オーバーロード・元ナザリックの騎士王   作:魔女っ子アルト姫

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第21話

ナザリック第十階層玉座の間。本来そこに鎮座する王はアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターたるモモンガのみ、だがこの時ばかりはその隣にアルトリウス・ペンドラゴンが妻であるアルトリア・ペンドラゴンを伴ってそこに居た。アルトリア自身はアルベドのように一歩引いた場所で待機している。そして眼前には階層守護者たちが立ち並び、そこには今回の中心と成り得るシャルティアとスカサハの姿もあった。

 

「シャルティアよ。此度の任務ご苦労だった、詳しい報告を聞く前にお前が確保したというアイテムを見せて貰う事にしよう」

「はっ。此方でありんす、どうぞお納めください」

 

モモンガの言葉と共に彼女の配下である〈吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・プライド)〉が今回の任務で入手したアイテムを献上する。そこにあるのは会敵した相手の鎧や武器、盾などなどが立ち並んでいるがその中には異様に思えるようなものもあった。丁寧に畳まれているそれは白銀の生地に天に昇る龍が金糸で刺繍されているドレス……鎧などを見てもかなりの練度を感じさせる部隊の中にこのドレスを着せた物を入れるのか、と疑問に思う中でアルトリウスはスカサハに問う。

 

「スカサハ、シャルティアに全力戦闘すべきと進言したそうだな。それは敵か、それとも武具か」

「強いて言うなれば後者、奴ら自身は大した脅威ではなかったが―――武具は別だ、私はそのドレスそしてそのみすぼらしい槍に脅威を感じた」

 

膝を付きながらも答えるスカサハ。彼女の物言いは配下である者には少々相応しくないのではと思う者もいるだろうがアルトリウスが何も言わない所を見るにそうあれかしと思って創造されたのだろうと思う、事実としてそうである。そしてそれを聞きながらモモンガと共にドレス、そして他と見ても異常な程に浮いている槍に目を向けた。

 

「友よ」

「ああっ〈道具上位鑑定/オール・アプレーザル・マジックアイテム〉」

 

モモンガは鑑定を行う為の魔法を行使する。未知のアイテムを鑑定するこの瞬間に感じるドキドキ感に少し高揚している二人、そしてまずドレスの鑑定を行ったモモンガは思わず言葉を失った。そしてその直後にらしくもない大声を上げた。

 

「―――ッ……世界級(ワールド)アイテム、世界級アイテムですよアルトリウスさん!!?このドレス世界級アイテムです!!」

「マジぃ!!?」

「ガチですガチ!!」

 

思わずアルトリウスすら大声を上げてしまう程の衝撃だった。それはユグドラシルプレイヤーとしての喜び、公式認定のぶっ壊れバランスブレイカーの一つを入手できた物とこの世界にも存在するのか!?という驚きが入り乱れた物であった。余りの事に王たらんとしていた二人の取り繕いは一瞬でぶっ飛んでしまった。可能性として考えていなかった訳ではないのだがいざ直面すると驚愕する。

 

「ア、アルトリウス?」

「いよっ―――ご、ごほん済まない取り乱してしまって……すまないキャメロットの王として相応しくない姿を見せた」

「いえ王とて貴方ですよ、そんな貴方が見せる姿は全ては王に相応しいのです。それに―――私個人としては貴方の可愛らしい姿を見れて嬉しいですよ」

「皆の前だぞ……」

「ふふふっすいません」

 

と夫婦の空気と光景を作り出す二人にモモンガも冷静さを取り戻す。そんな二人の姿にデミウルゴスは悪魔らしからぬ笑いを浮かべ、コキュートスは何やらを考えているのか息を荒くしている。アルベドとシャルティアは別の意味で息が荒くなっている、ナザリックで健全なのはアウラとマーレ位だろうか。スカサハも何処か可愛らしい所を見れて役得と言いたげな笑みを浮かべている。

 

「さて次はこの槍か……なんというかどれ〈道具上位鑑定/オール・アプレーザル・マジックアイテム〉……ッ!!?」

「ど、どったのモモンガさん」

 

発動後、思わず下顎がプランプランと揺れる程に大口を開けてしまったモモンガ。これが顎が外れるという奴だろうか、と思いつつも尋ねる。暫し呆然とする中漸く再起動したモモンガは咳払いしながら調子を取り戻してシャルティアとスカサハを大きな声で褒めた。

 

「シャルティア、そしてスカサハ。其方の活躍は正しく世界に匹敵する、まさか二つのWI(世界級アイテム)をこの手に収められるとは思いもしなかった」

「二つ!?まさかその槍もか!?」

「ああ、スカサハの読みは当たっていたという事だ。しかも友よ、この槍は二十の一つ―――〈聖者殺しの槍(ロンギヌス)〉だ」

「ッ!!!?」

 

守護者たちに衝撃が走る中でアルトリウスはそれを上回る衝撃を受けていた。その槍もWIだという事も驚きだがそれ以上なのがそれが二十と呼ばれるWIの一角だという事。二十、WIの中でも使い切りであるが故、さらに凶悪な効果を持つ二十種類を指す。しかもロンギヌスと言えばアルトリウスも聞いた事がある物で超がつくレベルで凶悪な物に入る

 

まずドレスのWI、名を〈傾城傾国〉。効果そのものは対象にした相手を精神支配し支配下におく物、これならば他のアイテムや魔法、スキルでも代用出来るのだがこれがWIである事を加味すると精神支配する事が出来ないアンデッド系も支配出来ると思われる。つまりシャルティアを支配下に置く事が可能になる、この時点でスカサハが全力戦闘を推奨したのがどれだけ正解だったのかが良く分かる。

 

そして〈聖者殺しの槍〉……これは使用者を完全に抹消する代わりに使った相手も完全に抹消するという力を秘める。使用されればWIによってしか蘇生出来ない危険極まりない槍、そんな槍まで備えていた部隊……一体どこになるのだろうかと二人は考えるが、以前の陽光聖典が〈魔封じの水晶〉を持っていた事をスレイン法国の部隊であった可能性が高いと思案する。そしてクレマンティーヌに確認したところで、彼女が元々所属していたスレイン法国最強の部隊の漆黒聖典であると判明。

 

「シャルティアそしてスカサハ。今回二人の活躍は著しい、何故ならば世界一つに等しい宝を手に入れたのだからな。これに相応しい褒美を与えんと行けないな友よ」

「ほ、褒美など……畏れ多くございます!!私は御二方にお褒め頂くだけ十分過ぎるほどの褒美でありんす!!」

 

その言葉にシャルティアは頬を赤く染めながらも頭を下げて懇願するように言葉を紡いだ。ナザリックにいる者たちにとっての喜びとは即ち至高の御方に仕える事。モモンガとアルトリウスに仕える事こそ喜びでありそれこそが喜びであり褒美のようなもの。これ以上何か貰おうなど考え付きもしなかった事。

 

「フムッその気持ちは素晴らしいがそれでは我々の気が済まん、言葉だけで済ませるほどに軽い事ではない、是非受け取ってくれ」

「そのようなお言葉だけでも私は……!!」

「スカサハは如何だ」

「フムッ……そこまで言われてしまっては断る事など出来ますまい」

 

シャルティアと違って余り取り乱す事も無く褒美を受け取る事にするスカサハにモモンガは素直にこういうので良いんだよ、そう言う態度で……と内心で呟く。ではスカサハには自分が褒美を与えるべきだなと思いながらモモンガにフレンドメッセージを繋ぐ。

 

『モモンガさん、じゃあスカサハには俺から与えても良いかな』

『ですねそれが道理ですし、じゃあシャルティアからは俺から……でも何与えればいいんだろ……ペロロンチーノさんのアイテムとか喜んでくれますかね』

『あ~確かにそれはありだと思うよ、俺達やモモンガさんの反応見る限りそれぞれのギルメンのアイテムとか凄い喜びそう』

『よし!!それじゃあそうしますね』

 

「スカサハ、お前自身が望む物はあるか。あるのであればそれを褒美とする事も吝かではないが」

「欲しい物……そうさな」

 

少々思案する顔を作りながらも一瞬横目でアルトリアを見て口角を持ち上げた、それを見てアルトリアはあっまさか……と何かを察知したのかそれを止めようと言葉を出そうとするよりも早くスカサハがそれを形にした。

 

「アルトリウスからの愛、女として愛して貰いたいといったら叶えてくれるのかな」

 

ワザと口元に手を持って行き隠しつつも頬を朱に染めながら恥ずかし気に瞳を潜めたその姿は妖艶で可憐、美しさのバランスが凄まじく男の本能を撃ち抜くようだった。まさかの要求にモモンガは再び顎が外れている、そして興奮する声などが吸血鬼からあった。そんな手があるのか!?と言わんばかりの声にモモンガは大慌てで先手を打ってペロロンチーノのアイテムを与える!!と言っておく。

 

「わ、私からの愛……!?いやそれはその……えっと」

「フフフッ愛い顔をなさる、だがそれは褒美でなく自力で其方から勝ち取るとするからご安心なされよ。そうさな―――一対一の模擬戦を所望しよう、無論ガチバトルでな」

「そ、そうか……分かった、では時間を見て行うとしよう……(嗚呼っビックリした……)」

 

別の意見が出た事にアルトリウスは安心しつつそれを受け入れるのだが、彼は焦りのあまり気付けていなかった。彼女自身が自分を口説き落とす宣言をしてアルトリアに対する宣戦布告染みた言葉を発した事に……元々アルトリアは側室には賛成ではあるが目の前で自分の夫が自分に向けている愛を奪い去ると宣言した相手に寛容になる事は難しい。そして両者は目線だけで会話をする。

 

 

―――胡坐を掻くのであれば、儂がマスターの愛を掻っ攫うぞ獅子王殿。

 

―――良い度胸ですねスカサハ、良いでしょう、その安い挑発買って上げましょう。

 

 

と何やら女同士の静か且つ熱い戦いの幕開けが起こっている事に気付けないアルトリウスへモモンガから言葉が脳裏に届いた。

 

『これから大変ですから頑張ってくださいねアルトさん、俺応援しますから!!』

『何他人事みてぇに言ってんだこの野郎、お前だって指輪で人化出来るんだから狙われる立場なんだぞ。よしそういう事なら俺はシャルティアとアルベドに全力で支援するからなよし今決めた絶対にそうする』

『ごめんなさいごめんなさい調子に乗りましたぁ!!!』


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