エ・ランテルの共同墓地にて発生したアンデッドの異常な大量発生、それを引き起こしたのは一つの都市をアンデッドが跳梁跋扈する死都に変えた秘密結社・ズーラーノーン。大地を埋め尽くす数千という数の死者の軍勢がエ・ランテルの全ての飲み込まんとしたのを阻止したのはたった4人、しかも銅級の冒険者チームであった。後に冒険者組合が現場を調査したところ、骨の龍だけでは飽き足らず、たった一体で小国の軍事力に匹敵すると評される伝説のアンデッドの
この騒動を鎮め、誘拐されたンフィーレア・バレアレを救出したモモンとアーサーはエ・ランテルの人々から羨望、感謝、尊敬、様々な視線を向けられるようになり同時に銅級から一気に破格とも言える昇級を行い一気にオリハルコン級の冒険者と認められた。"漆黒の英雄"モモン、"赤金の騎士"アーサーとして名をエ・ランテルだけではなく周辺諸国に轟かせる事になった。
「それでンフィーレアが付けられた〈叡者の額冠〉っていうユグドラシルにもなかったアイテムだった訳でした。まあ壊しちゃいましたけど」
「良かったのか、依頼達成にはしょうがないとはいえ」
「ちょっと惜しいとは思いましたけど、依頼失敗はアインズ・ウール・ゴウンの名が泣くと思いまして」
「カッコいい事言っちゃってまぁ、そう言いながらコレクター心が少し泣いてるんじゃないの」
「まあぶっちゃけるとそうですね」
エ・ランテルでの一仕事を終えた二人は揃って戻って来て今はモモンガの執務室で雑談混じりな話をしている。
「それにしても死の騎士を倒しただけで一気に最高位冒険者の一歩手前ってなんかあれですね……凄い強くてニューゲーム感が」
「禿同。この世界における英雄連中のレベルは大体20~30って認識が良いみたいね」
「となると百貌がやられる心配は余りないって事になりますからよかったですね」
「まあね」
クレマンティーヌのレベルは31。本人も人外、英雄の領域に足を踏み入れた存在と言っていたので恐らくこの見立てで間違っていないと思われる。それでもナザリックやキャメロット基準では雑魚と言うしかないのだが……自分達が強すぎるのかこの世界のレベルが低いと言うべきなのか微妙なライン。
「それでクレマンティーヌはこっちで預かっていいんだよな」
「アルトさんが倒した相手ですし構いませんよ。それにしてもそんなに凄かったんですか武技は」
「研究する甲斐はあると思うよ、彼女自身が使ってた身体能力向上系の奴があったんだけどそれを使った彼女の強さは40はあったと思う」
「―――それは、確かに研究したくなりますね」
クレマンティーヌの場合は〈能力向上〉〈能力超向上〉の二つを併用していたがそれでもレベル31の戦士職が40レベルに足を踏み入れている事はかなりの事。それらがもしも自分達も習得可能であるならば是非とも修得したい、使ってみたいという欲もあるがそれ以上に不安な事もある。仮にカンストプレイヤーが完璧に武技を扱えた場合の脅威度はどうなるのだろうか。もしも完璧に使えた場合、ワールド・チャンピオンであるたっち・みーをステータスの上で上回る可能性すらあり得る。武技の上昇率はレベルによる増減するのか、その上昇率は、種類は、何と何が併用できるのか、これからどんどん調べていかなければならないだろう。
「油断はしないでおこう、タレントを含めてこの世界にはまだまだ不確定要素が多すぎる。慎重に進んで損はしない筈だ」
「そう、ですね……茶釜さんが言ってましたもんね、備えあれば嬉しいなっだったかな」
「なんか違うよそれ、多分憂いなしだと思う」
兎も角この世界における強者にして武技の使い手を得られた事は非常に大きい、これからの研究にも役立つし彼女でレベリングの実験を試みつつそれによってどれだけ武技の性能が上がるのかも検証も可能になってくる。しかしこうなってくると他にも武技の使い手を確保したくなる。これからの方針に一つ新しい物が追加しておく事にしよう。
「魔法系の武技ってないんですかね、あったら絶対に覚えたいんですけど」
「いやぁそれは如何なんだろう……それこそ自分でバフ魔法掛けるのが早いんじゃない?」
「そっかぁ……」
僅かに肩を落とす友人に僅かに罪悪感が沸いてしまう、後でクレマンティーヌにそんな武技に心当たりがないかぐらいは聞いて置く事にしよう。そんな時、モモンガに〈伝言/メッセージ〉が入ったらしく耳辺りに手をやる。意味はないのだが何となくやってしまう癖、ユグドラシルでもあんな風にやる必要はないのにやってしまう動作があったなぁと懐かしく思う。
「そうか、成程……むぅっ」
何やら複雑そうなな声を上げながら声に出してしまっている事に気付くと、咳払いと共に声を静めた。暫くした後にそれは途切れて向き直った。
「シャルティア達です、如何にも武技使いを見つけたらしいですけどシャルティアの〈血の狂乱〉が発動してその隙に逃げられちゃったみたいです」
「あらら」
「でも代わりに前にポーション渡しちゃったブリタって冒険者からそれを回収できたらしいです、まあ解除のために使っちゃったらしいですけどいいですよね別に」
「まあ別に痛くはないからね」
ですねと同意するモモンガ。吸血鬼の固有スキル〈血の狂乱〉は血を浴び続けると戦闘力が増大する代償に精神的制御が利かなくなるというデメリット的な側面を持つ物。それが発動する隙に逃げられたが共に居たスカサハが確保していたポーションを投げつけて解除したとの事。乱暴だが確実で迅速だと言わざるを得ない。
「それでその後に謎の集団と戦闘になったらしいです、でもスカサハが全力で戦うべきだと進言して直ぐに全滅させたらしいです」
「―――スカサハが?」
それを聞いて目を丸くしてしまった。あの影の国の女王にして戦士として最上位の実力を持つ彼女が全力で戦うべきだと進言をした、つまりその集団にはそれだけの危険性があった、シャルティア自身もその言葉に驚いたらしいが直ぐにそれを了承し全力戦闘を開始したとの事。結果は敵集団を全滅させての勝利―――したのだが……。
「スカサハは宝具を切ったそうです、それでその内の一人を確実に仕留めたと」
「あれを、切った?」
キャメロットのNPC達はFateの再現キャラクター、それ故のその象徴である宝具に値する必殺のコンボや武具を装備している。それらにも一切妥協をしなかった為に多額の課金や長期間入手に時間を要したりしたのでアルトリウスは3年という時間を要した。そしてスカサハの持つ二本の槍、それこそが彼女の宝具―――
穿つは心臓、狙えば必中。心臓を穿つ破滅の槍。躱すことなど出来ず、躱し続ける度に再度標的を襲う槍。クー・フーリンも同じく所持するその槍、スカサハのそれは彼の物よりは旧式に当たるがそれでも二本扱う彼女のそれで仕留められぬ物など存在せぬ。
「あれを切らせたってどんな相手だ、クレマンティーヌ以上の奴がいたって事になるぞ」
「プレイヤー関連、ですね。装備品はすべて回収してナザリックに戻ってくるらしいです」
「詳しく調べてみる必要があるな……」
スカサハの戦士としての直感が告げた全力戦闘推奨の相手、全滅させる事は出来たとの事だが必ず絡繰りがある筈。徹底的に調べ上げる事を決めつつもこの世界には自分達の脅威となりうる存在が居る事を再認識しながら改めて慎重に進んでいく事を決める。
「……」
「如何したんですかアルトさん」
「いやさ、俺の3年は本当に価値があったんだなぁって……」
「その点に関しては本当に俺尊敬してますよアルトさんの事」