「さて、行くか」
「参りましょう、モモンガ殿をお待たせするのも悪いでしょう」
そんな言葉を受けながらも遂にアルトリウスはキャメロットの外へと足を踏み出した。今回自分がナザリックに連れて行くのはアルトリアが選抜した強くありながらもキャメロットの格を決して下げる事のない猛者ばかり。中には階層守護者のスカサハ、ジークフリートそしてアステリオスもその中に名を連ねている事から戦闘力という点においても抜かり無しと言わんばかりの布陣にアルトリウスは戦争行くんじゃねぇんだけど内心で思った。
「これは―――」
外に足を踏み出した瞬間にやりすぎているのではないだろうかなどという事は頭から吹き飛んでいた。広がっているのはアルトリアの報告通りの草原、頬を撫でる風は心地良い。だがそれ以上に感激させたのは見上げた空の美しさだった、既に夜の帳が降りているのにも拘らず暗さを感じずにいるのは自らの身体が変わったからではない。星だ、夜空に輝く無数の星々が夜を明るく照らしている。
「綺麗な空……何て素晴らしい……」
自分達が居た世界、リアルでの世界は既に死へと向かい続けていた。最早環境回復の兆しは無く、ただ汚染が加速し続けており空はスモッグの雲で覆われその先の星を見る事も出来ない程の世界。だが今自分が見つめている世界は本当の世界の在り方だ、穢れを感じさせないほどの美しさがある世界……かつてのギルドメンバー、ブルー・プラネットが自然について熱弁していたのも今ならわかる。これは―――心を奪われる。
「―――アルトリア、私はこの景色を見られただけで幸せだと感じている。嗚呼っ……素晴らしい」
「貴方が嬉しそうな顔をしている、それを近くで感じられるだけで我々にとっては喜びの嵐」
「―――いやすまない、友を待たせるところだったな。行こう」
多くの騎士たちを伴い向かうは懐かしくナザリック地下大墳墓。魔法などによって一気に移動する事も考えたが……アルトリウスはモモンガに断りのメッセージを入れてからゆっくりと星空の下を歩いていく事にした。友と一緒に楽しみたいと思うよりも先に、星空を歩く事で堪能してしまった……だがそれをモモンガは快く許してくれた。後でこっそりで一緒に見に行きましょうという密約と共に。
「父上そんなにすげぇのかこの空って?」
「ああ、凄いぞ。モードレッドよく見ておきなさい―――これから私達はこの世界で生きて、冒険するだから」
「冒険……冒険していいのか父上!!?」
「直ぐには難しいだろうがああ、何時か冒険しよう」
「っしゃあ!!なあなあ父上も一緒に冒険しようぜ!!」
「こらモードレッド、気持ちは分かりますが貴方は今近衛としているのですよ。王を守る為の役職をこなさなければだめでしょう」
途中、モードレッドとの戯れも何時も以上に楽しく感じられた。ブルー・プラネットが言っていた、大昔汚染がひどくなかった時代は家族で野外でテントを張ってキャンプファイヤーで調理したカレーを食べながら夜空を愛でるのが極上の贅沢だと。今度それをやるのも良いなぁと妄想しながらも進んでいくと見えてきたナザリックの地上部分である霊廟。サービス終了前の二日前にも訪れた筈なのに酷く久しぶりな気がしてしまう。
「ほぅあれが噂に名が高いナザリックの霊廟、いかんな少しばかし疼いてしまうわ」
と霊廟へと向かいながらもスカサハがそんな言葉を漏らしてしまう。彼女ほどの戦士からすればあれだけを見てもそこの主たる者の力、そしてそれらを守護する者達の力を予測する事も可能なのだろう。そしてそれらと仕合って見たいという欲求に駆られてしまっているのか自らの獲物である真紅の槍を力を込めて握りしめてしまう。
「そう慌てるなスカサハ、後日試合を申し込めるように話を通しておく」
「フフフッ配下に対する気配り、痛み入るぞアルトリウス」
「おいおいマスターずりぃじゃねぇか俺にもやらせてくれよ」
そんな言葉を漏らすのはスカサハの配下でランサー・クー・フーリン。戦士として強者と戦えることはどれ程までに嬉しい事なのか分かった上でそんな言い方をするのはずるいと口にする。
「安心しろクー・フーリン、その機会は希望する者全員に与えるつもりでいる。コキュートスもお前達を気に入る事だろうからな」
「おっ嬉しい事言ってくれるじゃねぇかやっぱうちのマスターは部下の心を掴むのが上手いねぇ、コキュートスっつうと武人武御雷の旦那の奴だよな。腕が鳴るねぇ……今から楽しみでしょうがねぇぜ」
猛犬を異名とするだけあって酷く獰猛そうな笑みを浮かべながらも来るであろう未来での戦いを予想しながら、今から滾ってしょうがないらしい。これは漏れなく戦士系の皆に言えることだがアルトリアは溜息混じりに言う。
「結構な事ですが今回ナザリックへと向かう理由は戦う為ではないでしょう、あくまで同盟相手でもありアルトリウスが名を連ねていたアインズ・ウール・ゴウンへの御挨拶なのです、故にそのような闘気を溢れさすことは控えなさい」
「済まんな。我ら戦士にとっての本能でもあるのだ、これはキャメロットに戻り次第我々で試合をして発散するとする」
「やれやれっ品のねぇ奴らだぜ」
「テメェが言うか。マスターの娘の癖に色気も品もねぇテメェが」
「っるせぇな俺は良いんだよこれで!!」
「ますたー、うれしそう」
「んっそうかアステリオス、そう見えるか?」
「うん。とってもにこにこだよ、うれしそうでたのしそう」
アステリオスが思わず表情に付いての言及してきた、如何やらかなり嬉しそうにしているらしい。実際本当に楽しくてしょうがない、理想とも言える皆に囲まれながらもそれらが楽しそうにしている。これを楽しいと言わずとして何を楽しいと表現するのか……本当に嬉しい。
「そう言えばアステリオス、ケイローンの所に通っていると聞いたが何をしているんだ?」
「え、ええと……ぼくはしゅごしゃだから、もっともっとがんばらないといけないとおもって、せんせいにいろいろ、おしえてもらったの。しせいとかことばづかい、とかいろいろ……」
「そうか頑張っているのだなアステリオス、お前がお前らしくいる事が一番だ。だがその努力は非常に嬉しい、これからも頑張れよ」
「!!う、うんぼくますたーのためにがんばる!!」
嬉しそうな顔になりながらも両腕を構えて強さをアピールするようなポーズを取りながらも頑張る!!と繰り返すアステリオス。そう言えばケイローンには子供達から特に慕われていて時間を見つけては授業をしている設定を与えていた気がする。それがこんな所に波及していたのは予想外だったが、これはこれで愛らしい、非常に可愛い。
そんなやり取りを続けているとあっという間に霊廟が迫ってきた。そして霊廟の前で待機している執事とその後ろに控えている美しい6人メイドたちが目についた。その姿になつかしさを覚えつつもその前へと立つとその全員が礼を取った。
「フフフッ何故だろうな、さほど時間も経っていない筈なのに久しく感じられるのは何故だろうな……息災かセバス」
「ハッ!!アルトリウス・ペンドラゴン様」
「プレアデスたちも元気そうで何よりだ、君達が歓迎とは……中々どうして込み上げてくる物があるな」
臣下の礼を取り続けているセバスら、彼らにとってアルトリウスも至高の御方の一人。その中でもたった一人で同じギルドを切り盛りしながらアインズ・ウール・ゴウンの主であるモモンガと対等に立ったという認識がある。故かそんな言葉を掛けられてその場の全員が心からの歓喜を感じながら再びアルトリウスと会えた事に感激していた。
「モモンガ様からはアルトリウス・ペンドラゴン様と騎士の皆様々へ最大限の礼を以て接するようにと命じられております。我らが出迎えるのは当然の事、お気遣い無きように……」
「済まないな。では、ああいやそれではセバス、プレアデス。我らの案内を頼めるか?」
『ハッ!!』
セバスらはこの時、望外の喜びに溢れていた。このナザリックの事を知り尽くしているのはギルドに所属したのだから当然の事。故に自分達の案内など必要ではない筈なのに自分達の顔を立てる為に態々案内をするように頼んだ。そのような事は執事やメイド冥利に尽きる。歓喜に震えながら案内をする彼らキャメロットの皆を案内した。
「面を上げよ」
『ハッ!!』
ナザリック地下大墳墓第十階層、玉座。ナザリックの心臓部、その最奥に存在する玉座にて今モモンガが玉座へと付きながら階層守護者を呼び出していた。そこに集うはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーが作り上げたNPC達。
「さて今回集まって貰った理由はそうだな……お前達、アルトリウス・ペンドラゴンさんの事を覚えているか」
「覚えているかなどとんでもございません、かの御方を忘れるなどという愚行をする者はこのナザリックに存在致しませぬ!!」
モモンガに対する問いに白いドレスを身に纏う守護者統括たるサキュバス、アルベドが応える。その言葉に守護者全員が同意を浮かべる、それにモモンガは満足しながらも言葉を続ける。
「私も彼を忘れるなどという事をするとは思ってはいない、このギルドから独立し自らの城を勝ち取ったのは彼一人のみだ。その時にあの人はギルドから除名してくれて構わないと言ったのだがな、我々はそれを良しとはせずに名を残し続けている。そして今―――その彼がこの世界にいる事が判明しナザリックにとってこれ以上とない吉報となった。そしてアルトリウスさんは是非ともナザリックへと足を踏み入れたいと仰ってくれた」
おおっ!!喜びの声が守護者から溢れた。かの騎士王が再びこのナザリックに、それがどれだけ嬉しいのかモモンガには推し量る事は出来ない。喜んでるなぁ……程度にしか見えないが、彼が思ってる以上に歓喜に溢れている。一部守護者からは喜びとは全く別な興奮で大変な事になっている。
「ではモモンガ様、早急にアルトリウス・ペンドラゴン様をお迎えする準備を整えます。かの騎士王を迎えるにあたりこれ以上という事もない程の盛大な式典を行うのが相応しいかと」
第七階層守護者、デミウルゴスが眼鏡を輝かせながらそう進言する。モモンガもそれは考えた、折角このナザリックに来てくれるのだったら盛大なパーティを開くのも楽しそうだなぁと。だがそれを少し笑いながらやんわりと否定する。
「それも良いな、だがアルトリウスさんはきっと普段通りのお前達が出迎えてくれるだけで極上の歓迎だと喜ぶ筈だ―――だろう友よ」
そんな言葉と共に開け放たれる王座の間の扉、その奥から姿を見せるのは多くの臣下を従えながら姿を現す騎士の王。
「ああ、私にとってそれが極上だとも。友よ」