世界の変貌から間もなく三日が過ぎ経とうとしていた。自らの居城にしてギルド『
上がってきている報告書に記載されているのは自分が集め、友人らに譲られたりした数々の武具。それらはギルドの栄光と共に武力を誇示する為の力、その力の調査について。この世界においては所謂
「アルトリウス様、少しばかりお休みになられては如何でしょうか」
「ああ」
報告書と睨めっこしていると小休止する事を勧められた、気付かなかったが随分な時間を仕事していたらしい。報告書から目を反らしてみると何やら肩が凝ったような気がする、病は気からという奴だろうか。そんな自分へと差し出された紅茶を一口、リアルで味わえない様な美味しさが全身を駆け巡っていく。これは最高級ではあるが普通の紅茶、だがそれでもこの味が堪らなく好きだ。
「嗚呼っ心が安らぐ……」
竜にも獅子にも見える兜は当然つけていない、常時付けているのはあれな気がするので外している。横目で自分に紅茶を淹れてくれた人物へと目をやるとそこではニコニコとしながらも紅茶を楽しむ自分に嬉しさを滲ませている聖女の姿がある。彼女も当然再現NPC、ルーラー・ジャンヌ・ダルク。
「ジャンヌ、この階層の皆は元気か」
「皆息災です、主たるアルトリウス様の為に誠心誠意尽くす事が我らの喜び故に皆一時一時に祈りを捧げながら責務に励んでいる事でしょう!!」
「そ、そうか……」
三日もすれば慣れてきた筈だが矢張りまだ慣れない部分もある。ジャンヌの役割は裁定、各階層の守護者らの役割を正当に評価した上で王たる自分に報告し場合によっては裁きを下す役職を任せられた近衛騎士団の聖女。が、彼女も例に漏れずに自分へ敬意、いや元がジャンヌ・ダルクという聖女なだけあって自分へ崇拝の域の何かを向けている。そんな彼女が持ってきた報告書を読んでいたのだが……
「そう言えば何故お前が紅茶を……?」
「え、えっとそれはですね……」
「当然私から奪って行ったからさ」
執務室の扉が開けられると共に気障で皮肉屋な言葉が飛んでくると共にジャンヌがゲッ……と言いたげな表情を作りながら眉を顰めながらそちらへと目をやった。そこには家令兼副料理長を兼任するアーチャー・エミヤがあった。
「やれやれジャンヌ、君はもう少し落ち着きという物を持てないのかね。それでもキャメロットの聖女様かね、それで裁定という役職をこなせるとはとてもではないが思えないが……それとも私の仕事を奪う事が裁定だったのかな」
「い、いえエミヤそのですね……折角報告書を持って行くのですから親切心で貴方が持って行く紅茶を私が代わりに持って行けばあなたは直ぐに別の仕事に移れるんじゃないかなぁ~って……」
「その気遣いには感服するが私にも自分の仕事はやり遂げるという矜持がある、それを邪魔されては私としては不服だ。我らが王へと全意識を集中させ、様々な要素を極限に高めた品を届けるという使命を私から奪ったわけだからね」
腕組をしながらも怒りを込めた鋭い瞳を投げ掛けながらも的確にジャンヌを責めて立てて行くエミヤ、立場的には裁定の役目を持つ彼女の方が上なのだが基本的にエミヤは相手に物怖じしない。礼儀こそ守るが相手が格上だろうが言いたい事はズバッと物申す。これこそエミヤだと言わんばかりに満足するアルトリウスは助け舟を出してやる事にする。
「成程、エミヤが準備をしたならばこの紅茶の味も頷ける。ならばもう一度この味を作り出す事も可能だろう」
「話を聞いていたと思ったのだがね、君が口にしている物は様々な要素が極限に高めた品だ。それを易々と生み出せると思うのかね?」
例え自らの王だろうがこの物言い、それにエミヤはムッとするがそれを無視して言葉を続ける。
「出来るさ。出来ないならハッキリ言うだろう、お前は」
「フッ……良いだろう、ではそこの聖女が私から奪った物よりも更に素晴らしい物を用意しよう」
「楽しみにさせて貰おう」
不敵そうだが信頼されている言葉に心が躍っているのか表情には喜びが漏れている、そしてその一つを提供する為に歩き出す前に一度ジャンヌを一瞥すると執務室から出て行くのだった。それにホッと胸を撫で下ろすのだが、溜息をついたアルトリウスに瞳を向けられてしまう。
「ジャンヌ。中立の立場でこのキャメロットを裁定しなければならない、そんな立場がエミヤから仕事を奪うのは中立とは言えないぞ」
「も、申し訳御座いません!!近衛騎士団の聖女でありながら、なんとお詫びを申し上げればよいのか……!!この命を以て、謝罪を!!」
アルトリウスは出来るだけ声を荒げず、諭すように問いかけたつもりだったがそれだけでもジャンヌにとっては果てしない絶望と失望の渦に呑まれてしまった。近衛騎士団の聖女という名誉ある役職を賜りながらもその役目を汚すような行いをしたという事実が一気に精神を蝕んでいった。この事で失望され、見放されるなんて絶対に嫌だと思ったのか命を持って謝罪しようとした。
「ちょっ!?馬鹿止めろ!!?」
突然のそれにアルトリウスは椅子を跳ね飛ばすようにしながらも懐から取り出した短刀で首を跳ね飛ばそうとするジャンヌの腕を掴んで止めた。あと少しで刃が肌を傷付けてしまうあと一歩の所だった、そんな自分をまるで神に縋るかのように懇願する聖女。
「良いかジャンヌ、間違いは誰にでも存在する。だがそれで容易に命を絶つなどという行為へ及ぶな、過ちは自らの行いで償え」
「アルト、リウス様……」
「―――私が生み出したお前達が、私の為に死ぬなんて事は二度と口に、出さないでくれ……」
思わず声が震えてしまった。自分が望んだ彼らが自分の為に死ぬ、そんな事は心から嫌だと思う。彼らにとって自分は創造主かもしれないが、自分にとっては彼らはもっと大切な存在。夢であり理想である、そんな彼らと共に居れるだけで自分は幸せなんだからその幸せを自ら壊すなんて事は絶対にしないで欲しいとジャンヌに問う。
「―――承知、致しました……愚かな行為に及ぼうとした事をお許しください……そして必ず此度の失態、それを返上する活躍をお約束いたします」
「ああっそれでいい、そして先程の言葉を皆に伝えてくれ」
「承知致しました、それでは失礼いたします」
涙を拭いながら凛々しく表情を作りながらも笑顔を浮かべて執務室から去っていくジャンヌを見送りながら椅子に座り直すが、「はぁぁぁぁぁっっっ……」という言葉と共にずり落ちるように身体を沈めてしまった。
「やべぇなこれ……敬意とか忠誠じゃねぇよ、これじゃあ完全な崇拝だ……ジャンヌでこれって他の騎士道を重んじる連中とかこれ以上な訳?うわぁっ……」
脳裏に過るのは複数のNPC。騎士として誇りを持っていたりする者もいる訳でそれらは騎士としての忠義に加えてジャンヌの様な崇拝まであると考えると……下手に怒れなくなる。いや今回の一件は寧ろ抑制にも繋がる訳だからよかったかも知れない、それでも心臓が飛び出そうになる位ビビったが……。
「でもこれ、モモンガさん大丈夫なのかな……」
自分が生み出したNPCでこれなら一人を除いて他はすべて他のギルドメンバーが生み出したNPC達がいるナザリックにいるモモンガは大丈夫なのだろうか……。不安が過ってきたのでフレンドメッセージでモモンガへと問いかけてみる事にした。
『あ~あ~モモンガさん、此方アルトリウス。今大丈夫ですか』
『此方モモンガ、大丈夫ですよ如何しました?』
『いやさ、モモンガさんNPCの皆の事でちょっと……』
と先程あったジャンヌの事を言いながらナザリックの事を聞いて見ると『あぁっ……』となんだか既視感が溢れるような溜息が漏れてきた時点でなんだか察する事が出来てきた。
『こっちも似たような事がありましたよ、ちょっと怒鳴っただけで死んで侘びますなんて言うもんだからもう大慌てですよ……ああそうか、その時にそう言うべきだったのか……失敗したなぁ……』
『やっぱりか……NPC達が向けてくるのって忠誠って言うよりか崇拝のそれですよね……なんというか、精神的に堪えません?』
『めっちゃ堪えます、しかも何処行くにも付いてくるのでなんかもうストレスマッハですよ』
それは正直自分も感じていた事だ、キャメロットを歩けば出会う全てが深々と頭を下げて挨拶をすれば歓喜の顔で此方を見る。正直肩が凝るし精神的な疲労も積み重なっていく、自分としては気軽に親子として接してくれるモードレッド、子供のようなNPCらの存在が酷く有難かった。その時ばかりは自分の素を出せている気がしてならなかった……。
『……モモンガさん一度会いませんか、こうして話は何時でも出来ますけど顔は合わせておくべきでしょう。顔を突き合わせて話した方が気分も晴れるでしょ』
『是非会って話を聞いて欲しいです……』
『それじゃあ俺の方から一度ナザリックに出向きますよ、そこで思いっきり口聞きますよ』
『有難う御座います……それじゃあ地表にセバスを待機させますから出発が決まったら教えて貰っても良いですか?』
『分かりました、んじゃ後で』
メッセージを切断しながらも天井を見上げながらいよいよナザリックに足を踏み入れる時かと思案する、あそこは自分にとっても大切な場所だ。またそこに行ける事は非常に喜ばしい。何せキャメロットはナザリックを参考にしている部分が多いのだから……それと折角行くのならNPC達も連れて行こうと思ってアルトリアに〈伝言/メッセージ〉を飛ばす。
『アルトリア、ナザリックに顔を出そうと思う。付いてきてくれるか』
『勿論ですアルトリウス、妻としてもキャメロットの獅子王としても共に行ける事は名誉な事です。では既に選抜したメンバーに連絡を入れ準備取り掛かります』
それを聞いてやっぱりそういうメンバーも編成済みだったのか、と妻のやり手加減にある種の諦めが見え始めているアルトリウスであった。