オーバーロード・元ナザリックの騎士王   作:魔女っ子アルト姫

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第19話

天目村正を構えながらも静かな視線を向けつつも思考する、自分の戦闘力という物がどれほどまでに通用するのだろうか。この世界における戦闘は数回、だがどれも満足いくものではない、自分のそれが明確に通用するのかという問いかけに対する返答にはならない。だが今回はそれに足るだけの戦闘が出来るだろう……そう思う中で視界の端、モモンの居る方向に銀に見える灰色の体色の龍が見えた気がした。

 

骨の龍(スケリトル・ドラゴン)

「なぁんだあんま驚かないね。単独で勝つには少なくとも金級以上の冒険者じゃないとね~、銅であるアンタらには勝てる道理はないってお話よん♪分かったら降参しちゃったらぁ~ん?可愛がってあげるからさぁ~……この英雄の領域に踏み込んだクレマンティーヌ様がねぇぇええ!!」

 

その声を聞いても剣を収める気などない。骨の龍のレベルは20に届かない程度しかない、例えモモンのままだとしても片手間で倒せる敵でしかない。だから意識を向けるだけ無駄だと割り切る。降参の意志などないと分かるとその手にスティレットと呼ばれる刺突武器を手にすると四足獣のような体勢になり地面を蹴ると爆発的な加速を見せながら一気に距離を詰めた。そこから一気にスティレットを突き立てんとするが0から一気に始動したアーサーは天目村正を振るう、彼女が動くよりもずっと早く胴を捉えんと―――

 

「〈不落要塞〉〈流水加速〉」

「ッ!!」

 

ずっと先に捉える筈の刃が止まる、そこにはスティレットで自分の一撃を受け止めているクレマンティーヌの姿がある。同時に自分のスキルが発動する、相手がどんなスキルや魔法を発動しているのかを知る事が出来るスキルだが―――そこには〈不落要塞〉〈流水加速〉という見た事も無い名前が二つ並ぶ、これがこの世界特有の武技という奴だろうか。そう思うとぬるりと刃をすり抜けるような動作で懐に飛び込んで自分の肩へとスティレットを突き立てようとするが鎧はそれをあっさりと弾いた。それに一瞬顔を顰めるが即座に斬り返してきたそれを回避しつつ距離を取る。

 

「硬っい鎧ね~、何で出来てるんだが、でも次はそうはいかない」

「成程な。これが英雄の領域に足を踏み入れた物の力という奴か……」

 

その言葉に益々歪んだ笑みを浮かべた、漸く実力の差という物を思い知ったのかと加速した。

 

「アハハハ漸く分かってくれたんだねぇ~まあいいよ、今のあなたの一撃も凄かったしねぇ~ただ生かすだけは勿体ないから取りついで上げる、その代わり―――」

「だが武技というのは興味深いな、ユグドラシルにはない技術だ……これは研究のし甲斐があるな」

 

額に青筋が浮かぶ、この自分が声を掛けてやっているというのにガン無視。酷く腹立たしい、より明確に力の差を痛みと共に分からせてやらないとダメという事か、それはそれでいい、あの声が苦痛に歪んで自分に救いを懇願する所を見たくなってきてしまった。

 

〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉紛れもない自分の渾身の力を込めた一撃を放つ武技の四つ重ね合わせ、能力を大きく引き上げた末に放つ一撃は間違いなくあの鎧を貫いて肉を抉る事だろう、その先に待つ痛みの声を早く聞きたいと疾駆する。先程よりも早く到達する、あの一撃よりも早く、さあ今こそその身体にこのスティレットを―――

 

「〈峰打ち〉」

 

砕け散った、知覚するよりもずっと早くスティレットが砕け散る破片が宙を舞った。同時に身体が痛みを認識するよりも先にその身体に峰による斬撃と打撃のはざまの一撃が炸裂した。命すら刈り取らんする筈の一撃は彼女の命を活かしながらも地面に叩き伏せた、そして伏せられてから漸くダメージを認識した身体は全く動かなくなっていた。

 

「―――ッナ、何をっ……!?」

「こんな所で命を散らせるのは勿体ない、その力を我が下で活かせ」

「勝手な、事をっ―――」

 

声が掠れる、肺の中の空気を一気に吐き出したからか呼吸もまともに出来なくなっていた。一先ずは息を整える事をしなければならない……と思っている中で奥から肩に布で丸められたンフィーレアを担いだモモンがハムスケらを連れてやって来たのを見て目を見開いた、骨の龍を一人で倒したというのか。

 

「骨の龍が見えたが終わったらしいな」

「途中から死の騎士も混ざっていた、まああんなの軽い物さ。後聞いてくれユグドラシルには無かったアイテムも見つけたぞ」

「ほうっそれは上々だな」

 

旧知の友人同士の会話を始めるように、その二人の間にはもう戦いの空気など無かった。それに死の騎士まで居たのにそれまで倒したというのか、どんな常識外れの力なんだと思っていると黒い騎士が此方を見た。思わず低い声で悲鳴を上げてしまう。

 

「まだ生きているが、とどめを刺さないのか」

「武技とやらに興味が湧いてね、研究する価値はあると思うぞ」

「ふぅむ……戦士長の時も思ったが、もしかして武技とはこの世界の人間がユグドラシルプレイヤーに対抗する為に編み出した技術なのかもな」

「成程……確かにありそうだな」

 

ぷれい、やー……!?その言葉を聞いて、クレマンティーヌの頭は真っ白になった。ではこの二人はぷれいやーなのか、法国が神と崇めるあのぷれいやーだというのだろうか。だとしたら自分はなんて無謀で神を恐れぬ愚行を行ってしまったのかと青を通し越して灰色になる。

 

「ぁ、ぁぁっ……」

「それで如何するんだ」

「キャメロットで預かる、もしも俺達が覚えられるならば覚えておきたいだろう」

「それは確かに、心が躍るな」

 

その希望が沸き上がった、先程も聞いたが自分は生きる事が出来るのだろう。そして何よりあのぷれいやーの配下になるのだ、一転した喜びが沸き上がってくる。膝を突くように自分の顔を覗き込んでくるアーサーは兜を外しながら自分を見下ろした、その時に初めて見れた戦っていた騎士の素顔を見た時に言葉を忘れる程に見惚れてしまった。天に眩く星々のように輝き、研ぎ澄まされた刃をも上回る鋭い瞳に吟遊詩人が語る詩を鼻で笑えるような美貌。

 

「クレマンティーヌ、私の下に来い。築き上げた研鑽、技量を私の為に使え」

「―――ぃぃっ……」

 

未だに言葉は出ず、だが小さく、今できる最大級の了解を示す為に頷いた。が直後に力尽きるように意識を失った、不思議な事に恐怖はなく唯々安心感と言う揺り籠に揺られるように……落ちていった。

 

「至高の御方々が前にいるのになんて失礼な……今直ぐたたき起こしますか」

「いや軽い回復をさせてやってくれ、峰打ちに留めたがそれでもダメージは深刻な筈だ」

「分かりました」

 

ルギナに回復をさせている間に〈伝言/メッセージ〉を使用してエ・ランテルに配置していたアサシンの一人を呼び出す。程なくして忍者装束を身に纏った赤髪の少年、アサシン・風魔 小太郎が到着した。

 

「アサシン・風魔 小太郎。ただいま到着しました」

「ご苦労。小太郎、この女をキャメロットに運べ。丁重にもてなすように言っておいてくれ、彼女は武技というこの世界固有の技術研究に貢献させる」

「承知致しました」

 

担ぎ上げられたクレマンティーヌ、そのまま夜明けの朝日を避けるような素早い身のこなしで駆け抜けていく。その姿を見送りながらモモンへと向き直る。

 

「これで依頼は完了、かな」

「ああ、それじゃあ―――凱旋しようじゃないか」

 

大袈裟に真紅のマントをはためかせながら歩き出す友に僅かに肩を竦めながらもその後に続く事にした。

 

「凱旋であるならば是非とも某の背に乗られては如何でござろうか!?」

「い、いやンフィーレアもいる事だし乗る訳には、そうだアーサーを乗せてやってくれ!!」

「おおっそれでは!」

 

『……モモンガさん、アンタ根に持ってるだろ』

『いや何の事ですかね、別にアルトさんにも味わって欲しいなぁ程度にしか思ってないですよ』


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