DMMO-RPG、ユグドラシルオンライン。
北欧神話をベースに作られた仮想空間で各々が一人の主人公として楽しめるこのゲームは爆発的な人気を誇っていた。数百種類に渡る種族、二千を超える職業、更に各プレイヤーの技量があれば外装等が自由にカスタマイズが出来る。余程の偶然か意図して合わせなければプレイヤーの数だけのキャラクターが存在しそれぞれが唯一無二の存在と成り得た、その特色は多くのユーザーを魅了し、各々が自分だけのキャラクターを作成して世界に一つだけのキャラクターで冒険を楽しむ事が出来た。
そんな多くのユーザーの中に、"王座へと腰を落ち着ける王"はいた。
世界の宝石を纏め上げたとしても到底届き得ない輝きを放つ聖なる白銀の鎧、獅子の様でもあり龍でもあるようなフルフェイスの兜は何処まで勇ましく雄々しくあらゆる羨望を集める。青を基調とした前垂れと鎧と同じ白銀の具足はそのものの精神を映し出す鏡のように存在しながら神秘さを帯び続けている。その王の姿は一見すれば人であった―――だがその実は人ではない。
竜人、異形種とカテゴライズされる存在でありその中でも特殊な種族を獲得していた存在―――
「12年……短かったな、短く楽しかった……」
今日、この日を以てユグドラシルは終わりを告げる。0時でユグドラシルはサービス終了となる、配信と同時に始めた身としては心から悲しく、そして尊い時間だったと思える。最古参と言えるアルトリウスはこのユグドラシルは自らの青春そのもの、破滅的な現実とは完全に別次元にあるだけではなく此処にはときめきと夢が溢れる。そんな世界を冒険できることがどれほどまでに楽しかった事か……だがそれも今日で終わる、終わってしまう……。そんな思いを同じように抱いてしまっているのだろうかと一人の友人の事を思う。
「モモンガさんもきっとログインしてるだろうな、あの人がいないなんてありえない」
ユグドラシル内でも悪名の高い、異形種のみで構成されたギルド、アインズ・ウール・ゴウン。異形種プレイヤーはモンスターとしてもカウントできる、というふざけた風潮を嫌い、そんな現状の打破や救済を目的に掲げながら積極的にPKKを行っていたギルド。それらはノリがいいギルドメンバーなどによって加速していき、一時には傭兵NPC、PLからなる1500人の大侵攻までされる程だった。
「フフフッ……」
『お前は純然たる悪、純粋悪になれる。俺と共に歩もうじゃないかアルトリウス』
『ウルベルトさん何言ってるですか突然!?アルトさんに失礼でしょ、すいませんアルトさん。アルトさんはカルマが全力で善に振り切れてるのにそれってなんか矛盾してますよ』
『いいや為せば成る!!善の皮を被った悪、良いじゃないか背徳的で!』
『何が背徳的だって!!?』
『凄い勢いで反応しないでください茶釜さん!?』
一時期ギルドに所属していた身としては本当に懐かしい日々が僅かな間に脳裏を過っていく。独立して自分でギルドを立ち上げ、アインズ・ウール・ゴウンに倣って
当時攻略を手伝ってくれたのはアインズ・ウール・ゴウンの面々。既に独立していたのにも関わらず、攻略に付き合ってくれた。流石に初見攻略したいと言ったら2回目は嫌だと多くのメンバーに大反対されたのだが、ゴネまくった結果
「本当に……凝りに凝ったな」
自分は過去に流行ったゲームなどが大好きだった、その中でも一番好きだったのがFateと呼ばれるシリーズだった。過去の英雄たちが登場するそれらが胸に、いや魂が震えるほどに好きだった。故にNPCもそれらに準拠して種族や職業などにも凝りに凝りまくった、スキルの構成やキャラクターに合わせたコンボなども考えていった結果……NPCを含めてギミックの完成に3年もかかったのは素直に笑い話。
だがそれらも今日で消える……そう思うと心が痛む。あれだけ時間と愛を費やした物が一瞬で消えるなんて……いや考えるのはやめておこう。そう思いながら隣で自分へを見つめ続ける存在へと目を移す。自らが纏う鎧と酷く酷似した鎧を纏う、違う点があるとすれば兜は獅子の意匠のみである事。だがその兜は設定で外させているので見えているのは美しい黄金の髪を靡かせる絶世の美女、獅子王・アルトリア・ペンドラゴン。彼が一番好きだと言ってもいいキャラクターを再現したNPCだ。
「そう言えば以前ペロロンチーノさんに言われて、俺も同じ名前にしてそういう設定にしたんだよな」
思い出すのはこのキャメロットが完全な状態に持って行けた時にアインズ・ウール・ゴウンの皆を招待した時の事、折角なら同じ苗字にして夫婦という設定をフレーバーにしたらいいじゃないと言われた事が切っ掛けだった。ユグドラシルに結婚システムはないのであくまでフレーバーとして楽しみ程度だがそれはそれでありかもしれないと自分は乗ってキャラネームにペンドラゴンを追加して、アルトリアの設定に自分と夫婦の関係にあると記載した。
「……まあ確かにこんな美人と夫婦とか最高でしかないよな」
からかわれて、お前もペロロンチーノの同類か、と色々言われたりもしたがそれも楽しかった……本当にと思っていると自らにフレンドメッセージが飛んでくる。その相手はモモンガ、アインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターで大切な友人の一人。
『もしもし』
『やっぱり居たんですねアルトさん、声が聞けてちょっと安心してます俺』
何処か安心感に満たされているようなでありながらも僅かな哀愁と寂しさを羽織っている声、それを聞いて少しばかり眉を顰める。そもそも此方に連絡を寄こしたのも気になる、ギルドメンバーとの語らいもあるだろうから遠慮して連絡しなかったのだが……如何やら違ったらしい。
『其れは俺の台詞です、良いんですかモモンガさん俺と話してて』
『大丈夫ですよというか俺としては今でもギルドメンバーのつもりですよ、まだアルトさんの旗飾ってますし』
『ちょっと、俺はもう独立しちゃってる身ですよ?』
『そう言わないでくださいよ、身勝手かもしれませんけど独立された後に多数決で残すって事に決めたんですよ。アルトさんはアインズ・ウール・ゴウンの名誉ギルドメンバーだって事にするって、皆さん大賛成でしたよ』
『それって本人に言わなきゃダメなやつでしょモモンガさん……』
『普通に忘れててすいません』
呆れとは裏腹に嬉しさの感情で溢れている事にモモンガは気付いている、呆れているように出喜んでくれている。今でも自分達は同じギルドだと、そんな宣言を喜んでくれている。仲間はずっと繋がっていると、そしてそんな反応をもっと喜んでいるのはモモンガ本人でもあった。
『アルトさんも今は王座ですか?』
『も、という事はモモンガさんも』
『ええっ。プレアデスとアルベドと一緒に……そうだアルトさん聞いてくださいよ。タブラさんってば俺も知らない間にアルベドに〈
『タブっさんアンタ何やってんだよ……』
『でしょ、そう思うでしょ?』
気付けばそのまま友人としての会話をし続けてしまっていた、矢張り気心のしれた友人同士もある為か会話も弾んでしまう。不思議な物で話をしているだけなのに本当に楽しい、本当に心からの楽しさを感じられている。
『それでアルベドの設定見てたんですけど、ちなみにビッチである。って最後にあったんですよ』
『なんというかタブっさんらしいな……あの人設定にアルベドは貞淑な淑女って書いたはずだから、そのギャップとしてそれねじ込んだな。あの人ならそうする』
『うわっタブラさんらしいですね確かに。でも女性としてこれってなんか……酷くないですか?』
『まあ分からなくもないですね、俺もペロっさんに
『それはちょっと違くないですか?』
モモンガのそれは女性にそれは失礼だし守護者統括という名誉と責任ある立場に不相応ではないかという意味合い、アルトのそれは自らが望んで再現したキャラに不要且つ侮辱的な事を書こうとした事への怒りで全然違う物。
『でもまあそこはタブっさんの意思を尊重してあげるべきじゃないですかね、一文字一文字にタブっさんのフェチと魂が籠ってるんですし』
『フェ、フェチって……まあ確かにそうですよね、ちょっとギルド長権限で変えちゃおうかなって思ったんですけどそうするのは失礼ですもんね』
思いとどまる様にしてくれた事に感謝するモモンガに感謝されても困るアルトはそのまま話し込んでいた。ギルドの全盛期の事、キャメロット作成の苦労、共に冒険をした事などを話し続けていた。それだけするなら直接顔を合わせればいいだろうとも思われるかもしれないが終わるなら此処が良いと互いが自然に思いながら相手もきっとそう思うだろうと気遣って言葉に出さずに話し続けていると……間もなく終わりの時が迫り続けていた。
『モモンガさん、ユグドラシル2とか出たらその……一緒のギルドにまた誘って貰えたりして貰えます?』
『当たり前じゃないですか。誘うに決まってますよ、というか嫌だと言っても連れまわしますから覚悟してください』
『ハハハッそりゃいいや』
そんな最後はお互いに声を上げながらの終わりを飾ろうとした、寂しく悲しい終わりよりもずっといい終わりだと思いながら―――だがずっと笑っているのにそれが互いに分かり続けている、一体どうなっているのだろうか。全くサーバーダウンが実行されずにいる。
『……あれ、モモンガさんいます?』
『えっあっはいいますよ、あれっサーバーダウン起こらなくないですか?』
『不具合かな、え~最後ぐらいちゃんとしろよクソ運営』
『取り敢えず運営からのお知らせとか確認しましょうか』
と互いに運営サイトへと目を通そうとコンソールを操作しようとする……が一向にそれは出現せずに空を切るばかり、何も出来ない。壊れたか!?と焦る中で両者は更なる驚きを覚えた。
「如何かなさいましたかモモンガ様」
「如何しましたアルトリウス、問題でも」
「「えっ」」
『アルトさんなんかアルベドが話しかけてきたんですけど』
『こっちもアルトリアが話しかけてきました、もれなくCVが川澄 綾子さんですよ俺が間違う訳ないし絶対に間違いないうわっ初めてFateシリーズ触った時と同じ位興奮してる何だこれ最高かよなんだ神パッチ実装かクソ運営マジ有難う神かよ神運営かよ』
『手の平くるっくるしてますよ!?いやいやいやサービス終了するのにそれはないでしょう!?』
『あっそっか、えっじゃあこれって……』
『『何これ怖い』』
骸骨の見た目を持つ最強の魔法詠唱者と聖なる竜の騎士王は同時に戦慄し声に出してしまった。