コメント欄であったのですが、日浦の年を勘違いしてました。
寝ぼけて書いたのがダメだったかなぁ…
「あの、三雲くん!私を、もっと強くしてください!!」
「………………えっと、何で僕?」
合宿から数日。
大規模侵攻に向けての鍛錬として、トリガーの試行錯誤…トリオン量が無さすぎるので選択肢が狭いが…に明け暮れる修に、日浦茜が声を張り上げる。
修は机に広げたノートを閉じ、一部を片付けて、向かい側に茜を座らせた。
「その、もう一度聞く。僕?」
「はいっ!その、あんまり強いとは言えない来馬先輩が、見違えるほどに強くなっていたので、聞きにきました!!」
「………正直なのは美点だけど、オブラートに包むことも覚えた方がいいと思う」
あの合宿の後、来馬は見違えるほどに強くなったという。
というのも、来馬が珍しく東に挑み、二十本中、一本をもぎ取ったとのこと。
元A級トップを率いるほどに戦略にも戦闘にも長けている東を倒したことで、「次の上位入りは鈴鳴ではないか」と噂されている。
無論、その噂は修の耳にも届いていた。
その噂が出た理由もまた、「あのメガネの班のヤツら、アホほど強くなってる」という噂話…というより、事実から来ている話であった。
まずは、C級の夏目出穂。
ランク戦にも参加するようになった彼女は、狙撃手らしからぬ接近戦法で度肝を抜き、快進撃を続けていると言う。
次に、A級の緑川駿。
格上であるはずの太刀川や生駒、空閑や村上などの相手から、グラスホッパートラップで点をもぎ取る姿が確認されている。
そして、来馬辰也。
こちらは先程言った通りである。
合宿に参加したメンバーは、それなりに実力を伸ばしてはいる。
だが、ここまで目に見えて伸びたのは、東やレイジの班を除けば、修が担当した班だけだったらしい。
これを聞いて、あまり実力が伸びなかったと感じた…実際には伸びている…日浦茜は、こうして修に頭を下げに来たのだ。
「えっと、何で強くなりたいんだ?」
「………その、お父さんたちが話してるの、聞いちゃって……」
修が茜に動機を聞くと、彼女はぽつぽつと語り始める。
聞けば、彼女の両親は「守られていることは分かっているが、未成年に戦わせることは反対している」という、ボーダー批判派の人間であると言う。
可愛い娘がボーダー隊員ということも、あまりいいようには思っていないらしい。
しかしながら、こうして正隊員として活躍していることを認めてくれている、と、茜はそう思っていた。
が。先日の夜。
合宿終わりで習ったことをノートに纏めていると、親の話し声が聞こえたと言う。
「『次に街に大きな危険があったら、私を連れて引っ越す』って…!
その、次に来るっていう、大規模な侵攻来ちゃったら、もう…!!」
その状況に、修はひどく身に覚えがあった。
忘れもしない、五年ほど前のこと。
ファウードという災害に立ち向かおうと、ニュージーランドへ向かう直前。
香澄が断固として、幼い修がファウードに乗り込むことを良しとしなかったのだ。
魔物の王を決める戦いや、千年前の魔物との戦いの際は黙っていたが、今回ばかりは規模が違うと珍しく激怒した香澄。
「もし行くのなら、私を納得させろ」と言い、修とユーを家から出さなかった。
結果的には、修がなんとか納得させた。
香澄が予見したように、ファウードをめぐったその戦いは、苛烈だった。
ファウードの体内に住む番人たちをはじめ、強化された魔物、更にはリオウやゼオンなどの格上の強敵。
数々の再会と別れとを繰り返し、涙と血に塗れながら、なんとかファウードを止めた。
帰ってきた時、香澄がぼろぼろに表情を崩し、修たちを抱きしめながら泣いたことは、今なお記憶に残っていた。
「だから、お願いですっ!私を、ボーダーに必要になるくらい、強くしてください!」
「………多分、そうなっても無理矢理ボーダーを辞めさせて、引越すると思う」
「どぅわぁぁぁああああっ!!!」
『親ってのは、そういうものよ』
香澄が過去に、修に諭すように言っていた言葉を思い返しながら、泣き始めた茜を宥める。
余程、那須隊に未練があるのだろう。
ユーとの別れにも、沢山の未練があった。
彼を王様に出来なかった、彼ともっと居たかった、彼に進級した姿を見せたかった。
数えればキリがない、未練の数々。
踏ん切りをつけていても、或いはつけていなくても、悲しいことには変わりない。
修は胸の寂しさを堪えながら、茜に諭す。
「『まともな親は、例え死んでも子供を守ろうとする。
でも、残される子供の気持ちがわかるから、皆で生きるための道を探す。
親という生き物は、そういうもの』…だ」
「………えっ?」
「母さんが昔、僕に怒鳴った言葉だ」
自身が言うにはまだ早いが、母の名を借りて言えば許されるだろう。
そんなことを考えながら、茜に続ける。
「日浦。まずは、親と本気でぶつかった方がいい。自分が心の底からやりたいことを、正面からぶつけて、それでもダメなら友達と一緒に説得すべきだ。
強くなるとか、そういう前に、話すことはしておくべきだと思う。
それが親に対する礼儀だと、僕は思う」
修が言い終わると、茜は少し戸惑った様子を見せる。
親に意見する、ということを恐れる人間は、現代社会において多くいる。
茜も例に漏れず、その一人なのだろう。
躊躇う彼女に、修は優しく語りかけた。
「日浦のことを心配してくれている親だ。
きっと、意見を頭ごなしに否定することはないと思う」
「…………そう、ですよね」
茜は鼻水を啜り、目尻を乱暴に拭いた。
「私、話してみます。
今日はありがとうございました」
「ああ、いや、僕は母さんの言葉を借りただけだから」
「それでもです!本当に、ありがとうございました!」
自分の意見を伝えたわけでも、はたまた解決策を言い渡したわけでもないのだが、と思いつつ、頭を下げる茜に、「頑張れ」とエールを送る。
彼女はそれに笑みを浮かべて答えると、席を立っていった。
「…………風間。あのメガネ、幾つなの?」
「俺たちの六つ下だな。お前も見習ったらどうだ、諏訪」
「……や、あんなこと言えねーわ…。
やだ男前…。メガネ、抱いて…」
「…………通報するぞ」
「ごめん冗談。冗談だから引くなバ風間」
「殴るぞ」
「殴ってから言われてもっ!!」
そんな寸劇があったとか、無かったとか。
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「瑠花、何を描いてるんだ?」
「忍田。お帰りなさい。今日は珍しく早いのですね」
本部にある、忍田真史の自室にて。
落書き帳を広げ、熱心に何かを描く少女…忍田瑠花が、真史の帰宅を喜ぶ。
真史は彼女の問いに、「今日は早く終わった」と伝え、彼女の絵をのぞいた。
そこには、少女趣味のものではなく、中高生あたりが好きそうな龍が描かれていた。
「願掛けとして、玄界に住むのだからと思って描きました。
向こうでは『不吉の象徴』でも、こちらでは『守護神』ですから」
「……この龍が、守護神?聞いたことがないが…、いや、何処かで見覚えが……?」
その龍は雷を纏い、星を喰らっている。
神々しくも禍々しいそれに、真史は既視感を覚え、記憶をたぐり寄せる。
瑠花はと言うと、彼のその様子を傍目に、誰に語るでもなく続けた。
「『シン』を恐れろ。『バオウ』を恐れろ。決して忘れるな。その天罰を」
「それは…?」
「あちらに伝わる、玄界に手を出す際の注意事項のようなものです」
その言葉は、先日、空閑遊真が玉狛支部の皆に明かした、伝承の一端だった。
林藤経由で聞いたその一説に、真史は龍の絵を見つめながら呟く。
「……確か、こちらを襲った国だけを滅ぼした龍…だったかな?」
「最近入ったという、あちらから来た空閑遊真に聞いたのですか?」
「林藤さん経由でな」
あまり信じられた話では無かった。
近界にかかわる際、そんな龍など一度も目にしたことがない。
シンに関しても同様で、近界でそんな災害が起きた記録は、二千年前と千年前のみ。
その頃になれば、近界だろうと、神話が現実味を帯びて横行するような時代。
おそらく、何かしらの災害をそう呼んだだけなのではないかと、真史は考察していた。
「大規模侵攻…、迅は『未来が不確定すぎる』と言っていましたね?」
「ああ。最近の隊員たちの練度を見ても、あまり心配はないとは思うが……」
「恐らくは、『バオウ』か『シン』が関わっているかもしれません」
その言葉に、真史は怪訝な表情を浮かべた。
「…実在はしないのだろう?
現に、私も『あちら』に行った時、そんな龍など見なかった。
此度の大規模侵攻に、そんな眉唾物の伝説が鍵を握るとは思えない」
対する瑠花は、真史の言葉に目を見開く。
彼女の脳裏には、五年ほど前に故郷から見た光景が再生されていた。
人形の巨大な龍。
胸と両掌さえにも、全てを喰らう顎門が備わった、金色の龍。
「……玄界からは、見えなかったのですね。
五年前に現れた、『金色のバオウ』が」
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「私からユーについて話すことはないわ」
その頃、修の自宅にて。
レイジ、宇佐美の二人に、香澄が毅然とした態度で告げる。
その気迫は、レイジすらも冷や汗を流すほどに強烈で、威圧感あふれるものだった。
「……その、何故でしょうか?」
「修から言われてるのよ。
『先輩を守るために語らないでくれ』って」
そう。修はこの「魔界」に関する問題が、玉狛と本部に確執を生むことを。
ボーダーという組織は、一枚岩とは言い難い組織である。
人数が多いあまりに、三つの派閥が水面下で睨み合っているような状況である。
まずは多くの人間が所属する「城戸派」。
彼らの思想は、要約すれば「近界民は全て敵だ」である。
次に、そこそこの数がいる「忍田派」。
思想としては事なかれ主義で、「近界民は全て敵とは言わないが、攻撃してきたら倒す」というものだった。
最後に、修たちが所属する「玉狛派」。
こちらは「近界民にも友好的な国があるのだから、仲良くした方がいい」という思想で、かなりの少数派。
修が「魔界」のことを明かせば、玉狛はこれを「近界にある国の一つ」として認識する。
そして、遅かれ早かれ本部に報告してしまうだろう。
玉狛の面々は、わかり合おうとする姿勢があるだけまだいい。
しかし、「城戸派」の面々はどう思うだろうか。
千年に一度とはいえ、勝手な都合でこちらの世界を「王位継承争い」に巻き込む国。
どう考えても、そのイメージしか付かないだろう。
そうなれば、玉狛と本部との更なる確執は、ほぼ確定。
加えて、約束した再会の時に、面倒な事態になることは、最早想像するまでもない。
アンサートーカーを使わずとも、その結果が目に見えてしまった修は、ボーダー内でユーについての話題を避けているのだ。
無論、そんな事情を知らないレイジたちは、なおも食い下がる。
「教えていただけませんか?
あなたの息子の…修の今後に関わるかもしれないことなのです」
「……だとしても、よ」
思い出すのは、五年前のこと。
ニュージーランドに現れた巨人、ファウードへと乗り込む前。
必死になって止める自分に、修が放った言葉。
『僕の大切な日常を守るため、僕がやれることをやらなくちゃいけない。
何より、僕がそうすべきと思っているからだ』
目に見えて「死」が確定してるような、危険な場所。
それに飛び込んだ息子たちは、傷だらけになりながらも、生きて帰ってきた。
全てを滅ぼそうとしているという魔物を相手に戦い、高嶺清麿とガッシュ・ベルに全てを託すために、最後まで足掻いた。
修は死ぬような目に遭えば、更に強い執念でその運命を捻じ曲げる。
この先、どんな危機が訪れようと、絶対に生きて帰ってくる。
香澄が命懸けで産んだ命は、それだけの力がある。
そのことを、香澄はよく知っていた。
「私の子供は、例え全てを滅ぼすような怪物相手にも、果敢に立ち向かって生きて帰ってくるような子よ。
命懸けで産んだ私の愛息子、あまり舐めないで欲しいわ」
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「おや、お二人さん。デート中?」
魔界のとある喫茶店にて。
白い髪の少年が、リーゼントの少年とウェーブのかかった髪の少女のカップルを出迎える。
互いに幼き頃から知っている仲に、カップルが顔を明るくさせるも、即座に困惑を顔に出した。
「おっ!ユー…って……」
「………これまた珍しいのと絡んでるね」
そう。白い髪の少年は、とてつもなく疲れた顔をしていた。
彼の向かい側に座っているのは、赤い鱗と巨躯を持ち、翼を広げた竜であったのだ。
彼は一族の中では「神童」と呼ばれ、先の王を決める戦いでも、優勝候補に選ばれるほどの実力者。
その名を知らぬ者は、ほぼいないだろう。
「ビクトリームに絡まれてたところを、アシュロンが助けてくれた…。
会うたび、会うたび、『メロン畑にVを捧げろー!!』って怒鳴ってくるし…」
「……その、本当に大丈夫だったか?
ちょっとシバいただけで撃沈してたが…」
竜の脳裏には、「ブルァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」と叫びながら、撃沈したVの少年の姿が浮かぶ。
その心配に、白い髪の少年は締まりのない笑みを浮かべた。
「ビクトリームはしぶといよ。
おれ、ガッシュ、ティオ、ウマゴン、オサムの五人でタコ殴りにしても、あまり動じてなかったし」
「おおう…。それはしぶといな…」
「オサムがいる時点で、だいぶ殺意が高くないかい…?」
カップルはその光景をイメージし、Vの少年に黙祷を捧げる。
というのも、彼らの想像通り、Vの少年を罠に嵌めた際に、修は鉄パイプで滅多打ちにしていたのだ。
殺意が高いという言葉が相応しいだろう。
それに対し、竜が何とも言えない表情を浮かべ、ビールを呷る。
「………お前らは知らないからいいよな。
本当に怖いのは、修の母親の方だぞ」
「…そういやあったなぁ。
ワンピースを燃やしちゃったせいで、アシュロンが地面に埋められたっけ」
その話が出た途端、竜は酒を樽ごと飲み干し、ぷはっ、と息継ぎをしてこう言った。
「……………あの人が魔物じゃなくて、ほんっっっ…と良かった」
「どんだけ強ぇんだ、オサムの母ちゃん…」
「人間界じゃ母は強しって言うけど、絶対そう言うことじゃないだろ…」
香澄の伝説は、今なお魔界に轟いている。
魔界に広まる三雲香澄伝説。
1.ブラゴを一撃で叩きのめす。
2.ゴームを物干し竿で叩きのめす。
3.アシュロンを叩きのめす。
4.香澄を人質にしようとした魔物を殺しかけた。
5.香澄の心を操ろうとした魔物を殺しかけた。
他にもたくさんあります。