オーバーロード・元ナザリックの騎士王   作:魔女っ子アルト姫

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第9話

〈転移門/ゲート〉を超えた先、そこでは今にも剣を振り下ろして幼い妹を庇っている少女にとどめ刺そうとしている騎士らの姿があった。少女の背中には浅いが剣による傷が存在しており痛々しい。単なる村娘である彼女からすれば絶する痛みだろう、それから必死に耐えながら妹だけでも……!!と言わんばかりの表情のまま我が身を盾にする少女、その行動がまるで神に届いたかのように、異空間から騎士を伴う王が姿を現した。

 

「なっ何だお前ら!?」

「村の奴らが雇ってた用心棒か何かか!?」

 

突然姿を現したアルトリウスとモードレッドに騎士にそぐわない存在らが言葉を口にするが、先程とは打って変わったように鎧越しにも分かるように身体を震わせて恐怖している。〈聖騎士の威光〉というスキルが発動している故の反応、本来はボスなどの取り巻きの雑魚などの牽制目的に使用されるスキルで相手に恐慌などのステータス異常を齎す。相手がアンデッドなどの存在ならば更なる異常を齎すものだが……如何やら十分過ぎる程に機能しているらしい。

 

「痴れ者がっ……!!!」

 

目の前で傷ついた少女を目の当たりにすると湧き上がってくる怒りがある、それは自らが騎士王と呼ばれる故か、それとも自らのカルマ値が善に振り切れているからこそ眼前の騎士崩れの悪意を敏感に感じ取れているからだろうか。理由は分からないが瞬時に抜刀する、音速を超えた閃光抜刀。空間には金色の光が残り香を残すかのように残光を残しながら振るわれた、その剣は〈勝利すべき黄金の剣(カリバーン)〉。選定の剣とも呼ばれるアルトリウスの副武装、本来の武器よりも劣るがそちらを抜く気になれずに此方を抜いてしまった。が、武器としてはそこまでではないこれで倒せるのかと抜いてから疑問に思った―――のだが

 

「えっ」

 

振るわれた一撃、それは背後にあった樹木ごと切断するかの如き一閃。だが剣は木を傷付ける事もなく騎士崩れの身を切り裂いた。聖剣にして名刀の神髄を発揮し敵の首を地面へと転がした。その出来事に隣のもう一人は悲鳴を上げながら後退ろうとするのだが、そこへモードレッドの回し蹴りが炸裂して兜ごと頭部を潰しながら大地の肥やしと成り果てた。

 

「下衆が……崩れだろうが最後に騎士として死ぬ機会すら捨てやがって。クソが……テメェなんざ父上の手にかかる事も烏滸がましい」

「アルトさん、お待たせしました」

 

既にその名乗れる事も出来ないだろうが、最後の最後にせめて気骨を示してから死ねる機会を失ったそれを侮蔑しながらも言葉を吐き捨てた。そんな直後にモモンガが姿を現した。人化を行ったまま姿を現している為に黒髪の痩せ気味のやや普通よりのイケメンの魔法詠唱者に見える、それを見つつもアルトリウスは骸骨のままだったら流石にビックリされただろうなと思いながら兜を外しながら少女らに目線を合わせるように膝をついた。

 

「大丈夫かい」

「はっはい……あ、あのえとえっと……」

 

死を覚悟していたからだろうか、突然自分を殺そうとしていた者達が逆に殺されて助かった事で頭の中で言葉を作り上げる事が出来ないのか目を白黒させながら唯々うまく喋れない事を繰り返している。無理もない事だろうと思いつつも落ち着くまで待つ事にする。

 

「アルトさん相手はどのぐらいでした?」

「カリバーンの一閃で即死するぐらい、俺もビックリした」

「えっでもカリバーンって式典向きな武器で全然ですよね、それで瞬殺ですか?」

「一瞬。後モードレッドの蹴り一発で」

 

握った拳を開きながらボンッと付け加えて説明するとモモンガは倒された敵を見て流石に弱すぎないかと首を傾げた。確かにアルトリウスはカンストプレイヤーだが使った武装はそこまでではない、モードレッドの蹴り一発で一撃という事を踏まえて弱すぎないかと思う。基礎的な戦闘力だけで何とかなるという事でいいのだろうかと思いつつも念の為も踏まえて盾は必要だなと思ってモモンガは一度人化を解除してからスキルを発動する。

 

「〈中位アンデッド創造、死の騎士(デス・ナイト)〉」

 

黒い霧が近くに転がっていた騎士の死体を包み込み、溶け込んでいく。同時に死んだ騎士の身体を持ち上げていきながらも姿を変貌させていく、それらはユグドラシルとは全く違う方法での作成だったので思わずモモンガもアルトリウスも顔を顰めながらうげっ……と口に出してしまった。そして間もなくすると完成したのは死の騎士。先程の騎士崩れが死を経て騎士になったのかと思うとストーリー性めいたものを感じる。それを見たモードレッドは声を上げながら興味深そうに死の騎士を見つめている。

 

「へぇっ~これがアンデッドの騎士かぁ、さっきの奴よりずっと騎士らしいな」

「そうかもしれないなモードレッド、さて死の騎士よ。そこに転がっている騎士の仲間がこの先の村にもいる、そいつらを消せ」

「オオオァアアアアアアアアア!!!!!」

 

咆哮、身の毛がよだつかのような恐ろしく本能へと訴えかけるかのような凄まじい咆哮、殺気を込めた咆哮をもって了承とした。思わず少女二人は震えるが、アルトリウスが背中を撫でてやって安心させてやる。モモンガは満足げに次へと進もうとするのだがなんと死の騎士はそのまま村へと走りだしてしまった。思わずあっけに取られてしまう。

 

「あ、あれぇ~……いや確かに命令したけどそれはこれから村に行ったらってつもりだったんだけど……もしかして自由度が違うのかな」

「留まらずに行っちゃった……まあ流石に直ぐにやられないんじゃないかな、防御よりな奴だし」

 

直後、開いていた〈転移門/ゲート〉から全身を鎧で包んだアルベドが姿を現した。彼女には申し訳ないが死の騎士の代わりに自分達の守りをモードレッドと一緒にお願いすることにしよう。

 

「準備に時間がかかり申し訳ございません」

「気にするなアルベドよ。私とアルトリウスさんの守りをモードレッドと共に任せる」

「はっお任せください!!」

「おう任せてくれよ!!」

 

胸を叩きながら任された!と笑うモードレッドに頼もしい限りだと漏らしながらもアルトリウスは虚空へと手を伸ばす、すると黒い靄へと手が消える。ゲームではよくあるアイテムボックスはユグドラシルではこんな風になるらしい、そしてそこから治癒の薬(ポーション)を取り出すとそれを少女へと差し出した。

 

「背中の怪我もある、これを飲むといい。傷が癒える」

「赤いっ……!?血っいえポーション、なんですか……?」

 

何処か震えような声と共に瓶を受け取る彼女にモモンガと共に首を傾げた。これはユグドラシルの初心者にお世話になった最下級品〈下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)〉、もしかしたらこの世界におけるポーションというのは違う色なのかという疑問を抱きつつも大丈夫だから飲みなさいと後押しすると助けて貰ったのだからと一気に飲み干す。すると傷は一瞬で塞がり痛みなども消え失せた、それを感じてまるで奇跡でも起こったかのような反応をする少女を見ながらも兜を被り直すとモモンガが気を利かせて防御魔法をかけてやる。

 

「それで恐らく大丈夫だろう、それとこれを渡しておく。それを使えばゴブリンが現れお前を守護する事だろう」

「行こう友よ」

「ああ」

 

その場を去ろうとする自分達は少女は呼び止めながらあらん限りの感謝を込めながら頭を下げ、出来れば名前を教えて欲しいと懇願する。それに応えるように二人は名乗る。

 

「アインズ・ウール・ゴウンの支配者、モモンガだ」

「キャメロットの騎士王、アルトリウス・ペンドラゴン」

 

 

死の騎士を追うような形で村へと向かって行く最中にも先程の仲間だと思われる存在らの死体などが転がる。それは死の騎士が道すがら仕留めた者もあるが護衛という役目をこなしているモードレッドの力によるものでもある。

 

「父上~もういなさそうだぜ~」

「ではそのまま先導を頼むぞ」

「え~い任された~」

 

嬉しそうに前を歩いている娘を見続けるアルトリウス、頼もしいと思いつつも本当に可愛いなぁと親馬鹿になる親の気持ちが分かってきた。そんな親子を見つつもアルベドにモモンガはある事を質問してみた。

 

「アルベド、モードレッドはアルトさんの子と言う事になるがお前達からすればどんな印象なんだ?」

 

正確に言えば実の子供という設定が与えられているNPC、だがナザリックからすれば至高の御方の子供という事は揺るがない。とすると何か変わってくるのだろうかという純粋な興味だった。それに対してアルベドの答えは対等だと応える。

 

「アルトリウス様の御息女様ですが、堅苦しいのは苦手だから対等な関係を希望されましたのでそのようにしております。改めた方が宜しいでしょうか」

「いや当人がそう望んでいるのであればそうした方が良いだろう」

 

矢張りその辺りも気を遣うのかと思うと同時に自分のNPCの事を考えてしまう。仮にあれをナザリックの皆と対面させた場合、息子として扱われたりするのだろうかと内心不安に思っている。その辺りは自分で何とかするしかないか……となんだか心なしか肩が重くりながらも村へと道を進んでいく。そしてそこで死の騎士による騎士たちの蹂躙が起きているのを見て益々この世界でのレベル帯が気になるのであった。


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