オーバーロード・元ナザリックの騎士王   作:魔女っ子アルト姫

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第15話

「しかしマリーさんは凄いですね、そんな身の丈程もある盾を軽々と……」

「一応盾役(タンク)として申し分ない程度には鍛えてますから」

「いやいやそれ程の力とは恐れ入るのである、しかしルギナ殿の〈中傷治癒/ミドル・キュアウーンズ〉も素晴らしかったのである」

「いやぁ褒められちゃったすねぇ♪」

 

「それを言うなら先程のモモンさんとアーサーさんだって凄まじかったですよ。まさかオーガを一刀両断するなんて……」

「私は元々筋力がある方でしたので、それを伸ばすように鍛えていたのです。アーサーのような技量は皆無でして」

「だからと言ってグレートソード二刀流出来るまで鍛えるか普通」

「ロマンだろう」

「分かるぜ、俺もそう言う力強さには憧れるからな!!やっぱりルギナちゃんとマリーちゃんもそう言うとこを慕ってるのか……!?」

 

護衛対象であるンフィーレア・バレアレを守るように彼が乗る馬車の周囲に展開するにしながら警戒を行いながら歩いて行く冒険者、漆黒の剣とモモン、アーサー、ルギナ、マリー。漆黒の剣は見事なチームワークと戦術を組み合わせながら迫ってきたゴブリンやオーガを撃破していたがモモン達は圧倒的な個人の力を見せ付けた。

 

モモンは150㎝を超えるグレートソードで二刀流しながら一刀の下にオーガを切り伏せ、アーサーは長さだけならばグレートソードを上回る程の175㎝の大太刀でオーガが気付けぬほどの繊細な一撃を。マリーはンフィーレアの守りに徹していた為に強さこそ分からなかったが、自分の身体を簡単に覆えてしまう程の盾を軽々と振るっているので相当な実力であると想定できる。そしてルギナは怪我をした漆黒の剣の傷は直ぐに癒せる……矢張りただ物ではないと思いながら先日の事を思う。

 

 

「お祖母ちゃん、このポーション……色が」

「ウムッ……」

 

ンフィーレアは稀代の薬師とも呼ばれる祖母であるリィジー・バレアレと共に店を切り盛りしていた。そこにブリタという女性冒険者の客が来た、ポーションを鑑定して欲しいという事でそれを受けたのだが、そのポーションの色が赤かったのである。初めてみるようなそれに祖母の反応を見つつ、リィジーは〈道具鑑定/アプレーザル・マジックアイテム〉と〈付与魔法探知/ディテクト・エンチャント〉の魔法による鑑定を行ったが―――

 

「これは―――」

 

言葉を呑み、沈黙を作った直後に大きく笑い始めた祖母。その理由はそのポーションが真の意味で完成された癒しの薬、神の血を意味する赤いポーション。リィジーも単なる伝説としてしか思っていなかった存在を目の当たりにして素直に驚きと笑いを漏らさずにはいられなかった。使用した際の効果は第二位階の魔法相当、価値は金貨8枚相当……だがリィジーは金貨32枚で売って欲しいと頼むほどの物だった。それ程の物なのかとンフィーレアも驚きを隠せなかった。結局ブリタはそれを売らずにお守りとして取っておくことに決めて帰っていったが、代わりに入手経路を教えて貰えた。

 

「ンフィーレア、動くなら早い方が良い。せめて接点だけでも作っておいた方がこれからの財産になるじゃろう」

「分かったよお祖母ちゃん」

 

このポーションの製造方法を知っているかもしれない人物への接触、あわよくば方法を知る事を目的に依頼を出す事に決めた―――そんな二人を見つめる不可視の人影が影から見ている事を二人は知らなかった。

 

 

『っつう事らしいよ、アサシンが教えてくれた』

『マジですか……あれユグドラシルでは一番下のポーションなんだけどなぁ……』

 

ンフィーレアの依頼を含めて彼に付いての報告で分かった事をモモンガへと共有する。如何やらこの世界は自分達が思っている以上に低いレベルにあるらしい。常人が到達出来る魔法の領域は第三位階、ポーションは劣化するので保存の魔法をかけるのが一般的。英雄と呼ばれる者の領域は第五位階、そう考えると陽光聖典のニグンは第四位階の監視の権天使を召喚出来ていた。相当に優秀な部類なのではないだろうか。

 

『そう考えるとナザリックとキャメロットってこの世界基準だととんでもない過剰戦力だったりするんですかね』

『まあだろうな。昔タブっさんとたっさんが見せてくれた映画の怪獣的な感じじゃないかな』

『わ、笑えない……』

 

そう考えるとこの世界での活動は積極的に行えるのではないだろうかと一瞬考えるのだが、それを直ぐに戒める。自分達だけが転移している訳ではない、その可能性は否定出来ない。仮にこの世界に異形種狩りを積極的に行っていたギルドやプレイヤーなどがいた場合には明確に敵と成り得るし神話級アイテムの装備があるかもしれない……いやもっと最悪なの事も考えられる。

 

『……世界級(ワールド)アイテム、あると思いますか』

『ないと言い切れない。いやあると仮定して行動すべき、そう相談したから貸し出しを決めたんだろ』

 

二人が最も警戒しているのはそれだった。他にもプレイヤーがいる場合、世界一つにも匹敵する力を秘める運営公認のチートアイテム群、世界級アイテム。破格の能力を秘めているバランスブレイカー、それらに対抗できるのは同じく世界級アイテムのみ。だが幸いな事にナザリックはユグドラシル全ギルド最高である11個の世界級アイテムを所持しているのである程度ならば貸し出して対抗する事が出来る。

 

「よしっ出来た、食事にしましょう」

「おっ待ってたぜ!!」

 

如何やら話し込んでいる内に野営の準備が済んだらしい。夕食も出来たらしいので其方に合流しつつ〈伝言/メッセージ〉による会議を続ける。

 

『シャルティアに世界級アイテムを持たせて任務に当たらせてるけど……何もないのが一番ですよ』

『まあ備えあれば患いなしだ、何もない事を祈ろう』

『ですね』

 

そこで話を打ち切ると回ってきたスープを受け取る、共に出されるパンなどは流石に質が悪いがもっと酷いリアルで生きていた二人にとっては確りとした食材を使った料理なのでこれでも十分なご馳走。最近拠点での料理に慣れてきたので少し心配だったので普通に美味しいと思えて少しホッとする一方でこういうのを貧乏舌って言うのかなと苦笑した。

 

「しかしモモンさんも凄かったけどアーサーさんの剣術も素晴らしかったですね」

「全くなのである。あれほどの長剣をまるで手足のように扱いながらもあの剣技、いやはや天晴でしたぞ」

「何、剣を振るい続けた人生だった故な」

 

鎧と同じくアーサーの使う大太刀もキャメロットの鍛冶師、特にセイバー・千子 村正が腕を振るった一太刀。ラーマの鎧を模したように刀についても様々な者たちから自分の剣をと候補が上げられて行った。その中で採用されたのがアサシン・佐々木 小次郎の物干し竿であった。最初村正は「選りに選ってこれをか……」と難色を示したが、直ぐに肉食獣のような笑みを浮かべ「やってやろうじゃねぇか」と焔をくべ、鉄を打った。

 

その末に生まれた大太刀が今アーサーが背負う剣、銘は決めてくれていいと言われたのでアルトリウスは天目村正とする事にした。銘を聞くと村正は少しばかり呆れながらも嬉しそうに言った。

 

『―――天目一箇神*1たぁ大層な(モン)にしたな、まあいいさ。好きに使ってくんな』

 

この大太刀は中々に良い。西洋剣ばかりだったのに加えて酷く長いので扱えるか心配だったが扱いやすく頑丈で切れ味も抜群、流石の腕前だと言いたくなる程の物だった。モモンガも自分も一本打って欲しいなぁと思う程、矢張り日本刀や太刀という存在は男の心を滾らせる。

 

「何事も積み重ね、基礎こそ奥義なりとはよく言った物だ」

「アーサー殿のお言葉、正しく真理であるな」

「確かに基礎がしっかりしてないと応用も出来ませんからね」

「俺は直ぐに奥義とか覚えたいけどな」

「そんなんだからお前は何時までもフラフラしてるんじゃないのか、アーサーさんを見習って基礎から鍛え直したらどうだ?」

「おいそれどういう意味だよ」

 

楽し気な会話を行う漆黒の剣を見ていると思わず昔の事を思い出す。自分達もギルドメンバーとは色んな事を話したり、楽しんだりもした。本当に輝ける時代だったとモモンは星を見ながらそう思ってしまったが、自分にも仲間がいるじゃないかと思い直す。

 

「そう言えば何故皆さんは漆黒の剣という名前なのですか、見た所黒い剣を使ってる方は無いように思えますが」

「ああっそれですか、漆黒の剣というは十三英雄の黒騎士が持っていたという剣の事でして……」

 

彼らのチーム名の由来から始まり、それからはチームの事や個人の事などを話して思った以上のに楽しい時間を過ごす事が出来た。同時にそんな剣があるなら自分達も冒険で探したいなぁと冒険心が擽られたりもした。まだまだ冒険とは言えないが、十二分にモモンガとアルトリウスは楽しさを覚えながら漆黒の剣と会話を楽しむのであった。

*1
日本神話に登場する製鉄・鍛冶の神。


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