「成程、それで僕にという訳ですね」
「商いならば一番かと思ってね、ドレイクも悪くはないと思ったが派手になると思ってな」
「ハハハッ確かに船長さんだとそうなりかねませんもんね」
執務室、中心部にある対談用のソファに腰掛けながら紅茶に舌鼓をしながら心地の良い笑い声を聞く。目の前のサーヴァント、ライダーは自分の事を主と認めつつも友人として接してくれるので個人的には気が楽で良い。そして隣の黒髪美女もモリモリとお茶菓子を食べている。
「おいアルトリウス、紅茶のお代わりだ」
「こらこらこら僕達のマスターに失礼だってば」
「いやいいさっほら紅茶だ、ついでにこれは如何かな」
紅茶のお代わりを淹れながらもカップにある形をしたチョコを渡すとそれを見て目を輝かせながらも嬉しそうにした。
「おおっ見ろカエルだ、カエルチョコレートだぞ。これにはお竜さんも嬉しさのあまりカエルぴょこぴょこお竜さん、カエルヤッホーだ」
「はいはい良かったねお竜さん、ごめんねっマスター」
「何時もの事だろう」
目の前のサーヴァント・ライダー、坂本 龍馬とその相棒兼最愛の人のお竜さん。この二人にはある仕事を頼む事にしている、それは周辺国家のうちの一つであるバハルス帝国への潜入である。単純な潜入ならばアサシンへと任せるのだが今回の仕事はキャメロットが外貨を得る為の仕事も兼ねているので商人としての経験もある龍馬に頼む事にした。
「他にも連れて行きたいメンバーが要れば連れて行けばいい、流石に階層守護者は困るがな」
「その辺りは僕も弁えてるよ、そうだな……ミス・クレーンにパラケルスス辺りかな」
「既に出す店を決めたのか、流石に手早いな」
「いやぁこの位はなんて事はないさ、後はこの世界のレベルに合わせて販売品を決めるだけかな」
紅茶を飲みながらも龍馬は既に帝国でどのように立ち回るかが見えているのだろう、品物に関しては此方からも支援する事は可能なので拡大なども対応出来る。生産系ビルドをしているメンバーを連れて行って現地でも作業をして貰いつつ、様々な事をするつもりなのだろう。様々な意味で頼りになる男で何よりだと言わざるを得ない。
「お竜さん龍馬の護衛は任せるぞ、いざという時は徹底的にやってくれて構わない」
「おおっ任せておくと良い。お竜さんが頼りになり過ぎて困る位に凄い所を見せるぞ、その暁にはもっとカエルくれ」
「期待させて貰うよお竜さん、でも加減は考えようね」
一先ず帝国行きメンバーの選定とどのように活動するかを決める為に退出していく龍馬を見送る、生憎凡庸な頭脳しかない自分は一つ一つを時間をかけて確実にこなしていくしかない。その為には自分が再現した英雄たちの力を借りるのが一番、どのサーヴァントを再現したかは把握しているのでそれは簡単。その能力を別の所で活用できないかと割と真剣に思っていたりもする。
「……竜王の問題もある、まだまだ問題は山積みだ」
目下最大の問題は妖精騎士ガウェインに接触を図ってきたという竜王。モモンガとも何度も話し合ったが、明確な解決策は出ていない。向こうが交渉する気があるならばそれに応じるが、敵対するならば本気で対抗策を考えなければいけないので本当に頭が痛い。
「―――俺は騎士王としてしっかりやれてんのかなぁ……」
素直に吐露する自分の不安。キャメロットの皆が思う騎士王、獅子王の夫としての騎士王、アインズ・ウール・ゴウンとしての騎士王。正直言って不安だらけ、それはモモンガも同じ。ナザリックの皆が求める至高の41人の纏め役を、アインズを演じている。それらの苦労を語り合えているので気は楽ではあるが、それでも不安という物は生まれ続ける。
「アルトリウス、如何かしましたか?」
「んっ……何でもないよ」
ソファに腰掛けたまま、冷めた紅茶の入ったカップを見つめ続ける自分に戻ってきたアルトリアが声をかける。
「アルトリウス……?」
素直な心配を思わず表に出してしまうアルトリア、見た事も無いような何も考えず無のままでいる夫の事が心配で致し方なかった。自分が何か至らないのか、それとも何か……と必死に思考する。唯々冷めて不味くなった紅茶に映る自分を見続ける愛する者の姿にどうしようもない不安を覚えてしまった。だがこんな時こそ妻である自分が確りしなければという自覚を持ちながら隣に座り肩に頭を預ける。
「何が如何したかは分かりません、ですが貴方には私がいます。ですから―――普段の貴方でいてください」
そんな問いかけを出されたアルトリウスはその暖かさが有難かった、思考が堂々巡りしてしまう前にその言葉で我に返る事が出来た。普段通りの自分、そのままでいいと言われたのが酷く有難かったような気がした。
「……済まないアルトリア、この世界の不確定要素の事や竜王について深く考えすぎたようだ」
「フフフッ大丈夫ですよ。何せ貴方は聖なる竜の騎士王です、加えてこのキャメロットには竜殺しだけではなく竜そのものもいるのですから」
「―――そうだ、そうだったな。私の愛したキャメロットが恐れる物はないか……」
漸く気持ちが前向きに向いたところでアルトリアへと礼を言おうとした時だった、反対側から柔らかで暖かな感触が腕を包んだ。そうそれは酷く知っているような柔らかさで……誰かが来たのかと思って其方へと顔を向けてみると―――
「フフフッ中々に可愛い顔をするじゃないか、
「アッアルトリア・オルタ!?」
そこに居たのは獅子王たる妻とは真逆の存在と言ってもいい別側面の彼女、漆黒の鎧に身を包みながらも此方に妖艶且つ鋭い瞳で熱い視線を送ってくる。そしてこの時、アルトリウスは重大な事を思い出したのであった。
「(そうだ思い出した!!フレーバーテキストとしてアルトリア・オルタの事を書いたんだった!!?)」
此方の彼女も当然原典にてしっかりと登場しているサーヴァント、しかし獅子王である彼女を作った際に折角だからという事でオルタの事も書き込んだ。もう一人の彼女であり独立し己の意志で実体化するという風に書いた覚えがある。完全に忘れていた、と思うのもつかの間だった。アルトリアはバニー衣装へと変身しつつ同じように腕を絡ませながら胸を押しあてる。
「なぁっアルトリウス……もう焦らすのはやめろ、これ程までに私達が求めているのだ……そろそろ、良いのではないか。なぁ私」
「ええそうですね
今日ほど本能が命の危機を警告した日はないだろう、レッドアラートが鳴り響く中で指輪の転移機能を使おうと思うのだが両サイドから同時に息を吹きかけられ思考が凍り付く。
「「さぁっ―――存分に、愛し合いましょう……貴方♡」」
そのままアルトリウスは二人のアルトリアに連行されて部屋の奥へと消えていった。そして……
「ど、如何しましたアルトさんなんか……痩せました?」
「……モモンガさん、アルベドとシャルティアには気を付けろよ」
「なんか凄い不安なタイミングで忠告されてませんか俺!?」
騎士王、喰われる。