オーバーロード・元ナザリックの騎士王   作:魔女っ子アルト姫

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第2話

「大丈夫ですかアルトリウス、何か問題が起きたのですか」

 

凛としながらもお淑やか、だが芯の通った美しさを纏いながらも言葉には僅かな不安が付き纏っている。それは妻として愛する者の様子が変化した事を敏感に察知した事に起因しているのだろう。獅子王・アルトリア・ペンドラゴンは原典とも言える聖剣の彼女とは違う、真面目かつ律儀で丁寧、そして負けず嫌い。だが合理的であり沈着冷静、王として理想的な在り方を体現する。そんな彼女が僅かでも乱れた感情を言葉に乗せる事は珍しい所かあり得ない。それを向けられるアルトリウスはそれ以上に混乱の極みに陥っていた。

 

「ぁぁっいや……だ、大丈夫だアルトリア。少しばかり思う所があって、だね……ごめん心配かけた」

「……それならいいのです、唯貴方が何処か不安そうだったのでつい……」

 

謝罪すると逆に自分が悪いのだと言わんばかりの言葉を吐き出し続けていく。そんな事を思うなんて貴方の妻として相応しくない言動だった、神聖領域巨城(キャメロット)の女王として情けない、唯自分は貴方が改めて自分と夫婦である事が最高だと言われて嬉しくなってしまったとしおらしくなりながらちょこんと飛び出ている所謂アホ毛を動物の尾のように倒しながら落ち込んでしまう。

 

「ああいや大丈夫だアルトリア!!君が私を心配してくれるという事はその、夫婦として当然の事でありそれだけ私の事を思いそしてよく見てくれているという事だろう!?だってほら、私兜付けたままなのに不安そうとか思えるって事はそれだけ通じ合ってる事なんだから!!」

「ア、アルトリウス……!!」

 

パァァと擬音が付きそうな程に花開いたような笑みを浮かべつつ、沈んでいたアホ毛がぶんぶんと動かしながら手を合わせて歓喜する。その表情は原典のシリーズでも見た事がないような表情、それにハートどころか魂を抉られて昇天しそうになるアルトリウス。この時は本気で今この瞬間に死んでもいいと思ったほど。だがそれをモモンガからの必死のフレンドメッセージが呼び戻し、咄嗟にアルトリアに此処から王座から離れる口実の指示を出す。

 

「ア、アルトリア突然で済まないがお願いを聞いて貰ってもいいかな」

「お願いなど言わないでください。このキャメロットにおいて至高の存在は唯一人、貴方を置いて他はない。貴方はお願いなどと言わずにただ命じてくれるだけでいい、私はそれに従います」

「い、いや流石にそれは……奥さんに命令とか出来る訳ないって……え、えっと君が適切だと思う者を連れてキャメロットの外部及び周辺の調査及び探索をして欲しい。但し直ぐにキャメロットに戻れる距離までで話が通じそうな相手がいた場合は可能な限り穏便に此処へご案内して」

「分かりました」

 

指示を承諾するとアルトリアは一気に引き締めた、それこそアルトリウスが良く知る獅子王としての表情だ。先程の弛緩した歓喜の表情も良いが矢張り彼女にはキリっとした表情が良く似合う、そして王座のある王の間から出る前に此方へと振り向きながら笑みを作って一言。「行ってきます貴方」と獅子王の兜を被りながら出発していった。

 

「やっべぇランサーアルトリアさんくっそカッコいい……俺の嫁最高過ぎかよ」

『アルトさん聞いてます!?アルトさん!!?』

「あっいけね忘れてた」

 

自分が望んでいた彼女が思考して会話をし感情を表現した、当時からどれだけそれを望んだ事だろうか。それが今実現したのだからアルトリウスの心情は最高潮に喜びに溢れていたが、モモンガからのメッセージをガン無視していた事を思い出して慌ててそれに応える。

 

『すいませんモモンガさん、なんかアルトリアが動いた上に喋りかけて来てくれてなんかキャパシティーオーバーしてました。しかもなんか指示を聞いてくれちゃって……』

『ああっやっぱりですか!?俺もさっき言いましたけどアルベドが話しかけてくる上にセバスたちも同じ感じで、しかも命令も聞いてくれちゃって……』

『そっちもですか!?いやいやいや何が如何なってるんだ……俺、NPC制作の為にプログラミングとかやりましたけど今のをAIにパッチ当てたじゃ説明付かないと思います』

 

表情に変化が付くというのは内部プログラム的にはとんでもない事になる、しかもアルトリアには感情などもあった。それらを考えると単純にユグドラシルⅡがサービス終了と同時にスタートしたとは思えない、そもそも始めるなら大々的に宣伝した方が運営する会社としても利益が高い。

 

『これ、もしかして前にペロっさんが言ってた昔のゲームとかでよくあった異世界転移的なあれですかね……』

『ええっでもそんなのあり得るんですか!?ああでもあり得るのかな、実はアルトさんと話が出来ない間にちょっとその……垢バンされるような事をしたんですけど何もされなくて……』

『おい何やってんだよギルマス』

 

言いにくそうにしているモモンガに対して容赦のないツッコミをぶっこむ。此方は此方でアルトリアに対して精一杯真摯に対応していたつもりなのに、向こうは向こうで何自分がやろうと思わなかった行為をやっているんだと。まあ確かにユグドラシルはそのような18禁行為には凄まじく厳しかった、行えば一発でアカウント凍結だってあり得る程。

 

『でも垢バンされないと……んで何やったん?』

『アルベドの胸をその……触って揉みました』

『たっさんに連行される覚悟はOK?ついでに感想どうぞ』

『や、柔らかったです……って何言わせるんですか!!?』

 

だがこの事実は一つの結論を導き出した、自分達がいる此処はユグドラシルではなく現実の世界であるという事。だが兎に角情報が欠如しすぎている、何もかもが理解の全てを超えているような状態になっている。

 

『取り敢えず今セバスに外の確認をさせてるところです、其方は如何なんですか!?』

『エロい事してたのを有耶無耶にしようとしやがって……まあこっちも概ね同じです、アルトリアに適切だと思うNPCを連れて外の確認をお願いしました』

『……取り敢えず互いの確認が終わってからまた連絡するって事にしますか?こっちも色々試してみたいので』

『賛成です』

 

その後、連絡魔法である〈伝言/メッセージ〉が通じる事を確認してからフレンドメッセージを切断する、そしてアルトリウスは深々と王座に身体を預けながら息を吐きだした。モモンガからの話を聞くとアルベドやプレアデス、いやナザリック地下大墳墓その物と共に転移している可能性がある。それを当てはめるとキャメロットも同様であり、そして自らが心血を注いで作り上げたFateシリーズの中でも特にお気に入りのキャラクター達で構成されたNPC達も同じように動く……しかも自分が書きこんだ設定やらが忠実に再現された状態で……。

 

「……あれっていう事はあれか、此処にはおっぱいタイツ師匠とかすまないさんとかもいるって事?えっ俺が書きこんだFateの設定そのままに―――何それ俺にとっての夢の園かよ」

 

この城を満たすNPC達、それは原典であるFateにある物を再現した者達。こよなく愛するそれらがそうあれかしと望んだ者のまま意志を持ち動く、そんな姿を見られるなんて至上の喜びに等しい。グフフフフッと騎士王としては相応しくない不気味で気色悪い笑みを浮かべるのであった、がそんな時に王座の間の扉が開け放たれた。驚きながら声を引っ込めながらそちらへと目をやるとそこには一人の騎士が立っていた、その騎士は入ると同時に兜を脱ぎながらその顔を露わにしながら自分に駆け寄ってきた。

 

「父上~!!!」

 

酷く天真爛漫そうに、笑みを作りながら駆け寄ってくる騎士は幼いアルトリアという表現がぴったり当て嵌まる。同じ位に成長したらきっと区別をつける事は困難だろうが何処か男らしくヤンチャそうなので区別は容易、そんな騎士の名前はモードレッド・ペンドラゴン。騎士王・アルトリウス・ペンドラゴンと獅子王・アルトリア・ペンドラゴンの子供。

 

「モ、モードレッドか。如何した」

「母上が父上の所に行けって言うから来たんだよ、私がいない間の守護を頼むってよ」

 

わんぱくでヤンチャそうないたずらっ子のように鼻の下を指でこすりながらえへへへっと口ずさみながら自分といられる事に対する喜びを全身で表現するようなモードレッドに猛烈な違和感を覚えた。いやこれはこれで可愛いし凄くありだな!!と胸をキュンキュン刺激して来てやばい、いやそうじゃなくて原典のモードレッドはこんな感じだったろうか!?という事である、自分は確りと原典を参照しながらアルトリアと同じ位に気を遣って……気を遣って……

 

「(ああ~そうだぁぁぁっ!!ペロっさんに言われてアルトリアを妻にする時に合わせて俺の子って事にしたんだっけ!!?)」

 

原典のモードレッドはある種、親であるアルトリア・ペンドラゴンに対して承認欲求などがあった。故に再現するに当たってアルトリアを妻にしたのだから自分の子供という事にした。この位は許されるかな……程度の軽い気持ちだった、正直妄想して楽しむ程度だったのだがまさかそれがこんな事になるなんて思いもしなかった……というか童貞なのに嫁と子供がいる王様という事になるのだろうか……意味が解らない。まあでも……

 

「そうかアルトリアに言われてか……だがいざという時には私がお前を守る、子に守られる親というのも情けないからな」

「じゃあさじゃあさ、一緒に戦おうぜ!!俺一回でいいから父上と肩を並べて戦ってみたかったんだよなぁ!!」

「勿論。ではその時はお前に私の背中を任せようかな。いやお前さえいれば私などいなくても敵はいないか、お前は私とアルトリアの自慢の子だ」

「そうか、そうかなぁっ!?父上ってば褒めるのうめぇなぁ~♪そう言われたらもう俺は張り切って父上護るしかねぇもんなぁ~♪」

「(何この子超かわいい)」

 

デレデレしながらもその手にした剣、クラレントを持ちながら自分に剣の腕前を見せるように演武を始めるモードレッド。親の目線を自分に釘付けにさせたいかの如くな行動に思わずアルトリウスは心から和んでしまっていた。最初こそ混乱したがこんな愛らしい子供がいて綺麗で可愛い奥さんもいるなら此処がどんな世界でもいいやぁと思えてしまってきた。だが彼は忘れていた……彼が作り上げたNPCは他にも存在し、その中には酷く重い愛情を向ける者もいる事を……。

 

「ぁぁぁぁっますたぁ(旦那様)、お会い出来て妻である清姫は幸せに御座いますぅ♡」

「お"いくそ蛇女、誰がテメェの旦那だぁ?父上の隣は母上って決まってんだ戯言抜かしてんじゃねえぞゴラァ!!!」

「あらあらあら相変わらず狂犬です事、母として貴方のような娘は戴けません。ますたぁの品位を下げてしまいますわぁ」

「―――おう誰がテメェの子だと……表出ろ今直ぐ殺してやる」

「やべぇっなんか大変な事になりそうだモモンガさん助けて」


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