自身のポケットマネーから復興物資を寄贈した。

このことから、三門市民の多くはフォルゴレファンで溢れている。

 

ただ、アホっぽさが目立つという欠点さえなければ、人のできた青年なのだが。

 

「えー?鉄のフォルゴレ様が億は売った曲やのにー?」

「お前クソみたいに下手だし俺も大好きだから余計気が散るんだよ!!」

 

太刀川もその例に漏れず、フォルゴレの大ファンの一人である。

チチをもげのダンスは完全にマスターしているし、なんならカラオケの十八番だ。

だからこそ、生駒の「チチをもげ」に、どうしても気を取られてしまった。

一通り叱り終わった太刀川の側で、那須の素っ頓狂な声が響く。

 

「え!?三雲くん、パルコ・フォルゴレに大海恵とお友達なの!?」

 

ぴくっ。

太刀川と生駒の耳が敏く反応し、二人とも呼吸を忘れ、女性陣の会話に聞き入る。

大海恵。こちらもまた、日本を代表するアイドルで、二人もファンの一人である。

こちらもまた、三門市の復興に助力した一人であり、市民の間ではトップアイドル並みの扱いを受けている人間。

フォルゴレと恵の二人が、修の友人。

その情報に千佳は首肯した。

 

「あ、はい。フォルゴレさんは、来日した時によく泊まりに来るらしくって。

私も、小学校低学年の小さい頃から、よく遊んでもらってて…。

この間も、玉狛支部にお菓子を持ってきてくれました。

あ、その時の写真です」

「三雲くん、あの世紀の天才、高嶺清麿も友人なのよね?

本当、どういう交友関係なの……?」

 

一緒に世界を救った仲間です。

修がこの場にいれば、内心でそう思っていたことだろう。

太刀川にとってトラウマに近い名前も出たが、大海恵とパルコ・フォルゴレのインパクトに打ち消されている。

素早く千佳に迫った二人は、彼女の手を取った。

 

「「サインとか、頼める?」」

「……………………はへ?」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……いーなー。皆で合宿…」

「や、シフト入れてるっていうから、参加届け出さなかったとりまるくんが悪いよ」

 

その頃、玉狛支部にて。

修の師である烏丸京介は、三角座りをして、沈んだ顔をしていた。

合宿には「家庭内で旅行がある」という理由で不参加の宇佐美栞…帰国したて…が、烏丸に指摘した。

 

「まさか、迅さんやレイジさんまで参加するなんて、誰も思わないじゃないですか。

すっごい楽しそうにカレー作ってる写真送られてきた時、俺がどんな気持ちで品出ししてたと思うんすか」

「いや知らないよ。ミ○クボーイじゃないんだから申し訳なくも思わないよ」

 

余程自分抜きで皆が楽しんでるのが堪えたのだろう、烏丸は鼻声で愚痴をこぼす。

相手をするのが面倒だと判断した宇佐美が、適当に流すと、彼の顔が素早く上がった。

 

「じゃあ、宇佐美先輩。

あなたはなんとも思わないんですか?

可愛がっている後輩が、自分抜きでカレーを作ったり、キャッキャウフフしてる光景に」

「いや、私、フランス行ってたし。

あんまり、羨ましいとかは……」

「…………そうですよね。バイトっていう嫌なことじゃないっすもんね……」

「拗ね方意外と面倒だよね、とりまるくん」

 

いくら達観しがちとはいえ、やはり高校生。

同級生が青春を謳歌する最中、灰色のバイト三昧なのも相まって、非常に面倒な拗ね方をする烏丸。

これが迅やレイジだけならまだ良かったのだが、修が入っていたことも一因となり、このように拗ねてしまったのだ。

 

「それならバイト休んで参加したらよかったじゃん。なんでシフト入れたの?」

「…………その、ギャラが良くて」

「目先のお金に目が眩む高校生の習性!!」

「そっちも高校生じゃないっすか…」

 

宇佐美のツッコミに、烏丸は呆れ気味に指摘する。

暫し沈黙が続き、宇佐美が奏でるタイピングの音だけが響く。

それを破ったのは、烏丸だった。

 

「……修のやつ、絶対に『喧嘩に慣れてる』わけじゃないんすよね」

 

ぴくり。

その言葉に反応し、宇佐美のタイピングの音が止まった。

 

「…………とりまるくんも、そう思う?」

「ええ。アイツは、『戦いに慣れている』。

そういう奴だと思います」

 

修は誤魔化せていたと思っていたが、実際には全く誤魔化せていなかった。

決定的な証拠はないが、烏丸は以前対峙した時のことを思い浮かべる。

全てを見透かす力に、『あまりにも上手過ぎるアステロイドの使い方』。

まるで、以前からそれを使って戦っていたかのような、そんな感覚。

アステロイドを『タングル』と呼ぶ仕草も相まって、烏丸には確信に近いものがあった。

 

「嘘に空閑が反応していない…わけではないっすね。ちょっと眉が動いていた。

恐らく、修にとって暴かれたくない嘘で、予め空閑にだけバラしたかと」

「だよね。…詮索するのも申し訳ないけど」

 

二人して言うと、彼らは先日、迅に言われたことを思い出す。

 

『メガネくんは…可愛い後輩だ。

それは変わりないけど、怪しい部分が多すぎる。俺たちにも言えないような何か…遊真関連でも、アンサートーカーでもない、とても大事な何かを隠してる。

……俺の勘だけど…、知るだけなら損にはならないと思う。

皆にはメガネくんが隠しているソレを、彼にバレないよう、探って欲しい』

 

言われてみれば、修には怪しい部分がある。

まずは交友関係。

パルコ・フォルゴレ、大海恵、高嶺清麿に加え、アフリカに住むと言うカフカ・サンビームとエル・シーバス。

更には、フランスの名家「ベルモンド家」現当主のシェリー・ベルモンド。

その他にも、アメリカの巨大財閥の長、アポロなど、「接点がなさすぎる存在」が多い。

 

次に、「ユー」と言う存在。

修は空閑遊真に瓜二つという情報以外、あまり詳しくを口にしない。

千佳に聞いても、「鮭を生きたまま丸齧りする」、「お菓子の箱と割り箸でバルカンという人形を作る」、「メルメルメーと鳴く馬っぽい生物…ウマゴンと遊んでる」、「アヒルっぽい格好の子供とチチをもげを踊る」など、常軌を逸した情報がたまにあるくらい。

 

最後に、「ユーと別れた理由」。

修は大雑把に「事情があって、会えなくなった」と言っているが、その事情に関して、どのような種類かさえ答えない。

修が何かを隠していることは、決定的に明らかだった。

 

「………聞き込みからしますか?」

「そうだね。修くんのお母さんに、『ユー』って子について聞いてみようか」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

そんなこととはつゆ知らず。

合宿最終日の最終戦を終え、敵味方、果ては班の垣根を超えての『お疲れ様会』。

修はその会にて、二人の人間に囲まれていた。

 

「三雲くんは筋がいい。

このような経験を積んでいけば、どんな部隊も『強く』してしまうだろう。

『勇将の下に弱卒無し』ということわざもある。気張れよ、三雲くん」

「メガネくん、東さんがベタ褒めって、すっごい珍しいよ?もっと誇れよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

圧がすごい。

出水と東に両脇を挟まれ、修はだらだらと冷や汗を流しながら、ジュースを飲む。

緊張のせいで、なんの味もしない。

みくる派の最終戦績は、勝ちが五割、負けが四割、引き分けが一割と言った具合だった。

東、レイジ、迅の部隊相手に引き分けにこじつける程に成長したものの、そこに至るまで何度負けたことだろうか。

一方的に負けた時のことを思い返しながら、修はクリームコロッケを口に含む。

 

「しかし、狙撃ポイントを狙撃前に暴くとは、凄まじかったな」

「東さんの性格と、全体の状況、開始時のレーダーの位置とのすり合わせで、あそこしかないと」

 

本当はアンサートーカーで出したのだが。

上層部に知られると厄介なため、修は「アンサートーカー発動に使った経験」を口に出した。

東が驚愕であんぐりと口を開けているのに対し、出水が揶揄うように口を出す。

 

「ね?東さん、言った通りでしょ?

メガネくん、アホほど頭いいでしょ?」

「………ああ。いや、驚いた。

噂には聞いていたが、ここまでとは…」

 

実は、先程言った予測方法を実現した経験のある人間は、非常に少ない。

東が知っている限りでは、自身を含め、木崎レイジ、太刀川慶、迅悠一、そして忍田真史の五人のみ。

東自身も、精度の問題で、進んでこの予測をするわけではない。

紛れ当たりだと考えたいが、と思いつつ、東は修の空になったコップにジュースを注ぐ。

 

「ありがとうございます」

「最近の中学生は、人がよくできているな。

出水、お前も見習ったらどうだ?」

「いやぁ、適度に不真面目なのがウチの隊の取り柄でして……」

「欠点の間違いだろう」

 

その言葉に、周りの皆が苦笑を浮かべた。

 

後日、この合宿のせいでテストに不安があった出水は、高嶺清麿の恐ろしさを存分に味わうことになるのだが、それは別の話である。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「Vの体勢を取れ、ユー!!

私とお前のコンビネーションでなければ、このミッションは遂げられんぞォオ!!」

「サー!!イエッッサーッ!!!」

 

その頃、魔界にて。

白い髪の少年が、奇声を上げながら全身でVを表現する。

それに対し、まるで「V」というアルファベットに手足が生えたような少年が、渋い声で怒鳴り声を上げた。

 

「ぬァアアアめてェんのか貴様ァア!!!!

Vの体勢はもっと美しくッ、高貴にッ、華麗に取れェッッッ!!!!

この華麗なるビクトリーム様の手本、その腐った眼に焼き付けろォオオオオーーーーーッッッ!!!!!!」

「サァアアアッッ!!!!イエッ!!!!サァアアアァアアアッッッ!!!!!」

 

とんでもない顔で絶叫しながら、互いにVの体勢を取るアホ二人。

通りがかった金髪の少年が、ビクっ、と驚き、彼らに駆け寄る。

 

「ゆ、ユーに、ビクトリーム?そ、その…、な、何をしておるのだ?」

「お、ガッシュか。

いや、ビクトリームがな……」

 

白い髪の少年が掠れた声で言うと、Vの少年がサムズアップをして語り始める。

 

「私のVパワーをメロンに送り、メロンがより甘く、ジュゥウ〜シィ〜になるようにポーズを取っているのだ!!

ガッシュ、お前もポーズを取れ!!」

「う、ウヌ…」

 

その後、魔界では「王様、民の頼みを聞いてメロン畑に祈りを捧げる」と新聞で貼り出されることになった。

 




見える、見えるぞ。太刀川がカラオケで「チチをもげ」を大熱唱している姿が。
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